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75g経口糖負荷試験(75g OGTT)の実際

今回は実際に数値を上げて、空腹時の検査と負荷試験の比較をしてみましょう。

一人目(空腹時検査): 血糖  92mg/dl    HbA1c 5.3%

二人目(空腹時検査): 血糖 106mg/dl    HbA1c 5.9%

空腹時の検査結果を見る限りHbA1cは上がっていませんが、二人目の方が、血糖の正常上限109mg/dlに近くなっており、糖尿病に近づいているといった印象でしょうか?

75g経口糖負荷試験をしてみると・・・・・・・

一人目:空腹時   92mg/dl    負荷30 176mg/dl    負荷60 202mg/dl   負荷120 166mg/dl

二人目:空腹時  106mg/dl    負荷30 186mg/dl    負荷60 245mg/dl    負荷120 243mg/dl

二人とも血糖が200mg/dlを超えるところがあり糖尿病のパターンになります。しかも空腹時検査では一寸悪いかな?程度だった二人目の方は120分たっても血糖が243mg/dl(!!)あるのです。空腹時検査だけでは分からないものですね。

さらに、種明かしをしますと二人とも「心筋梗塞」を起こして国立循環器病センターに緊急搬送された患者さんです。もう少し早く気づいて、治療していれば「心筋梗塞」を起こさずにすんだかもしれません。

負荷検査の威力を感じていただけたでしょうか?

 

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糖尿病を一番見ているのは循環器医って知ってました?

「糖尿病を一番診ているのは循環器医って知ってました?」などと書いて、この先生大丈夫かと思われたかも知れません。そういえば循環器内科医院のブログなのに、「糖尿病」の話ばかりをしていると訝りながらも妙に納得された方もおられるのではないでしょうか?

このように書いたのには訳があります。以前、国立循環器病センターで「軽症の糖尿病」を治療することにより心筋梗塞の再発が少なくなるか調べる大規模臨床研究を始めることになりました。早速、糖尿病の大家の先生(「糖の流れ」といわれている先生です。)に協力のお願いに上がったところ、

『「軽症の糖尿病」の方は私のような糖尿病専門医のところには、受診されていない。循環器の先生方の所で数多く診療されており、ひどくなってから私のところに送ってこられることが常だよ。』とのお言葉をいただきました。

まさに目からウロコの瞬間で、私の中で「糖尿病」の考え方が大きく変わりました。急いで、高血圧などの循環器疾患の患者さんに、「軽症の糖尿病」を診断するため75g経口糖負荷試験を行いましたが、さきのお言葉通り「糖尿病を一番診ているのは循環器医である。」事を思い知らされました。

まだまだ「糖尿病を一番診ているのは循環器医である。」という事は、一般に知られていません。高血圧や高脂血症等のよくある疾患に「軽症の糖尿病」が隠れている可能性を知っていただけると幸いです。

 

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糖尿病の早期発見には、空腹時検査だけでは不十分なのです。(3)

前回、糖尿病診断の負荷試験である「75g経口糖負荷試験(75g OGTT)」について簡単に説明しましたが、2時間もかかる検査で何を見ようとしているのでしょうか?

ご存知だと思いますが、空腹時血糖は夜に食事をして8時間から10時間位後の朝食前の血糖を見ています。この値が正常でも、2時間で正常値になったのか10時間位かけて正常値になったのか見分けがつきません。

HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)は血糖値の平均の値と関連性が強く、血糖が高い時間が長くなれば高値になります。糖尿病初期の特徴は食後短時間の高血糖であることから考えると、早期発見に向いているとはいい難いのが現状です。

これらの検査値理解を深めるものとして、「75g経口糖負荷試験(75g OGTT)」の結果が役に立ちます。75gの糖を摂取してその後2時間の血糖値とインスリン値の推移を見ることにより、体の中での糖利用能力の状況がわかります。(糖尿病で有名な先生はこれを「糖の流れ」と言われています。)

「糖の流れ」を知ることにより、インスリンを出す細胞(膵β細胞)の機能が低下する前に必要な治療(食事運動療法や薬物治療)を開始することが可能となるのです。

 

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糖尿病の早期発見には、空腹時検査だけでは不十分なのです。(2)

前回、空腹時血糖とHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)の値だけで、「糖尿病」を診断すると実は、「糖尿病」の方の6割程度しか診断できないと書きましたが、残りの4割の「糖尿病」を見つけるにはどうすればいいのか?という疑問が残ります。

医学の世界に限らず、一見問題なく働いているシステムの隠れた異常を見つけるためには、「負荷試験」が行われます。「負荷試験」は文字通り通常より強い負荷かけてシステムの安定性を判定する検査になります。

糖尿病診断における「負荷試験」で最も一般的に行われている検査は「75g経口糖負荷試験(75g OGTT)」です。75gのブドウ糖を口から(経口で)入れて(負荷して)2時間の間に処理できるかを見る試験です。2時間の間に2回から4回の採血を行い血糖値やインスリン値を測定します。

2時間かかる検査ですが、糖尿病の親類が多い(親が糖尿病)や最近太ってきたなど糖尿病になりやすい方にはお勧めします。

 

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糖尿病の早期発見には、空腹時検査だけでは不十分なのです。(1)

空腹時血糖とHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)の値だけで、「糖尿病」を診断すると実は、「糖尿病」の方の6割程度しか診断できない事をご存知でしょうか?

この診断された6割の「糖尿病」の方は、インスリンを出す細胞(膵β細胞)の機能が通常の半分にまで落ちてしまっていると言われています。膵β細胞の機能をいかに回復するかが「糖尿病」治療の一つの目標である事から考えると、土俵際からの治療開始と言えるかもしれません。

健康診断で、空腹時血糖やHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)の値に異常が見られた場合には、さらに土俵際まで追い込まれる前に、医師に相談する事をお勧めします。


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