月別アーカイブ: 2012年9月

副作用と代償機転(4)

副作用の説明が続いたので、今回は再び「代償機転」について書きたいと思います。

代償機転は「生命活動や生体の安定(ホメオスターシス:恒常性)を保つために起こる素早い生体応答」と以前のブログで書きました。当然、生命維持には必要不可欠の大切なものであることは言うまでもないでしょう。そのため「代償機転=良いもの」とのイメージが自ずと付きまといます。自分の体に「自然に」備わっているものですから、「体に悪いものであるはずがない!」との思いがこのイメージをさらに強化するのです。

ここでもう一度「代償機転」の定義を思い出してみてください。「生命活動や生体の安定(ホメオスターシス:恒常性)を保つために起こる素早い生体応答」でしたね。ここで大切なのは「素早い生体反応」というところです。つまり、「代償機転」は短期的に生体の安定(ホメオスターシス)を保ちますが、長期的に保つようには出来ていないのです。

つまり、現代社会のように常にストレスにさらされている様な自然とはかけ離れた状態では、これまで生体が進化させてきた「代償機転」を含む適応機構は十分には機能しないと言えるのです。

また、「代償機転」の代償の意味は「代償:目的を達するために、犠牲にしたり失ったりするもの。」であったことを思い出してください。「代償機転」は生体の安定(ホメオスターシス)のために何かを犠牲にしているのです。短期的にはよいとして、長期的に何かを犠牲にし続けることは決して生体に好ましくないことは容易に想像が付きますよね。

次回はいよいよ「副作用と代償機転」の関係について明らかにしたいと思います。(鋭い方には既にネタばれかもしれません・・・・・。)

 

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副作用と代償機転(3)

9月も3週目の終わりにさしかかり、やっと涼しくなってきました。暑い時期が長かった分、今年の秋は余裕を持って満喫したいものですね。

さて今回は「副作用」にどうして怖いイメージが強固に付きまとうのかについて考えてみたいと思います。この「副作用」に張り付いている怖いイメージの元を私なりに考えてみますと、たぶん「予想しなかった作用(反応)」ということに行き着くと思います。


「薬を飲んだらアレルギー反応が出て大変な目にあった。」などのイメージはすぐに思い付くのではないでしょうか?アレルギー反応は非常に頻度が低いのですが、予測不可能な上、強い症状を呈することもあり大変怖いものです。このアレルギー反応も広い意味では「薬を飲んだことによる副作用」と言えますし、実際に説明される場合も「薬の副作用で・・・・」と言われるため「副作用=怖いもの」とのイメージがしっかりと出来上がってしまっているのだと思います。しかし、このアレルギー反応は薬自体の「副作用」ではなく、実は体に備わっている免疫機構の特異的な反応なのです。(先ほどあえて「薬を飲んだことによる副作用」と書いたのはこの意味です。)


生活習慣病などで服薬する場合に心配しなければならない「副作用」は、薬剤開発時の治験やこれまでの使用経験で予測されるものであり怖がる必要はないのです。もしある薬に「怖い副作用」が予測されるのであれば、そもそもその薬は長期間服用する生活習慣病の薬には決してならないのです。(新しい薬では「予測されない副作用」が隠れている可能性は否定できませんが、全世界で多くの人に日々使用されることにより、危険性は急速に小さくなっていきます。)

みなさんがお持ちの「副作用」のイメージは私の解析に当てはまっていますか?それとも・・・・・


副作用と代償機転(2)

前回は生体の安定(ホメオスターシス:恒常性)を保つために働く「代償機転」について説明させていただきました。今回はみなさんも良く耳慣れていると思われる「副作用」について説明いたします。

「副作用」と聴くと何だか怖いもののようなイメージを持って居られる方が多いと思います。当医院でも生活習慣病や検査異常のある方に服薬開始をお勧めするとたいていの場合、「飲み始めたら一生飲まないといけないのでしょ?『副作用』が怖いし・・・・・」というような反応が返ってきます。
(以前のブログ「錯覚と生活習慣病(3):予防薬と治療薬」などをご参照ください。)


確かに薬の「副作用」で大変な目にあったとの話は枚挙に暇がありませんが、本来「副作用」という言葉自体には「悪い・怖い」という意味は含まれていないのです。「副作用」は服薬で期待される主な作用(「主作用」といいます。)以外に起こってくる作用を意味しているだけで、「良い・悪い」の区別はないのです。目立って取り上げられるのが「悪い副作用」なので、そんなイメージが定着してるのだと思います。


例えば、高血圧の時に使われる薬でアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI:エース阻害薬)には咳が出やすくなる「副作用」があるのですが、この「副作用」には高齢者の誤嚥(本来胃に送られるものが肺に入ってしまうこと)を軽減することが知られています。この様に「副作用」の良い・悪いは状況や使い方によって変わるものなのです。

「副作用」があるからといって闇雲に恐れて、本来得られるはずのメリット(利点)を無くしてしまうことは大変もったいない話なのです。「副作用」はあくまで副次的なもので、服薬に関していうと「副作用」が服薬のメリットである「主作用」より強く出るのであれば、そもそも薬にならないのです。

それにしても「副作用」には怖いイメージが強固に付きまとっていると思いませんか?次回はその辺りを書きたいと思います。

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副作用と代償機転(1)

9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いています。この時期に夏の疲れが、出てしまうこともありますのでお気を付けくださいね。

さて、今回から「副作用と代償機転」について書きたいと思います。私の頭の中には色々とお伝えしたいことが駆け巡っているのですが、拙い文章力で何処まで表現できるのか少し心配です。そこは、「案ずるより産むが易し」の精神で、思い切ってはじめてみます。


たぶん、「副作用という言葉は耳慣れているけど、代償機転という言葉は知らないなぁ」といわれる方が多いのではないでしょうか?「代償+機転」で代償機転(だいしょうきてん)なのですが、眼にも耳にも、難しそうな印象を醸し出していますよね。
調べてみますと「代償:目的を達するために、犠牲にしたり失ったりするもの。」と書かれています。(そう言えばドラマの台詞に「命の代償として・・・・・・」なんてありましたね。)後は機転ですが「機転を利かせて危機を回避した。」の様に使われて、素早い応答や働きを示すようです。

これらを総括しますと医学分野でいわれる代償機転は「生命活動や生体の安定(ホメオスターシス:恒常性)を保つために起こる素早い生体応答」と書けると思います。わかりやすい例としては、「怪我などで出血すると脈が速くなることにより(代償機転)血圧を保とうとする(安定性)」などが思い当たります。この様に我々の体の中では、様々な代償機転が日々働いてホメオスターシスを保っているのです。

次回は副作用について説明したいと思います。