副作用と代償機転(6)

今週の話題と言えばiPS細胞の山中教授がノーベル賞を受賞したことでしょう。おめでとうございます。これで臨床応用に弾みが付くと良いですね。

さて、前回は「薬を飲まないことによる副作用」について書きましたが、この「副作用と代償機転」シリーズの最後に生体内で代償機転が働き続けるとどの様なことが起こるのか、イメージを具体的にお伝えしたいと思います。

ここでは私の専門のひとつでもあり、他の疾患に比べて比較的研究が進んでいる「心不全」について取り上げてみたいと思います。

「心不全」の定義は難しいのですがここでは簡単のために、心臓の収縮力(ポンプとしての機能)が低下した状態として話を進めますね。(「心不全」=「心(ポンプ)機能低下」としてください。)

心臓のポンプとしての機能が低下すると、心臓が大きくなったり体に水分が溜まり易くなったり色々な変化が起きるのと平行して、心筋細胞から心臓を保護する蛋白質(BNPなど)がたくさん分泌されるようになります。これらの蛋白質の働きにより、心臓の機能低下があっても生体の恒常性(ホメオスターシス)はある程度保たれます。しかし、心臓の機能低下が進行して長期間にわたると、心筋細胞は心臓を保護する蛋白質をよりたくさん効率的に出そうとして、遺伝子の状態を変化させることが解っています。

通常は、その細胞にとって必要性の少ない(蛋白質にして働かせる必要のない)遺伝子は、ヒストンという蛋白質に巻き取られて働かないようになっているのです。しかし、心不全が長く続くとヒストンの巻き取りが緩んで、不必要な蛋白質がたくさん出てきてしまうのです。こうなると、心臓の筋肉細胞自体が変化してしまい、治りにくい(難治性の)心不全になってしまうのです。

この様に代償機転が働かなければならない様な状態を放置しておくと、自分自身が遺伝子や細胞のレベルで変化して取り返しの付かない状態に落ち込んでしまうのです。つまり「薬を飲まないことによる副作用」は単に何かが悪くなるのではなく、自分が大きく変わってしまう副作用なのです。(恐ろしいですね。)

「副作用と代償機転」の関係についてご理解いただけましたでしょうか?
今回のシリーズはこの辺で筆(キーボード)を置かせていただきたく存じます。