運転士と星新一と医療

子供のころ、阪急電車の沿線に住んでいたのですが電車の先頭に陣取って、運転士さんの様子を良く眺めたものです。単にハンドルを握って「操縦」しているだけではなく、信号や標識の度に「確認よーし」と指さしている姿が格好良く見えたものです。大人になって知ったのですが、指さし確認は単なるパフォーマンスではなく、人間の思い込みを是正する、安全運転のための基本的な所作であるとのことです。

人間の思い込みと言えば、昔読んだ星新一さんのショートショートに記憶に残る作品がありました。簡単に内容を纏めると、お酒を飲み過ぎて肝臓を患った人が「禁酒」をするために当代随一の自己暗示の先生に教えを受けて禁酒に成功するのですが、あるときお酒を飲んだ自己暗示を自分にかけてみたら、お酒を飲まないのに飲んだ時の様に気分が良くなったのです。そこで彼は毎日お酒を飲んだ自己暗示をかけて、実際にはお酒を飲まないことにしたそうです。

数年後、お酒を一滴も飲んでいないのに彼の肝臓は肝硬変になってしまったのです。それは、当代随一の自己暗示の先生の教わったので、自己暗示が実際に飲酒をしたのと同じ効果を体に及ぼしていたとの落ちだったと思います。人間の思い込みに対する鋭い皮肉を含んだ面白い作品でした。

医療の現場でも医療従事者の思い込みで、医療事故が起きることは新聞などでご存じだと思います。
実は危険な思い込みは患者さんにもあります。「運動をがんばるから」「お酒を控えるから」「痩せたら大丈夫」と御自身で判断するのは悪いことではないのですが、定期的な検査で「確認」することが大切であることは、このブログを以前から読んでいただいている方は納得していただけると思います。

「頑張っているのだから良くなっているはずだ!」は自己暗示に過ぎないかもしれません。

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