月別アーカイブ: 2014年5月

生活習慣と生活習慣病(4)

「長袖を仕舞えないなぁ」と話していたら突然真夏のような暑さですね。気温の急激な変化は予想以上に体調に影響しますので、十分な睡眠と規則正しい生活リズムを心がけてくださいね。

さて、前回のブログで『「良い生活習慣をしている人」の方が「良い」とは限らないのです・・・』と書きました。今回は、私なりの説明をいたします。

ある特定の人が「良い生活習慣」と「悪い生活習慣」をした場合には、皆さんの直感の通り「良い生活習慣」をしている場合の方が「良い」のはいうまでもありません。今回の研究でも、運動量が増えて生活習慣が改善した人は、心血管疾患のリスクが減っていることからも明らかですね。

誤解のないように敢えて書きますと、1日9000歩の人が1日11000歩に運動量を2000歩増やせば、この研究結果から10%近く心血管疾患のリスクを減らすことが出来るのです。

しかし、集団で観察した場合には特定の人で見た場合程単純には行かないのです。なぜなら、それぞれの人の体質(遺伝子環境)が異なっているからなのです。つまり、「体質と環境のミスマッチ」によって病気になるという考え方をしないと混乱の元になるのです。

それでは、この研究において「体質と環境のミスマッチ」の観点から考えてみましょう。

そもそも運動量が多い(1日9000歩も)のに、糖の代謝が正常化されず耐糖能異常(IGT)であるのは、体質(遺伝子環境)的に糖尿病になりやすいのだと判断できます。そのため、多く歩く人のグループには体質的に糖尿病になりやすい人が多く含まれる結果になるのです。

もちろん遺伝的に糖尿病になり易いがあまり運動しない人もいますが、その様な人は「体質と環境のミスマッチ」が大きく糖尿病になってしまっており、糖尿病の前段階である耐糖能異常(IGT)を対象としたこの試験に参加できないと考えられるのです。

この偏りが、前回のブログに書きました「さらなる驚き」の原因になっていると思われます。(通常良い生活習慣を維持するのは、悪い生活習慣を改めるより大変なのです。)

私の説明に御納得いただけましたでしょうか?

次回は、もう少し「体質と環境のミスマッチ」について書いてこのシリーズをまとめたいと思います。

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生活習慣と生活習慣病(3)

*前回までのブログを読まれていない方は是非先に「生活習慣と生活習慣病(1)(2)」をお読みください。

多くの人が「悪い生活習慣を続けているので病気になるのだ!」と考えておられ、「生活に気を遣っている人のほうが生活習慣病になっても軽症だ!」とイメージされているのではないでしょうか?

ところが前回のブログでご紹介したように、(研究の)開始時の生活習慣は心血管疾患のリスク低下に関係せず、その後にどれだけ運動量が増えたかによって心血管疾患のリスクが減るというのです。
つまり、(研究の)開始時に「良い生活習慣」を行っていても「悪い生活習慣」を行っていても大差がないとの結果なのです。

本当に直感的なイメージを覆す結果ですね。

それでは前回の最後に書いた「さらなる驚き」について書きたいと思います。

イギリスからの報告の内容に興味を持ったので、論文を取り寄せて読んでみたところ(当然)記事と同じ内容が読み取れました。確かに運動量が増えると直線的に心血管疾患の発症率が下がっていました。「フムフム」と読み進めていると、研究の開始時から運動量の増えた人・減った人を分類した表に出くわしその内容にビックリしたのです。

運動量が「変わらなかったグループ」「少し増えたグループ」「多く増えたグループ」の(研究の)開始時の運動量は1日5000歩から6000歩とあまり変わらなかったのですが、それに対して「運動量の減ったグループ」(つまり沢山心血管疾患になったグループ)は実に1日9000歩!も(研究の)開始時には歩いていたのです。

「良い生活習慣をしている人」の方が「良い」とは限らないのです・・・・・・

何故この様な結果になっているのでしょうか?

次回、私なりの説明をしますね。


生活習慣と生活習慣病(2)

前回は、基礎知識として前糖尿病状態である耐糖能異常(IGT)について簡単に説明いたしました。今回は、「前糖尿病状態である耐糖能異常(IGT)の方が一日2000歩余分に歩くだけで心臓発作のリスクが低下する。」というイギリスから報告された研究結果の内容について書いていきたいと思います。

1.心疾患のリスクの高い耐糖能異常(IGT)の成人9,300人以上のデータを40カ国で収集した。
2.1年の間で、一日の歩数が2,000歩増える毎に心疾患のリスクが10%低くなった。
3.その他の肥満度・喫煙・食生活・服薬などの影響を補正しても同様であった。

「単に歩行を増やすという身体活動レベルの変化により、心疾患のリスクを大きく下げることができる」と研究代表者は補足し、開始時の体重や活動レベルにかかわらず多く歩いた分だけベネフィットは現れると述べた。

ここまで読まれて、「運動をしたら良くなるという普通の話では? 何が面白いのかしらん?」と多くの方が思われたことでしょう。

ここで注目してもらいたい所は、「開始時の体重や活動レベルにかかわらず」の所なのです。(研究)開始時の生活習慣は関係なく、その後の運動量変化がリスクを下げるのです。しかも、肥満度・喫煙・食生活・服薬などを補正しても効果がみられているのです。

面白いと思われませんか?

しかしこの研究の論文を取り寄せて読んでみたところ、さらなる驚きが隠されていたのです。続きは次回に!請うご期待!!

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生活習慣と生活習慣病(1)

楽しみにしていたゴールデンウィークも「あっ」という間に過ぎ去りましたが、疲れを残していませんか?胃腸炎や鼻風邪が流行っているようですので、この週末は体調管理に勤しんで病気にやられないようにお気をつけください。

さて、今回のお題は「生活習慣と生活習慣病」についてですが、多くの方が「悪い生活習慣を続けているので病気になるのだ!」と考えておられると思います。本ブログでは以前から、生活習慣病は「体質(遺伝子)と環境のミスマッチ」によって起こると書いてきたのですが、もう一つ上手に伝え切れていないと感じておりました。

そこで最近イギリスから、「前糖尿病状態である耐糖能異常(IGT)の方が一日2000歩余分に歩くだけで心臓発作のリスクが低下する。」との興味ある報告がなされましたので、この話を中心に「生活習慣と生活習慣病」について書いていきたい思います。(久しぶりのシリーズ物ですね。)

最初に基礎知識として、耐糖能異常(IGT)は空腹時血糖は上昇していないが、食後の血糖上昇があり、そのままにしておくと数年後に高い割合で糖尿病に移行するといわれています。また多くの疫学研究の結果から、耐糖能異常(IGT)は糖尿病にならなくても、心血管疾患になる危険(リスク)が高い事が知られています。

全世界では約3億4400万人(成人の8%!?)が耐糖能異常(IGT)であるといわれており、人口増加に伴い2030年までに4億7200万人まで増えると予想されています。

この意味からも今回の研究発表は、我々循環器医にとって大変興味深い物なのです。

次回から、詳しい試験の内容を見ていくと同時に「生活習慣と生活習慣病」についての私見を書きますね。

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OAフロアとディズニーランドと医療ガイドライン

連休の狭間の平日、いかがお過ごしですか?明日から多くの病院が4連休になると思いますので、体調のすぐれない方は受診しておいた方が安心かもしれません。

さて昨日、事務所の引っ越しを手伝ってきました。私はコンピュータ関係に明るいと思われているので、事務機器(主にパソコン)の設置をしてきました。セキュリティーの関係からワイヤレスの接続を避けたいとのことでしたので、ネットワークに繋ぐLANケーブル配置が大変になるかもと予測していたのですが、心配をよそにあっさりと解決しました。

実は、新しい事務所はOAフロアを採用しており、ブロックの下に配線を自由に這わせることが出来たのです。作業をし終わった後、何十本も配線を引いたのにスッキリしている床を見て「OAフロアを考えた人は凄いなぁ」と感心しきりでした。

そういえば以前にも書いたかもしれませんが、ディズニーランド(ディズニーシーは違うそうですが)は入場者が歩いている下に通路が通っていて、ゴミなどの運搬はその通路を使うので人目に触れない工夫がされているそうです。つまり、ディズニーランドは「広大なOAフロア」を採用していると言っても良いのかもしれませんね。

医療の世界でも、「医療ガイドライン」は、治療方針を考える際に、色々なエビデンスを隅々まで知っておく手間をかけずに、治療に集中できるようにする優れものです。しかし、ガイドラインを鵜呑みにして行間を読まないと困ったことになることは、以前に書いたブログ「新しい高血圧ガイドライン(JSH2014)」の通りです。

そういえば「OAフロア」もどの辺りに配線を通したか覚えていないと、やり直す時に床を全部引っ繰り返す羽目になるかもしれませんね。

便利な物は上手に使わないと思わぬ落とし穴にはまるのは世の常でしょうか?

 

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