月別アーカイブ: 2015年4月

スタチンによる糖尿病リスク(5)

朝は寒い感じがしますが、日が高くなるにつれ汗ばむような暖かさです。温暖の差が激しいこの時期は以外と疲れ易く風邪や胃腸炎で受診される方が増えております。お気をつけ下さい。

さて、前回の最後に書きました「何とも奇妙な曲線」について書きたいと思います。

そのグラフは、時間経過とともに糖尿病を発症した人の数を積み上げたグラフで、曲線が下にあるほど発症が少ないことを表している医学論文ではよくあるグラフでした。

確かにスタチンを服用した群の曲線が、スタチンを飲んでいない群の曲線を終始上回っていました。ところが、このグラフに表されている4年間のフォローアップ期間で、ちょうど2年目と4年目にスタチンを飲んでいない群の曲線が急上昇して、スタチン群の曲線に追いついているのです。

多分この研究では、2年目と4年目に、糖尿病発症の評価を必ずするように決められているが、間は担当医が任意に糖尿病発症の評価をするように決められていたのだと思います。

スタチンを服用されていない場合には、定期的な投薬がないため決められた日(2年目と4年目)にしか来院されず、任意の糖尿病発症評価が全くされていない人が多数含まれていたと考えられるのです。糖尿病発症の評価がされない限り、「糖尿病を発症した」とはいえないため、見かけ上スタチンを服用していない人の糖尿病発症が少なくなのです。

上記の理由で、この様なグラフを解析に用いられるカプランマイヤー法で有意差がでるのは頷けますが、2年目と4年目の数値を取ってみると有意差は無いと判断できます。

その他の試験を総べて見たわけではないですが、「 糖尿病に良いはずのスタチンが糖尿病の発症を増やしてしまう矛盾」は、「研究の方法」や「人為的な影響」といった妖怪のせいかもしれません。

・・・・・ウィスパーに聞いてみなくちゃ!!

ここまで考えて、やっと悩ましさのモヤモヤは霧散しました。

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スタチンによる糖尿病リスク(4)

前回は、糖尿病発病に対するスタチンの効果が、研究の方法(「無作為割り付け」かどうか)により変わってしまう可能性を書いたのですが、ご理解いただけましたでしょうか?(少し込み入った内容ですみません。)「これにて一件落着!!」と思った所に、無作為割り付け(ランダマイズ)試験でも、スタチンが9%程度糖尿病の発症を増やしているとの論文に行き当たりました。

ビックリして学術部の方にお話をお聞きしたところ、確かにその内容で論文が発表されているとのことでした。お教えいただいた現時点での一般的な考え方としては、「スタチンの種類によっては、若干糖尿病の発症を増加させる可能性がある。」とのことです。

前々回のブログで挙げた考えの一つ「Ⅰ 2001年の研究で使われていたスタチンと違う種類のスタチンが上市され多く使われるようになっている現状から、新しく使われているスタチンが糖尿病発症に良くないかもしれない。」に近い考え方ですね。

「そういう事もあるかもしれないけど・・・・・何だかしっくり来ないなぁ」と呟きながら、資料を見てみると、ある試験における糖尿病発症率のグラフに行き当たりました。

そこには何とも奇妙な曲線が・・・・・・・・・・(次回最終回に続く!)

 

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スタチンによる糖尿病リスク(3)

急に暖かくなって桜が散り始めたかと思ったら、冬のような寒さ・・・・・一体どうなっているのですかねぇ。

さて前回の続きで、糖尿病に良いはずのスタチンが糖尿病の発症を増やしてしまう矛盾(「スタチンによる糖尿病リスク(1)(2)を先にお読みください。)を私がどの様に考えたのかを説明します。

実は今回発表されたフィンランドの試験は、無作為割り付け(ランダマイズ)試験では無いのです。ですので端的に言うと、「スタチンを投薬されたので糖尿病が増えた」のか「スタチンを投薬される状況にある人が糖尿病になり易い」のか判らないのです。

単純化して言えば、スタチンが糖尿病発症を30%抑えたとしても、スタチンを投薬される様な病態(高脂血症)の人が40%糖尿病になり易ければ、見かけ上スタチンの投薬を受けた人は10%糖尿病の発症が多くなってしまうのです。

エビデンスの結果だけでなく、背景を読み解かないと困ったことになるのです。

と書いて、今回のシリーズを終えるつもりだったのですが・・・・・・・・・・・

無作為割り付け(ランダマイズ)試験でも、スタチンが糖尿病の発症を少しですが増やしている報告があったのです!?(フィンランドの研究とは違い9%程度ですが・・・・・)

皆さんに正確な情報をお伝えするため学術部の方にお越しいただき、公式にはどの様に解釈されているのかお教えいただきました。

次回請うご期待!!

 

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スタチンによる糖尿病リスク(2)

先週、桜の開花宣言が出たと思ったら、今日からの雨と風でもう桜が散ってしまうみたいです。儚いのが桜とはいえ、何だか寂しいですね。

さて、高脂血症の治療薬であるスタチン。あらゆる段階の糖尿病の方に投薬が推奨されている一方、フィンランドからスタチンの投薬が糖尿病の発症を46%も増加させるとの報告がなされ、何とも悩ましいと書いた前回でしたが・・・・・・・・・皆さんはどんな説明を考えられましたか?

私もザックリと考えてみたのですが、一見矛盾する両方のエビデンスが正しいとすると、

Ⅰ 2001年の研究で使われていたスタチンと違う種類のスタチンが上市され多く使われるようになっている現状から、新しく使われているスタチンが糖尿病発症に良くないかもしれない。

Ⅱ そもそもスタチン自体が、糖尿病の発症には悪いが糖尿病になった人には良い効果があるのかもしれない。

Ⅲ 研究に参加した人の、年齢・人種・性別などのスタチン以外の要因が強く働いたのかもしれない。

Ⅳ 各研究における「糖尿病」の定義が異なっていて、新しい研究ではより厳しく糖尿病を判定するようになっているかもしれない。

等々、が考えられます。どれもあまりしっくり来ないのですね。

ただⅣ番はスタチンはインスリンの分泌を少なくすることが基礎研究から知られているので、「β細胞の保護」を通して糖尿病の悪化を防ぐ可能性があります。そうなら、スタチンは軽い糖尿病にするが重症化をさせないので、一見矛盾した結果になっている可能性があります。

本当にそうなのでしょうか、もっと納得できる説明はないのでしょうか・・・・・・(つづく)

 

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