カテゴリー別アーカイブ: 不整脈

ときどきどきどき(3)

今回は不整脈が止まる条件を「確率論」で考えるとはどういう事か書いてみたいと思います。

「確率論」と難しそうな言葉を使っていますが、要するに1回の事で「○○すると不整脈が止まった・止まらなかったの○か×で判断」するのではなく、何度か繰り返してみて明らかに(再現性良く)「○○すると不整脈が止まった」場合にはじめて「○○は不整脈を止めるのに有効だ!」と判断するということです。

つまり「たまたま」や「思い込み」の影響を取り除かないと、実際のところは判らないのです。(この辺りは、以前に書いたエビデンスの考え方に似ているかもしれませんね。よろしければ「エビデンスとは?」をご参照ください。)

「たまたま」は再現性良く不整脈が止まらないので分かり易いですが、「思い込み」は少し説明が必要かもしれません。

「思い込み」と聞くと何だか精神的なもののような響きがあります。確かに「思い込み」には精神的な側面はあるのですが、この言葉から受けるニュアンスと全く違った気付きにくい面があるのをご存じでしょうか?

例えば「冷たい水を飲んだら繰り返しよく不整脈が止まる。」といった場合に、「冷たい水を飲むために行った行動(付随行動)」が不整脈を止めているのかもしれないのです。以下に、思い付く付随行動を書き連ねてみます。

*冷たい水を飲むには台所まで歩いて行く
*古い冷蔵庫を使っているので、息を止めて力一杯扉を開く
*氷を素手で取ってコップに入れる
*蛇口の位置が低いので前屈みの姿勢で水がコップに溜まるまで待つ
*コップの水を一度に全部飲む(その間息を止めている。)

等々、不整脈を止めるのに関係しそうな付随運動だけでもこれだけあります。
これらは、「冷たい水を飲む」という「思い込み」の陰に隠れて意識されないことが多いのです。
(「冷たい水を飲んでも不整脈が止まらなくなった。」と慌てて受診された方によくよく話を聞いてみると、その時は奥さんに冷水を運んでもらっていた例もあります。)

不整脈が出た時は出来れば心電図を取るのが一番ですが、自覚症状は強いけど大丈夫な不整脈だといわれている方で、「ときどきどきどき(時々ドキドキ)」する場合には、ドキドキの仕方を冷静に観察したり、どの様にして不整脈が止められるのか確かめる機会だと思っていただけると、不快な自覚症状も少しは和らぐかもしれません。


ときどきどきどき(2)

前回に引き続き、「不整脈」について書いてみたいと思います。
「不整脈」を主訴に受診される方の話を聞かせていただいて、「ドキドキ」している時の自覚症状を冷静に観察することが難しい事だと感じる一方、どの様にしたら「ドキドキ」が止まるのかについては驚く程詳細に覚えておられると感心することもあります。

例えば「ドキドキした時に、冷たい水を飲んで左側をしたにして横になっていると5分ぐらいで喉の辺りが『キュー』となって来ると2分ぐらいでドキドキが治まるんです。時には何度か同じ事をしないと止まらないことがあります。」などです。

そんな時お話をお伺いした後、「常温の水ではダメですか?」「右側を下にしたらどうですか?」「何もしなかったら何分ぐらい続きますか?」などとお聞きするのですが、その時の寂しげな表情はなかなか忘れることが出来ません。

診断の役に立つはずだと「ドキドキ」が止まる状況をお伝えいただけることは大変ありがたいのですが、「止まる条件をどんどんと積み上げていったり(○○して△△して××して・・・)」「以前は○○で止まったのですが、今回は止まらないので『不整脈』が悪化しています。」と不安を増大させることは、客観的に情報が得られないため診察・診断の妨げになることもあるのです。

ではどの様にすれば良いのでしょうか?

上記のような状態に陥る基は、「ドキドキ」が「止まる・止まらない」の○か×かで判断する事が原因だと思います。「○○したら『ドキドキ』が止まる事が多い。」等の確率論で考えていかないと、どんどんと条件(おまじない)を積み上げていったり、不必要な不安に陥ってしまうのです。

「確率論」で考えるとは、どの様なものか次回に書きたいと思います。

 

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ときどきどきどき(1)

本当に暑い日々が続きますね。昼夜を問わず、エアコンが止まると汗が吹き出しますね。しつこいようですが脱水・睡眠不足などにお気を付けくださいね。

さて、当院は「循環器内科」を標榜しておりますので「不整脈」を主訴にして受診される方も結構おられます。これまでのブログを見直してみて、そう言えば「不整脈」について書いていないことに思い至り今回は「不整脈」について書いてみたいと思います。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病で受診される方とは異なり、「不整脈」で受診される方の多くは自覚症状を訴えられます。自覚症状の典型的なものとしては「時々ドキドキ(ときどきどきどき)します。」というものです。そんな時おもむろに「どんなドキドキですか?」とお聞きしてもなかなか適切な返答を頂けないことが多いような気がします。

一般に「不整脈」は止まってしまうと「痕跡」を残さないので色々検査をしても「心臓に異常はありません。」という結果しかお伝えできないことも少なくありません。つまり、「不整脈」は出ている時が勝負なのです。

「不整脈」が出ている時に病院で心電図が取れることが一番ですが、それが出来ない場合、「ドキドキ」といった自覚症状に慌ててしまわず、その時の血圧や脈拍はもちろんのこと「ドキドキ」の感じ方(強さが一定か?間隔は?)について冷静に記録することが、後々の診療に大いに役に立つのです。(もちろん目の前が暗くなったり、意識がなくなったりするような強い症状が出ている場合には、急いで救急車を呼ぶ必要がありますが・・・・・・・)

「不整脈」の自覚症状は「心臓が止まってしまいそう」とか「胃が口から飛び出てくる感じ」など、冷静に対処し難いものが多いのですが、それを乗り越えて自分の状態を冷静に記録することが診断・治療の第一歩になるのです。