カテゴリー別アーカイブ: 細胞生物学

肥満ワクチン

雨で蒸し暑い日が続いています。こんな時は食べ物がわるくなりやすいですのでお気をつけくださいね。

先日ネットで「肥満ワクチン」なる記事を見つけました。なんだか怪しげなとんでも医学が、また出てきたのかと思っていたら、大阪市立大学の大変画期的な研究のことでした。確かに肥満の抑制に役立つのですが、肥満ワクチンと言ってしまうと・・・・・・

大阪市立大学が発表した研究は、感染を予防したい粘膜にウイルスや細菌の一部などの「抗原」を加えるだけでその場所で高い免疫力を作り出せるワクチンです。

「肥満」に「抗原」はないので、肥満に関係する腸内細菌の「抗原」を利用して、特定の腸内細菌だけ選択的に排除が可能なのだそうです。この技術を利用すれば、腸内フローラ(細菌叢)をコントロールすることができるのです。

近年、数多くの病気が腸内フローラの乱れと関係しているとの報告も相次いでおり、「肥満」のみならず、様々な病気に応用ができるかもしれません。

さらに粘膜は消化管のみならず、呼吸器にもあるので肺感染症の予防・改善などにも応用できるとのことです。

詳しい原理は専門的になりすぎるので割愛しますが、局所の粘膜にだけ免疫グロブリンA(IgA)を作り出すこれまでになかった画期的な方法なので、早く臨床応用できればとワクワクしています。

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睡眠の話題

暑くなったり寒かったり、気温の乱高下が続いていますね。寝る前はタオルケット1枚だったのに、朝起きてみるといつの間にか毛布に包まっていたり・・・・・・お気をつけください。

さて、睡眠に関する話題が立て続けにネットを賑わせていたので、今回は2つの睡眠に関する話題を紹介します。

最初は「照明やテレビをつけて寝る女性は太りやすい」という話題です。

米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)の発表なのですが、米国人女性約4万4千人を5年間追跡した結果だそうです。論文で太る原因については明確にされていませんが、光刺激によりメラトニンの生成が抑えられることが関係しているかもしれないとのことでした。

次は「体内時計を刻むスイッチであるDNA配列発見」という話題です。

京大のグループによる発表ですが、体内時計に応じて増減するタンパク質を作る遺伝子の一部を改変したところ、そのタンパク質の増減が見られなったとのことです。改変されたマウスは体内時計が乱れ、行動が不規則になったそうです。

DNA配列が生体の行動をコントロールするスイッチになっていることがわかったと結論付けています。

改変により遺伝子環境が変わって、タンパク質の発現パターンが変わっただけでは?と疑問が湧いてきます。(以前のブログ:エピジェネティックス参照

このブログを書いている時に衝撃的な記事が掲載されていました。なんと「加齢で減る酵素注射→若返り マウス成功、ヒトにも期待」というのです。

睡眠の話題だったのに、眠気も吹っ飛んで行ってしまいました。

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液体ノリで幹細胞培養

白血病の治療に必要な造血幹細胞ですが、これまで500ccで数万円もする培養液でも増やすことは難しく、現在はドナーの骨髄や臍帯血に頼っています。

臍帯血は量が限られており、ドナーの骨髄は全身麻酔で採取する必要から麻酔のリスクなどの問題があった。

今回、東京大学とスタンフォード大学のチームが、市販されている液体ノリの主成分であるポリビニルアルコール(PVA)で、マウスの造血幹細胞が効率的に培養することができると発表しました。

実際にコンビニで売られている液体ノリを用いて培養し、幹細胞を数百倍に増やした後、マウスに移植して実際に白血球などが作られることを確認したそうです。

この結果を人間に応用して大量培養が可能になれば、臍帯血の不足やドナーの負担問題を解決できる可能性があります。

液体ノリの中で幹細胞が増えるだなんて、びっくりですよね。

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動物の種(しゅ)を超えて・・・・

大寒波が襲ってきて、全国的に大雪が降ったり乾燥しているようです。空気の乾燥は火事を増やすだけでなく、インフルエンザの流行にも影響を及ぼします。東京では、インフルエンザが猛威を振るっているとのことこです。

さて、今回のブログは驚くべき細胞工学の技術について書きたいと思います。

紹介する最初のニュースは、米カリフォルニア州のソーク研究所などのチームが人間の細胞を含むブタの胎児を作ることに初めて成功したとのことです。

この技術が進んでブタの体内で人間の臓器を作ることが出来れば、移植医療に大きなブレークスルーをもたらすと期待されるのですが、現状では含まれる人間の細胞は少なく、ブタの細胞10万個あたり人間の細胞1個以下とのことです。

これはすごい話ですが、まだまだ解決しなければならない問題が多くあり私の生きている間には、実用化は無理と思っていました。ころが、すぐに日本からビックリするようなニュースが飛び込んできたのです。

東京大医科学研究所の中内啓光教授らの研究チームが、マウスの膵臓をラットの体の中で作成し、糖尿病のマウスにラットから取り出した膵臓を移植することで、マウスの糖尿病を治療したというのです。(通常は種(しゅ)が違うので、ラットの膵臓をマウスに移植しても免疫反応で拒絶されてしまいます。)

方法としては先ほどのブタの例と同じなのですが、中内教授らはラットの受精卵に膵臓を作れなくする遺伝子改変を行った上で、マウスの細胞を移植し膵臓でのマウス細胞の比率を飛躍的に高めたことにより移植可能となったようです。(移植後の膵臓では、僅かに残っていたラットの細胞は消えてしまうとのことです。)

これらのニュースが片方のみならそれ程驚かないのですが、上手に組み合わせれば(心臓の出来なくしたブタの受精卵に人間の細胞を注入して・・・・・)、心臓移植待ちの長いリストが消えて無くなるのを生きている間に見ることが出来るかもしれません。

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遺伝子改変技術

最近メッキリ寒くなって、本格的な冬がヒタヒタと近づいてくる気配を感じますね。

さて「遺伝子改変技術」が急激に発展した結果、世界の至る所で臨床応用され始めているようです。2013年に確立された「CRISPR-Cas9」 技術はゲノム配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができる新しい遺伝子改変技術です。

今年4月に中国で、人間の胚にこの技術を応用して遺伝子改変が行われ(半数が失敗)、倫理的な問題で科学界に大きな波紋を起こしました。

今回は、アメリカで遺伝子編集によりT細胞を改変し遺伝性の3種類のガン細胞を攻撃する能力をT細胞に付与する研究が認可されそうだとのニュースがありました。

遺伝子改変技術はヒトの設計図である遺伝を書き換えるもので、医療を劇的に進歩させる可能性を秘めていることは否定しません。この素晴らしい可能性に魅入られて、金銭や名誉欲のために藁にもすがる思いの患者さんを蔑ろにする研究者や組織が出現してしまわないかと心配になります。

折しも「姫路城にまたドローンが衝突」という報道が飛び込んでくる中、人間は「どの様な結果を招こうが、出来ることをやってしまう」衝動を持っていると改めて感じました。

道具に善悪はなく、その道具を使うヒトの心にこそ天使と悪魔は潜んでいるのかもしれませんね。

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iPS 細胞移植見送り

何だか蒸し暑く感じるこの頃ですね。咳や喉の痛みで受診される方が増えておりますので、お気をつけ下さいね。

さて、今回は少し残念な話です。

実際にiPS細胞を人に移植する臨床研究が、目の難病患者が対象に行われています。「加齢黄斑変性」と呼ぶ高齢者に多い疾患の患者自身の細胞からiPS細胞を作り、さらにシート状の網膜色素上皮細胞に育てたうえで患者の目に移植するのです。

何故「加齢黄斑変性」が最初のiPS研究に選ばれたかというと、

1.対象が高齢者であり、遺伝子異常を次世代に引き継ぐリスクが少ない。
2.網膜なので移植したiPS細胞の状態を観察することが容易である。

等の理由が挙げられています。

さて今回二例目のiPS細胞移植が予定されていたのですが、iPS細胞の遺伝子を解析したところ、「がん化に関わるとされる遺伝子変異が複数」と「遺伝情報の片方が欠ける変化」が見つかったのです。そのため二例目のiPS細胞移植は延期となり、今後の対応について専門家が意見交換してるとのことです。

難病治療などに新しい可能性を開くiPS細胞ですが、実際に臨床の現場で使えるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうですね。

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エピジェネティックス

今回は、「健康危機-3 薬剤耐性菌②」について書こうと思っていたのですが、先週からビックリするような医学の話題が二つも続いたので、そのことについて書こうと思います。

その二つの話題とは

①鳥取大学が単一のマイクロRNAの導入により、がん細胞を容易に正常細胞や良性細胞へ変換できることを発見!

②理化学研究所が、体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見(STAP細胞作成)

のことです。

実は、この二つの話題を理解するには、以前のブログ(副作用と代償機転(6)参照)に書いたことを基にするのが近道です。

『通常は、その細胞にとって必要性の少ない(蛋白質にして働かせる必要のない)遺伝子は、ヒストンという蛋白質に巻き取られて働かないようになっているのです。しかし、心不全が長く続くとヒストンの巻き取りが緩んで、不必要な蛋白質がたくさん出てきてしまうのです。こうなると、心臓の筋肉細胞自体が変化してしまい、治りにくい(難治性の)心不全になってしまうのです。』

この、遺伝子を巻き取ったり・緩めたりする調節が「エピジェネティックス」であり、皮膚の細胞・肝細胞・心不全の心筋細胞・がん細胞等の特徴を決める要素になっていると考えられています。

マイクロRNAの導入やSTAP細胞作成時の酸性刺激は、「エピジェネティックス」の調節を介して、がん細胞を良性化したり、体細胞を色々な特徴を得る前の細胞(幹細胞)に戻していると考えるのが良いのです。(今後、その様な研究報告がなされると思います。)

どちらも、本当にビックリするような医学的発見ですが、実際の治療に使われるにはまだまだ時間がかかると思います。今後、色々なハードルを越えて多くの人の役に立つ技術に育って欲しいものです。