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トランス脂肪酸

最近雨の日が多く、気分も冴えないことが多いですが、梅雨ですから仕方ないですかね。

今回は、アメリカで規制が強化された「トランス脂肪酸」のことについて書こうと思います。

「脂肪酸」と言えば、「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」という名称が人口に膾炙していると思います。一般に「飽和脂肪酸」より「不飽和脂肪酸」の方が体によいと言われています。オリーブオイルのオレイン酸や、青魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)などは「不飽和脂肪酸」の代表格と言えます。

実は、今回話題となっている「トランス脂肪酸」は「飽和脂肪酸」ではなく「不飽和脂肪酸」の一種であるのです。「不飽和脂肪酸」は体に良いのではないの?」との声が聞こえてきそうですね。

何故そうなるのかは「トランス(型)脂肪酸」の「トランス」の意味を理解する必要があります。「トランス」とは、「横切る」との意味で、炭素の「不飽和結合(二重結合)」を挟んで脂肪酸の鎖が「反対側」にあるという意味なのです。体によいとされる「不飽和脂肪酸は」、脂肪酸の鎖が炭素の二重結合を挟んで「同じ側」にあり、「シス型」と呼ばれます。

同じ「不飽和脂肪酸」でも、かかる形の違いが「良い」のか「悪い」のかに影響を与えているのです。
悪いと言われている「飽和脂肪酸」でも、繋がっている炭素の数でコレステロール値に対す影響が違うので、「不飽和脂肪酸」でも「トランス(型)脂肪酸」は悪いというのは理解しやすいですよね。

「今後はトランス脂肪酸は取らんす! シス脂肪酸は・・・・・・・・(思い付かない!)」親父ギャグまで不調ですね。梅雨のせいかしらん。

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コレステロールの検査値について(6)

桜の花が鮮やかな季節ですが、インフルエンザのB型がまだ出ているようです。全身倦怠感が強い場合や熱が急に出た場合は気をつけられたほうが良いかも知れません。

前回のブログで、LDL/HDL比が2.5を超える人はスタチンなどの薬物療法を受けられた方が良いのではないかと考えていますと書きましたが、少し言い足らなかった部分がありますので、補足しますね。

LDL/HDL比が高くなるのは、LDLコレステロールが高いかHDLコレステロールが低い場合があります。これまでの経験上、特にHDLコレステロールが低く50mg/dlより低い場合薬物治療を行っても十分にLDL/HDL比が改善しないことが多い印象を受けます。

薬物でHDLコレステロールの値は上昇するのですが、投薬前の値が低いと改善する程度も低くなるのです。感覚的には、状態の悪い人(この場合HDLコレステロールの低い人)ほど薬の効果は高そうに感じるのですがそうではないのです。(例えば投薬によりHDLコレステロールの値が20%改善するとすれば、HDLコレステロールが40mg/dlの人は48mg/dlになるだけですが、50mg/dlの人は60mg/dlまで改善する理屈になります。)

LDL/HDL比が高くても、HDLコレステロールの値が高い場合は投薬によるLDLコレステロールの低下とHDLコレステロールの上昇により、LDL/HDL比は改善しやすいのでが、HDLコレステロールの値が低い場合にはHDLコレステロール上昇の程度が低いため、LDLコレステロールは低下してもLDL/HDL比の改善が十分に得られないことがあります。

ではHDLコレステロールが低い場合に動脈硬化のリスクを下げることは無理なのでしょうか?実は、HDLコレステロールが低い人の場合、運動によりHDLコレステロールが上昇しやすい印象があります。(例えば運動によりHDLコレステロールが10mg/dl増えるとすると、40mg/dlの人は25%増加して50mg/dlになりますし50mg/dlの方は20%増加して60mg/dlになります。改善の程度はHDLコレステロールの低い人の方が良いことになります。)

上記の(例えば・・・・・)は説明のための例ですので必ずしも正確ではありませんが、運動と薬物治療によりHDLコレステロールの低い人でも動脈硬化のリスクを下げることが出来るのは間違いない事実だと思います。

 

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コレステロールの検査値について(5)

「善玉・悪玉コレステロールの比率(LDL/HDL)」の実際の値をどの様に考えるのかを書きたいと思います。

 血管の中に内視鏡を入れて通常は見ることの出来ない血管の壁(実は血管の内皮など)を見ることが出来る「血管内視鏡」という検査があります。この検査で、血管壁へのコレステロールのたまり方などを観察することが出来ます。あれ?という声が聞こえてきそうですね。血管の中を覗いても、血液が透明でないので壁は見えないのでは・・・・・・?その通りでなのです。断続的に生理的食塩水を流して、一瞬見える血管の壁を観察していくのです。(この様に決して簡単な検査ではなく、大変な労力とリスクを伴いますので、きむ循環器内科医院でお願いしますと言わないでくださいね。)

 

この血管内視鏡を使って、血管の中がLDL/HDL比によってどのように変化するかを見られた先生の報告があります。

LDL/HDL比 が1.0以下 血管の内壁は赤ちゃんの肌のようにツルツル

LDL/HDL比 が1.5超  血管壁にコレステステロールの輪

LDL/HDL比 が2.0超  コレステロールの塊が血管全体にこびりつく

LDL/HDL比 が2.5超  コレステロールの塊がいつ破裂するか解らない状態

 

動脈硬化を進行させるその他のリスクの事もあり、このままみなさんに当てはまるかは解りませんが、厳しい値ですね。LDL/HDL比は、一般の方で「2.0未満」、動脈硬化が進んでいる方やリスクの高い人は「1.5未満」を目指すことが望ましいと日本大学心臓血管外科の秦先生がいわれています。(少し厳しいような気がしますが・・・・・・・・・・・・)

明確な根拠(エビデンス)が示されているわけではないのですが、個人的には運動や食餌に気をつけても LDL/HDL比が2.5を超える人は(適応があれば)スタチンなどの薬物療法を受けられた方が良いのではないかと考えています。

 

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コレステロールの検査値について(4)

「善玉・悪玉コレステロールの比率(LDL/HDL)が大切だと」という趣旨でブログを進めていますが、どうしてこの比率が大切なのでしょうか?

 

ネットを検索してみますとこのような情報があちこちで見つかります。

『社会医療法人社団カレスサッポロ北光記念クリニック(札幌市)、佐久間先生らの研究によると、19992001年の間に初めて急性心筋梗塞になり、北海道24病院へ搬送された患者955人のうち54.5%がLDL-C値が120/dl以下、30.3%がLDL-C値が100/dl以下だった。対照群ではそれぞれ37.3%、18.9%なので、「心筋梗塞を起こす人はLDL-C値が高い」とはいえない成績が報告されています。』

 

つまり、心筋梗塞になってしまった人のデータを見ても必ずしも悪玉と言われるLDLコレステロールが高いわけではないとの事実が報告されているわけです。「じゃあ、LDLコレステロールは高くても大丈夫なの?」と思われた方は要注意です。この結果は、「心筋梗塞を起こす人はLDLコレステロールの値が高い」とはいえないこと、つまりLDLコレステロールが低くても心筋梗塞になる人がいることを示しているのです。善玉コレステロールであるHDLコレステロールの値が同じであれば、LDLコレステロールが高いほど動脈硬化は進みやすく、心筋梗塞になりやすいのは事実なのです。

LDLコレステロールの値が低くても動脈硬化(その結果としての心筋梗塞)が進むのであれば、LDLコレステロールの値は動脈硬化を予防する目安としては不十分であるといわざるを得ないのです。悪玉であるLDLコレステロールが低くても善玉であるHDLコレステロールが少なくなれば、動脈硬化が進みやすくなる事は、想像に難くありません。そこで善玉と悪玉コレステロールを一度にみられる値として「善玉・悪玉コレステロールの比率(LDL/HDL)」に注目が集まっているのです。

 

次回は「善玉・悪玉コレステロールの比率(LDL/HDL)」の値について書きたいと思います。

 

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コレステロールの検査値について(3)

悪玉と言われているLDLコレステロールですが、低ければ動脈硬化が進み難いのは明らかな事実として、体にとって全く必要のないものなのでしょうか?現在LDLコレステロールは低ければ低いほどよい(lower the better)と思われていますが、実はそうとも言い切れないのです。

 

以下のような、大阪大学の先生が行った調査があります。

「日本人地域住民で低LDLコレステロール(80mg/dL未満)が脳出血の死亡リスクを増加」

9万人を超える茨城県観察研究のエビデンス 低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール値が高いほど、脳実質内出血による死亡リスクは低下することがわかった。 LDL値が140mg/dL以上の人は、80mg/dL未満の人に比べ、性別・年齢補正後の脳実質内出血による死亡リスクがおよそ半減するという。

 

つまりLDLコレステロールが低すぎると、脳出血のリスクが増加してしまうのです。単にLDLコレステロールが低いだけの効果でなく、食餌や生活習慣などの影響がどこまであるか解りません。しかし遺伝的にLDLコレステロールの極端に低い人は、動脈硬化が進行しない反面、脳血管の解離(脳の血管が裂ける)を起こしやすいことが知られている事から、LDLコレステロールが極端に低いと血管の壁が弱く(脆弱)になると考えられます。

LDLコレステロールが高すぎても低すぎても、原因は違っていますが血管が脆弱になってしまうので、どちらの場合も血圧のコントロールを厳密に行う必要が出てくるようです。ですから悪玉と言われるLDLコレステロールも必要ないものではなく、人間の勝手な都合で悪玉にされている事がわかりますよね。


コレステロールの検査値について(2)

前回「善玉・悪玉コレステロールの比率(LDL/HDL)が大切だと」書かせていただきましたが、コレステロールに天使や悪魔のような善玉・悪玉があるのでしょうか?今回はその説明をします。

インターネットを見てみますと、

『血液中のコレステロールは、たんぱく質と複合体を形成してリポタンパクとして存在しています。リポタンパクは、比重の重さによってhigh density lipoproteinHDL、高比重リポタンパク)、low density lipoproteinLDL、低比重リポタンパク)、very low density lipoproteinVLDL、超低比重リポタンパク)、cylomicron(カイロミクロン、乳び脂球)の、4種類に分けられます。 その内、コレステロールを主に運んでいるのがHDLLDLで、HDLに運ばれているコレステロールをHDLコレステロール、LDLに運ばれているコレステロールをLDLコレステロールと呼んでいます。』

と説明されています。つまりコレステロールに違いがあるわけではなく、コレステロールが複合体を作る蛋白質により比重(デンシティー)が異なり、HDLコレステロールやLDLコレステロールに分けられているのです。その中でもハイデンシティー(比重の高い)リポタンパク(HDL)は、血管からコレステロールを引き抜いて肝臓に運ぶ働きをしています。逆にローデンシティー(比重の低い)リポタンパク(LDL)は血管にコレステロールを運ぶ働きをしています。

動脈硬化の原因の一つとして血管にコレステロールが蓄積することがあるので、血管にコレステロールを運ぶLDLは悪玉で血管からコレステロールを抜き取るHDLは善玉となるわけです。

 

必要があって体に備わっているものなのに、人間の勝手な都合で悪玉にされるLDLの言い分を聞いてみたいですね。

 

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コレステロールの検査値について(1)

初診の方に、「これまでの健診とかで糖尿病やコレステロールの検査値は大丈夫ですか?」とお聞きすると、「問題なく正常範囲に入っています。」と答えられる事があります。正常範囲から外れているのは紛れもなく問題なのですが、正常範囲内に収まっていれば大丈夫なのでしょうか?

本ブログをお読みいただいている方なら「耳にタコ」が出来るぐらいになっていると思いますが「糖尿病の早期発見には空腹時検査だけでは不十分」なのです。(詳しくは以前のブログを参照ください。)今回は糖尿病ではなく、検査のコレステロール値について書きたいと思います。

健診などの検査結果を見ていただきますと、コレステロールの検査値が2個から3個印字されていることにお気づきになると思います。総コレステロール(Tcho)HDLコレステロール(HDL)LDLコレステロール(LDL)3個なのです。総コレステロールは文字通りコレステロールの総量を表します。HDLコレステロールは高密度(ハイデンシティー)のコレステロールの意味であり、一般に善玉コレステロールと言われています。LDLコレステロールは低密度(ローデンシティー)のコレステロールで、悪玉コレステロールと言われるものになります。

この3つの検査値の関係は直感的には「Tcho = HDL + LDL」で悪玉コレステロールと善玉コレステロールを足したものが総コレステロールと思うのですが実際はそうなっていないのです。実は総コレステロールは善玉コレステロールと悪玉コレステロールの足したものに中性脂肪(TG:トリグリセリド)5分の1を足したものになっているのです。つまり「Tcho = HDL + LDL + TG1/5」になっているのです。ですから総コレステロールが同じ値であっても、善玉・悪玉コレステロールや中性脂肪の比率は色々な値を取り得ることが解ると思います。

最近はテレビのコマーシャルでも善玉・悪玉コレステロールの比率(LDL/HDL)が大切だと言われていますがどの様な考えに基づいているのかを、本ブログで数回にわたって出来るだけ簡単に説明したいと思っていますので、よろしくお願いいたします。