カテゴリー別アーカイブ: エビデンス

スタチンによる糖尿病リスク(1)

大阪でも桜の開花宣言がなされました。標準木に選ばれたソメイヨシノに五個以上花が咲くと「開花宣言」となるようです。

麗らかな春が近づいているのに、何とも悩ましい報告がなされましたので書いてみます。

以前のブログで米国糖尿病学会(ADA)が全ての糖尿病患者さんにスタチンの投薬を推奨するとのガイドラインを発表したと書いた(ブログ「糖尿病とスタチン」参照)のですが、今回フィンランドから「スタチン投薬によって糖尿病の発症が増加する。」との発表がなされたのです。

最近、スタチン投薬が糖尿病発症のリスクを上昇させるとの報告が散見されていたのですが、今回は何と!46%も上昇させるとのことなのです。

2001年のWOSCOPS研究のサブ解析はスタチンの投薬によってリスクが30%低下したとの報告があり今回の発表との整合性が取れないため、悩ましいのです。

色々と理由は考えられるのですが、一見矛盾するエビデンスが出て来た時にどの様に考えるか(医師によっても違いますが)、次回から書き連ねてみたいと思います。

(皆さんなら、どの様な説明をおつけになりますか・・・・・・?)

 

.


エビデンスとは?(6)

段々と春の足音が大きくなるような陽気が続いていますね。週末はその足音も少し後退気味だそうですので、体調管理にお気を付けください。

これまでエビデンスについて「エビデンスのレベル」を中心に書いてきましたので、なんとなくイメージしていただけるようになっていると思います。そこで、今回はこのシリーズの最後として、エビデンスがなぜ必要であるかについて書きたいと思います。

まず最初に結論を書いてしまいますと「出来うる限り『想定外』の事態を無くすために必要」だからエビデンスが必要なのです。

人間の体は色々な因子が複雑に絡み合っており、直感的な推論が必ずしも成り立たないのです。例えば「糖尿病で血糖のコントロールを厳しく行うと返って死亡率が上がってしまった。」ことが挙げられます。

「糖尿病治療の病態は血糖が高くなることである。」→「インスリンを含め色々な薬物治療で血糖コントロールできるようになった。」→「失明や腎不全で透析になる人は劇的に減ったが、心筋梗塞・脳梗塞などの病気はあまり減っていない。」→「より厳しい血糖コントロールし糖尿病を良くすることで、心筋梗塞や脳梗塞が減らせるに違いない。」

これらの推測は医学に携わるものとして十二分に納得できるものであり、大半の医師が多かれ少なかれそのように思っていたことは間違いありません。しかし、エビデンスを求めて「前向きの大規模ランダム化試験」を行ったところ、先ほど挙げた「糖尿病で血糖のコントロールを厳しく行うと返って死亡率が上がってしまった。」事実が判明したのです。

これは「厳しい血糖コントロールをすると心筋梗塞や脳梗塞が増えた。」のでは無く「厳しい血糖コントロールで低血糖を起こすリスクが高まり死亡が増えた。」ことが原因だったのです。医学界全体に激震が走ったのは以前お書きしたとおりです。

一見何の問題もない推論でも、事実を確認しなければ思わぬ「想定外」に足下をすくわれてしまうのです。そのため判断や推論の根拠となる事実(エビデンス)を常に念頭に置いておく必要がありますし、そのようなエビデンスが無ければ全国民が一体となってエビデンスを創出する必要があるのです。

治療方針の説明に納得できない場合には、医師の判断や推論の後ろに隠れている「エビデンス」についてお尋ねになれば、不安が和らぐかも知れません。(全ての治療にエビデンスレベルの高い物があるわけではありませんので、その点はご考慮いただけると幸いです。)

今回はこれまでにいたしたく存じます。(大河ドラマ風に)


エビデンスとは?(5)

本当に寒い日が続きますね。風邪や胃腸炎も相変わらず流行っていますので、うがい・手洗いを習慣付けてくださいね。

これまで何回かに分けてエビデンスについて書いてきましたが、なんとなくイメージを持っていただけたでしょうか?私は、「ある判断を評価するための根拠(論拠)」という感じでイメージしています。

さて、前回題材にした「判断:毎日○○を食べると癌になりにくい」のエビデンスとして最もエビデンスレベルの高い物はどの様なものなのでしょうか?実は、前回こじつけのようにも聞こえる解釈をいくつか例示して、皆さん自身にも解釈を考えていただきましたが(いい解釈が出来ましたか?)、それらの判断とは異なる解釈が成り立たないような事実が示されるのが良いのです。

1.そもそも癌になりにくい人が好んで○○を食べる傾向があるかも知れないので、意識的に食べても癌を抑制する効果がないかも知れない。

に対しては、「食べる人と食べない人を個人にまかせずくじ引きで決める(ランダム化・無作為化)」

2.毎日○○を食べる人で癌を煩っている人が少ないのは、毎日○○を食べることによって癌の進行が早くなり亡くなってしまっているからかも知れない。

に対しては、「現時点で食べる人と食べない人を登録して、10年間・20年間のその人達が癌になったかどうか調べる。(前向き観察)」

3.毎日○○を食べて癌を煩っている人は、面倒くさいアンケートには答えたがらない人が多いだけかも知れない。

に対しては、「前向き観察を行った上で、登録した人の追跡(フォローアップ)を完全に行う(追跡の完遂)」

以上まとめてみますと、エビデンスレベルが高いのは「『ランダム化した前向きに観察した研究で追跡の完遂をされたもの』で、○○を毎日食べた人の癌が少なかった。」ということになります。

臨床研究参加をお願いするとき、薬と薬効のない偽薬(プラセボ)にランダムに割り振りますと説明すると怪訝な顔をされることがありますが、このブログをお読みいただき、心理的な壁が少しでも低くなったと言っていただければ幸いです。


エビデンスとは?(4)

毎週金曜日にブログを更新していますが、先週は雪が降って今週は雨ですね。明日にかけて雪になるようですので、お気を付けくださいね。

さてこれまでエビデンスについて書いてきましたが、皆さんが医療関係の新聞記事などを読み解く場合に、このエビデンスの考え方が役立つのです。

良く新聞に「毎日○○を食べる人は癌になりにくい!」というような目を引く記事が載ることがあります。また、人気のテレビ司会者がそれに便乗して「奥さん!!○○が良いそうですよ!」と言えば、スーパーの棚から「○○が消えた!!」という新聞記事が出たりするのを見られたことがあると思います。

ここでエビデンスの考え方を用いますと

判断:毎日○○を食べると癌になりにくい

の根拠になっているエビデンスが何かを見ることになります。多くの場合、『アンケートで「毎日○○を食べる」と答えた人と「○○を食べない」と答えた人で癌を患っている人の割合が、「毎日○○を食べる」と答えた人で(統計的に有意に)少なかった。』というものでしょう。

確かにそうかなと思えるのですが、実はこの根拠はエビデンスのレベルとしてはあまり高くないのです。エビデンスレベルが高くない理由としては、こじつけのように聞こえるかも知れませんが以下のようにも解釈できるからです。

1.そもそも癌になりにくい人が好んで○○を食べる傾向があるかも知れないので、意識的に食べても癌を抑制する効果がないかも知れない。

2.毎日○○を食べる人で癌を煩っている人が少ないのは、毎日○○を食べることによって癌の進行が早くなり亡くなってしまっているからかも知れない。

3.毎日○○を食べて癌を煩っている人は、面倒くさいアンケートには答えたがらない人が多いだけかも知れない。

等々・・・・・・・・・

こじつけでも良いですので、どんな解釈があり得るのか皆さん自身で考えてみてくださいね。
 


エビデンスとは?(3)

今朝は大阪で結構な量の雪が降っていましたが、日が照ってきました。交通に影響が出ないで済みそうです。

前回までにエビデンスレベルとEBM(エビデンス・ベイスド・メディシン)について書きましたが、どの様な物か感じを掴んでいただいたでしょうか?かなり専門的な話ですので、私の文章力では上手く伝え切れていないかも知れないと心配しています。

しかし、「ブログは書き進めなければならない!」ので、今回からはもう少し具体的にエビデンスに関する説明していきたいと思います。(「エビデンスとは?(1)」で書いたミカンのたとえを思い出しながら読んでいただけると良いかもしれません。)

まずエビデンスを考える上で一番大切なのは、どんな判断を評価しているのかを明らかにしておくことです。ミカンのたとえで言うのでしたら、『今食べようとしている「ミカン」が美味しいはずだ』ということになります。評価すべき判断が変われば、用いるエビデンスも変わるのはご理解いただけると思います。

このブログでも度々取り上げている心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化を防ぐために、降圧薬を投薬している場合を取り上げてみますと・・・・・・・・

判断(1):この薬を投薬して血圧を降下させたい。
この場合最も有力なエビデンスは、「(患者さん自身が)実際に服薬して血圧が降下した。」ということになります。血圧の降下が十分でなければ、他の薬を試すのはこのエビデンスを得るためです。

判断(2):この降圧薬を投薬して動脈硬化を予防したい。
この判断を評価する場合、判断(1)で最も有効であったエビデンス「(患者さん自身が)実際に服薬して血圧が降下した。」が最も有効であるとは限らないのです。それはこの判断(2)が①「患者さんの血圧が下がった。」②「一般に血圧が下がると動脈硬化が進まない。」だから、「この降圧薬で血圧を降下させると動脈硬化が進まない。」という三段論法(論理的な推測)を含んでいるからなのです。事実証明された物でなく推測を含む物は、エビデンスのレベルが低くなるのです。

かなり込み入った話ですが、エビデンスが絶対的な物でなくどんな判断を評価したいかによって明確に使い分ける必要がある物だと、ご理解いただければと思っております。


エビデンスとは?(2)

最近は、「乾いた咳の続く風邪」「胃腸にくる風邪」「インフルエンザ」(海外では「新型インフルエンザ」)と色々な種類の風邪が流行っているようです。予防の基本はうがい・手洗いですが、おかしいなと思ったら早めの受診がお勧めです。

さて、前回はエビデンスのイメージを説明するために、『食べようとしている「ミカン」が美味しいはずだ』と判断する場合のエビデンスレベルについて書きました。(上手くお伝えできましたでしょうか?)

では、巷で言われるEBM(エビデンスベイスドメディシン:エビデンスに基づいた医療)とは、どの様なことを表しているのでしょうか?

一般に医師が診断・治療を行う場合、患者さんからお聞きした症状の原因となるメカニズムを論理的に考え診断し、メカニズムの異常を改善する薬などを投与して治療を行っています。当然ながら同じ様な症状を起こす複数のメカニズムがありますし、一つのメカニズムの異常も同じ所とは限らないのは言うまでもありません。そのために検査結果や最新の受診状況などを考慮して一番確からしいと思われる診断・治療を行っています。

一般に行われているこの手法は多くの場合十分に効果的であるのですが、「一番確からしいと思う」ところに経験や情報量の差が出てしまう危険性を含んでいるのです。そこで、何故「一番確からしいと思う」のか?をエビデンスのレベルに基づいて評価することにより、より良い医療を目指すのがEBMの考え方だと言えます。

EBMの話が出ると『「EBMは証拠・論拠に基づいた医療」なのだから、これまでの医療は証拠・論拠に基づかない医療で、適当な「さじ加減」で行われていたの?』と思われるのではないかと心配になってくることがあります。皆さんは、こんな論調の新聞記事などを見かけましたら、眉につばを付けて騙されないようにしてくださいね。


エビデンスとは?(1)

最近「エビデンス・ベイスド・メディシン(EBM)」などと「エビデンス」という言葉が一般の新聞にも使われ出していますが、お耳にされた事はありますでしょうか?「エビデンス」は「証拠・根拠」という意味ですが、最初に聴いた時には変な感じを受けたものです。そればかりか聞き慣れた今でも「エビデンス」にピッタリ来る日本語を思い付かないのが現状です。

そこで、今回から「エビデンスとは?」との題でブログを書いてみたいと思います。

今回は最初ですので、「エビデンス」の言葉が持つイメージを感じてもらうために、「エビデンスのレベル」について説明したいと思います。

冬といえば「ミカン」ですので(何といってもミカンです。)、ミカンを題材にしてみますね。

『今食べようとしている「ミカン」が美味しいはずだ』と判断する場合のエビデンスを「エビデンスのレベル」の高い順(信頼性の高い順)に並べてみます。(想像しながら読んでくださいね。)

1.同じミカンの他の房(ふさ)を自分が食べて美味しかった。(美味しかった房をもう一度食べる事は出来ないので・・・・・)

2.同じミカンの他の房を家族が食べて美味しいと言った。(家族の嗜好は似通っている事が多いので・・・・・)

3.同じミカンの他の房を知り合いが食べて美味しいと言った。(食べかけを分けてもらった?)

4.同じミカンの他の房を店の人が食べて美味しいと言った。(食べかけを売られた?)

・・・・・・・・・・(中略)

11.同じ箱に入ったミカンを自分が食べて美味しかった。
12.同じ箱に入ったミカンを家族が食べて美味しいと言った。

・・・・・・・・・・(中略)

21.以前に同じ店で買った同じ種類のミカンを食べて美味しかった。
31.以前に違う店で買った同じ種類のミカンを食べて美味しかった。

・・・・・・・・・・(中略)

1000. 店の人が「このミカンは美味しいよ!」と言った。
                     (注:数字は便宜的なものです。)

結局の所、『今食べようとしている「ミカン」が美味しいはずだ』との判断の信頼性がより高くなる証拠・根拠が、「エビデンスのレベル」の高い物になるのです。もちろんこの順番や内容は絶対的なものではないので、皆さんの中にはもっとスッキリとした、エビデンスのレベル分けを出来る方も居れると思います。

もし、お時間がありましたら皆さんなりの「エビデンスのレベル」を考えてみてくださいね。