カテゴリー別アーカイブ: 診断・検査

健診結果相談

台風が過ぎてから、少し過ごしやすくなりましたね。長く暑かった今年の夏もそろそろ終わりでしょうかね。

さて、このブログでも何度か書いたのですが、「健診を受け放し」にしている人が意外に多いようです。そのため健診結果の異常について医師の報告書を求める会社もあるようです。

健診結果をかかりつけ医に見せておくことは重要なのですが、どの様にお伝えすれば得心していただけるのか以前から頭を捻っていたのですが、参考になりそうな話を思い出したので書いてみますね。

それは、医学とは全く違う畑の「ホテル経営」の話なのです。

「ホテル経営」は端から見る程、優雅なモノではなく難しい要素を抱えてるとのことです。

1.鮮魚屋などで売れ残った魚は、次の日に値段を割り引いて売ることが出来るのですが、ホテルでは「今日の空室」を次の日に売る事が出来ないのです。(売れ残った魚が消えてしまうようなものですから)「ホテル」は「鮮魚屋」よりも厳しい時間的な制約を受けていると言えます。

2.小売店など状況を見て仕入れの量などを調整できるが、ホテルは自由に建物を大きくしたり、小さくしたり出来ないために「小売店のような仕入れの調整」が出来ない。

上記のような話を聞いて「なるほどなぁ」と感心した事を覚えています。

その時はそのまま聞き流していたのですが、今回よくよく考えてみると「ホテル経営」と「健康維持」は似ているのでは・・・・・・とひらめいたのです。

1.健診結果を医師に相談せず放置して、血管の老化(動脈硬化)が進んでしまうと後からの努力では取り戻せない。

2.いわゆる「体質」は「遺伝 + これまでの積み重ね」で決まるものなので、急に努力しても自由に変えることが出来ない。

「健康診断の結果が(もっと)悪くなったらがんばろう」とお考えの方々、「ホテル経営」はそんなに甘いものではないようですよ・・・・・・・

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検査をしなければ・・・・・(3)

梅雨らしいどんよりとした天気が続きますね。気温はそれ程高くなくても、汗が蒸発しないために効率的に体温を下げることが出来ず、熱中症になってしまうこともありますのでお気を付けください。

さて今回は『(血液)検査では判りません。』とお医者さんが言う場合の状況についてかんがえてみたいと思います。
最初に思い付くのは「(何も症状は無いけど)悪いところがないか全部検査してください。」といわれた場合です。以前からのデータがあれば、比較して検査値が悪くなったところがないか確認できるのですが、検査が初めての場合には異常値が出てもそれが「悪いところ」かどうかが判断できない場合があります。(この辺りの詳しい話は以前のブログ「検査値の正常値と異常値について」をお読みくださいね。)

次に「○○の病気にならないか調べてください。」といわれる場合です。確かに複数の検査異常があればその病気になるリスクは高くなっていくのは事実です。検査異常がある人は○○病になるリスクが正常人の3倍になりますと聞くと恐ろしいと感じますが、仮に検査異常のない人で100人に1人○○病気になるとすると、検査異常がある人は3倍の○○病が発症するので100人に3人ということになります。しかし、「検査が正常の人の病気でない確率」が99%に対して、「検査異常のある人の病気でない確率」は97%となり、病気でない確率はたった2%しか下がっていないのです。検査で病気のリスクは判るのですが、「病気になるかどうか」は判断できないこともあると理解していただけるのではないかと思います。

この様に書いてきましたが、もちろん「症状は無くても検査のみで診断可能」な病気もありますので、「検査では判らない」と早合点せずに、検査は絶対的なものではなく病気によって検査の位置づけも変化するものであり、

「(血液)検査をしなければ判りません。」
「(血液)検査では判りません。」

という言葉は時として同時に正しいこともあり得ると感じていただけると幸いです。

検査の位置づけについては、まだまだ書きたいことがあるのですがまたの機会に譲りたいと思います


検査をしなければ・・・・・(2)

「(血液)検査をしなければ判りません。」
「(血液)検査では判りません。」

医師はよくこの二つの「一見矛盾した事」を言うのですが、医師にとっての検査の位置づけと考え方はどのようになっているのでしょうか?(全ての医師ではなくあくまで私見ですが・・・・・)

今回はまず『(血液)検査をしなければ判りません。』とお医者さんが言う場合の状況について考えてみます。

想定される状況は、「○○の様な症状があるのですが、どこか悪いのでしょうか?」と聞かれた場合です。日常生活に支障が出ていると思うのですが、その症状が「色々な病因(病気の原因)によって引き起こされるもの」だったり「病気の場合にもその症状が出ますが、体調の変動だけでも出てくるもの」であった場合には『(血液)検査をしなければ判りません。』となります。

検査をして異常が見つかれば、症状の基になっている病因が推測することが可能になり、症状の改善に一歩近づきます。また、検査異常がなければ「悪いところがない」訳ではないのですが、早急に手当てしなければならない命に関わる異常がある可能性は低いと判断できると思います。(もちろん適切な検査をしていればですが・・・・)

多くの方は『「検査」をすれば自動的に病因となる悪いところが判るんでしょ?』と考えておられますが、実際はそう簡単ではありません。「適切な検査」をするためには、症状の出やすい状況や頻度・症状の強弱など患者さんからの情報が大変ありがたい助けとなります。患者さんから十分な聞き取りを出来ずに行った検査ではその症状と関係ない異常を見付けてしまい、治療をしても一向に症状が改善しない状況に陥る危険性すらあるのです。

「(血液)検査をしなければ判りません。」は「検査をすれば判る」という意味ではなく、検査結果を見てみなければこれ以上の診断・判断を進める材料がないとの意味なのです。

次回は「(血液)検査では判りません。」と言う時について考えてみたいと思います。


検査をしなければ・・・・・(1)

今年は空梅雨ではないだろうかと心配した矢先に、台風に刺激された梅雨前線で大阪は3日間も雨が降り続けています。洗濯物のこともあるので、そろそろ天気も回復してもらいたいものですね。

さて皆様は病院に行かれて、医者からこんな事を言われた経験はありませんか?

「(血液)検査をしなければ判りません。」(①)

大きく頷かれる方も多いと思います。しかし、一方こんな事も言われた経験のある方も多いのではないでしょうか?

「(血液)検査では判りません。」(②)

同じ医者にかかっても①の様に言われたり、はたまた②の様に言われたりして「言うことがころころ変わって、このお医者さんは大丈夫だろうか?」と思われたことがあるかもしれません。

この心配は「検査」に対するとらえ方が、一般の方と診断を下す医師では違うことに原因があるのですが、一見すると矛盾している①と②の発言が両方とも理にかなっていることを納得していただくには丁寧な説明が必要だと思います。

一般に「『検査異常 = 病気』、『検査正常 = 健康』」と捉えて、検査をすれば悪いところが分かるものだと理解されておられると思います。しかし実際はそんなに単純には行かないないことは、以前からこのブログを読んでおられる方には受け入れ易いのではないでしょうか?(興味がありましたら、以前のブログ「検査の正常値と異常値について」などをご参照ください。)

では、医師はどの様に考えているのでしょうか? 続きは、次回のブログで・・・・・・・


平均回帰

「花散らしの嵐」が過ぎ去ったと思ったら暖房・加湿器が必要な気候に逆戻りですね。気候が不安定な時ほど体調を崩しがちなものです。十分に睡眠を取ってくださいね。

さて、今回のブログは「平均回帰」についてですが、何か難しそうな語句が並んでしますが「回帰」とは「結局戻っていく」といったような意味ですので、「平均に戻っていく」という話です。

スポーツや勉強の時に良く言われることですが「ちょっと成績が良かったと言って褒めたらこの様だ。」とか「成績が振るわなかったことを怒ったら気合いが入ったみたいだな。」と、お聞きになったことがあるのではないでしょうか?それとも、ご自身で経験して「そうだね。」と頷いている方もおられるのではないでしょうか?

実は直感には反するのですが、「良い成績が次は悪くなったり」「悪い成績が次は良くなったり」することは、褒めたり怒ったりした効果よりも「平均回帰」による現象であることが知られているのです。(そういうエビデンスを作った人がいるのです・・・・・・・・!)

通常(平均)より良い成績を取る確率は低いので、2回続けて良い成績を取る確率はさらに低くなります。良い成績ばかりを取っていれば「平均」は上がって行ってしまうので、「平均」が変わらないのであれば良い成績の後は悪くなる確率が高いのです。

同じように考えれば、悪い成績の後に「叱咤」しなくても次は成績が良くなる可能性が高いことはご理解いただけると思います。(あくまで「平均」が変わらない事が前提ですので、悪い成績を気にしなくなって「平均」が下がってしまうことを防ぐには「怒る」事も大切です。)

医療の世界でも「治療が効いている・効いていない」との判断をするときに「平均回帰」の考え方を知っておかないと、判断を間違う原因になる時があります。

例えば「運動・服薬」を一生懸命続けたら血圧が下がった(運動・服薬の効果+たまたま良かった)のに同じように続けているのに元に戻ってしまった(運動・服薬の効果−たまたま悪かった)場合、多くの方が「運動・服薬」が効かなくなったと感じて中断してしまうのです。良くなった喜びが大きな分失望が大きいのかも知れません。

「平均回帰」の考え方を応用すると、もう少し長期的に見てみないと「運動・服薬」の本当の効果は判断できないことをご理解いただけると思います。

私のブログも「面白い」時と「面白くない」時が入り乱れていますが決して「むらっ気」ではなく「平均回帰」しているだけですよと言い訳して、今回のブログを締めたいと思います。

 

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健康診断

8月も最終日になり過ぎていく夏を惜しむような文章を書こうと思ったら、昨日は外に出ると暑さでフラフラしました。もう少し暑さが続くようですのでお体にお気を付けください。
今回のブログから「副作用と代償機転」について書こうと思っていたのですが、かなり込み入った話になりそうなので、今回は以前に書いたブログ「検査の正常値と異常値について」では書けなかった健康診断の考え方について書きたいと思います。

多くの方は健康診断で異常値がない事を良いことだと考えられるようです。確かに異常のない事は素晴らしいことなのですが、実は異常が見つかっていないだけというように考えたことはありませんか?


かなり長寿の家系に生まれましたといわれる方は別として、誰でも病気になりやすい何らかの体質は持っているはずなのです。ところが健診項目に異常がないということは、自分の弱い所(病気になりやすい体質)をその健診項目では発見できていないのかも知れません。

反対に、かなり短命の家系に生まれましたといわれる方は別として、病気になりやすい体質(遺伝的に弱いところ)を3つも4つも持っていることはないはずなので、健診で異常が見つかった場合に、そこだけをケアしておけば大病になるリスクを効率的に減らすことが出来るのです。


一般に、異常値が出るから健康診断を受けたくないとの心理が働きがちですが、自分の弱点を早く見付けて手当てする為には、異常値が見つかった健康診断の方がより有用だともいえます。検査値を正常にしようと自分の体質と戦う必要はありません。上手に折り合いを付けていくことが大切なのです。
この観点からいえば、大病をする前に特定健診で異常の見つかった人は、幸運だといえるかも知れません。

「循環器内科を受診していただければリスクを下げる確実な方法があります。」

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「血圧が高いですね。」

ここ数日の間、診療をしていて「血圧が高いですね。」と言っていることが多いような気がします。これまで血圧が正常値で何の問題もなかった人が、急に上の血圧(収縮期血圧)で20mmHg程度上がっているのです。「外食が多く塩分を取りすぎていないか?」「服薬をちゃんとしているか?」「何か思い当たるふしはないか?」など質問攻めにするのですが、急な血圧上昇を説明できる理由はわからないのです。
最初は、何とか原因を探ろうと色々と質問をしていたのですが、そのうち・・・「あなたもですか?」と最初の勢いは何処へやら、「最近暑いから、ストレスによるものかなぁー」と納得したようなしていないような状態が続いていました。(実際にストレスにより血圧上昇が起こることもあるのですが、これだけ多くの人が同時期に血圧が高くなるのは大変珍しいとしか言えないのです。)

ところが、先ほど受診された患者さんとの会話で「血圧が高いですね。」と言わなければならない理由がわかったような気がしました。実はその方も急に血圧が上がっていたのですが、「オリンピックを見ていて最近寝不足です・・・・・」といっておられたのです。「オリンピックで寝不足!」と私の頭の中に光が点くと同時に「ビン」という音が聞こえました。暑いだけでなく、ロンドンで行われているオリンピックで、多くの人が同時に寝不足になっているのが原因かも知れないと思ったのです。

今回血圧の高かった方々が、次回の受診で血圧が下がっているか?、はたまた「なでしこジャパン」や女子レスリングの活躍したオリンピックを見ていたか、お聞きするのが今から楽しみです。

皆様も夜更かしはほどほどにしてくださいね。


○○年齢

現在当院には、動脈の硬さの指標となる「脈波伝導速度」を測定する機器が置いてあります。「脈波伝導速度」と言ってもお聞きになった方は少ないと思いますが、「血管年齢」の測定器と言えばなじみのある感じを受けられる方もおられるのではないでしょうか?


確かに、「脈波伝導速度が○○cm/sで、平均より動脈硬化が進んでいる可能性があります。」
と言われるより、「あなたの血管年齢は○○歳で、本当の年齢より10歳も老化しています。」
と言われた方が、感覚的に理解しやすく頭に残りますよね。

ちょっと考えてみますと、世の中には色々な「○○年齢」という言葉が溢れていることに気づきます。

では、どの様にして「○○年齢」を決めているのでしょうか?全てではないにしろ多くの場合は、それぞれの年齢の人たちを事前に測定した結果から、平均や分布(分散)などから統計学的に算出しているのでしょう。簡単に言うと測定した人の値が、どの年齢の人たちの平均と近いのかを判断しているイメージで良いと思います。
実は、これはかなり強引な方法でなのです。例えば45歳の平均値を決めるために基準となる100人を集めて測定し平均を計算したとします。平均を計算することに問題はないのですが、平均値と比較すると基準となった45歳の100人の中に45歳より年齢が高く出てくる人が結構多く含まれるのです。(基準となった人が基準から外れるのです!!)
強引な方法なのですが、検査値が悪い人の中には病気が隠れていることもあり、実年齢よりも「○○年齢」が大幅に大きいときは、気を付けないといけないのです。当院でも、血管年齢が15歳も高く出たため、色々と調べてみると糖尿病(空腹時血糖やHbA1cは正常値でした。)が隠れていた例もあります。

もしよろしければ、当院に「血管年齢」を測りに来てください。
「あなたの血管年齢大丈夫ですか?」

 

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コレステロールの検査値について(1)

初診の方に、「これまでの健診とかで糖尿病やコレステロールの検査値は大丈夫ですか?」とお聞きすると、「問題なく正常範囲に入っています。」と答えられる事があります。正常範囲から外れているのは紛れもなく問題なのですが、正常範囲内に収まっていれば大丈夫なのでしょうか?

本ブログをお読みいただいている方なら「耳にタコ」が出来るぐらいになっていると思いますが「糖尿病の早期発見には空腹時検査だけでは不十分」なのです。(詳しくは以前のブログを参照ください。)今回は糖尿病ではなく、検査のコレステロール値について書きたいと思います。

健診などの検査結果を見ていただきますと、コレステロールの検査値が2個から3個印字されていることにお気づきになると思います。総コレステロール(Tcho)HDLコレステロール(HDL)LDLコレステロール(LDL)3個なのです。総コレステロールは文字通りコレステロールの総量を表します。HDLコレステロールは高密度(ハイデンシティー)のコレステロールの意味であり、一般に善玉コレステロールと言われています。LDLコレステロールは低密度(ローデンシティー)のコレステロールで、悪玉コレステロールと言われるものになります。

この3つの検査値の関係は直感的には「Tcho = HDL + LDL」で悪玉コレステロールと善玉コレステロールを足したものが総コレステロールと思うのですが実際はそうなっていないのです。実は総コレステロールは善玉コレステロールと悪玉コレステロールの足したものに中性脂肪(TG:トリグリセリド)5分の1を足したものになっているのです。つまり「Tcho = HDL + LDL + TG1/5」になっているのです。ですから総コレステロールが同じ値であっても、善玉・悪玉コレステロールや中性脂肪の比率は色々な値を取り得ることが解ると思います。

最近はテレビのコマーシャルでも善玉・悪玉コレステロールの比率(LDL/HDL)が大切だと言われていますがどの様な考えに基づいているのかを、本ブログで数回にわたって出来るだけ簡単に説明したいと思っていますので、よろしくお願いいたします。


検査値の正常値と異常値について(6): 癌マーカー

血液検査を行うときによく「癌のわかる検査もやってください。」と言われることがあります。当然、症状など疑わしい場合には積極的に行いますが、そうでない場合に説明に苦慮することがあります。多くの方が、「癌マーカーを見れば癌があるか無いか分かる。」と考えられているからだと思います。

ところで、最近新聞に書かれた「前立腺癌とPSA検査」についてご存じの方もおられると思います。

 

前立腺がん検査は推奨せず 米政府の作業部会 2011/10/08 12:22 【共同通信】)

【ワシントン共同】前立腺がんを見つけるためのPSA(前立腺特異抗原)検査が死亡率減少に役立つかどうかの検証を進めていた米政府の独立機関、予防医学作業部会は7日、健康な人が検査を受けることを推奨しないとする報告書案を発表した。  

同検査は、日本でもがん検診として実施している一方で、専門家の間でも推進するかどうか賛否が分かれており今後の議論に影響を与えそうだ。  PSA検査は前立腺の異常を示すタンパク質を血液で調べる検査法。作業部会の追跡調査で、検査を受けた人と受けなかった人を比較した場合、死亡率を減らす効果はないか、あってもごくわずかであることが分かった。

 

健康な人つまりリスクの少ない人が、PSA検査を受けても検査が正しい確率が大変低く、癌で亡くなる人を減らせなかったということです。直感には反するのですが、「検査値の正常値と異常値について(4)」で書いたインフルエンザの陽性率と同じ理屈になるわけです。

医療経済を何とか立て直そうとしている米国の発表であること、白人・黒人がメインの解析ですのでそのまま無批判に信じることは出来ませんが、専門家間でも議論になる程、複雑な問題のようです。私が上手に説明できないのも無理ないかなと記事を読みながら、胸をなで下ろしました。

 

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