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看護師さん or 看護婦さん?

「では、看護師に服を脱ぐのを手伝わせますから」と、いきなりお医者さんに告げら れ たら貴方はどう感じますか?私なら「待てよ、ひょっとしたら野郎が俺の着替えをさせるのかよ」と思うでしょう。男性の私でも抵抗を感じますし、そこには癒 しも安心も感じません。ましてや、もしも貴方が女性だったら脱衣の介助など絶対に男性にはして欲しくないでしょう。「私に付いて来るのは男性か女性かハッ キリさせといてよ」と思われるでしょう。

 「看護師」という表現の中には、性別は一切含まれていないのです。それが届出など の書類なら、いたしかたない場合もあるでしょう。しかし、医療の現場では、性別は絶対に必要なのです。それは性差別ではなく、必要な性区別なのです。丁 度、文語 体と口語体があるように、書けば「看護師」で、話せば「看護婦さん」でいいのです。書けば「医師」でも、誰もお医者さん本人に向かって「医師さん」とは言 わない でしょう。特に、ある程度怖さを漂わせる必要のある事もあるお医者さんに対して、ナースという存在は何となく甘えさせて欲しい存在で、それは決して「看護 師」ではなくて、「看護婦さん」の方が良いのではないでしょうか。例外として、精神科病棟などのように「男性看護士」のままの表現でいい場合もあります が。

 ちなみに、当院には「看護婦さん」しかおりませんので…。


血液ドロドロ?サラサラ?

 最近盛んに耳にする言葉ですね。一見分かりやすい表現のようですが、誰が言い出したのかこれが大きな間違いの元になることがあります。

 皆さんは血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が多くなると血液がドロドロになると考えておられるでしょう。しかし、血液のドロドロ状態は決してそれらの値の高さで決まるものではありません。即ち、血液の粘張度は主に血球(赤血球、白血球、血小板)の多さと血清の蛋白質の多さによって決まるのです。従って貧血、栄養失調、結核、癌などと言った怖い病気になった時には血液は見事にしゃぶ しゃぶ、即ちサラサラになるのです。血沈の悪さはそのサラサラの程度を見る為にあるのです。逆に、健康そのものの人の血液はしっかりしていてドロッとしているのです。

 先日、そのドロドロという言葉の使い方でちょっとした行き違いまで起きてしまいました。私がある患者様を診察している時に、別の患者様から急ぎの用事とのことで割り込み電話が入りました。電話の向こうの患者様は「私がおたくで今もらっている薬には血液がサラサラになる成分が入っていますか?」と質問されました。私は目の前の患者様を待たせたまま急いで電話の患者様のカルテを探しに行き、その結果コレステロールを下げる薬が入っていることを確認しました。しかし再び電話の向こうの患者様にそれを告げようとした時に、むしろその患者様から、「今から胃カメラをするところなんで」と告げられました。最近の胃ファイバースコープは殆ど生検といって胃の一部をかじり取って検査をします。従ってその後に よく胃の中で出血が起きます。そこに前もって出血を長引かす薬(アスピリンが代表)を飲んでいると大出血になる事がある為に、その場合は胃カメラの検査は出来きません。ですからそこで私がうっかりその患者様に「貴方の飲んでおられる薬には血をサラサラにするものが入っていますよ」と言ってしまうとその患者様の折角の胃カメラ検査が出来なくなってしまいます。だからといって確かに世間で言われている「血をサラサラにする薬」は入っているのです。

 私は長時間待ってもらっている目の前の患者様を前に、はてどう答えたら良いのか困ってしまいました。しかし電話の向こうの患者様は胃カメラをする医師から「出血時間を長引かせる薬」または「血を固まらせにくくする薬」の確認を迫られたのだとやっとわかりました。

 そこで正しくその患者様に答えないといけないと考えた私は「コレステロールを下げる薬は入っていますが、この世に血をサラサラにする薬はありませんよ。もっと詳しいお話は来院された時にしましょう」と答えました。正解です。ところが、その答えが不満だったのかその患者様は「そうですか、もうこっちでどうにかしますわ」とおっしゃって、どうやら怒って一方的に電話を切ってしまわれました。それ以来、その患者様は二度と来られなくなってしまいました。

 血サラサラ・ドロドロといった世間の間違った表現がこのような悲劇を生むのです。 親切でしたり言ったりした私の好意が、結局は理解されずにその患者様の為にならなかったのです。医療とは永年のうちにはそのような報われない誤解をされてまうこともあるのかなと一種の悲哀を感じる一幕でした。