復職支援(リワーク)(その54)

千里中央大阪府 豊中市・千里ニュータウン)、心療内科 精神科医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「復職支援リワーク)」の54回目です。引き続き、復職支援(リワーク)について詳しく触れたいと思います。
【続き→】●認知行動療法を取り入れたメンタルヘルス疾患の再発予防
薬物療法と同時に、認知行動療法という心理療法を長期的に生活の中に取り入れることも、うつ病などメンタルヘルス疾患の再発予防に効果があることが明らかになっています。ここでは、認知行動療法について簡単にご紹介をすることにしましょう。
例えば、大事なプレゼンテーションの前に「本番でうまく話せなかったらどうしよう」というようなプレッシャーで強く不安を感じた場合、その不安な気持ちを受け止め、抗不安薬を服用することが、メンタルヘルス医療精神科医療・心療内科医療)の主流といえる支持的精神療法と薬物療法です。
それに対して認知行動療法は不安を直接の治療の対象とはせずに、その不安を生みだしてしまうその人の偏った考え方や固定化された考え方を治療の対象とする、新しい視点の治療法なのです。
この認知行動療法を理解するにはアメリカの臨床心理学者のエリスが提唱した「ABC理論」が参考になります。ABC理論とは、あるストレスのきっかけとなる出来事(A:Activating event)が起こった場合に、その人にどのような感情や行動をもたらすのかという結果(C:Consequence)がどう生じるのかは、その人の考え方や信念(B:Belief)次第であるとする考え方なのです。
例えば、「プレゼンテーションで失敗してしまった」という出来事(A)が起こった場合に、「失敗は成功のもと」という信念(B)を持っている人であれば、「次には失敗しないようにきちんと準備をしよう」という今後につながる行動(C)に結び付きます。それに対して、「一度失敗したものは次やっても失敗するに決まっている」という信念(B)を持っている人の場合には、「もう二度とプレゼンテーションはしたくない」とその状況から逃げてしまったり、「もうこの会社では居場所がない」とひどく落胆してしまったりするのです。
つまり、Aのストレスのきっかけになる出来事は誰も避けて通ることはできません。ただ、その人の信念・考え方次第で、その出来事から生まれる感情や、その出来事に対する行動に大きな差が生じるのです。従来の支持的精神療法カウンセリングはこのAの出来事から発生する感情や行動(すなわちC)を治療の対象にしていたのに対し、認知行動療法では、いつも否定的に物事をとらえてしまったり、何かストレスがあるとそれから逃げてしまい余計に事態が深刻なものになってしまう感情や行動の根底にある不合理な信念(すなわちB)をさまざまな心理学的技法を用いることで少しずつ修正していきます。そして、感情を安定させることや社会に望まれる行動がなされるようになることを目的としているのです。
さらに「感情や行動は時が経つにつれて変わるのだ」ということを繰り返し経験し、「考え方を変えることで、感情や行動をコントロールすることができる」ということを自覚できるようになれば、認知行動療法で大きな効果が得られたと言えるでしょう。
つまり、認知行動療法の最終目的は自己の感情や行動を自分自身でコントロールできるような能力を身につけることなのです。
この認知行動療法に興味を持たれた方は、「認知行動療法」についての本(多くの出版物があります)を読んでいただくことをお勧めします。「そんなことをやっても変わらない」と考えている方が、「騙されたと思って一度読んでみよう」と思った瞬間に、認知が少し柔軟になっているのかもしれません。
以上、千里中央駅直結千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市心療内科杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。






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