月別アーカイブ: 2015年2月

ストレスと精神疾患(その6)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の6回目です。
【続き→】相互交流モデルの例をあげてみましょう。子どもの成長を考えたとき、子どもは家庭の影響を受けながら育つが、同時に子どもの気質が家庭に影響を与え、それがまた子どもの成長に影響します。音楽の素質を持った子どもがいれば、その子どもが音楽を学ぶ環境を周囲が提供して、さらに音楽の才能が伸びるといったことは、日常生活のなかでよく出会う現象です。
精神疾患の発症に関しても、職場での人間関係や仕事の負荷がストレス因子となってうつ状態になった人を考えてみると、抑うつ症状のために周囲の人たちとうまくつきあえなくなったことでさらに人間関係が悪くなったり、仕事が思うように進まずたまってきてそれが負荷になったりします。こうした相互交流モデルの理解にたてば、治療目的で環境調整をする際に、周囲の人に働きかけるのはもちろんのこと、患者様自身の言葉や行動、態度が好ましくない環境をつくり出していないかを考えながら、治療的かかわりを考えなくてはならないです。
本稿では、誘因ないしは契機であるストレス因子ストレス要因つまり精神症状ないしは精神疾患との関係、とくに相互交流モデルについて論じました。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その5)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の5回目です。
【続き→】ストレス因子だけで精神疾患の発症を説明することはできないが、ストレス因子が発症に関与していることは明らかです。その関与の仕方については多くのモデルが提唱されてきたが、なかでも広く受け入れられているのがストレス脆弱性モデルです。これは、メンタルヘルス不調(精神的不調)は、個人の特性と環境特性との相互作用からメンタルヘルス不調(精神的不調)が生み出されるという相互作用モデルであり、「素因-ストレス(diathesis-stress)モデル」がよく知られています。このモデルでは、ある精神疾患にかかるのは、素因としてなんらかの脆弱性を持った人が環境ストレスの影響を受けたためであると理解します。ここでいう素因とは、その症状の発現の可能性を高めるような個人の特徴のすべてであり、そこに環境からの好ましくないストレス因子が加わると、素因関連性の障害が現れると考えます。
このように書くと、素因と環境がそれぞれ独立して存在しているような印象を与えるが、現実には素因と環境がお互いに影響し合っています。そうした理解に基づくのが相互交流(transactional)モデルです。このモデルでは、個人と環境がそれぞれに独立した存在で影響し合っていると考えるのではなく、時間の流れのなかで相互に、そして動的に影響し合っています。そのために相互作用(interactional)ではなく、相互交流という用語が用いられます。個人と環境を分けて考えるのはあくまでも概念的な理解のためであり、現実には分けることができない一つのシステムなのです。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その4)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の4回目です。
【続き→】もちろん、定義上、発症時にはっきりとしたストレス因子が存在している必要があるとされている疾患はあります。たとえば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生死にかかわるようなストレス状況に曝露したために、それがトラウマ体験として残り、激しい精神的苦痛や日常生活に著しい支障が出ている場合に診断されることになっています。急性ストレス障害は、同様に生死にかかわるようなストレス状況に曝露した直後の精神状態の診断名です。このほか、適応障害は、はっきりとしたストレス因子のためにうつ不安行動の障害が認められ、うつ病性障害などの診断基準を満たさない場合に使われる診断名です。
一方、ストレス因子が発症にほとんど関与しない精神疾患もあります。アルツハイマー型認知症は脳内の器質的な病変によって起こると考えられているし、一般身体疾患や薬物によって起こる精神疾患もあります。このように、ストレス因子が大きく関与して発症する精神疾患や、ほとんどそうした関与のない精神疾患もあるが、多くの精神疾患はなんらかの生物学的背景のある人が、1つあるいは複数のストレス因子を経験することで発症しており、治療にあたっても、そうした各側面を検討しながら、多面的な治療的アプローチを行う必要があります。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その3)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の3回目です。
【続き→】しかし、その後の臨床研究から、これらの極端な考えに修正が加えられることになりました。たとえば、心因が関与しないと考えられていた内因性の疾患でも、ほとんどの場合発症に心因が関与しています。一方、心因性の疾患の脳の機能や構造を調べてみると、生物学的、生化学的な変化が起きていて、その意味では内因性ということができます。つまり、内因性と心因性をきれいに分けることはできず、内因と成因が程度の差はあるにしても、同時に関与している場合がほとんどです。また、ある時期までアメリカで主流であった、精神症状がこころのなかの葛藤の結果として生じたものであるという考え方にも無理があります。精神疾患自体の原因はまだ解明されていないし、精神疾患の生物学的背景に関する研究も進んできているからです。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その2)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の2回目です。
【続き→】ストレス因子が精神疾患の発症に及ぼす影響については、ドイツ精神医学とアメリカ精神医学とでは両極端にあるといえます。
記述的精神医学の流れであるドイツ精神医学では、ストレス因子が発症に関与する程度によって精神疾患を内因性、心因性、身体因性に分けてきました。内因性というのは、心理的なストレス因子が存在しなくても脳内の変調で発症する疾患で、統合失調症双極性障害(躁うつ病)が代表的なものです。心因性疾患は、ストレス因子が発症に関与している精神疾患であり、神経症性疾患が代表例です。身体因性というのは、器質的な要因が関与している精神疾患です。
一方、精神分析の影響を強く受けたアメリカ精神医学は、こころのなかの葛藤が精神疾患の発症に影響しているという立場をとっていました。そのために、アメリカの診断分類であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)‐Ⅱでは、すべての精神疾患がreaction(反応)として表記されていました。つまり、ストレス因子に対する反応として精神疾患を理解していたのです。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦です。


ストレスと精神疾患(その1)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回から「ストレスと精神疾患」というタイトルで、ストレスについて詳しく触れたいと思います。
一般にストレスという用語は多義的に使われているが、専門的には心身の負担となっている要因であるストレス因子と、その負荷に対する心身の反応であるストレス反応のいずれかもしくはその両者を意味するものとして使われます。
このストレスという用語は1950年代にハンス・セリエが提唱したもので、心身の負担になるような刺激を受けて心体の内部に生じた緊張状態を指すものでした。セリエによれば、この緊張状態は視床下部‐脳下垂体‐副腎皮質系を介した特異的な反応(汎適応症候群)であるとしています。つまり、ストレスという用語は、最初はストレス反応を意味していたが、その後しだいにストレス因子を意味して使われるようになってきたといえます。
ちなみに、精神疾患を考える場合、ストレス因子は誘因ないしは契機といった言葉で置き換えることができるだろうし、ストレス反応は症状という形で現れると考えることができます。そこで次回以降、主にストレス因子が精神疾患の発症にどのようにかかわると考えられているかについて解説することにします。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


非定型うつ病について(その52)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
【続き→】●人間関係療法
人間関係療法は、認知行動療法と並んで、その効果が実証されている精神療法のひとつです。問題を人間関係に絞り込んで、その患者様にとって最も身近で大事な他者との関係性を改善していくものです。一口に人間関係といっても、職場や家族や地域やサークルなど、人との付き合いは広くていろいろな関係がありますが、この人間関係療法では最も親密な関係に絞ります。例えば、妻、夫、恋人、親子、兄弟、親友といったきわめて重要な他者との関係において、過去ではなく現在の関係に焦点をあてて治療を行うものです。
人間関係をめぐるトラブルは、うつ病を発症させる重要な因子のひとつになっており、特に非定型うつ病の患者様は、感情が過敏で人間関係に悩みやすく、それが病気の引き金になっていることがほとんどです。発病すると、家族など身近な人との人間関係に影響を与え、トラブルを生んで、それがまた病状を悪化させる要因にもなります。非定型うつ病の患者様にとって、対人関係の不安解消は病気回復の第一歩にもなります。そこで人間関係療法においては、他者との関係における「感情のもつれ」「葛藤」「力関係の変化」「普通でない離別や死別経験への反応」などをテーマにして、治療者は患者様と十分な会話を重ねながら、カウンセリングを行います。非定型うつ病の人は、人と接することが苦手だったり、親しい人間関係をつくれないことについては、対人関係の欠如によるものではないかと考えがちですが、意外にも役割の変化が原因だったりします。いずれにしても、人間関係における適応能力を高めることによって、こころの病気を改善していくのが人間関係療法の役割だと思います。なお、この人間関係療法は、もともとはうつ病を治療するために開発された精神療法ですが、摂食障害にも有効であるという報告もあります。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


非定型うつ病について(その51)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
【続き→】認知行動療法は、近年海外でも盛んに行われるようになってきており、これまでの研究でも、その治療効果が科学的にも認められ、薬物療法と同じくらいの効果があることがわかってきました。うつ病をはじめ、さまざまな精神障害に効果があることが、世界的にも認められており、アメリカやイギリスでは軽症うつ病や不安障害の治療において、認知行動療法が第一選択肢になっているほどです。
最後に、認知行動療法を薬物療法と比較した場合の効果について触れると、非定型うつ病の場合、MAOI(フェネルジン)を使った薬物療法と同じくらいの効果があったという報告があります。有効率では、非定型うつ病に対して行われた認知行動療法の有効率は58%で、フェネルジンを使った有効率58%と同じでした。では両者を併用した場合ですが、非定型うつ病での調査はなく、慢性うつ病患者様の場合での調査でみると、さらに高い有効率であったことがわかっています。また、虐待や両親との離別を経験した患者様では、薬物療法よりも認知行動療法の方が高い効果が出ています。こころの傷が深いほど、認知行動療法の効果は高いことがわかりました。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


非定型うつ病について(その50)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
【続き→】では実際に、認知行動療法をすすめる場合ですが、患者様の症状や現在の状態をみて、それに合った形式(方法)で取り組みます。形式には5つあり、①「セルフ・ヘルプ認知行動療法」(本やパソコンなどを使って、1人で取り組む)、②「アシストつきセルフ・ヘルプ認知行動療法」(通院してアドバイスを受けながら行う)、③「認知行動療法アプローチ」(セミナーに参加して理解を深める)、④「集団認知行動療法」(集団の中で治療プログラムに参加する)、⑤「個人認知行動療法」(治療者と1対1で取り組む)です。症状が軽い場合は、セルフ・ヘルプ認知行動療法でもよいかもしれませんが、重い場合は個人認知行動療法で取り組みます。ただ本格的に認知行動療法を受けるならば、やはり集団認知行動療法か個人認知行動療法です。人数が違うだけで、内容は同じです。
集団認知行動療法は、治療者のもとへ定期的に集まって、同じような状態の患者様が3~10人ほど集まり、2~3人のスタッフとともに、数カ月かけて12回程度のセッションを行います。患者様は参加された他の患者様や治療者との対話を通して、自分の認知、行動、感情面での問題点を見いだして、改善していきます。参加したそれぞれの患者様も、他の人の考え方や状況に共感したり、客観視したりすることで、新たな見方や考え方を発見し、自分の改善に役立てていきます。セッションでは、お互いの発言に対しては、決して批判したり否定したりせず、お互いを認め合い、むしろ褒め合う言葉を掛け合うようにします。一方、集団療法では個人的な細部に焦点を合わせることは難しいため、そのような場合は個人認知行動療法のセッションを選択します。1対1で行うため、個人的な部分まで丁寧に対話でき、より効果的な治療を受けることができます。
こうして、認知行動療法は週に1回のペースで、30~50分の対話形式で行われ、全部で12回くらいのセッションですが、治療がスムーズに行われれば回数も少なく、なかなか進まない場合は16回程度行われることもあります。セッション毎に、最初10分程度でその日のテーマを決め、本題に入ったら改善点を探り、見つかったら具体的な対策を治療者と一緒に考え、最後に意見や感想を述べあって終了します。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


非定型うつ病について(その49)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
【続き→】●認知行動療法
認知行動療法はCBT(Cognitive and Behavioral Therapy)とも呼ばれ、アメリカで開発された療法で、もとは「認知療法」と「行動療法」の二つの考え方や手法が統合されて出来た療法です。認知療法の認知とは、ものの見方や考え方、感じ方という意味で、患者様本人が病気に対するマイナスの見方や考え方を変えていくことに焦点をあて、歪んだ思考を修正しながら問題点を解決していく方法です。精神科医や臨床心理士のアドバイスによって行われます。一方行動療法とは、誤った学習によって身についてしまった好ましくない行動を、再学習することで、不適切な行動を減らして適切な行動を増やしていく治療方法です。恐怖症の治療に優れた効果があるとされています。
この二つの療法を統合してできたのが認知行動療法で、治療法の基本は、「認知」と「行動」、それに「感情」を含めた三要素を重視し、この3つのバランスがとれているかをみながら問題解決をはかっていきます。方法としては、先ず認知の内容を深く掘り下げていきます。認知とは考え方ですが、そこには自動思考(自分でコントロール出来ていない瞬間的に思い浮かぶ考え)があって、それを掘り下げていくと、スキーマ(考え方のクセ、信念)が見えてきます。実はこのスキーマから自動思考が生み出されてくるのです。この自動思考とスキーマの関係性を捉えることによって、認知の全体像も見えてきます。そして、この自動思考とスキーマが、今度は行動や感情にも影響を及ぼしますので、まずスキーマを自覚し、マイナスとなる考え方を修正していくことによって、治療への道を開いていく方法です。自動思考は言語化すると、認知の意外性に気づきます。それが考え方のクセとなって、こころの中核をなす信念となっています。この誤った信念が病気を引き起こしていることに気づき、信念がいつも正しいことではないことが認識できれば、治療への大きな第一歩となります。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。