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リワーク(復職)支援(その27)

千里中央(大阪府 豊中市・千里ニュータウン)、心療内科 精神科「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「リワーク(復職)支援」の27回目です。引き続き、リワークについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖復職リワーク)前(休職中)の「試し出勤」制度のメリットとデメリット〗
前回は、復職前リワーク前)(休職中)に行う職場でのリハビリである「試し出勤」の制度をご紹介しました。
職場復帰支援リワーク支援)のための「試し出勤制度」は、休職期間中に、無給で行うのが原則。
今回は、「試し出勤」制度を実施することのメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。
「試し出勤」制度を取り入れる理由は2つあります。
1つ目は、復職可能リワーク可能)かどうかの判断材料として有効だからです。
職場環境の中で実際の仕事に近い作業を行いますので、定められた出勤時間に出勤ができるか、退勤時間まで職場に滞在できるか、職場の同僚や上司とコミュニケーションが取れるか、作業の進捗状況はどうか、などについて、周囲から客観的に評価することができます。主治医や産業医の意見に加えて、「試し出勤」中の出勤率や作業状況などを復職可否リワーク可否)の判断材料とすることで、より納得性のある判断基準の運用ができます。
2つ目は、復職にスムーズリワークにスムーズ)に繋げ易いという点です。
実際の職場で復職準備リワーク準備)を行うことになりますので、最終的に復職可能と判断リワーク可能と判断)された場合、そのまま正式な勤務として取り扱えばよいことになります。新たな環境に適応する必要がないので、復職への精神的なハードルリワークへの精神的なハードル)が低くなります。『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きリワーク支援の手引き)』(復職ガイドラインリワークガイドライン))でも「試し出勤制度等を設けている場合、より早い段階で職場復帰の試みリワークの試み)を開始することができ、早期の復職早期のリワーク)に結びつけることが期待できる。」とされています。
しかし、「試し出勤」制度には、問題点もあります。
1つ目は、職場の負担が大きくなるという点です。「試し出勤」制度は、いわば職場をリハビリ、リワークの場として使うことになります。本来、職場は働く場、労務を提供する場であり、リハビリの場ではありません。周囲の同僚も上司も、リハビリの専門家ではありません。皆それぞれの仕事に追われており、本人をメンタルヘルスケアできる程の余裕がない場合もあります。つまり、職場に負荷がかかるということになります。
休職期間中の人が同じ職場にいて、その人は仕事をしていないのに私は忙しい、ということになると、職場内に不平不満が生まれやすくなります。短期間であれば、周囲の頑張りで乗り切れるでしょうが、長期にわたると、周囲の同僚や上司などの精神的な負担も大きくなりがちです。仕事の効率が落ちることも考えられます。企業としては、このような事態は避けたいと考えるのは当然です。
2つ目は、本人の負担が大きくなり、返ってメンタルヘルスの回復を妨げるという意見があります。
産業医学の専門家の意見によると、あくまでメンタルヘルス疾患の治療中なので、「試し出勤」の進捗状況をサポートできる専属産業医や産業看護師などの産業保健スタッフも必要になります。職場に居ることを認める以上、休職中とはいえ、企業には一定の安全配慮義務があると考えられるからです。
以上、千里中央駅直結・千里セルシー3階・豊中市、心療内科「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


リワーク(復職)支援(その26)

千里中央(大阪府 豊中市・千里ニュータウン)、心療内科 精神科「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「リワーク(復職)支援」の26回目です。引き続き、リワークについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】先ず、最初は賃金です。原則として、休職期間中で傷病手当金を受給している場合は無給です。報酬が支払われた場合は、「病気によって就労ができない」という状態ではなくなり、傷病手当金の受給ができなくなるからです。では、交通費はどうでしょうか。全国健康保険協会(協会けんぽ)によると、交通費も報酬と認定されます。ただ、一部の健康保険組合では、交通費の支給を認めている例があるようです。
賃金がない、つまり労務の提供がないので、労災保険は適用されません。通勤災害も適用されません。試し出勤規定を作るとともに、労災保険が適用されないことについて労働者から書面での同意を得ておくべきです。会社によって、この期間中に発生した事故に対応する傷害保険を用意しているところもありますが、加入するかしないかはあくまで労働者の任意です。保険料も労働者が負担するのが一般的です。
この試し出勤制度は、あくまで労働者の自由な意思に基づく任意の制度です。労働者とよく協議して、十分な理解を得た上で実施する必要があります。出勤時間や退勤時間については、試し出勤計画を作成するときに、労働者と話し合って決めておきます。強制することはできません。ただ、出勤時間は通常の始業時間として、午後出勤などは行わない方が、職場復帰リワーク)に繋がり易いとされています。
職場での滞在時間は、最初の一週間程度は、職場への顔出しや午前中の短時間として、その後は午後に跨る短時間勤務を経て、フルタイム勤務に移行する形が一般的です。個々の試し出勤計画の中でスケジュールを策定します。期間の目安は1ヵ月間程度、長くても2ヵ月間以内が目途となります。
職場復帰支援リワーク支援)の手引き』(復職ガイドラインリワークガイドライン))の中でも「具体的な職場復帰決定リワーク決定)の手続きの前に、職場復帰の判断リワークの判断)等を目的として行うものであることを踏まえ、職場復帰の目的リワークの目的)を達成するために必要な時間帯・態様、時期・期間等に限るべきであり、いたずらに長期にわたることは避けること。」とされていますので、注意が必要です。
職場で行う作業ですが、無給ですので労務の提供をさせてはならないことになります。ですので、会社には指揮命令権はありません。作業を指示したり、作業量を決めたりすると、無給で働かすことになるので賃金不払いになってしまいます。また、メンタルヘルス疾患が治っていない状態で職場で作業をすることになりますので、何らかの事故があった場合には、安全配慮義務違反に問われる可能性もあります。
ただ、全く会社の業務を行ってはならないかというと、そうでもありません。元労働基準監督署長によると、「リハビリの一環として実際の業務に試しに取り組んでみることまで禁止されているわけではない。あくまで、会社が指揮命令をしない、労働者が自由な意思で作業をしていることが認められるならば、容認できる範囲内なのではないか」とのことです。
以上、千里中央駅直結・千里セルシー3階・豊中市、心療内科「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。