カテゴリー別アーカイブ: ストレス

ストレスと精神疾患(その6)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の6回目です。
【続き→】相互交流モデルの例をあげてみましょう。子どもの成長を考えたとき、子どもは家庭の影響を受けながら育つが、同時に子どもの気質が家庭に影響を与え、それがまた子どもの成長に影響します。音楽の素質を持った子どもがいれば、その子どもが音楽を学ぶ環境を周囲が提供して、さらに音楽の才能が伸びるといったことは、日常生活のなかでよく出会う現象です。
精神疾患の発症に関しても、職場での人間関係や仕事の負荷がストレス因子となってうつ状態になった人を考えてみると、抑うつ症状のために周囲の人たちとうまくつきあえなくなったことでさらに人間関係が悪くなったり、仕事が思うように進まずたまってきてそれが負荷になったりします。こうした相互交流モデルの理解にたてば、治療目的で環境調整をする際に、周囲の人に働きかけるのはもちろんのこと、患者様自身の言葉や行動、態度が好ましくない環境をつくり出していないかを考えながら、治療的かかわりを考えなくてはならないです。
本稿では、誘因ないしは契機であるストレス因子ストレス要因つまり精神症状ないしは精神疾患との関係、とくに相互交流モデルについて論じました。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その5)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の5回目です。
【続き→】ストレス因子だけで精神疾患の発症を説明することはできないが、ストレス因子が発症に関与していることは明らかです。その関与の仕方については多くのモデルが提唱されてきたが、なかでも広く受け入れられているのがストレス脆弱性モデルです。これは、メンタルヘルス不調(精神的不調)は、個人の特性と環境特性との相互作用からメンタルヘルス不調(精神的不調)が生み出されるという相互作用モデルであり、「素因-ストレス(diathesis-stress)モデル」がよく知られています。このモデルでは、ある精神疾患にかかるのは、素因としてなんらかの脆弱性を持った人が環境ストレスの影響を受けたためであると理解します。ここでいう素因とは、その症状の発現の可能性を高めるような個人の特徴のすべてであり、そこに環境からの好ましくないストレス因子が加わると、素因関連性の障害が現れると考えます。
このように書くと、素因と環境がそれぞれ独立して存在しているような印象を与えるが、現実には素因と環境がお互いに影響し合っています。そうした理解に基づくのが相互交流(transactional)モデルです。このモデルでは、個人と環境がそれぞれに独立した存在で影響し合っていると考えるのではなく、時間の流れのなかで相互に、そして動的に影響し合っています。そのために相互作用(interactional)ではなく、相互交流という用語が用いられます。個人と環境を分けて考えるのはあくまでも概念的な理解のためであり、現実には分けることができない一つのシステムなのです。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その4)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の4回目です。
【続き→】もちろん、定義上、発症時にはっきりとしたストレス因子が存在している必要があるとされている疾患はあります。たとえば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生死にかかわるようなストレス状況に曝露したために、それがトラウマ体験として残り、激しい精神的苦痛や日常生活に著しい支障が出ている場合に診断されることになっています。急性ストレス障害は、同様に生死にかかわるようなストレス状況に曝露した直後の精神状態の診断名です。このほか、適応障害は、はっきりとしたストレス因子のためにうつ不安行動の障害が認められ、うつ病性障害などの診断基準を満たさない場合に使われる診断名です。
一方、ストレス因子が発症にほとんど関与しない精神疾患もあります。アルツハイマー型認知症は脳内の器質的な病変によって起こると考えられているし、一般身体疾患や薬物によって起こる精神疾患もあります。このように、ストレス因子が大きく関与して発症する精神疾患や、ほとんどそうした関与のない精神疾患もあるが、多くの精神疾患はなんらかの生物学的背景のある人が、1つあるいは複数のストレス因子を経験することで発症しており、治療にあたっても、そうした各側面を検討しながら、多面的な治療的アプローチを行う必要があります。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その3)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の3回目です。
【続き→】しかし、その後の臨床研究から、これらの極端な考えに修正が加えられることになりました。たとえば、心因が関与しないと考えられていた内因性の疾患でも、ほとんどの場合発症に心因が関与しています。一方、心因性の疾患の脳の機能や構造を調べてみると、生物学的、生化学的な変化が起きていて、その意味では内因性ということができます。つまり、内因性と心因性をきれいに分けることはできず、内因と成因が程度の差はあるにしても、同時に関与している場合がほとんどです。また、ある時期までアメリカで主流であった、精神症状がこころのなかの葛藤の結果として生じたものであるという考え方にも無理があります。精神疾患自体の原因はまだ解明されていないし、精神疾患の生物学的背景に関する研究も進んできているからです。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。


ストレスと精神疾患(その2)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「ストレスと精神疾患」の2回目です。
【続き→】ストレス因子が精神疾患の発症に及ぼす影響については、ドイツ精神医学とアメリカ精神医学とでは両極端にあるといえます。
記述的精神医学の流れであるドイツ精神医学では、ストレス因子が発症に関与する程度によって精神疾患を内因性、心因性、身体因性に分けてきました。内因性というのは、心理的なストレス因子が存在しなくても脳内の変調で発症する疾患で、統合失調症双極性障害(躁うつ病)が代表的なものです。心因性疾患は、ストレス因子が発症に関与している精神疾患であり、神経症性疾患が代表例です。身体因性というのは、器質的な要因が関与している精神疾患です。
一方、精神分析の影響を強く受けたアメリカ精神医学は、こころのなかの葛藤が精神疾患の発症に影響しているという立場をとっていました。そのために、アメリカの診断分類であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)‐Ⅱでは、すべての精神疾患がreaction(反応)として表記されていました。つまり、ストレス因子に対する反応として精神疾患を理解していたのです。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦です。


ストレスと精神疾患(その1)

皆様、こんにちは。心療内科 精神科千里中央駅千里ニュータウン医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回から「ストレスと精神疾患」というタイトルで、ストレスについて詳しく触れたいと思います。
一般にストレスという用語は多義的に使われているが、専門的には心身の負担となっている要因であるストレス因子と、その負荷に対する心身の反応であるストレス反応のいずれかもしくはその両者を意味するものとして使われます。
このストレスという用語は1950年代にハンス・セリエが提唱したもので、心身の負担になるような刺激を受けて心体の内部に生じた緊張状態を指すものでした。セリエによれば、この緊張状態は視床下部‐脳下垂体‐副腎皮質系を介した特異的な反応(汎適応症候群)であるとしています。つまり、ストレスという用語は、最初はストレス反応を意味していたが、その後しだいにストレス因子を意味して使われるようになってきたといえます。
ちなみに、精神疾患を考える場合、ストレス因子は誘因ないしは契機といった言葉で置き換えることができるだろうし、ストレス反応は症状という形で現れると考えることができます。そこで次回以降、主にストレス因子が精神疾患の発症にどのようにかかわると考えられているかについて解説することにします。
以上、心療内科千里中央駅直結千里セルシー3階「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。