最近、境界知能という言葉をメディアで聞くようになりました。
境界知能とは、知的水準(知能)が知的障害と平均の間にあり、具体的にはIQが70~84を言います。およそ7人に1人(14%)いると言われ、1クラス30人の中に4人いることになります。知的障害ではありませんが、IQが平均より低いため、社会に出ると様々な生きにくさを抱えてしまいます。複雑な業務やコミュニケーションなどが苦手なため、仕事がうまくいかずストレスを抱えやすくなります。
僕は診察を通して、多くの境界知能の患者さんとお会いしています。人によって様々ですが、中には見た目や話しているだけでは、境界知能だと気付くことが難しい方もいます。仕事で困っていることは多いのですが、診察室での受け答えは、一見スムーズで落ち着いて話されます。WAISという検査をしてみて、ああ、そうだったのかと分かるわけです。境界知能を念頭に置いている医師でさえ気付かないこともあるのですから、一般社会では、本人も周りも境界知能であることに気付かずに過ごしている方は多いと思います。中には、大学を卒業している方もいます。
境界知能は、一見しただけでは分からない、話をしても分からない、ここに境界知能の方の苦しみがあるのです。これは、原因が分からないまま、仕事がうまくいかないことに悩んでいる方がいるということです。本人も周りも、なぜ仕事が出来ないか分からず困っており、発達障害を疑って診察に来られる方も多いです。発達障害と境界知能を併発することもよくあります。
子どもの頃、成績は悪いけれど特に問題行動がない場合、「勉強が苦手な普通の子ども」として育ち、大人になります。そして、社会に出て様々な壁にぶつかり、原因が分からず困っている。そういった経過をたどる境界知能の方が多くおられます。これは、日本の教育制度の健常と障がいの狭間で、適切な療育と支援からこぼれ落ちてしまったとも言え、これからの教育制度の改善を望みます。
今まで「普通」と思って生きてきた方に、大人になってから境界知能であることを伝えることは、心が痛みます。中にはショックを受ける方もいます。境界知能の方が生きやすい社会のあり方を考えてやみません。
出典:NHKニュースより