日別アーカイブ: 2013年12月19日

ウイルス性胃腸炎その4 まわりへの影響

嘔吐・下痢の本人にとっては、ウイルスの種類が何であっても、対策が変わったり、薬が変わるわけではありません。

「かぜを知ろう」でお話ししたように、ウイルスを直接やっつける薬はありませんので、検査をしてノロやロタと分かっても、本人には恩恵はありません。

(病院で検査をする重要な目的のひとつには、地域での流行の把握があります。ただし、ノロウイルス検査は3歳以上の児には適応がありません。)

何ウイルスによる胃腸炎かは、便の検査をしなければ確定はできませんので、特に大きい子や大人などおむつで便を持参できない患者さん達は、全てまとめてウイルス性胃腸炎として対策しましょう。

実際にはノロやロタは一旦はやり始めると、シビアな嘔吐・下痢症のほとんどがこれらのウイルス一色に染まるため、流行期には検査をしなくてもこれらのウイルスとして扱うくらいが適切です。

まわりのご家族は、全ての嘔吐・下痢はうつるという認識を持ったうえで、冬場の胃腸炎は「ノロの胃腸炎かも」、という前提で動きましょう。

特に寒い季節のくさーい下痢便はかなりあやしいでしょう。

うつらないようによく手洗いするのはもちろんのこと、ノロはアルコールに耐性ですから、嘔吐した床などの消毒は塩素を含んだ洗剤を用いて行います。

 

ノロからやや遅れて流行する胃腸炎に、ロタウイルス胃腸炎があります。

冬のノロ、春のロタとよく言われます。

嘔吐がしんどいノロに対して、下痢が長引きやすいのがロタの特徴です(これも個人個人で様々ですが)。

白っぽいクリーム色で、つーんとする酸っぱい匂いがあるとかなり疑わしいでしょう。

それ以外にも1年を通じて様々なウイルスが嘔吐下痢を引き起こします。

その中でもノロとロタが有名なのは、症状も感染力も強いからですので、冬から春にかけての嘔吐下痢は他の季節より、余計に注意ということになります。

 

集団生活の復帰に関しても、ウイルスの種類によって基準に差はありません。

嘔吐をしている間や、下痢がひどい間はまわりにまき散らす力が強いわけですから、何ウイルスだろうがお休みが必要です。

水のような大量の便の入ったおむつを持参されたお母さんの中には、便の検査でノロもロタも陰性という結果をお伝えすると、「よかった、これで休ませないで済む。」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、何ウイルスだろうと全てうつる訳ですから、下痢がひどい間は残念ながらお休みになります。

逆にノロやロタであっても、嘔吐が下痢が軽く順調に収まれば、比較的早期から集団生活には戻れることになります。

厳密には便には2,3週間にわたりウイルスが排泄されるので、本当に人にうつす心配がなくなるのには1か月近く休まなければならないことになりますが、これは現実的ではありませんので、実際には元気や食欲が戻り、そこそこの便になれば復帰してもらっています(うつす力がだいぶましになったら登園というイメージ)。

元気で食欲や便が改善している、というのは診察で分かるというよりは親御さんや先生の方が把握しやすい要素ですから、元気なのに登園許可証を取りに病院に来るのは本当はナンセンスではありますが、保育園によっては求められることもありますので確認をしておいてください。

なお、ロタ胃腸炎に関してはワクチンがとても有効です。(生後15週未満に開始する必要があります。)


ウイルス性胃腸炎その3 対策②

②下痢のphaseの考え方

嘔吐・下痢に実際かかると、戦いの場が上から徐々に下にうつっていくのを実感できます。

嘔吐で出し切れなかったウイルスは、発症から数時間たって、ちょっとづつ動きを取り戻した腸の流れに乗って下へ下へ移動していきます。

下痢が出始めると、吐き気が楽になり、水分を少量ずつtryしやすくなります。

嘔吐せず水分がいければ少しづつ量を増やしていきましょう。

本人が食べたいというまで、食事は急ぐ必要はありません。

2,3日食事が取れなくても、水分や塩分がある程度取れていれば大きな問題はないでしょうし、吐き気や腹痛がつらい間は、食べると言っても消化の良いものが楽でしょう。

しかし、ひとたび食欲が戻ってきてからは、下痢があってもむしろ普通の食事にできるだけ早く戻すことが大切です。

以前は、下痢の間は食欲があってもお腹を休ませるためにひたすらおかゆだけ、などという指導をしていましたが、腸炎の時には腸粘膜が回復するためには早く栄養を届けることが必要であることが近年分かってきました。

無理やり食べさせる必要はありませんが、下痢はあるけれど食べられるという場合には制限せずにしっかり食事を取るようにしましょう。

また、腸の粘膜は水分だけを吸収することが苦手で、実は塩分とセットでしか吸収ができません。

このため、胃腸炎の際の水分の補給は水やお茶よりも、塩分のしっかり入った水分が適切です。

市販のスポーツドリンクは想像よりかなり塩分が薄く、理想はドラッグストアなどにあるOS-1ですが、結構まずいので、好みによってはうどんのおつゆなどでもよいでしょう。

さらに、ミルクを薄めるという指導も以前はしていましたが、塩分が薄まったミルクを飲ませることは腸での水分の吸収を悪くしてさらに下痢を長引かせるため、最近のガイドラインでもミルクは薄めずに与えるようにと指導されています。

最後に、下痢止めは、悪いものを出すのを邪魔するという観点から、今では禁忌、つまり使うべきではない薬に位置付けられています。

一方で、整腸剤は悪いものを出す時に一緒に出て行ってしまう善玉菌の補充を目的として投与され、下痢の期間を少し短くするというはっきりしたデータがあるため、嘔吐が止まったらしっかり内服するのがよいでしょう。


ウイルス性胃腸炎その2 対策①

では対策をみていきましょう。

嘔吐があるかどうかで胃腸炎のしんどさは変わってきます。

この嘔吐のphaseをやり過ごすのが最初の関門です。

①嘔吐のphaseの考え方

一旦嘔吐をした後、意外にすっきりして水分をほしがる子どもは多く、我々親は飲んでくれると脱水にならなくて済む、とうれしくなってついつい一気にたくさんの水分を与えがちです。

しかしこの時間帯は腸の動きが極端に悪くなっており、いつもは何てことなく下に送っていける程度の量の水分すら処理できずに、嘔吐として再び上から跳ね返されてしまいます。

むやみに水分を制限することはよくありませんが、うがいぐらいで留めておくか、飲むとしても一口単位で数分あけてというのを基本に考えましょう。

6~12時間で徐々に腸は動きを取り戻しはじめ(本調子とは程遠いですが・・・)、嘔吐は自然に収まってくることが多いとはいうものの、少量ずつ水分をとっても半日を越えて嘔吐が続く場合や、水分を欲しがらなくなってきた場合は点滴が必要な可能性が高くなるので受診しましょう。

点滴はウイルスをやっつける力はありませんが、口から飲めない水分を補充して、マーライオンの時間帯を越える時間稼ぎをすることができます。

よく水分は取るが嘔吐してしまうという場合の多くは飲ませ方に問題があり、しなくていい嘔吐を増やしてしまっているパターンで、大概点滴は不要です。

とにかく少量ずつ時間をあけてという基本に立ち戻りましょう(1回は一口、数分あけて)。一口というのは、ペットボトルのふた1杯分と考えるとよいでしょう。

吐き気止めは胃腸炎の時にそれほど有効というデータは実は乏しいのですが、仮に使うとしても嘔吐が強いマーライオンの時間帯ではなく、吐き気がましになり、さあ今から本格的に水分を取るぞ、という時に使うのがよいでしょう(マーライオンの時間帯に使っても無意味です)。