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前後関係と因果関係

タイトルの二つはよく日常生活でも混同されるものです。

「神社にお参りに行ってから宝くじを買ったら当たった!」

と言う時、「お参りに行った」というのと「宝くじが当たった」というのは、前後関係があるに過ぎず、因果関係がある訳ではない、というのは皆さんお分かりのことと思います。

一方でがんばってジョギングをして、食事制限をして節制に努めた結果体重が減ったという時は、「毎日の努力と体重減少に因果関係がある」と言えるでしょう。

 

これらは非常に簡単な事例ですが、医学の世界では結構判定が難しいこともあります。

「Aという薬を飲んだら血圧が下がった」と言う時に、本当にAという薬に効果があるのかは、一人の例を見ても判断はできません。

血圧のことを意識すると、自然と減塩に努めたり、運動を増やしたりする人もいるので、薬を飲んでいないのに血圧が下がることもあります。

また、薬をしっかり飲んだ人の中にも暴飲暴食で逆に血圧が上がる人もいるでしょう。

したがって、薬が有効かどうかを見るためには、Aという薬を飲んだ1万人と、飲まなかった1万人というふうに大きい人数で比べる必要があるのです。

最終的には二つのグループのtotalを比較して、差がはっきりある場合に初めてAという薬は有効な薬であるという結論になります。

個々のまれな例を取り上げて効果がある、ないというのは薬の真価を問う際にはナンセンスです。

しかしこういった非常に少数の成功例を看板に、本当は効果のない商品を売るというのは、古来からある手口でもあります。

「通販の×××という薬でガンが治った」 「○○○という器具を使うとたるんだお腹とおさらばできた」

「△△△を飲むとアトピー性皮膚炎が嘘のようにきれいになった」

(個人の感想です。効果には個人差があります。)

というCMでは、ごく一部のたまたまうまくいった例を故意にpick upしている可能性がありますので、その真偽の程には注意が必要です(実際効果があるものも少数含まれているでしょうが)。

小児科領域でよく経験するのは、「抗生剤をもらうといつもすぐ熱が下がる⇒だから下さい」、「解熱剤を使って熱性痙攣を起こしたことがある⇒だから解熱剤は使わない」、「ワクチン同時接種の1か月後に死亡した子どものニュースを見た⇒だからワクチンは打たない」。「以前の風邪の時、点滴してもらうと早く治った気がする⇒だから水分はよく取れているけど点滴して欲しい」などもただの前後関係を因果関係と見誤っている例です。

特にワクチン反対派の方でよくこの二つの関係の扱いを誤っていることが多いように思います。

うっかりだまされがちな前後関係の中から真の因果関係を見つけていくことは医学の一つの目標でもあるのです。


解熱剤の上手な使い方その5

まとめです。

①熱をがっつり下げる程の強力なクーリングは単独で行うと悪寒の原因となり有害である。

②ほどほどにひんやりすることで本人が快適になるようなクーリングは有用である。

(おでこに貼る保冷剤は解熱効果は全くありませんが、気持ちよくなるなら是非どうぞ。本人が嫌がる場合、やるメリットはありませんので外しましょう。)

③小児で使用される解熱剤は上手に使えば極めて安全である。

(もちろん元気ならばいくら高熱でも使用は不要です。高熱自体は脳に何らかの長期的な影響を与えることはありません。解熱剤の使用は快適になるためであり、平熱にすることでもなく、脳を守ることでもありません。使ってしばらく楽そうにしていれば使った甲斐ありです。)

④解熱剤で高熱から平熱までガクンと下がってしまう場合や、効果が切れて熱が再上昇する際にかなりしんどそうな時は、減量を考慮するべきである。

(ただしこの熱の再上昇に伴い熱性痙攣の率が上昇する事実はないことが、大規模な複数の研究で示されています。減量するのは熱性痙攣を起こしにくくすることが目的ではなく、より快適に過ごすためです。解熱剤使用後に万が一熱性痙攣が起こっても、それは解熱剤のせいではありません)

 

☆おまけ ちなみにいわゆる熱中症は、設定温度が36.5度、実際体温が40度という状態ですから、治療は解熱剤ではなく、強力なクーリング単独となります。インフルエンザの時と同じく実際体温は40度ですが、起こっている病態生理は全く異なっており、「発熱」と区別して、熱中症のような高熱のことを「高体温」と言います。高体温の治療には解熱剤は不適切であり無効ですから、救急外来などで、熱中症だろうと言われて解熱剤が処方されることはありません。

 

このように、高熱は常に設定温度と実際温度の二つを意識しながら理解することが重要ですが、なぜか日本ではクーリングはどれだけ強力にやっても副作用がないという誤解が、医療関係者の中ですら根強いように感じます。

「病気の時のしんどい高熱は、解熱剤で適度に下げて快適に時間を稼ぐ」という原則を覚えておきましょう。

アセトアミノフェン(カロナール・アンヒバ座薬・アルピニ―座薬など)という有難い薬をこの世に誕生させてくれた先駆者達に感謝を。


解熱剤の上手な使い方その4

設定温度40度、実際温度40度の状態になると一旦落ち着くとは言え、体温40度の状態が続くとさすがに体もへばってきます。

しんどい時は一時的に実際温度を下げる事も上手な選択肢となります。

実際温度を下げる手段はクーリングと解熱剤の二通りです。

ここでクーリングを強力に行うことを想像してみましょう。

太い血管が通っている首筋やそけい部(両足の付け根、男の子ならばおちんちんの横あたり)を氷を使ってガンガン冷やすとどうなるでしょうか。

仮に実際温度が37度になったとしても、設定温度は依然40度のままですから、エアコンはフル稼働、40度に戻すために強烈な悪寒が襲ってきます。

先ほどお話ししたようにこの悪寒は大量のカロリーを消費するので、非常に有害と言えます。

 

次に、解熱剤はどのように作用するのでしょうか。

解熱剤は、実は実際温度には直接は関与せず、設定温度を一時的に下げる役割を担っています。

例えば設定温度を38度に変更するところまでが解熱剤の役割で、後は汗をかいて実際温度を38度に向かわせるのは体が勝手にやってくれる訳です。

そして数時間たって効果が切れると再び設定温度は40度に戻り、それに遅れることしばらくして体が実際温度を40度まで引き戻します。

解熱剤を使った後、よく体温を測ってあまり下がっていないことを心配される親御さんがおられますが、解熱剤でむしろ40度⇒平熱まで下がってしまった時は効果が切れた時に過剰なクーリングと同様、悪寒やしんどさが激しく襲ってきますのでむしろ使用量を減らすことを考慮するべきです。

解熱剤は熱がちょっと下がって少しの間、ちょっと楽というマイルドな量をわざと使用しているのです。


解熱剤の上手な使い方その3

今日は熱とのお付き合いの時に解熱剤とともによく話題にのぼるクーリング(体を冷やす処置)についてお話しいたします。

前述したように、小児科で使用される解熱剤は名前や剤形(内服や座薬)の違いはあれど全て同一の成分であり、極めて安全に使用することができます。

しかし、日本では伝統的にできるだけ解熱剤を使わないようにという指導がしばしばなされ(最近は減ってきましたが)、一方で、体を冷やすクーリングは副作用がないかのように誤解され、是非やってあげましょう、などという風潮があるように感じます。

ここではっきり明記しておきますが、クーリングは実は単独で本格的に熱を下げるレベルまで強力に行った場合、かなり有害である処置であり危険です。

 

発熱を語る時、まず最初に知っておかなければならない知識として、設定温度と実際温度があります。

設定温度は脳の視床下部というところでコントロールされており、普段は36.5度程度に合わせてあります。

普通の状態、つまり実際体温が設定温度と同じく36.5度の時、体はとても快適な状態です(エアコンで言うと、一旦小休止している状態です)。

炎天下で活動をして、実際温度が上昇しようとしても、汗をかいたり、血管を拡張したりして体は全力でこの設定温度になるように努力します。(当然設定温度は36.5度のままです)

逆に寒いところに行って実際温度が低下しようとした時も同様に、体をがたがた震わせたり血管を収縮させることで、36.5度という設定温度から外れないように力を尽くします。

実際温度が設定温度から外れようとすると、エアコンがフルで稼働するように体は設定温度に戻すため必死にがんばらなくてはなりません(特にがたがたという激しい悪寒は大量のカロリーを消費します)。

 

さて、いざインフルエンザなどの急激に発症する発熱疾患にかかった時、まず起こることは脳による設定温度の変更です(例えば設定温度を一気に40度に変更する)。

病気の時の発熱は体がわざと上げようと思って上げているのですが、これは前述したとおり、熱が高い方が免疫が高まり、敵の増殖を抑えるという合理的な目的のためです。

病気の初期、設定温度は40度で、実際温度は36.5度という時、強烈な寒気や顔色不良、ぐったり感が襲ってきます。

それもそのはず、設定温度まで急いで実際温度を上げるために体はもうがむしゃらにがんばっている状態ですから(今一度エアコンフル稼働を想像してください)。

そしてしばらくすると、寒気は収まり、顔は赤らみ、少ししんどさもむしろましになる時間がやってきます。

これは、実際温度が設定温度と同じ40度に追いついてエアコンが一旦小休止に入った状態です。