日別アーカイブ: 2018年10月25日

アドラーの罠

森田内科・胃腸内科のミッション
地域医療に貢献して、人を幸せにする。)
人:患者さん、チームの仲間、大切な家族と自分自身

高槻市城南町にある、胃カメラ・大腸カメラから一般内科まで幅広い診療を行うクリニック、森田内科・胃腸内科のブログです。
このブログでは当院に関心あるすべての方に、当院とここで働くスタッフの“今”を知って頂くために、日々思うことを医療にこだわらず“そこはかとなく”綴ったものです。

タイトル:アドラーの罠
9月に入り、すっかり秋めきました。秋と言えば読書!涼しく、夜も長くなり、熟考にはもってこいの季節です。そこで今回、アドラー心理学の入門書「嫌われる勇気」、「幸せになる勇気」から、表彰の是非について考えてみました。
 アドラーは、フロイト、ユングと並ぶ心理学の3大巨頭の一人で、「現在は過去によって規定される」とするフロイトの原因論に対して、「現在の問題は自己選択の結果」とする目的論を提唱し、自分をどう解釈するかで「今この瞬間から人生を変えることができる。」と説き、「人生が困難なのではない。あなたが人生を困難にしているのだ。人生は、きわめてシンプルである。」と述べ、聴衆を魅了しました。没後約80年になりますが、時代を半世紀先取りしたとも言われるその考えは、様々な問題を抱える現在の日本において注目を集めています。一方で、その考えは難解で理想論に過ぎないとする声もあります。その代表的な考えが「共同体感覚」と「承認欲求の否定」です。「承認欲求の否定」とは「他者から認められ、褒められたいという思いは良くない」ということ、「共同体感覚」とは「他者を仲間とみなし、そこに自分の居場所があると感じられる」ことです。

 アドラー心理学の核となる、この「共同体感覚」を得るために、承認欲求から解放される必要があるとアドラーは述べています。そして、「人を褒めてはいけない」、「褒められたいから行動するのではなく、仲間の役に立ち、そこから生まれる貢献感に満足する」ことが重要であると、説いています。この考えからは、成果を上げた人が褒美を得る「表彰活動」は良くないことになります。そうでしょうか?
  「表彰」を仲間からの称賛と捉えると、「表彰」は正に承認欲求そのものとなり、悪ということになります。また、仲間から「表彰者を選ぶ」という行為に抵抗を感じる“優しい人”もいるでしょう。一方、アドラーは他者への「応援(勇気づけ)」や「感謝」を推奨しています。また、アメリカの心理学者マズローは自説「欲求の5段階」の中で、「承認欲求」の先に最終段階として「自己超越・自己実現の欲求」があるとしています。そして、この最終段階に到達している人は人口の僅か2%であるとも述べています。
 私見ですが、アドラーの「共同体感覚」とアドラーの「自己超越の欲求」は非常に近いものがあり、承認欲求がある程度満たされた次のステップに「共同体感覚・自己超越」があると考えています。「表彰活動」の投票を仲間への勇気づけ・感謝の場と考え、受賞は仲間への貢献に対する感謝の印と考えれば、「表彰活動」は意義あるものになるのではないでしょうか?
 今年の秋は、人生を困難にしている自我について考え直し、人生を極めてシンプルにしてみませんか?
マズロー欲求の5段階:
 人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したもの。欲求の5段階とは1.生理的欲求、2.安全の欲求、3.所属と愛の欲求、4.承認の欲求、5.自己実現の欲求であり、晩年、自己超越の結果として自己実現が伴うとした。