京都新聞連載 「気付いてほしい男性不妊」 全8回一挙公開 第4回

京都新聞5月21日付朝刊

④ 「受精の神秘」 

正常の精液を顕微鏡でのぞいてみると、多数の精子が動いているのが確認できます。しかし、よく見ると動いていない精子も数多く存在することが分かります。また、頭が二個あったり、しっぽが丸まっていたり、いわゆる「奇形精子」も散見されます。精子の製造工場では、なるべく多くの精子を作るためには粗悪品がある程度できても仕方がない、という作戦をとっているようです。男性不妊の患者さんの場合、製造数が少なかったり、粗悪品が多すぎたりします。

卵子と精子が出会い、受精が成立します。では、正常精子が一個だけあれば自然に受精できるのではないか、とよく聞かれるのですが、実際にはそうはいきません。

卵子は分厚い膜に覆われており、簡単には侵入できない構造になっています。精子の頭部には少量の酵素が存在し、その酵素で少しずつ膜を溶かします。例えれば、固く守られた城を兵士が攻めているようなものです。一人で立ち向かったところで城は落ちないのです。

世界保健機関(WHO)の基準では精子濃度が1500万/㍉㍑より低い場合を「乏精子症」と呼んでいます。1㍉㍑に1500万個というと非常に多いと思われますが、精子濃度7000万/㍉㍑前後が平均的な精液所見ですので、1500万/㍉㍑はかなり少ないと言えます。精子にとってそれほど受精は難しいのです。

精子運動率は40%が下限値です。これより低い場合を「精子無力症」と呼びます。運動精子が多いほうが受精には有利です。また、精子運動率が低いと精子のDNA損傷の割合が高いということもわかっています。

奇形精子が受精することはないのですか、ともよく聞かれます。城の中に入れるのは一人だけですから、兵士同士も先陣争いになります。精子間にも競争の原理が働き、能力の低いものは淘汰されるので奇形精子が受精することは少ないと考えられています。

こうして奇跡の受精を遂げた卵子と精子が、われわれの起源なのです。