月別アーカイブ: 2013年10月

京都新聞連載 「気付いてほしい男性不妊」 全8回一挙公開 第8回

京都新聞6月18日付朝刊

⑧「メッセージ」

連載は今回で最終回です。これから結婚されるお二人と現在子づくりを考えているご夫婦にメッセージを贈りたいと思います。

まず、結婚されるお二人へ。

結婚後の生活について二人で話し合いをされると思います。住居のこと、仕事のこと、お金のことなど、いろいろありますね。その中で、「将来の家族計画」についても話し合っていただきたいと思います。

いつ子づくりを始めるのか。何人子どもが欲しいのか。一人目はいつぐらい、二人目はいつぐらい、三人目・四人目はどうするか。結婚したらすぐに話し合って下さい。

「なるようになるだろう」「仕事が一段落してから考えよう」などと受け身に考えていて、手遅れになるケースがあまりに多いからです。昨今の不妊治療の技術は向上しているとはいえ、「年齢」だけはどうにもなりません。後悔先に立たず。前向きに子づくり計画を立てて下さい。

次に、子づくりを考えているご夫婦に。

1年間、子どもができないのであれば、ご夫婦とも受診をして下さい。妻が通院しているから、妻に原因があるから、と夫が受診しない例も多いですが、夫婦ともに原因となることが24%もあります。(世界保健機関調べ)。夫も受診をしてください。

不妊治療にちゅうちょしている方も多いです。このままいくと最終的に子どもができない可能性もあるけれども、それでもよいのか、と自問してみて下さい。答えは自ずと出てくるでしょう。

不妊治療は大変なものです。何より、うまくいかなかった時のショックが大きい。時には休憩が必要なこともあります。でも、また頑張ってほしいです。

現在の技術をもってしても、最終的にあきらめざるを得ないケースも多いのです。もし自分がそうなったときに、後悔するだろうか、と想像してみて下さい。十分に頑張った人は後悔しないと思います。

これで終わりです。一人でも多くの命が育まれるよう、祈念しております。

 

〈これから結婚や子づくりを考えているカップルへ…〉
現在の医療技術をもってしても、子どもができない可能性も大いにあることを肝に銘じて
特に年齢の問題は解決できない。失った時間は取り戻せない
後悔しないよう、結婚したらすぐに家族計画を立てる
不妊治療も積極的に考える

京都新聞連載 「気付いてほしい男性不妊」 全8回一挙公開 第7回

京都新聞6月11日付朝刊

⑦「子づくりED」

女性にとって子どもは「つくる」ものであっても、男性にとって子供は「できる」ものであります。女性にとって、子どもを望むのは本能的なことなのかもしれませんが、男性にとってはそうではないようです。「母性」は子どもができる前からありますが、「父性」は子どもができてから育まれます。

つまり、男性と女性ではそもそも子づくりに対する姿勢に温度差があることが多いのです。これが、時に夫婦の問題に発展することがあります。

一例をあげますと、不妊治療の一つに「タイミング療法」というものがあります。妻の排卵日のタイミングに合わせて性交することで自然妊娠を狙う作戦です。お金もかからず有効性も高いので、不妊治療で第一に勧められる方法です。

しかしながら、これが夫にとって重荷になることがあります。妻は思い入れを持って排卵日に待ち構えていても、夫はそんなことはつゆ知らず、夜遅くに帰ってきます。今日は排卵日だからと言われ、無理に性交しようとしますがうまくいきません。妻の失望、落胆は大きく、夫につらく当たります。翌月、妻は今度こそと思っていても、夫は先月のこともある上に妻の期待も強く、プレッシャーからなかなか思うようにいかず、さらに悪循環へと陥ります。

この「タイミング療法」を契機とした男性の性機能障害(ED)の患者が急増しています。そもそも「タイミング療法」自体が男性にとって無理なのではないか、とすら思えてきます。「妻が嫌だ」「セックスはしたくない」「もう子どもなんていらない」―。診察室ではそんなことを言う夫も多いのです。それでもまだ、妻は子どもをつくろうと必死になっています。

不妊治療に非協力的な夫も困りますが、あまりに熱心になりすぎて夫が見えなくなっている妻も困ります。これでは赤ちゃんはなかなかやってきてくれません。子づくりは、夫婦仲がよいことが大前提です。夫は妻の気持ちを支えないといけませんが、妻にも夫の気持ちを理解してもらいたいです。

 

「タイミング療法」による性機能障害(EDの対処法

  • 勃起補助薬を使用してみる。
  • 人工授精をする。子づくりのための性交をやめる。子どもは人工受精で、と割り切る。そうすれば、子づくりのプレッシャーがなくなる。

京都新聞連載 「気付いてほしい男性不妊」 全8回一挙公開 第6回

京都新聞6月4日付朝刊

⑥「無精子症」

精液検査で精子が一つも見当たらない場合、「無精子症」といいます。無精子症は原因により二つのパターンに大別されます。

まず、精巣の機能は正常だが、精子の通り道のどこかで通過障害が生じ、精液中に精子が出ない場合を「閉塞性無精子症」といいます。

感染症や手術の既往など、閉塞の原因が明らかな場合もありますが、原因不明のこともあります。精巣は正常の働きを保っていますので、手術により精巣に小さな穴をあけ、中身を少量採取することで容易に精子を得ることができます。こうして得られた精子は顕微授精に使用可能であり、その成功率も高いです。

二つ目は、精巣の精子を作る機能が低下しているため、精液中に精子がみられない場合を「非閉塞性無精子症」といいます。精巣の機能低下の原因はさまざまで、遺伝子の異常など先天的な要因の場合もありますが、小児期の抗がん剤治療の影響など、後天的な要因の場合もあります。かつては治療不可能と考えられてきましたが、現在では手術により精子の採取が可能になっています。

非閉塞性無精子症の精巣は、ほとんどの部分がダメになっていますが、部分的に機能が残存している場合があります。つまり、射出精液にあふれ出るほど多くの精子を作ってはいないので無精子症となりますが、生き残っている一部分では、ほそぼそと精子を作り続けている場合があるのです。この部分を顕微鏡にて探し出し、少量の精子を採取する方法が、「顕微鏡下精巣精子採取術」といわれる手術です。こうして得られた精子を顕微授精に使用し、今までに多くの赤ちゃんが生まれています。

この手術が日本にやってきて14年がたちますが、どこでも受けられる手術とは言い難い状況です。非閉塞性無精子症でも赤ちゃんができる、ということすら知らない医師もいて、ときに誤った情報を伝えてしまうこともあるようです。患者さんには正しい知識を元に、正しい選択をしてほしいと思います。


京都新聞連載 「気付いてほしい男性不妊」 全8回一挙公開 第5回

京都新聞5月28日付朝刊

⑤「精索静脈瘤」 

 精液検査の結果、精子濃度が1500万/㍉㍑未満になると「乏精子症」、500万/㍉㍑未満となると「高度乏精子症」と呼びます。また、運動率が40%未満となると「精子無力症」と呼びます。いずれの場合も、何らかのダメージを受けて精液のクオリティーが悪くなった状態と考えられます。

 そのような状態を引き起こす疾患の一つに「精索静脈瘤」があります。

 精巣は精索という血管の束にぶら下がっています。血液は精索の中の静脈を通って心臓へと戻るのですが、逆流してしまう人がいます。すると精索の静脈が膨れ上がって瘤(こぶ)のようになります。これが精索静脈瘤です。

 精索静脈瘤がなぜ精巣に悪影響を及ぼすのか、完全には解明されていません。精巣の温度が高くなる、老廃物がたまる、などの説が有力です。

まれに違和感や痛みを訴える人もいますが、ほとんどは無症状ですので、よほどひどい場合を除いて自分で気付くことはありません。精索静脈瘤の有無は、まず視診と触診で確認します。超音波検査により逆流を確認する方法もあります。

精索静脈瘤はその程度によって、軽度から重症まで分類されます。かつては軽症例も積極的に治療していましたが、治療後の精液所見の改善が限定的だったことから、軽症例は治療を行わなくなりました。

治療は手術療法が一般的です。手術用の顕微鏡を使用した方法では合併症の可能性が低く、手術による傷も小さく、痛みが少ないので、日帰り手術が可能となっています。私は重症例に限って手術をお勧めしていますが、8割程度の方に術後の精液所見の改善が見られています。

比較的簡単に治療ができて、その効果も高い精索静脈瘤ですが、残念ながら見落とされていることも多いようです。妻だけが受診していると、夫の精索静脈瘤はどうしても見過ごされてしまいます。精液のクオリティーが悪いと言われたら、まずは夫が精索静脈瘤をチェックするべきなのです。