妊婦さんへのインフルエンザワクチン

 今年もインフルエンザの季節になりました。
この1週間でインフルエンザと診断される件数が7~10倍に増加した小児科医院もあるとか。
当然この時期に妊娠をしている妊婦さんも居られることから当院でも「手洗い・うがい・加湿」の指導は欠かすことができません。加えて妊娠中は体内に入った異物を排除する働き-免疫力、が低下します。

 例えば、お母さんと血液型の異なるベビーちゃんが何の問題も無くお母さんの子宮に居られて子宮動脈~胎盤を通して栄養や酸素を貰うためには母体の免疫力がある程度寛容な状態になることが必要となります。免疫力が低下することで妊娠中のお母さんは感染に弱くなり、結果風邪をひきやすくなったり膀胱炎を起こしやすくなります。インフルエンザ感染もその一つ。妊娠中は一層予防することが必要となります。

 一昨年から、薬メーカーがようやく「触媒成分の入っていない」インフルエンザワクチンを作製、末端の診療所でも妊婦さんに投与することが出来る様になりました。しかしながらこの「妊婦さん用」ワクチン、肝心の主成分は2種類のA型と1種類のB型株のウィルスを分解・不活化した成分、と一般のワクチンと何ら変わるところはありません。その一般用のワクチンについて、添付文書を確認してみました。
 曰く「妊娠または妊娠している可能性のある婦人には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ」接種可能、と。
役所の書類あるいは一部の政治家の答弁のごとく廻りくどい説明ですが、製造元のこの言い回し、安全性で言えばランクEと位置され催奇形性の無い薬剤に添付される文体なのです。

 さらに世界で最も権威のある医学誌の一つである New England Journal of Medicineには4年前に「妊娠中インフルエンザワクチンの接種を受けた妊婦さんが出産した赤ちゃんは、ワクチンを受けていない妊婦さんから産まれた赤ちゃんに比べると、インフルエンザに罹りにくい」なる論文が発表されており、妊婦さんへのワクチンの接種は妊婦さん本人とその赤ちゃんへのインフルエンザ流行を防ぎ得る一助となるのではないでしょうか。当然、当院では希望される妊婦さんとその家族に、インフルエンザ予防接種を実施しています。

 こういった妊婦への安全性や胎児への有用性を知ってか知らずか、産婦人科医院の中にはワクチン接種を希望して訪ねても「妊婦は帰れ!」と言ってみたり、あるいは妊娠してると患者には予防接種の料金を4倍に上げて請求したりする医院が存在するのを聞くと、もはや「?」を通り越してその不勉強さに悲しささえ覚えます。


医者の不養生について

先日、量販薬局マ☆モトキ★シを覗いた時のこと。
店頭にはその日の客寄せにバーゲン価格の育毛剤が山高く積まれていました。
別の用事があったので入店したところ、レジに居る店員を見て吹き出してしまいました。
何故なら私が目にしたレジ係、まったくのハゲ頭っだったのです!
(彼はオシャレなスキンヘッドではなかったと思う。)
これほど説得力の無い商品も有りはしない、と別の物を買ったらすぐに店を出ました。

この「ハゲ頭の毛生え薬売り」に似た類として、近隣に結婚→懐妊→出産の順序を間違えた、
所謂「出来ちゃった結婚」を果たしている産婦人科医が居ます。
これも説得力の無さの典型ではないでしょうか。
その医者たち、患者に受胎調節や避妊法をどのように指導しているのか、思わず「?」となってしまいます。

独特の栄養学を確立した先達に、
三石巌先生(東京大学理学部)、川島四郎先生(京都大学農学部)が挙げられます。
外来でも患者さんの栄養指導や貧血の改善に両先生の学説を使用させていただくことがあります。
両者とも90才を越える長寿を満喫され、それが先生方の学説の説得力となっています。
然るに医学者はどうかと言うと、嫌煙家であるのも手伝って「タバコ病」なる概念を提案しながら
平均寿命の前にそのタバコ病で逝った高名な疫学者が存在し、
そのタバコ病の概念が説得力の無いもの、と自らの寿命で証明しています。
医者の私が言うのも変ですが、生命の維持に必ずしも医学が万能である、とは言えないと実感します。


妊娠中の食事と栄養について

開業以来十余年、想い返れば365日朝昼晩の3食を自家製で提供してきました。
本当なら、食事の時間も一方的に決めることにもためらいがありましたが、
入院患者さん、健康な産後の患者さんが大半で、やはり温かいものは温かいまま、
冷たいものはつめたい状態で食べていただきたい、と云う理由から、
食事の時間は、多少の融通は聞くことができるものの、ほぼ決まった時刻に提供しています。

1日3食、365日、欠かすことなく食事の提供に携わっていただき
通算1万5千食以上を提供することができました。
病棟では当院の特徴として「365日24時間、産科麻酔」なる提案を行っているものの、
これは毎日ではありません。
そんな意味でも、やはり厨房の職員には頭の下がる思いで毎回感謝して食事をいただいています。

厨房では栄養士2名、調理師1名、調理職員2名でローテーションを行っていますが、
月1、2回季節に沿った、あるいは外部からのリクエストをメニューに容れるための
「献立会議」を開く様にしています。
これによりup-to-dateな、あるいは現在入院中の患者さんの好き嫌いを容れた献立を立てていますが、
それに加えて以前に医科大学で習った生化学、それから独自に学習した臨床栄養学、
さらには病院で接した患者の症状から考えられる病態を併せた話題が多く挙がります。
例えば、手術後の患者さんに食事を出す場合は腸の蠕動を促す
ビタミン(B5-パントテン酸)を多く含んだメニューを考えたり、
悪阻の妊婦さんの栄養状態から脚気やKorsakoff症候群を引き起こす可能性
(実際、死亡した例も報告されている)についての話題がでたり、
といった具合にデイスカッションが行われています。

大学病院で救急外来を担当した経験からも、今日の産婦人科外来にも有効な多くのことを学びました。
ビタミンB1(thyamine)は、アルコール脱水素酵素の補酵素であるため、
アルコールの代謝に際して大量に消費されることが知られていますが、
これにより多発性の末梢神経障害を起こし、これが進めば脳での伝導障害の原因となって
幻覚(visual-主に視覚に障害を起こす)が現われて、アル中の病態ができあがります。

一方、妊娠初期の悪阻は夏バテに似た状態となりますが、
こちらもビタミンB1が不足した状態、と栄養学的に定義することができます。
夏バテについては、気温が10℃上がればビタミンB1の消費量は2.5倍に増加し
アル中の初期症状に近づくことも考えられます。
気温の高い地域でビタミンB1を多く含んだ食事、
例えばスペインのガスパッチョやメキシコのアボカド等は、きわめて合目的であると考えられます。
妊婦さんについて言うと、初期の悪阻はだいたい受精が行われた日から70日の間に起こるとされており、
その期間、赤ちゃんも1.5〜6cm程度に成長します。
そんなに多くの栄養素は必要とはしないものの、母体が水分も摂取できない状態になれば、
血液の濃縮がおこり、そのため子宮も含んで血液の循環障害をも起こすと判断されれば、
水分とビタミンB1の投与を第一に治療法を選択します。
数年前他院で、妊娠初期の患者さんに水溶性ビタミンの投与を躊躇ったために、
脚気様症状で母体が死亡したという悲しい報告がありました。
これも悪阻を栄養学的に判断できれば防げた例であると考えます。

 

この稿を書いている今日、大学入試センター試験が行われている、とのニュースが流れていました。
思えば、私も約30年前には現役の受験生として
センター試験(当時は共通一次試験と呼ばれていた)を受験、
懐かしい思いで受験生の健闘を願っています。

さて今回は正しい、あるいは効率的な学習法について。
私が子供の頃には「アタマを良くする栄養素」としてビタミンB2(rivoflavin)が推奨され、
小中学校では牛乳の摂取が勧められました。
余談になりますが、当時の学校給食で配られる牛乳はとても不味く、
積極的に飲みたいとは決して思えませんでした。

確かにビタミンB2は脳においては、海馬(記憶の中枢)〜視床〜乳頭体での伝達に
必須となる栄養素ですが、その構造は水溶性ビタミンであるため
飲み過ぎても効き過ぎることはありません。

大脳へ血液が到達する際、血液-脳関門と呼ばれる機能的なフィルターが存在し、
このため脳ではブドウ糖のみがエネルギーとして使われます。
逆に血中のブドウ糖が少ない状態(低血糖)では肝心な脳がエネルギー不足により、
十分に働くことができなくなります。
朝ゴハン抜きは良い受験脳を維持するには、全く非効率であると判断します。
せめて起床から午前中、ランチまでの数時間は血糖値を十分に保って
効率よく勉強をすることをお勧めします。


お産の途中で麻酔分娩に切り替えることは可能?

365日24時間、麻酔分娩を提供できる当院では勿論可能です

計画麻酔分娩と自然な陣痛発来に対応した麻酔分娩以外にも、
分娩第1期途中まで自然分娩で頑張ったけど麻酔分娩に変更されるママさんも多くおられます

母体の健康状態と胎児の進行状況を考慮して麻酔を準備します

最短30分以内に麻酔を用意することができますが、
ママさんが最後に食事をした時刻やその時の内診所見から、少し待って用意をすることがあります

コラム1で話した「メールしながら出産」のママさんも深夜3時に麻酔分娩に変更され、
無事ニッコリ出産されました


麻酔分娩でも出産の実感はありますか?

昔の日本では、痛い長い陣痛を耐えて乗り越えてはじめて真の母親となり得るといった風習がありました

今でも陣痛のない出産は片手落ち、と無痛分娩を頭から否定される助産師さんが少数ながら居られるのは残念なことです

今日では麻酔もよくなり、少しは陣痛を感じてみたい、子宮口全開からは自分でいきんでみたい、
最後まで全く痛みを感じたくない、など妊婦さんのリクエストに応じることは可能です

また硬膜外麻酔の場合、お母さんの意識はしっかりしているので
赤ちゃんの産声を聴き、だっこしていただくことができます

当院では15年前の開業から多くのママさんに麻酔分娩を提供してきました

平成8年7月、当院で最初に麻酔分娩で産まれた S.Nちゃんは来年高校生になります

この間、多くの赤ちゃんが麻酔分娩で産まれましたが、
その後のフォローで母性が欠落した(maternal deprivation syundrome)例は、聞いたことがありません


麻酔薬は赤ちゃんに影響は無いの?

以前に無痛分娩に使用されていたガス吸入や静脈内注射による全身麻酔では、
麻酔薬が胎盤を通って赤ちゃんにも麻酔がかかってしまい、
所謂「スリーピングベビー」として産まれてくることが多々ありました

今日の硬膜外麻酔を用いた麻酔分娩では、局所麻酔薬は胎盤を通過することはないので、このような心配はありません

実際、帝王切開分娩にも硬膜外麻酔が用いられることからも、胎児への影響は極めて少ないことの証左です


無痛分娩の麻酔は本当に安全?

(局所)麻酔薬と麻薬、日本語での言葉が似ているので心配されることもあるかと

世間では「麻薬」と言う言葉には、中毒、依存症、エイズ、といった悪い印象が多くふくまれている様です

一方、硬膜外麻酔で使われる局所麻酔薬は上記「麻薬」とは全く異なったもので、依存症には無縁です

硬膜外麻酔の副作用に血圧低下があげられますが、そのために必ず点滴を同時に行います

ごく稀に、お母さんに頭痛、嘔気、めまいを見ることがありますが、赤ちゃんに影響することは無いと言われています

それどころか、硬膜外麻酔を用いた麻酔分娩でお産をすると母乳の分泌が良くなる、という報告もあります


麻酔分娩~硬膜外麻酔を中心に

妊娠37週、分娩予定日の3週間前になってから出産の日を選んで行うone計画麻酔分娩と、
two自然な陣痛の発来を待ってから行われる場合とがあります

当院では妊婦さんの希望に応じてonetwoどちらも選んでいただくことができます

それに加えて「最初は自然で出産するつもりだったけど、やっぱり麻酔分娩にします」との変更も24時間受け付けています

この三者を合わせると、当院では昨年は9割以上の妊婦さんが麻酔分娩で無事に出産されました

 

one計画麻酔分娩の場合-出産予定の当日朝9時に入院、母体のバイタルサイン、
胎児心拍モニタリングにより母児の健康状態を確認のうえ陣痛促進剤を微量から投与、
過強陣痛にならない様随時チェックしながら陣痛が始まるのを見極めて麻酔を用意します

 

two陣痛発来で入院した場合もoneの場合と同様、母児の健康状態を確認のうえ陣痛が激しくなる前に麻酔を用意します
ただし最終に食事をとった時刻を確認して場合によれば数時間麻酔の用意を待つこともあります

 

どちらの場合も分娩室に入室したらママは左横向きに臥床し硬膜外腔を見つけやすい様、
背中を丸くするポーズをつくってもらいます

カテーテルを挿入する背中の場所を消毒し、カテーテル挿入が痛くない様に
背中の肌表面に局所麻酔を注射します(歯を抜く時に使うのと同じ麻酔薬、浸潤麻酔という)

硬膜外腔を正確に探し、薬剤を注入するためのカテーテルを挿入・留置します

脊髄くも膜下腔等の間違った箇所にカテーテルが入っていないことを確認した上で、
陣痛が激しくなる頃(子宮口が4cm開いた頃が目安)麻酔薬を注入します

毎回緊張する作業ですが、
タテ割り医局講座制を堅持していた大学病院で
上記消毒~カテーテル挿入~麻酔薬注入、を自分の奥様に施行された
奈良医大麻酔科の先輩に改めて敬意を表します (院長、談)


コラム(1)

先日陣痛発来で入院されていた初産の妊婦さんのおはなしです

夕方6時から翌日深夜3時まで規則正しい陣痛を訴えるも、思う様に分娩は進みませんでした

この時間(合計9時間)ではまだまだ分娩第1期、子宮口全開にまでも至りません

繰り返しの陣痛にとうとう耐えられなくなり、途中から麻酔分娩を選ばれることになりました

幸い食をとっておられなかったので麻酔野の消毒で麻酔はスム-ズに準備できました


一方麻酔分娩を選択するまでよほどの葛藤と自分への励ましがあったのか、
麻酔の準備を始めたら今度はパニック状態になってしまったのです

スタッフによる上手な介助(私はこういった状況での活躍は遠慮なく褒めることにしています)によって、
消毒~カテーテル挿入~麻酔薬注入を無事に済ませ、
かつて分娩時にパニックになった自分の奥様に硬膜外麻酔を施行された大学病院の先輩麻酔科医に
私の姿をカブらせながら(自己満足です)麻酔の効果を待ちました


薬剤注入後15分くらい経過した時、
妊婦さんのさっきのパニックは何処にやら「アレもぅ痛くない、せんせ、神様みたい」と
入院前の最後の検診で見せた様な明るい表情になりました


妊婦さんの台詞に改めて自己満足しながら妊婦さんを見ていたら、
子宮口が全開したにもかかわらず携帯電話を手にしてEメ-ルを始めていました


おいおい、と、これにはスタッフ一同も大笑い、妊婦さんも交えて分娩も大笑いのうちに終了しました


分娩終了後のカンファレンスでスタッフからは
冗談にも「分娩室にDSやPSPも置いておいたらどぅですか?」との提案が出たほどでした


麻酔分娩のメリット・デメリット

【麻酔分娩のメリット】

up陣痛の痛みがやわらぎ痛みによるストレスから開放されることによって、精神的にリラックスして出産を迎えることができる

up麻酔薬を用いることにより、緊張による筋肉の収縮が軽減されて肉体的にもリラックスした出産ができる

up出産時、余計な体力をつかわないので産後の回復が早い

up妊娠高血圧症候群になった場合、またはもともと血圧が高かった妊婦さんには、麻酔によって血圧が下がるため、麻酔分娩が適していると考えられる

 

【麻酔分娩のデメリット】

down麻酔を使うことのできる分娩施設が限られている

down麻酔の手技料や薬剤料が別途かかる(今日現在分娩時の麻酔には保険が適用されていない)

downごく稀に、吐き気や頭痛を合併することがある