台風が過ぎて 9月26日

台風14号が和歌山に上陸し、そして北へと過ぎ去っていきました。これで今年日本にやってきた台風は5つとなりました。気象庁によりますと8月に4つの台風が日本に上陸したのは昭和37年以来とのことです。これは珍しい現象ということです。ところで五輪台風といって昭和35年8月23日には5つの台風が日本近辺に存在したという記録があります。図1にその日の天気図をお示ししました。少し分かり難い天気図ですが、きれいに台風が五輪の輪になって並んでいます。偶然、この日はローマ・オリンピック閉会式の日であったので、こう名付けられたとのことです。その時、私は小学校5年生であり必死にテレビ当時は白黒テレビ)でローマ・オリンピックの閉会式をみていた記憶があります。しかし五輪台風のほうは全く覚えがありません。

台風一過の町に出て六甲山を眺めますと台風後によく見られる晴れ渡った青空ではなく、どんよりとした雲が山にかかっていました(写真1。また公園には風で落下したモミジの葉が散乱していました。これも自然の力と考え、人間の弱さを感じました。

さて、日本タバコフリー学会(http://tobaccofree-adv.main.jp/)が主催する学術大会に行ってきました。少しばかりの縁があって同大会に参加する機会を得ました。なかなか興味深い講演もあり、また意義深い研究発表に接する機会となりました。残念ながらすべての大会内容をお伝えできませんが、先田功・先生の「乳癌とタバコ」という講演について報告をしたいと思います。

よく知られたように現在における日本人の死亡原因第1位は悪性新生物・癌です。図2に示したように癌の死亡はウナギのぼりに年ごとに増加している状況にあります。少し古い資料ですが、ハーバード大学(1996年発表)によれば癌による死亡原因の30%は喫煙であるとしています(図3)。つまり喫煙・タバコと癌には密接な関係があるというわけです。たしかにこれはインパクトのある研究報告です。では癌のなかでも乳癌とタバコについてはどのような評価がなされているのでしょうか?今回の先田先生の講演は、この点について解説するものでした。

まず「喫煙により乳癌発症リスクが増加することはほぼ確実」とお話しされました。これについては日本乳癌学会が2015年に発表した「乳癌診療ガイドライン疫学・診断編」(図4)の14ページから16ページにも掲載されています。本ガイドラインは信頼に足りうるもので実地医療現場にいる私などにとっては頼りになるものです。同ガイドラインには「喫煙により乳癌発症リスクが増加することはほぼ確実である」と記載されています。従来は喫煙と乳癌について否定的な関係を述べていた報告にも再検討を加え、さらに日本の厚生省研究班の疫学研究をも踏まえて、最終的には「喫煙による乳癌発症リスクの増加を認定」しています。その根拠としてタバコの中に含まれる発癌物質・芳香族アミンの代謝に関与するNAcetyltransferese 2遺伝子の多型との交互作用が推測されています。しかし、疫学的には両者に関係を認めるものの、その科学的根拠はまだ十分ではなく、今後の解明が待たれるとしています。たしかに疫学的には図5に示すように閉経前の女性では喫煙すると乳癌のリスクは3.9倍になることがわかっており、若い女性の禁煙は乳癌予防の点から必須とすべきことなのです。

このようにタバコは乳癌の危険因子であることは確認されました。では日本における乳癌の現状はどのようなものでしょうか?

まず乳癌になる人ですが、残念ながら乳癌の罹患率は年々上昇しています(図6)。他の癌と比較すると乳癌の上昇率はダントツといえる状況です。しかも女性の癌としては第1位を占めており(12人に1人)、年7万人以上の女性が乳癌と診断されているのが現状なのです。因みに7万人とは、今回建設される東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場の収容人数と同じであります。このように数字を具体的に想起していただくと実に乳癌が多いことが理解できると思います。また乳癌は年齢的には40歳代から50歳代に多いのですが、20-30才代の若い人にも増えつつあります。若い人では妊娠・分娩のため乳癌の診断が困難となるため発見が遅れることがあります。現在これが大きな問題とされています。

次に乳癌で死亡する人についてです。この乳癌死も図7に示すように

毎年増加しており、2015年では13695人(厚生省人口動態)でした。13695人という数字の大きさを実感していただくために交通事故死亡者数4113人(2014年)と比較してみると分かり易いでしょう。つまり何と乳癌死人数は交通事故死亡者数の3倍以上なのです。本当に乳癌で亡くなる人が多いことがお分かりいただけると思います。かつては毎年10000人以上に上っていた交通事故死は、適切な対策により半分以下となったのです。乳癌も早急に適切な対策をたてて臨むことが重要です。注目すべきこととしてアメリカでは乳癌対策が進んでおり、乳癌罹患率は上昇傾向があるものの乳癌死亡率は低下しているという実績があるのです(図8)。

以上のように乳癌対策は大変重要な日本人のテーマなのです。対策としては早期発見・早期治療に尽きます。検診を受診していただき、若い女性は禁煙することが大切であります。しかし残念ながら日本人女性の喫煙率は9.8%(平成26年)であり、減少傾向は著明でなくほぼ横ばいの状態という状況です。10月は「世界乳癌月間」とされており、世界の有名な建物がピンクにライトアップされます(写真2、3)。先田先生のお話しを聴いて色々と乳癌について改めて学びました。内科診療所においても乳癌検診に努めることが大切だと思いました。

 

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1 五輪台風 1964823日の天気図(出典:気象庁)
本当にきれいに五輪となっています

 

1609262写真1 どんよりとした雲がかかった六甲の山並み

 

1609263図2 主な死因別にみた死亡率の年次推移
平成23年人口動態統計 厚生労働省

 

1609264図3 がん死亡の原因は喫煙が30パーセントを占めているhttp://www.city.shinagawa.tokyo.jp/hp/menu000014800/hpg000014786.htm

 

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図4 日本乳癌学会編 発行 2015/07/02 ISBN 978-4-307-20345-6

 

1609266図5 たばこを吸う女性は、乳癌になりやすい
国立癌研究センターのホームページからの引用
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/272.html

 

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  図6 日本人女性における全がんの年齢調整罹患率
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターhttp://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html

 

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図7 年毎に乳がんの死亡率は上昇している
日本乳癌学会のホームページから
http://jbcs.gr.jp/guidline/guideline/g4/g41100/

 

1609269図8 日本とアメリカの乳がん 小郡三井医師会のホームページから引用

 

16092610写真2 ピンクにライトアップした東京タワー
ウィキペディアからの引用

 

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写真3 「ピンクリボン」は、乳がん啓発活動を表す世界共通のシンボル
ウィキペディアからの引用

 


季節は夏から秋へ 9月18日

 いくつかの台風が相次いで日本列島に来襲し、今年は何か例年とは違う9月の天候が続いています。特に短期間に台風が集中してやってきた東日本では甚大な被害が出ており、心が痛むところです。特に介護施設におられた御高齢の方々が水害で亡くなられたことは、驚きを禁じ得ませんでした。これまでとは少し異なった形の災害被害状況を聞き及び、今後は新たな災害対策(山津波、河川の堤防を強化するなど)が必要なことを感じたところです。関西地方はこれまでのところ大きな被害はないようですが、災害には常に心の準備をしておくことが重要と気を引き締めているところです。

そんな中、町の中へ出てみますと、さすがに暑さは少しマシなものの、湿って少し熱気を含んだ風が吹いていました。週末のデパートでは夏休みで黒く日焼けした子供たちの笑顔が溢れており、少しばかり賑やかな繁華街でありました。このように季節は移り、9月も下旬となりました。

さて、9月というと灯火親しむの頃、つまり勉学には最適な季節です。暑いと本当に勉学意欲が低下しますが、秋風が吹くと机に向かうのも苦にならなくなります。勉学の能率が向上し、また仕事の能率も上がってきます。

このように季節がよくなり仕事に対するモチベーションも上がってきた折、神戸市の乳幼児の健康診査(以下、健診)に出掛けてきました。

今回参加したのは3歳児健診であります。この3歳児健診が終了したあとは、子どもさん達には小学校入学前に行われる就学時健診まで健診はありません。ということは3歳から6歳くらいまで子どもさんは健康診断を受ける機会がないということになります。それ故、3歳児健診は節目の年(key age)とされており、同健診は大変重要な立ち位置にあります。

さて神戸市の乳幼児の健診には4ヶ月児健診、9ヶ月児健診、1歳6ヶ月児健診、および3歳児健診があります。神戸市のホームページには「身体や精神が発達する大切な時期に、総合的な健康診査を行います。全員の方にご案内しています」と書かれています。実際に健診業務に従事しますと発育が気になる子どもさんに出会うことがあります。そのような場合、その後の経過観察が必要なことをお母さん方に説明し、子どもさんの健全な発育に供しているところです。さらに健診では育児・栄養・歯科についての相談もあり、お母さん方にとって子育てにおける心強い応援・援助となっています。

神戸市では4ヶ月健診、1歳6ヶ月健診および3歳児健診については協力医療機関の医師が保健所に出張して健診に従事しています(9ヶ月健診だけは各医療機関で個別に実施されます)。つまり個人診療所の医師が協力する形で神戸市の健診に参加するシステムです。普段と全く同じように子どもさんを診察するのですが、いわゆるアウェイでの活動となります。つまり、いつもとは違う雰囲気に包まれての診察であり、「見落としのないように」といっそうの緊張感を持っての業務となります。また各健診にはそれぞれキーポイントが示されております。特に大事なポイントを再確認するために神戸市の実施要領(図1)を健診に臨むたびに必ず読み返しています。

秋は勉学に、仕事に精を出すには適切な季節です。しかし、いくら季節が良いといっても勉学、仕事には種々のストレスが心身に襲いかかることはいうまでもありません。我々現代人はストレスのため疲れがたまり、頭痛なども本当によく出現するものです。それでも多くの人々は頭痛を辛抱しながら、おのおのの立場で頑張らざるを得ないのが現状だと思います。というわけで今回は頭痛、それも片頭痛についてほんの一部をお話ししたいと思います。

まず片頭痛の定義についてですが、医学的に明確なものは示されていません。これは片頭痛には様々な病態があり、各個人が様々な表現で自らの頭痛を訴えるため客観的な定義づけが困難なためと考えられます。つまり片頭痛には客観的な指標がなく(これに対し、例えば高血圧では指標として血圧測定値があります)、本人の申告・訴えが中心となるので捉えにくいというわけです。そこで感覚的にいうと「片頭痛とは、脳に拍動性のある痛みがおそってくるもの」という辺りになるでしょうか。一方、片頭痛の診断基準についてはかなり明確に示されており、これがつまり定義と捉えるのが現実的と考えられます。幸い日本神経学会と日本頭痛学会が監修した「慢性頭痛ガイドライン2013」という著作(図2)があり、片頭痛の対応において大変な手助けとなります。同ガイドラインには詳しい片頭痛の分類、診断基準なども詳しく明示されており、日々参考にしているところです。

次に片頭痛の人はどのくらい日本にいるのかという疫学についてです。一昔前、片頭痛は日本人には少ないと考えられていました。しかし片頭痛の診断基準を用いて日本人の片頭痛を調査したところ、図3のように年間有病率は8.4%(男性3.6% 女性12.9%)とある程度高い結果が示されています(Sakai , Igarashi の調査)。注目すべきこととして女性に多く、30歳台にピークがあるということです。なお外国における片頭痛の発症率は10~15%と日本より高く、日本人の発症率はまだ低い傾向にあります(図4)。ただ日本では片頭痛に対しまだ関心が低く、日常生活で支障があっても病院受診をしない傾向があること、つまり多くの潜在患者さんのいることを考慮しなければなりません(図5)。現状は市販薬で対処している人が多くおられるものと推測されます(図6)。ある調査によりますと病院を受診している片頭痛の患者さんは27万人程度にすぎず、これは有病率の高さとは矛盾する結果であります。つまり有病率が8パーセント台ということであれば、もっと多くの患者さんがいるものと推測されます。やはり多くの方が片頭痛を辛抱し、医療機関を受診していないことが現状と考えられます。

治療についてはトリプタン製剤があり、最近は広く投与されています。このトリプタン製剤には5種類あり、どの薬剤が有効かは各個人によって違いがあるとされています。今回(紙面の都合上)、治療薬については触れませんが、予防薬についてだけ少し御紹介します。その理由は、近年片頭痛の治療薬だけでなく、予防薬についての臨床知見が集積されつつあるからです。

 予防薬のひとつにバルプロン酸という薬剤があり、これを予防薬として服用することが広く行なわれています。バルプロン酸は一般にデパケンという名前で知られており、てんかん発作を抑える薬剤です。バルプロン酸は月2回以上の片頭痛のある人に対し、1ヶ月あたりの発作日数を減少させることが明らかにされています。特に片頭痛の薬剤が無効な人、いわゆる薬物乱用になっている人には本剤が有効とされています。もちろん健康保険でも認められている治療であり、投与量はバルプロン酸400-600mg/日で2,3回に分けて内服します。ただし妊娠可能年齢の若い女性には禁忌であること、速効性はないこと、血中のバルプロン酸濃度を測定することがよいこと(血中濃度は21-50㎍/ml)等々のことに留意が必要です。

最後に片頭痛の人は、何よりも日常生活上での注意が必要であります。運動がよいこと、朝食を必ずとること、夜更かしをしないこと、不眠症に留意すること、ブルーライトを出す電気製品の長時間使用を避けること等々、これらの諸注意を実行することが、まずは大切です。今日では片頭痛に対し適切な治療をすることによって、日常生活や仕事における支障度が昔と比較してずいぶんと軽減化されているのです。

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図1 神戸市の手引き

 

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図2 医学書院 発行2013-05-15   ISBN 978-4-260-01807-4
日本神経学会日本頭痛学会(監修) 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会(編)  http://www.jhsnet.org/guideline_GL2013.html

 

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図3 性別・年齢層別 片頭痛有病率  Sakai , Igarashi の調査報告から
エーザイのホームぺージからの引用
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/guidance/epi.html

 

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図4 世界と日本の片頭痛有病率 川原内科診療所からの引用
http://www.kawamuranaika.jp/blog/2015/08/post-230-1190514.html

 

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図5 日本での片頭痛患者の医療機関受診率
エーザイのホームページからの引用

 

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図6  日本での薬剤使用率
エーザイのホームページからの引用


9月になって 9月7日

暑い夏が少しずつ後退し、9月になって今度は台風が立て続けに日本列島を襲っています。各地で大規模な被害が出ております。グループ・ホームの高齢者の方々が亡くなられ、大変気の毒に思う次第です。被災地の人々に思いをはせ、沈んだ気分で過ごす今日この頃です。そんな中、知人から絵手紙(写真1)をいただき、何となく気が和んだところです。

160909キャプチャ1-1写真1 心和む絵手紙

 

さて、少し気になる記事を医師向けのインターネットサイトでみつけました。それは「何才まで現役で医師の仕事を続ける?」ということをテーマにした調査結果です。医師を対象とし、医師自らが回答した結果の報告です。個人的には身近にいる2,3人の友人医師と引退時期を話し合うことは時にあります。だいたい皆さん、「どうしようかな」と漠然と考えているのが現状の様です。若い頃は引退のことなど、まだまだ先のことと思っていたものの、あっという間に年月は過ぎ去りました。友人も含め、「引退時期というテーマが以前よりは現実を帯びてきた」というのが、正直なところです。ただ開業医は勤務医と異なり自由業であるため、基本的には定年・引退がありません。つまり開業医は自らが引退宣言をしない限り、医師を止められないわけです(かえってこれが、開業医の決断を妨げているのでしょう)。

今回の調査は開業医1097人、勤務医2541人を対象とした比較的大規模な統計調査です。まず何才まで現役として医師を続けるかという問いに対し、開業医は70才(28%)、75才(29%)で合わせて57%にのぼりました。一方勤務医は70才(28%)、75才(22%)で合わせて50%となりました。開業医では過半数以上の人が75歳以上を引退時期と考え、勤務医でも半数が75才を一つの目安と考えているとのことです。どうやら医師は75歳ぐらいまでは現役続行をする人が多いという結果でした。因みに同調査において薬剤師、看護師は医師よりも早期に引退するという傾向がありました。

次に医師は引退後、健康・金銭面などで何らかの不安感を大部分の人(82%)がもっているとの調査記事が得られました。反対に特に不安がないという医師は18%に過ぎませんでした。医師といえば社会的には安定していると思われがちですが、結構医師自身は老後の不安感が強いという結果でした。以上のことから医師は75才くらいで引退を考えるが、健康・金銭面などの不安感から75才までは現役続行をする傾向がうかがえました。もちろん各個人によって考え方・体力および諸々の違いは、それこそ千差万別であるため一概に引退時期を決めることは不可能です。要は各々の医師個人が自らの諸条件を考慮し(後継者に少しずつ移譲しながら)、自己決定することしかないものと考えられます。

今回は前回ブログでいった通り、高尿酸血症、痛風発作の治療について紹介します。その前にヒトにおける尿酸の代謝について簡単に触れておきます。

ヒトはプリン体という物質をもとにして細胞を作っています。ただ余剰となったプリン体を尿酸に転換し、血液の中に放出して体外に出しています。このようにしてヒトは尿酸を作る量と排泄する量とのバランスをうまくとり調整しているのです。ですからヒトは体内の尿酸量を一定(1200mg)に保っているのです。ところがこのバランスが崩れ尿酸の量が増えてしまうと、高尿酸血症がおきてきます。図1のように高尿酸血症もはじめのうちは無症候性高尿酸血症という状態にとどまっています。しかし5-10年(早い人で2-3年)の年月が経過しますと関節腔内に尿酸塩の結晶が沈着し、次第に痛風関節の症状が引き起こされてしまいます。関節部への刺激をはじめ、色々なストレスが加わり、また尿酸値の急な変動が加わると関節腔内に沈着していた尿酸塩結晶が剥離し、そこへ白血球が加わって、強い炎症がひきおこされます。つまりこれが痛風発作なのです。この一連の経過は図1に示された通りです。よく健康診断、またすでに生活習慣病のため定期的に受けている血液検査で「尿酸値が高い」といわれ、来院されることがあります。言われた人は、「特に症状はないし、具体的にどうすればよいのかしら?ビールはほとんど飲まないし、いつも尿酸値で引っかかってしまう・・・」と困られることがよくあります。このような人には、図1に示した高尿酸血症のlife storyを理解していただくと、その後の適切な医学的指導の受け入れがスムーズにいくでしょう。

さて高尿酸血症、痛風を治療する目的は、痛風発作を阻止することにあります。また最近では高尿酸血症が、慢性腎臓病の発症や進展と関係し、さらに動脈硬化などの様々な合併症を発症するリスクを高くすることが分かっています。ですから積極的な治療が必要なのです。ところが患者さんの中には「痛風発作がないイコール治癒した。だから治療は不要」と思っている人が時にいます。それは不適切な考えで高尿酸血症の人は、生活習慣を改善して治療する必要があります。それは食事、飲酒、運動の3つの生活療法が中心となり、そして薬物療法があります。

まず3つの生活療法のうち、食事と飲酒に関しては、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)」(図2)には、プリン体を多く含む食品(動物の内臓、魚の干物など)を避けること、アルコール(特にビール)制限することとあります。困ったことにプリン体は美味しい食物に多く含まれ、レバー類(210~320mg/100g)、白子(300mg/100g)、一部の魚介類 エビ、イワシ、カツオ(210~270mg/100g)あたりがプリン体を多く含む食材です(帝京大学・薬学部の金子希代子教授)。プリン体の摂取制限の目安としては1日400mgですので時には献立をふりかえり、プリン体の過剰摂取に注意することが必要です。また1日に摂取するアルコール量の目安(アルコール量で約20g)は、日本酒1合、ビール500mL、ウィスキー60mLに相当し、これを一日おきに摂取することがひとつの目安です。またアルコールには尿酸値を上げるだけではなく、利尿作用があります。ですから水分を尿として体外に出してしまい、その結果血中の尿酸値が高くなってしまうのです。

次に3つの生活療法のうち残りの運動についてです。適度な運動はリスクを減らすことが分かっています。適正体重を目標に、週3回程度の軽めの有酸素運動を継続するのが好ましいとされています。具体的には1日に5000ないし10000歩のウォーキングを週3回程度、継続して行うことです。具体的な運動法は各個人によって違いますので主治医の先生と相談することか゛必要です。

最後に痛風の薬物療法です。これには大きく分けて発作を抑える薬物療法および尿酸値を下げる薬物療法があります。今回は、とにかく生活療法とともに、痛風発作の阻止を重視するということで後者の尿酸値を下げる薬物療法だけを取り上げます。痛風の根本原因は何よりも高尿酸血症ですから、これを是正することを取り上げたいというわけです。

まず大事なことは高尿酸血症という病態は尿酸が過剰に生産されている場合、尿酸がきちんと排泄されなくなっている場合、この両方が合わさっている場合という3つのパターンがあるということです。いずれのタイプなのかを検査をして見極めることが必要です。それは尿酸値を低下させる薬にも、尿酸の過剰生産を抑えるもの(尿酸生成抑制薬)および尿酸排泄を促すもの(尿酸排泄促進薬)との2種類があり(図3)、病気のタイプに合ったものを処方することを考慮せねばならないからです。

次に具体的な薬物治療方針についてはガイドラインに示されており(図4)、実臨床において大変参考になります。まず薬物治療が望ましい対象ですが、ガイドラインでは痛風発作を起こしたことがある方、または痛風結節のある方、尿酸値が8.0mg/dL以上で合併症のある方、尿酸値が9.0mg/dL以上の方とされています。次にどの薬剤を選択するかについては、個々の患者さんによって異なります。そのため主治医とよく相談して選択することになります。最後に治療の目安、つまり目標となる尿酸値は6mg/dLにおきます(因みに、尿酸の正常値上限を7mg/dL、治療開始基準を8mg/dLとされていますが、これを「6・7・8のルール」といいます)。治療において注意すべきことは「ゆっくり、しっかり下げる」ことが大切です。それは尿酸値の急激な低下は、痛風発作を誘発することがあるからです。

現在、日本人の30才以上の男性では高尿酸血症の頻度が30%以上に達していること、また痛風の有病率は1%以上で今後も増加すると見込まれています。高尿酸血症、痛風は身近な病気なのです。しかも尿酸値が高いとメタボリックシンドロームが多くなり、また将来の高血圧発症の予測因子になるといわれているのです。このように様々な問題を持っている高尿酸血症・痛風にもっと関心を払うべきと考えられます。

 

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図1 尿酸を下げるプロジェクト
帝人ファーマ株式会社のホームページから引用https://243sageru.com/toranomaki/condition/1/index.html

 

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図2 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)
メディカルレビュー社 2012/11/10

 

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図3 尿酸を下げる薬は2種類がある
帝人ファーマ株式会社のホームページから引用http://243sageyo.com/therapy/medicine/hyperuricemia/

 

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 図4 高尿酸血症の治療指針
高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインからの引用


残暑見舞い 8月24日

ようやく暑かった夏も8月下旬となり、少しは猛暑の威力が落ちるかと期待をしていました。ところが一向に残暑厳しい毎日です。オリンピックも終わり、日本人選手の活躍に厚く感動するひと夏となりました。メダルを獲得することは、もちろん素晴らしいことです。しかし、たとえメダルに届かなくても限界まで努力し頑張っている選手の姿を見ると心が揺り動かされます。4年後の東京オリンピックが楽しみなかぎりです。それにしても寝不足になってのオリンピック観戦は、少々肉体的にはハードな負担となりました。夏の疲れに注意し、水分補給をして体を休め、あと少し続く暑さに立ち向かいたいと思っています。これからは台風が次々と南の海からやってくる季節が控えています。皆様方におかれては精々、ご自愛のほどをお願いいたします。 

今回は痛風についてお話ししてみます。痛風をとり上げた理由は、夏に痛風発作が多いからです。

まず痛風と高尿酸血症の違いを理解する必要があります。ここが不明確ですと時として混乱が生じることがあります。両者の違いを簡単にいいますと高尿酸血症とは血液中の尿酸値が7mg/dlを越えていることであり、痛風の予備軍とされる状態をいいます。この高尿酸血症の状態では、まだ関節の痛みはありません。これに対し、痛風とは痛みを伴った急性関節炎足の第一関節の付け根に多いを発症した状態をいいます。つまり高尿酸血症とはただ尿酸値が高いだけの状態、痛風とは高尿酸血症が進行して関節に尿酸が沈着して痛みが伴った状態なのです。このように両者は違うのですが、高尿酸血症の状態が数年間以上続くと痛風発作がおこるとされているのです。しかし高尿酸血症の人はいつ痛風発作をおこしても不思議はないのです。余談ながら痛風とは「風が吹いても痛い」という意味で名づけられたとの説が広がっています。しかし、これには異説もあり、「風という漢字に全身を侵すという意味がある」とするのもあります。

 痛い痛風による関節炎症状を初めて体験した患者さんは、驚き慌てて外来を受診されます。痛風発作は夜中から明け方に発症し、痛みが強くなることが多いため、激痛を主訴として朝早く受診されることも多いでしょう。夜は足に血液が多く流れ、白血球による炎症作用が強く出るため夜間の痛みが強いといわれてます。ただ、強い痛みであるとしても鎮痛剤の服用により1週間以内には軽快することが特徴です。そのため患者さんは、痛みを忘れてしまい適切な生活習慣の改善、薬物療法などを熱心にされないこともしばしばあります。しかし痛風発作はだんだんと回数が多くなり。次第に深刻な状態となってくる危険があるのです。

ところで痛風発作は、はじめにも言いましたが夏に多いとされています。それは夏には発汗が多く、水分補給が不足すると血中の尿酸値が上昇し、関節に尿酸結晶が沈着しやすくなるからと説明されています。加えて暑いということで尿酸の原因となるビールを飲みますと、さらに尿酸値が上昇することを招来するからです。

次に痛風の歴史を少し調べてみました。痛風は特徴ある強い痛みのため、大昔からよく知られていた疾患です。かのヒポクラテス写真1、医聖とされている古代ギリシャの医者が、痛風についての記述を残しております。彼はイヌサフランからとれるコルチカム(現在の痛風治療薬のコルヒチン)が有効ということを知っていました。歴史上有名な多くの人物レオナルド・ダビンチ、ルイ十四世、ニュートン・・・に対しても、痛風は強い痛みで悩ましていたことが分かっています。ところが不思議なことに日本では江戸時代ないし明治時代まで痛風という病気はなかったとされています。明治時代に来日した政府のお雇い外国人医師・ベルツ(写真2)も「日本人には痛風がいない」と記載しています。これは当時の日本人の食生活によるためと推測されます。ただ日本では明治31年に東京大学の近藤次繁博士が痛風を報告しています。

ところが第2次世界大戦後、日本人の食生活が欧米化しました。そのため1955年になって急速にわが国でも痛風が広がり始めました。ことに1960年代になって急増しており、図1のように年々痛風患者さんが増加しているのが現状です。現在では、高尿酸血症の人は500ないし1000万人、痛風の人は約80万人と推定(2004年の調査されております。また以前は中高年の病気とされていた痛風は、最近では3040歳代の若い男性に多く若年化しているわけです)、この年代の男性では3割が高尿酸血症といわれています。

このように高尿酸血症と痛風の人は目下急増中ですが、圧倒的に男性に多い病気です。これは女性ホルモンが尿酸の排泄を促す働きがあること、女性では尿酸値がもともと男性より低いことからです。しかし閉経に入ると女性ホルモンが低下すると女性でも尿酸値は上昇し、男女間の尿酸値の差は小さくなります(2)

次に痛風患者さんでは高血圧などの合併症が多いことが知られています。痛風財団の調査によりますと図3のように痛風患者さんの半数近くが高血圧をはじめとする生活習慣病を合併していることが明らかにされています。反対に生活習慣病の患者さんは痛風や高尿酸血症を合併しやすいことが知られています。つまり痛風、高尿酸血症と生活習慣病は深い相互関係があるというわけです。ただ両者がどのように直接関係しているのかは、まだ十分には解明されていません。この点について製鉄記念八幡病院の土幡先生は「1mg/deの尿酸値の上昇により高血圧発症の相対リスクを13%上昇させる」と述べています。このように高尿酸血症が高血圧の原因であるならば尿酸低下療法をすることによって血圧が低下する可能性があると土幡先生は述べています。それ故、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」でも高血圧を合併した患者において尿酸値が8mg/de以上では6mg/de以下を目標として尿酸低下療法をすることを提唱しています。さらに、最近では「高尿酸血症が心疾患や生前予後においてひとつの独立した危険因子であること」が分かってきました。つまり尿酸値の上昇は臓器障害を引き起こすと考えられるようになったのです。このことから不明な点はあるものの高尿酸血症をリスク管理のひとつとして対処していくことが大切であります。

さて、次回は高尿酸血症、痛風発作の治療についてお話しいたします。

 

1608261写真1 医聖とされているヒポクラテス
ウィキペディアより引用

1608262写真2 ベルツ博士 ベルツの日記を遺した
ウィキペディアより引用

 

16082631 帝人ファーマ株式会社のホームページからの引用https://243sageru.com/toranomaki/risk/2_1/index.html

 

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2 性・年齢別平均血清尿酸値 リウマチ・痛風治療情報ドットネットからの引用

 

1608265JPG3 痛風財団のホームページからの引用

 

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4 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
ISBN 978-4-7792-0995-6
編集 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会 

 

 


暑い日々のオリンピック 8月17日

それにしても本当に暑い日が続いております。現在、診療所はお盆休みということでテレビによるオリンピック観戦を楽しみ、また読書をするなどして涼しい室内で静かに過ごしております。オリンピックに出場している日本人選手の活躍には、思わず手に汗を握ることもしばしばです。ついに夜中になっても夢中になってオリンピックの試合を見てしまう時があり、不規則な生活に陥りがちな今日この頃です。またこんな生活をしていれば運動不足になって体調を崩すものです。そこで朝夕涼しくなると近場の郊外になるべく足を延ばし新鮮な空気を吸い、緑の木々を目に収めるように努めております写真1)

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写真1 身近にある六甲山の美しい木々

そんな中、少し気になる話デイリー新潮 814日の配信。また「週刊新潮」201684日号に掲載をインターネットの電子記事で見つけました。これはある高校生の方の話です。「熱中症と診断されたが、本当は夏の脳梗塞であった」というものです。実地医家にとって、これは他人事とは思えない出来事というか臨床症例です。もし、この患者さんと同症状を呈する高校生の人に遭遇すれば、たいていの医師は先ず常識的に熱中症と判断し対処するでしょう。高齢の方であればともかく、高校生にはまず滅多にない脳梗塞には、考えがすぐには及びつかないと思います。これが正直なところでしょう。それは臨床家である医師は常に常識的なことを第一として行動するものだからです。しかし時には稀有なことが突発的に起こるということも常に深く心に抱えて診療に当たるべきと考えました。

以下に記事のあらましを紹介いたします。正直なところ他人の方の記事を大幅に引用することには躊躇いがあります。しかし、事は重大であり、また多くの人に関心を持っていただきたいと考え、記事の一部引用要約・省略化させて引用をさせて頂きました。原文筆者の方には、失礼をお詫びするとともに厚くお礼申し上げます。

 

熱中症だと思ったら、「夏の脳梗塞」だった。

茨城県の高校1年生、Y君(16)は、ソフトテニス部に所属。昨年83日、グラウンドで練習をしていたところ、突然ふらふらし、ラケットとボールの距離感が合わなくなった。父親が本人に代わって語る。

「部室で横になっていたそうですが、呂律も回らなくなった。夕方前、息子は顧問の先生に連れられ、病院に行きました。私も病院に駆けつけ、息子に問いかけましたが、“うん、うん”といった返事しかない。血液検査を行い、熱中症に特有の数値が示された。CTスキャンも撮ったのですが、その時は脳に異常は見つかりませんでした。そのため医師の診断はやはり熱中症となった。しばらく安静にし、日が落ちてから、息子を家に連れて帰りました」

しかしその後、過酷な運命がY君を襲う。

 「息子は家でも横になって寝ていました。夜の10時頃、“さすがに着替えくらいさせないと”と思い、服を脱がせようとした時に、右半身が動かなくなっていることに気が付いたのです。急いで同じ病院に行き、今度はMRIの検査を行った。それで初めて脳梗塞だということが分かったのです」

右の全身麻痺、緊急手術。T附属病院に搬送されたのは、4日未明のこと。医師からこう告げられた。

「左の側頭葉の大部分が死にかけています。全失語、右の全身麻痺の状態です」

「“これから2週間が山です”と言われた。息子は集中治療室に移され、翌5日、脳梗塞の手術を受けました。その後、痙攣(けいれん)の症状も出た。先生から“危惧した通り、脳圧が上がりつつある”と指摘され、左側頭葉の頭蓋骨を外して脳圧を逃がす緊急手術が行われました」

3度の手術の結果、Y君はからくも一命を取り留め、脳梗塞から生還した。

重い後遺症は残り、車いす生活を余儀なくされ、失語症に陥ったのである。リハビリを続け、半年で車いすから歩行器に移行。膝から下は引きずるような形ではあるものの、彼は自力で歩けるまでになった。「学校には戻れていませんが、言葉に関しても、34個の単語を繋ぎ合わせて、話ができるところまで回復しました。私が訴えたいのは、熱中症と間違える脳梗塞があるのを、皆さんに知識として持ってほしいということ。“若者・炎天下・スポーツ”という要素からすぐに熱中症と捉えられがちですが、息子のような若い人間にも脳梗塞は起こり得るのです」。

 

以上が引用させていただいた記事のあらましです。これを読んで考えました。

何となく脳梗塞というと冬に発症するような印象があります。しかし国立循環器病研究センターの統計によりますと脳梗塞は夏における発症数が多いのです1)。この原因は夏には発汗が多くなり、水分補給を十分にしなければ血液の濃縮がおこり血栓が形成され易くなること、そしてこの血栓が脳に移動し脳梗塞を発症させる、こういうメカニズムなのです。

また、お酒を飲むと尿が増えて脱水が進み、そこへ夜間の低血圧が加わると脳梗塞発症のリスクがさらに高まるというわけです。NHK解説委員室による夏の「脳卒中と熱中症の関係」というサイトがあり、そこに面白く分かり易い画像がありますので引用させていただきます1 http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/194346.html)。また心房細動という不整脈を持っている人では、いっそう脳梗塞発症の可能性が高くなります。ですから夏は水分の十分な補給が必要です。それとともに就寝前の多量のアルコールは避け、コップ一杯の水分摂取をするとよいでしょう。

次に熱中症、脳梗塞のいずれでも意識障害・脱力があるために両者の鑑別が難しいところです。今回の高校生I君も初めは区別がつきませんでした。そこで両者を区別するため、脳梗塞をチェックするFASTという方法が提唱されています。これは米国脳卒中協会が推奨している方法です。脳梗塞を疑う人に対し簡単な方法で評価しようというものです。4つの項目があり、それらの頭文字を取ってFASTと呼んでいます。具体的にいいますと

F face フェイス  顔のまひ
A arm アーム   腕のまひ
S speech スピーチ 言葉障害
T time  タイム  発症時刻

4つの項目に着目する方法です。これもNHK解説委員室による分かり易い画像2,3)があるので引用させていただきます。図2のようにFAS3つのうち、ひとつにでも問題があれば脳梗塞と考えます。これに対して、たしかに熱中症ではFASは出現しにくいと考えられます。次に図3にあるようにTつまり発症時刻を確認し、その後直ちに救急搬送することが重要です。なぜ発症時刻が大切かというと4時間30分以内の発症であればt-PA(tissue-plasminogen activator)という薬剤の有効性が高いからです。脳梗塞では血栓ができて血管が詰まるわけですが、この血栓をt-PAで溶解させて血流を再開させようという治療法です。t-PA療法は時間がたてば効果が期待できません。

ところがこれまでの統計によれば、脳梗塞の患者さんが救急病院に到着するまでに20時間ぐらいかかっていることが、多くありました。これでは手遅れです。t-PAによる治療が出来ません。FASTという方法は誰にでも使い易い方法なので一般的に広がり、脳梗塞の早期発見を少しでも早くすることが重要であります。それにしてもFASTとは「速く、すばやく、しっかり」という意味であり、うまく考えついたものだと感心します。

まだまだ暑い夏です。脳梗塞と熱中症の関係を知り、十分な水分を取ることが大切です。のどの渇き無くても入浴前後や就寝前に水分を取りましょう。

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1 脳梗塞の発症は夏に多い
http://www.ncvc.go.jp/pr/release/002619.html より引用

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1 夏には熱中症と脳卒中に注意が必要
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/194346.html より引用 

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2 FASTについて
同上からの引用
 

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3 疑えば、時刻を見てすぐに救急車を
同上からの引用


8月 夏本番 8月12日

暑中と残暑、お見舞いも申し上げます。少し前に楽しい暑中見舞い1)を知人からいただきました。さわやかなので楽しんでください。

さて本当に猛暑の8月です。ほんの少し外に出ただけでも、すぐに体全体から汗がふき出してきます。その汗を拭かないままでエアコンの効いた部屋にいますと、今度は急に体が冷えて風邪をひきそうになります。またエアコンを一晩中つけて寝たために夏風邪を引いてしまい、受診される方が来年の夏よりは少し多いような気がします。皆様方におかれては、くれぐれもお体に気をつけ暑い夏を御過ごしください。

毎年8月になるとお盆ということで京都へお参りに出かけています。7月は祇園祭りで混雑するので避けますが、8月の京都には殊更暑くても出掛けています。といっても暑い京都の中心部は避け、やや涼しい洛北方面に足を伸ばしています。ただ今年は細見美術館で開催されている伊藤若冲いとうじゃくちゅう、17161800の展覧会に赴きました。先日東京で若冲展が開催されたのですが、大変な人気で入場に時間待ちという大盛況でした。こうなると普段、若冲にあまり興味のない自分でも行きたくなったというわけです2)

若冲(図3)は京都にある錦市場の青物問屋の長男として生まれました。若冲は家業には熱心ではなく、絵を描くことだけに興味をもったとのことです。ところが最近の研究により若沖は絵師としてだけではなく、商人として錦市場での営業認可をめぐって大変な活躍をした人であることが明らかにされました。今回、絵師としてだけでなく若沖の商人としての顔を初めて知ることが出来ました。若沖の働きにより錦市場は窮状を脱することが出来たのです。錦市場の事件は、若沖が45才頃に勃発したものでその解決に3年間ほどの歳月を要しております。記録をみると若沖は大変に細やかな心配りをする商人であったことがうかがえます。若冲は40才になって絵師として独立したといわれていますが、単なる絵師だけではなく有能な商人でもあったというわけです。

さて実は8月になって暑くなるとともに、「どうも体がだるい」と思っていたところ突然、消化器症状が出現してきました。初めは「食べ過ぎかな」と軽く思っていたのですが、なかなか下痢症状が治まらず、結局1週間近く倦怠感・体調不良が続いてしまいました。自分が病気になった時、いつも思い出すのは医学部の学生時代に老教授から言われた言葉です。それは「医者は自分自身が病気をしないと、患者の本当の気持ちは分からないものだ。だから医者自らが病気をして辛い体験をすべきだ。」というものであります。たしかに全くその通りで「患者さんはこんなに辛いのだ」とあらためて理解し、普段の診療に全力を傾けようと思いました。

それにしても体が辛かったので全ての予定を土壇場でキャンセル(ドタキャン)し、家の中で安静に過ごす時間が多くなりました。また本ブログを書くことも「一時中断の止むなし」となったところです。外に出ても猛暑でもあり、オリンピック放映もあるということで家の中でずっといる日々が続きました。

しかしこれでは矢張りまずいので、体調回復とともに少しずつ医学書を紐解くことにしました。臨床医学というものは勉強すればするほど、自分が理解していないことを強く思い知らされます。いくら勉強してもキリがないというところが正直なところです。

いうわけで今回は結核について少々勉強をしてみました。結核というものは市井の診療所では日常それほど出会う疾患ではありません。しかし頭の片隅には常に置いていなければならない疾患であります。患者さん自身が「私は肺結核でしょうか」と言って来院されることはまずありませんし、つい医師側も忘れがちな病気です。その理由は日本では1960年代から驚異的なスピードで結核患者さんが減少したため、医療関係者も含めて皆が結核は過去の病気と錯覚しているためかもしれません。ところが困ったことに、ここ30年ほどは患者数の減少が鈍ってきているのです4)。たしかに平成26年度において新しい結核患者さんの数が19,695人と初めて2万人を切ったのですが、人口10万人あたりの罹患率は15.4という数字なのであります。この15.4という罹患率は高いのでしょうか。それを明らかにするため先進諸外国の結核罹患率と比較すると3ないし6倍ほども高い数字なのです4)。つまり依然として残念ながら日本は結核の中蔓延国である、これが日本の現状なのです。また留意すべきこととして、新規発生患者さんの半分以上は65歳の以上の老人であること、40歳未満の若い方でも2,600人以上が発症していること、しかもいわゆる潜在性結核感染症患者さんは2,000万人程度もいると推定されていることです(潜在性肺結核感染症については後で述べます)。このように日本の結核の現状を見る限り、けっして過去の病気ではないのです。

では、なぜ日本では結核患者さんがよりいっそう減少し、諸外国並みの罹患率とならないのでしょうか。その大きな理由として高齢者人口が多いこと、またホームレス、社会的弱者、そして途上国から日本に来る外国人に対しての対策が遅れているということにあります5)。また医療従事者も結核は過去の病気だというような間違った錯覚、そして誰もが結核に関心が低いこと、これらが結核が減少しない理由です。これから日本は、ますます高齢者国家となり、外国人労働者を受け入れることを考えたとき、適切な対応をとる必要があります。

では、わが国での適切な結核対応と何でしょうか。まずは高齢者の方の対策です。高齢者には結核患者さんが多いのですが、しばしば遺憾ながら高齢者では診断が遅れがちとなるのが現状です。これは典型的な結核の症状(発熱、咳などの呼吸器症状)が出にくいため見過ごしてしまうからであり、特に注意する必要があります。一方、幸い子どもさんの結核は4ケ月の乳児検診などでのBCG接種の高普及により、その患者発生数は少なくとどまっています。それでは高齢者と子どもさん以外の残った人、つまり若い人の結核対策です。ここが解決できれば欧米諸国並みの低蔓延国になる可能性があるわけで、どのような方法があるのでしょうか。そのひとつに潜在性結核感染症以下LTBI : Latent Tuberculosis Infection)の人を早期発見し、積極的に対応することが挙げられます。LTBIとは、簡単にいえば「結核菌が体内にあっても、発病していない感染状態のこと」をいいます。我々人間は結核菌を吸い込んでも必ずしも感染をするわけではなく、体の抵抗力により結核菌を追い出します。また、たとえ結核菌が体内に残っても免疫細胞が結核菌を封じ込めたままにしてくれます。ただし発病リスクが相当高く (これは高齢者や(図5)に示した社会的弱者の人が該当します)、かつ治療を行う有益性が副作用を上回ると考えられる人はLTBI患者さんと判断して対応するが必要となります。このようなLTBI患者さんを探し出すためには、結核患者さんに接触した人を対象とした接触者健診が重要な手がかりとなります。その具体的な方法は、20143月に「結核の接触者健康診断の手引き」(6)が発表されております。その詳細はホームページhttp://www.phcd.jp/02/kenkyu/kouseiroudou/pdf/tb_H25_tmp02.pdf)にありますので、その概略だけを紹介いたします。

「結核の接触者健康診断の手引き」では、結核患者さんに接触し感染のリスクがあると判断された接触者に対し血液によるスクリーニング検査が推奨されています。スクリーニング検査にはインターフェロンγ遊離試験があり、これにはQFT-3G検査クオンティフェロンTBゴールドT-SPOT検査(T-スポットTB)2つがあります。両検査いずれも過去の感染か、最近の感染かの区別は不可能なこと、また両者の特異度は極めて高く差がないこと、またBCGの影響を受けないことなどが確認されています。なおT-SPOT検査のほうが実地臨床では実施しやすい採血量が少なく、輸送が簡易ので好まれるようです。両者とも検査の時期としては結核患者さんと接触して2ないし3ケ月後とされています。また今回の手引きでは乳幼児に対しても本スクリーニング検査が推奨され、また結核感染率の高い集団ではスクリーニング検査の再検査が推奨されています。

最後に両検査でLTBIと判定された場合です。ここで今一度、LTBIの臨床診断についてです。LTBIとは本来「顕在性肺結核」と対比した用語あり、インターフェロンγ遊離試験で陽性とされたものの胸部レントゲンや細菌学的検査で結核所見を認めないということで診断されることになります。このように十分に検討してLTBIと診断したならば、積極的に厚生労働大臣が定めた「結核医療の基準」に従ってイソジアニド内服の単独療法を6ケ月ないし9ケ月実施することになります。これは大変有効な治療であります。なお、この治療費には公費負担が適応されることになります。

以上、日本における結核についてあらましを紹介しました。それにしても結核は静かに潜航している感染症です。世界に目を向けましても2014年では960万人が発病し、150万人が死亡しています(HIV/エイズに次ぐ死因の2番目。国は2020年のオリンピック開催までに結核低蔓延国になることを内外に宣言しております。そして半世紀以内に結核制圧を完了すること、これを夢に終わらすのではなく是非実現したいところです。

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1 絵手紙の暑中見舞い

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図2 細見美術館の入場券

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3 伊東若沖の人物画
相国寺蔵 WikiPedia より

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4 先進国の結核罹患率の推移
日本医師会雑誌 145巻5号933ページから引用

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5 日本における結核罹患の相対的危険度
日本医師会雑誌 145巻5号935ページから

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6 結核の接触者健康診断の手引き
厚生労働科学研究
(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)による


真夏の襲名興業と講演会巡り 7月28日

歌舞伎・落語の襲名興業ということであれば時間の許す限り観に行くことにしています。7月に入り大阪の松竹座で5代目・中村雀右衛門丈の襲名興業があり、出かけてきました(写真1)。雀右衛門さんといえば、長年(60年近くですが)歌舞伎ファンですので、どうしても先代の4代目・雀右衛門さんを思い浮かべてしまいます。それどころか4代目が友右衛門であった頂(昭和30年代)の若き日の舞台姿さえ思い出します。本当に綺麗な女形でした。2年前に4代目は肺炎により96歳で亡くなられました(肺炎球菌ワクチンは接種済みであったのかしらと、余計な詮索をしています)。今回、次男の友右衛門さんが5代目として名跡を継ぐことになられ、1人のファンとしては本当に嬉しい限りです。長年にわたり歌舞伎を観ていますと、「あれ、この役者さん、名前は知っているが若くて馴染みのない人だなぁ。誰だろう?」と思うことが稀にあります。何のことはない、先代が亡くなったため若い後継者の役者さんが襲名したのですが、つい昔の先代の面影を思い出してしまいます。そういえば幸四郎さんといえば、今でも先代の八代目・幸四郎さんの印象が強く瞼に残っている状況です。

さて昔話はともかく、当代雀右衛門の舞台は艶やかでした。また来年には市川右団治の名跡が復活するとのこと、大変楽しみなところです。関西の歌舞伎ファンならば80年ぶりの大名跡復活は、喜びが本当に大きいことでしょう。名を継ぐのは大阪生まれの市川右近さんです。今から襲名興業が待ち遠しいところです。

 21日には九州北部や近畿地方で梅雨明けが発表されました。そして本格的な夏の日が到来し、猛暑といってよい日々が続いています。今年は西日本では大雨、東日本では水不足と対照的な状況が続きました。やはり自然の力は偉大で人間の非力を知ったところです。六甲山には雨かと思えば猛暑がやってきて、雨雲を払いのけるように暑気が山裾をから登っているような景色が見られました写真2)

 さて暑い中、土曜日の診療が済んだあと、午後から夜まで講演会に出席してきました。会場は3か所に及び、雨の中を順次巡回しました。雨模様のため参加者の足が止められるのではと危惧しました。しかし実際には各会場ともそれなりの出席者がいる状態でした。聴講したすべての講演内容を紹介することは無理ですので特に印象的であった講演を呈示することにします。

 1番目は横浜市立大学の病態制御内科学・田村功一准教授のお話しでした。テーマは「CKDChronic kidney disease 慢性腎臓病)に克つための血圧無理」です。臨床的なこととしてCKDの人では次の3点に注意することが示されました。

1.病態(年齢、季節)を考慮すること 

2.家庭血圧と24時間自由行動下血圧測定(ABPM:Ambulatory Blood Pressure Monitoring)を重視すること

3.老年者には季節性高血圧を考慮し、夏では血圧が110以下になるときは降圧剤の変更・中止を考慮する

ということが示されました。より詳しくCKDを知るためには、CKDガイドライン2012をインターネットでダウンロードすることを教示していただきました(図1)。早速、帰宅してから供覧したところです。これは大変参考になりました。

2番目は「二次病院から三次病院への転医症例について」という演題でした。六甲アイランド甲南病院小児科の坂田玲子先生のお話しでした。日頃から六甲アイランド甲南病院には大変お世話になっているところです。我々のような一次医療機関から二次病院へ御願いした患者さんが、より高度な医療が必要となって三次病院へ転送される実態・状況がよく理解できました。とりわけ二次から三次病院へ転送する必要があった症例は、外科的手術が必要であったということには興味を覚えました。

3番目は、ぼうぜ医院の下宮一雄院長による「坊勢島における痛みの考え方と治療」という講演でした。坊勢島とは初めて耳にした島名です。兵庫県姫路市に属し、瀬戸内海の家島諸島の真ん中に位置する島です(図2)。人口は3000人弱であり、下宮先生は島にある診療所の院長であります。その診療所は町の典型的な一次医療機関と拝察しました。つまり島に1件の医療機関ということで様々な患者さんが来院されるというわけです。今回は痛みに対する対応を中心にしたお話しでした。強調されたことは「疼痛に対する治療をすることによって動ける体をつくりたい」ということです。そのために実施している薬物治療について解説がされました。鎮痛剤として非ステロイド性抗炎症薬、COX2阻害剤、アセトアミノフェンそしてオピオイドがあり、それぞれの作用機序の違いや副作用について正しく知る必要があります。とりわけ副作用を中心に見据えての治療は大切であります。

その一部を簡単にいいますと、まず非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS:Non-Steroidal Anti-Inflammatory)は、腎血流量を低下させ腎機能を急激に悪化させることがあるということが強調されました。つまりNSAIDSには薬剤性の腎障害があるのでeGFR45以下の人ではNSAIDSは禁忌なのであります。非常に汎用される薬剤ですが注意が必要であります。有効ではあるが、やはり長期にわたる投与は好ましくないのです。

次にCOX2阻害剤には、動脈硬化や血圧上昇という副作用があるので注意する必要があります。

アセトアミノフェンは600mg/日までは効果に乏しく、投与量が多くなることもあり得るということが解説されました。幸いアセトアミノフェンによる肝障害は1200mg/日までは少ないので注意して処方すれば比較的安心でしょう。

最後にオピオイドという長期処方に適している薬剤が登場してきました。これにはアセトアミノフェンとの合剤もあります。かなり有効な薬剤なのですが、投与初期に嘔気、ふらつき感、便秘、眠気などが出現することがあります。適切な対応で概ね短期間で副作用は消失します。

 いずれにしろ患者さんの痛みが軽減し、以前のように体を動かすこと出来るようにすること、これこそが鎮痛の本当の目的であります。

160729.1写真1 襲名の御祝儀

 

160729.2写真2 六甲山の山肌にある雨雲を追い上げ暑気

 

160729.31 社団法人日本腎臓学会
ISBN 978-4-88563-211-2
発行 株式会社東京医学社

 

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2 家島諸島にある坊勢島(google mapより)


笑い学会の総会とオリンピック・パラリンピック 7月24日

日本笑い学会についてはこれまでも当ブログで何度かとり上げたことがあります。同学会は1994年に大阪で創立され、今年ですでに20年以上の歴史があります。第1回目の総会は79日(笑い学会なのに「泣くの日」に創立)に関西大学百周年記念会館で開催されました。私も参加しましたが、その日のことはつい昨日のようにも思います。今年も第23回目の総会が関西大学堺キャンパスで716日と17日の2日間にかけて開催されました。一年に一回開催される総会の会場は、発祥地の大阪と地方とを交互に回り持ちで実施されています。昨年は三重県の津市だったので今年は大阪というわけです。毎年総会の時は本当に暑くて大変な真夏の日々となります。それでも同学の志と再会し、笑いに関する発表講演を聴いていると本当に心が和むものです。そんなわけ、暑い中を堺まで総会に出かけてきました。

今年も参加して幾つか得るところがありました。なかでも日本チャプリン協会・大野裕之会長による記念講演はユーモアたっぷりな話であり興味が惹かれました。大野氏は知る人ぞ知る、日本におけるチャプリン研究の第一人者であり、また劇作家・脚本家・映画プロデューサー等々のマルチな顔を持っておられます。大野氏によると特に10代という若い時に感銘を受けてハマったものは(氏の場合はチャップリンということになります)、後に大きな人生の糧となるとのことでした。もっとも人間は年齢が幾つになっても物事にハマって熱中することは素晴らしいものであるとも話されました。またチャプリンの秘書が日本人の高野虎市(こうのとらいち 1885年ー1971年)という人であることを初めて知りました(図1)。高野氏は広島の人で15才の時にアメリカに移民として渡り、31才の時に初めはチャプリンの運転手として雇われました。後に彼の秘書となり20年近くもチャプリンの元で働き、チャプリンの信頼は高かったとのことです。しかし第2次大戦は高野の人生にも大きな苦労を与えます。強制収容所にも収容され、ようやく昭和23年に釈放されました。昭和31年には帰国し、郷里広島で亡くなりました。高野の訃報を聞いたチャプリンは悲しみにくれてたということをチャプリンの娘さんが話として残しています。とにかく喜劇王という笑いの象徴を巡る話には面白さに尽きないものがありました。

さて、いよいよリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック(以下、リオ五輪)の開幕が近づいてきました。今から各種競技における日本人選手の活躍に期待が高まっています。ところで会場となるブラジルの首都リオデジャネイロは季節でいうと冬にあたり、競技会場および周辺では蚊の対策が強化されているようです。それは世界保健機構(WHO)がジカウイルス(写真1)に妊婦が感染し、ジカ熱を発症すると胎児小頭症の原因になることを認めており、蚊によるジカ熱感染の拡大を防止する必要があるからなのです。疫学的な根拠としてブラジル保健省の小頭症についての研究があります。それは小頭症4,561件のうち1,489例が妊娠中のジカ熱感染による先天性小頭症または中枢神経異常と判定されるという研究報告です。

現状として約1年前から中南米地域においてジカ熱が流行しています。現在のところ日本ではジカ熱の流行はなく、ただ帰国後に発症した10例の輸入例が確認されてはいます。ですからジカ熱を日本へ持ち込まないことが重要です。厚生省はブラジル方面へ向けての海外旅行者に「注意喚起レベル1」を出し、蚊に刺されてジカウイルスを持った人が流行国から日本に帰国する機会を少なくするように広報しています(図1、2)。レベル1とは十分注意してくださいというもので「特に妊娠中の方、または妊娠を予定している方は、流行国・地域への渡航・滞在を可能な限りお控えください。」としています。日本人にとってもジカ熱は今や他人事ではありません。現在、一部選手がジカ熱に不安を持ち出場を控えることも報道されています。ただブラジル保健相は「ジカ熱が流行するリスクは最小である。英ケンブリッジ大の研究では、50万人の観客のうち感染する者は1件以下との予測をしている」と不安を鎮静させるべく広報しているところであります(朝日新聞デジタル版 http://www.asahi.com/articles/ASJ745R97J74UHBI02C.html)。このように多少とも不安感があるのが正直なところです。しかしジカ熱を正しく知って正しく恐れることが最も正しい対応だと考えられます。そこでジカ熱ウイルス・ジカ熱について少し詳しく学んでみました。

ジカウイルスが発見されたのは1947年のことです。アフリカ・ウガンダのアカゲザルからジカウイルスは分離されました。それ以来、図3のように南米・中南米において流行が報告されています。日本では数年前から流行国から帰国した人がジカ熱を発症していることが報道されました。つまり本当にごく少ない人とはいえ、国際交流の進んだ現代では無縁というわけにはいかないのです。   その感染経路ですがジカウイルスは蚊によって媒介されてヒトに感染をおこします。媒介する蚊にはネッタイシマカなど数種類の蚊が明らかにされています。注目すべきはデング熱を媒介するヒトスジシマカがジカウイルスをも媒介するという点であります。ヒトスジシマカは北限を秋田県と岩手県とし(つまり北海道にはいない)、日本に広く分布しています。したがってもしジカウイルスが大量に輸入、つまりジカウイルスに刺された人が大勢流行国から帰国した場合、ヒトスジシマカによるジカ熱の流行が危惧されるということになります。

症状についてはジカ熱とデング熱は比較対照されることがあります。これは両者のウイルスがどちらも同じフラビウイルス科に属していること、媒介する蚊が同じということ、また中南米に多い疾患であることから等々の理由からです。表1に両者をまとめてみましたが、ジカ熱の最も重要な症状は発疹であります。次に関節炎、結膜炎が特徴であり、発熱はそれほどで顕著ではありません。また潜伏期間は14日以内と推定されていること、不顕性感染(感染しても明らかな症状が出ないこと)が80%以上と多いこと、さらにギランバレー症候群(下肢から両側対称性に麻痺が来る疾患)を発症することがあり、この点は注意を要するところです。

診断については不顕性感染が多いことを考えれば難しいかもしれません。まずは帰国した人において表1に示したように発疹等をみれば疑う必要があります。ですから流行地から帰国した人で症状があれば受診することが必要です。確定診断にはRT-PCR法(発症から7日以内)が使用されます。次に治療は残念ながら特異的な有効なものはありません。対症療法が中心となります。このように診断と治療は現実的には困難なものがあります。むしろ重要なことは予防ということになるでしょう。はじめにお話ししたようにレベル1の注意が出されていても、強い旅行制限をすることに正当性はありません。まず流行地では蚊に刺されないようにすること、そのためには長い服で皮膚の露出を減らす(半ズボンより長ズボン、半そでより長袖シャツ)、蚊帳や網戸を使うこと、蚊を駆除すること、そして蚊忌避剤を使うこと等が必要です。蚊忌避剤は現在我が国にあるものでは濃度が低いため2時間おきの塗り直しが必要といわれています(10歳以下の子どもさんは親が塗ること)。なお妊婦さんに蚊忌避剤は基本的には安全といわれています。現在、我が国の蚊忌避剤は濃度が低いために有効性が低く、急ピッチで高濃度の蚊忌避剤が開発されているとのことです。

またジカウイルスの独特な特徴として知っておくべきことがあります。それはジカウイルスに特有なこととして血液や尿よりも精液中に長く検出されるという点です。そのため感染者や流行地から帰国した男性は、性行為においてコンドームを使用することが推奨されています。アメリカでは8週間以上コンドームを使用するように勧められています。これは本当に特異な点として注目されるべきことと考えられます。妊婦さんが妊娠初期にジカ熱になれば胎児の脳の発育が妨げられ、小頭症になることは、確定されていることからこのような十分な配慮が必要なのです。

最後にワクチンです。現在ジカ熱とデング熱両者のワクチンが開発されており、それほど遠くない将来に実用化されるとの情報もあります。いずれにしろ、ジカ熱を正しく知って正しく恐れることが大切です。

キャプチャ1
1 大野裕之氏の著作
講談社発刊 (2009/12/25)

キャプチャ2
写真1 ジカウイルスの電子顕微鏡像
米疾病予防管理センターCDCからの引用
撮影者
Cynthia Goldsmith

キャプチャ3
1 ブラジルは注意レベル1にあります
外務省海外安全ホームページからの引用 

キャプチャ4
2 厚生労働省の注意喚起を促すポスター

キャプチャ5
図3 ジカウイルス感染症の症例が報告された地域
US CDC. Zika virus http://www.cdc.gov/zika/

キャプチャ6
1 ジカ熱とデング熱の症状
ニュースダイジェストから引用させていただきましたhttp://www.newsdigest.de/newsde/column/doctor/7603-1020.html


夏本番、トラブルの連鎖 7月13日

論文などの文章を書くにあたり、今ではほとんどコンピュータを利用しwordを用いています。その主な理由は自分の肉筆で書いても、なにしろ悪筆なため読んでもらえないからです(泣)。また文章の加筆訂正が簡単というのも大きな理由です。ですから紙ではなく、画面に向かって草稿を練る日々です。

この暑さの中、ようやく論文をひとつ書きあげ、いざ印刷しようとするとプリンターが全く動きません。プリンターの表示がトラブルのあることを示しており、それを見ると「メーカーへの修理依頼が必要な状態です」と出ています。現在3台のプリンターを使用していますが、トラブルを起こしたのは最近購入した一番新しいE社製のプリンターであります。メーカーに連絡すると「有償での修理が必要」とのこと、こうなると気分が落ち込むものです。結局、修理ではなく、違うメーカー(B社)のプリンターを新たに購入することとし、気分一新をはかりました。最近は便利です、ネットで手ごろなプリンターを探し出し、注文すると直ぐに届きました。

購入した新しいプリンターとコンピュータをつなぐ作業に早速入りました。通常ならそれほど困難な作業ではないのですが、悪戦苦闘をする羽目となりました。ようやく両者の接続に成功し、無事印刷が出来ました。ところがなんと、今度はコンピュータのネット接続が全くダメとなってしまいました(!)。加えて携帯電話のWi-Fi接続も全て使用不可となってしまいました。コンピュータに詳しい人に聞くと、このようなトラブルは通常あまりない事象とのことです。結局2日がかりで回復に努めました。しかし、ついにギブアップとなり専門家の御世話になることになりました。それにしても新しいプリンターの無様な故障がコンピュータトラブルに連鎖し、大袈裟でなく困惑の極み状態の数日間となりました。しかし、ただ一つ良かったことがあります。それは「ネット環境がないためメイルが来着しないから読まずにすむこと、またネットを開くことがないので情報の洪水に煩わされない」ということです。おかげで大変な休養時間となりました。現代人は多かれ少なかれネット依存になっていると改めて感じるとともに、時にはコンピュータから完全離脱することが必要と思いました。

このように気落ちしている時、知人から絵手紙(1)の暑中見舞いが届けられました。そこには七夕が描かれており、心が癒されました。今風の電子メイルも迅速で便利です。しかし手作りの温かみには及ばないと感じました。というわけで気力を回復し、また本業へと戻りました。

 川崎医科大学の総合内科の宮下修行・准教授の講演を聴く機会がありました。テーマは「stop!肺炎 超高齢化社会での予防の重要性」でした。なかなか興味深いお話であり、日常診療において大変有益な情報を得ることができました。

平成26年度の厚生省の人口動態統計によりますと日本人の死因の第1位は癌、第2位は心疾患、第3位は肺炎であります(2)。その年の肺炎による死亡者の数は11800人であり、このうち約97つまり大部分)65歳以上の高齢者でありました。これからも明らかなように高齢者と肺炎には密接な関係があります。年をとると外から見た目では元気なのです。しかし高齢者の免疫力は低下しており、肺炎にもかかり易いというのが本当のところなのです。また高齢者では症状が乏しいために診断や治療が遅れること、他の病気(高血圧、糖尿病など)を合併しているため急速に病状が悪化してしまいます。さらにまた夜間寝ている時に食物等が気道内に入っていく誤嚥性肺炎3)が高齢者ではおこり易いことが知られています。高齢者では胃内容物が逆流し、また嚥下反射の低下があるために誤嚥性肺炎が起こってしまうのです。このように高齢者の肺炎には様々な問題が隠れているのです。

ある調査によりますと「自分が肺炎にかかる」と思っている人は6割以上おられ、大部分の人は「年齢が進むとともに肺炎にかかり易い」と思っておられます。つまり高齢者自身は肺炎のリスクを承知されています。それにもかかわらず、準備つまり予防接種をされている高齢者は少ないのというのが現状です(http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2015/2015_10_29_02.html#q1より)。危険な肺炎に対し、高齢者は心の準備はある程度はされているものの多くの方々が予防接種を受けていないというのです。一方、高齢で肺炎に罹っても入院し、治療を受ければ治るという考え方もあります。1週間の入院で肺炎を寛解させることは可能とされています。それほどに現代医学における肺炎治療の成績は良好であります。しかし、ここに落とし穴が潜んでいます。それは高齢者では肺炎を繰り返し発症することそのたびに耐性菌が出現し、治療効果が低くなる)、入院すると譫妄や認知症が発症し悪化すること、再発するたびに体力が低下すること、そして最後には廃用症候群がおこり予後不良となってしまうという点です。つまり負の連鎖・サイクルが起こるのです。このような落とし穴があるのです。繰り返しになりますが自分は大丈夫と思っていても高齢者は口腔内の食物等や胃内から逆流した食物を誤嚥し,咳反射で排出できないため気道に入り込んでいくのです。とくに誤嚥は夜寝ているときに多く、23週間かけて誤嚥性肺炎は発症していきます。

ところで高齢者の肺炎に対し日本呼吸器学会は以前から市中肺炎(地域社会で日常生活を営んでいる人に発症する肺炎、Community acquired pneumonia:CAP)、院内肺炎(病院に入院後48時間以上経過して発症する肺炎、Hospital acquired pneumonia:HAP)、医療・介護関連肺炎(Nursing and Healthcare associated pneumonia:NHCAP)というように分類しています。この分類は肺炎の病態を分類する上で有益です。ただ、いずれの肺炎であっても原因となる起炎菌としては肺炎球菌がもっとも多いのです。つまり肺炎球菌は高齢者にとって大変重要な細菌なのです。

さらにまた肺炎球菌は子どもさん達にとっても重要な細菌です。子どもさんは免疫力が未発達のため、また高齢者は免疫力が低下しているため、それぞれの年代での理由により肺炎球菌に対する抵抗力が弱いのです(4)。最近では進行する肺炎のことを侵襲性肺炎(IPDinvasive pneumococcal disease)と表現しております。幸い子どもさんでは予防接種の普及によりIPDはだいぶ少なくなってきました。ところが特に冬場においてお孫さんから高齢者へ肺炎球菌が感染し、高齢者がIPDを発症するリスクが注目されています。このリスクを外国ではHoliday Spikesと名付けており、孫→祖父母感染への感染が注目されています。外国文献ではHoliday Spikesを明らかにした研究報告もあります。それに対し日本では子どもから老人への肺炎球菌感染についての認識が低いようです。

以上のことからお分かりいただけると思いますが、高齢者は肺炎の潜在的発症者、またIPDのハイリスク群なのです。この現実に対し、最も効果的な対応策、それが肺炎球菌の予防接種であります。もちろんワクチンで全ての肺炎を予防することはできません。それでもIPDに対してはかなり有効です。ところが残念なことにワクチン接種を受けておられる高齢者の方は、まだ少ないのが現状です。正確な数字は分かりませんが、公費負担が導入されても精々30パーセント程度の接種率と推定されています。高齢化が進む中、肺炎リスクは益々上がるものと予測され、予防接種は不可欠です。厚生労働省の試算ではワクチンを高齢者全員に接種する費用を見込んだとしても、重症肺炎での入院患者数が少なくなるので医療費削減になるとしています。もちろんワクチンには、一定の割合で副作用が生じ、過去の接種過誤などの記憶が高齢者の方々にあり、ワクチンへの抵抗感には根強いものがあるかもしれません。また高齢者の方の中には予防接種は子どもが受けるものだ、そして年寄りは予防接種までして無理に長生きしたくない等の考えの方もあるでしょう。しかし肺炎というリスクをある程度回避することができる手段、予防接種があるならば、これを利用し健康な長寿生活を送ることは望ましい選択であります。今後は肺炎球菌予防接種の十分な説明を高齢者の人々にしていく必要があります。

最後に肺炎球菌予防接種を受けた高齢者に「何故、接種を受けたのか、その理由」を聞いたところ「医師から勧められて」というのがトップでした。すなわち今後は「肺炎球菌の予防接種をかかりつけの医師が勧めること」、これが最も有効で大切ということです。さらに肺炎球菌ワクチンだけでなくインフルエンザワクチン(図5に示すように肺炎球菌とインフルエンザワクチンを併用接種すると死亡率が低くなることがわかっています)、さらに帯状ヘルペスワクチンをも合わせて受けることが大切です。予防接種の医学的意義について誰もが理解している社会を創っていく必要があると考えられます。予防接種で社会全体をみんなで守るという意識が大切なのであります。

 

キャプチャ1

1 七夕の絵手紙

 

キャプチャ2

2 主な死因別にみた死亡率の年次推移
厚生省 平成26 年人口動態統計月報年計(概数)の概況

 

キャプチャ3

3 誤嚥性肺炎のしくみ ELMED EISAIのホームページからの引用http://www.emec.co.jp/swallow/08.html

 

キャプチャ4

4 5歳未満は免疫機能が未発達
65歳以上は免疫機能が低下
ファイザー製薬のホームページからの引用
http://otona-haienkyukin.jp/about/

 

キャプチャ5

 5 インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチン(PPV)併用接種
による年齢別全死亡
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/flu/vaccine/201305/530392.html


須磨寺 7月7日

今回、急に思い立って須磨寺(図1)に行ってきました。その理由は国の指定重要文化財である木造十一面観音立像が特別に期間限定で公開されているからであります。いつもは本堂内陣に奥深く安置されており、目にすることが出来ない仏様です。実に身近に拝観できました。南北朝時代の作とされており、誠に柔和な素晴らしい仏像でした。

須磨寺といえば神戸の人間にとっては大変に馴染みの深いお寺です。仁和元年(886に開鏡上人が勅命を受けて建立しました。正式名は上野山(じょうやさん)福正寺といいます。須磨寺は源氏と平家に所縁ある古戦場として昔からよく知られたお寺です。山門を入って直ぐのところには熊谷直実と平敦盛の一騎打ちの様子が銅像になって再現されています(写真1)。敦盛が吹いていたあの有名な青葉の笛が須磨寺に伝えられ、今も現存していることを初めて知りました。今回直接見ることができました。池の中に咲く蓮の花もとても美しく感動を覚えました(写真2)。少し雨が降っていて足元が悪かったのですが、お寺の中には著名な人々の詩や俳句の碑が散在しているので歩いて見て回りました。松尾芭蕉(須磨寺や ふかぬ笛きく 木下闇、与謝野蕪村笛の音に 波もよりくる 須磨の秋、写真3)、正岡子規(暁や 白帆過ぎ行く 蚊帳の外)など蒼々たる俳人の石碑があり、とても興味深く楽しみました。多くの文人たちが古来より須磨寺に憧憬をいだいていたことが分かります。また三好平六という人の「夫婦とは なんと佳いもの 向かい風」と言う俳句(川柳)には魅せられました。この句の意味は「夫婦というものは向かい風が吹く辛い時にこそ力を合わせましょう」とのことです。

さて古仏に触れて気分を転換後はまた本業へと戻ります。ただ夏になると、頭の回転も十分でなくなります。ところがやりたいことは(本業以外のことも含めて)山積みであり、それがなかなか思うように (年のせいもあってか)進みません。例えば重要書類を置き忘れた、あの文献の所在が分からない、USBメモリーを紛失した、本を失ってしまった……等々、うっかりミスを連発し、ひいてはメンタルが疲れてしまう今日この頃です。そこへ暑さが加わります。ですから止む得ず涼しいところ(つまりエアコンのある自室)に長期滞在となっています。すると今度は屋外の空気を吸いたいという気分が強くなり、そこで産業医の研修会へと出かけました幸い会場は冷房が効いており快適でした)

日曜日の朝10時から昼休みをはさんで夕方4時近くまでの長丁場の研修会でした図2)4講演あり、どれも参考になりました。このうち2講演について今回は報告したいと思います。

一つめの講演は神戸労災病院・副院長である井上信孝先生による面白いお話しでした。「肥満学の最近の話題と職場での健康管理におけるメタボ健診の課題」というテーマでした。話の内容は図3に示すように4つの内容に集約されます。

まず1.DOHad説です。これは成人病胎児期発症起源説(Developmental Origins of Health and Diseases)という説で「ヒトの健康は胎児期からきまっている」という考えです。1976年にNEJM(The New England Journal of Medicine)という有名な医学雑誌に「オランダ飢餓の時に、生まれた子供は成人になって肥満が多い」ということが報告されました。つまり胎生期の飢餓という環境が赤ちゃんに影響するため出生時体重が低下する。しかし、その一方、この赤ちゃんたちが大人になると肥満になることが多いという論文なのです。さらに出生体重が低いほど、成人になって肥満となってしまうこと、それ故、高血圧、インスリン抵抗性の増加、心血管死亡の人が増加するというのです。その原因は、不明ですが、飢餓という貧しい胎児環境では体の剣約プログラムが働いているが、成人して豊かな環境になると剣約プログラムが効かなくなると推測されています。現在、遺伝子学的な原因検索もされています。つまりお腹の中にいる時の環境が成人以降の疾病を決めているというわけです。翻って現在の日本では低出生体重児が増え続けており、低出生体重児は生活習慣病の予備軍と考えられます。このことを勘案すれば「小さく産んで大きく育てる」という日本人好みの考えは少し見直すべきかもしれません。

2.腸内細菌のディフィシル菌(CD:Clostridium difficile)と肥満に関係があることがお話しされました。CD菌感染の有無が肥満と関係しているとのことです。マウスの実験ではありますが、痩せた人の腸に多いCD菌をマウスに投与したところマウスの体重が増えないという実験結果が示されました。CDという腸内細菌が多いと痩せ、少ないと肥満というわけです。CD菌が肥満・痩せに関係していることを知り、少しおどろきました。

3.の肥満に対する外科治療です。図4のような方が減量手術の適応となります。これらの方々はレプチン食欲抑制ホルモン)が働かないため、とにかく猛烈に食べる人々です。手術の効果としては、術後には服用薬剤が減少するなどある程度有効なことが示されています。ただ術後にメンタル面での問題(自殺、うつ)が発症するリスクがあるとのことで、少し気になるところです。

4.の特定健診の課題です。これは国が数年前から実施してきた事業です。これまでの膨大な結果が集積され、最近の分析では肥満単独、つまりただ肥満というだけではリスクにならないことが分かってきました。要するに腹囲を肥満の第1基準として用いることには少々問題であることが示されてきたのです。たしかに日本人の肥満は年々増加しているのですが、他の国と比較すると肥満者は少ない国なのです(BMI25の肥満の人は男28.7%、女21.3%と23割です)。さらに気を付けるべきことは女性では腹囲90cmを越える人は少ないこと、もっと留意するべきことは腹囲90cmを越えない人肥満でない人)であっても心疾患のリスクを有しているのです。これらには大いに今後注意を払わねばなりません。つまり腹囲の基準から肥満でないとされても他の危険因子があればリスクが増加するのです。そのためには非肥満者へも指導制度が望まれるところです。

もう1席の講演について紹介します。演者は三菱電機株式会社伊丹製作所の平野通利氏でタイトルは「作業現場の安全について」でした。三菱電機の安全衛生の基本方針は「従業員安全と健康を守ることをすべてにおいて優先する」というものであります。重大災害は企業をつぶすことになります。安全管理の考え方の基本を①健康なくして人生なし②健康なくして安全なし③安全なくして企業の存続なしの3点においています。いずれも具体的で分かり易い考え方であります。また安全管理の運営上、具体的な手段の一つとして「指差し呼称」が紹介されました(5)。「指差し呼称」の励行で誤りが1/6減少したことも紹介されました。この「指差し呼称」は医療の現場でも十分に通用するのではと直感したので実践したいと思い立ちました。例えば予防接種の前にスタッフ一同が「指差し呼称」で確認することは、誤接種阻止に極めて有力と考えられます。実際の予防接種の現場では、接種するべき人を間違える(例えば兄弟間での間違え)、また接種ワクチンの種類を間違える、これらが遺憾ながら現場ではおこり得ます。そこで誤接種の防止対策として「指差し呼称」を実際に診療所で早速導入してみました。するとスタッフ一同の緊張感が極めて高くなり、スムーズに業務が進むことが実感として体得されました。これは簡便だが安全性を高める点において優れた方法だと考えられます。

 

160707.11 須磨寺のパンフレット

 

160707.2キャプチャ写真1 直実と敦盛の一騎打ち

 

160707.3キャプチャ写真2 境内の蓮の花

 

160707.4キャプチャ写真3 蕪村の句碑

 

160707.5キャプチャ2 研修会のレジメ表紙

 

160707.6キャプチャ3 4つの内容について

 

160707.7キャプチャ4 手術の適応

 

160707.8キャプチャ5 中央労働災害防止協会 ホームページから