都会の中での紅葉 11月12日

秋が本格的に深まり、はや晩秋も近づいてきました。もっとも毎日、諸事万端多忙のため季節の変化を感じる余裕もあまりない状態ですが・・・・・。でも秋冷という言葉を思い起こす日々となり、ようやく仕事も一段落し日曜日を迎えました。少し時間もとれたので外の空気を吸いに出ました。あいにく冷たい雨模様の休日となったため、止むを得ず近場の紅葉を観に行くことにしました。

出かけた目標地は大都会の真只中、大阪城公園です。小雨けむる中、さすがに人出は予想通りに少なく、おかげで楽々と景色を楽しむことができました。ちょうど西の丸公園では歌舞伎公演をしていました。平成中村座という興業で江戸時代の芝居小屋を現代に再現したものです。芝居小屋と大阪城、さらに木々の緑や紅葉が折り重なり、これを雨が包み込んだ風景は贅沢な眺めでありました(写真1)。都会の中で自然と人工物の見事な調和を楽しみ、すぐ近くにも絶景はあるものだと思い直しました。

さて今回は日本脳炎(以下、日脳)について少し再検討(というか、勉強のし直し)をしました。昔から日脳はあり、農家で豚を飼うようになってから広まったとのことです。日脳ウイルスは昭和10年頃に日本で発見されたので、日本という名前が頭についています(因みに感染症で頭に日本がついているのは、日脳と日本住血吸虫症だけです)。感染源は主にで、ウイルスに感染している豚の血を吸ったコガタアカイエカに人間が刺されて感染する伝染病です。ヒトからヒトへの感染はありません(図1)。根本的な治療法はなく、対症療法のみです。予防としては蚊に刺されないことでしょうが、これは事実上不可能です。現在のところ予防接種が有効で重要です。

日脳は私が小学校のころには割と身近な病気でした。周囲にもその後遺症の人がいた様な微かな記憶があります。子供のころ、蚊にさされると「日脳になるかもしれない」と怖い思いをしたものです。蚊に刺されないか、いつも心配していたものです。幸い昭和42年から日脳の予防接種が導入されたため、患者さんは激変しました(図2)。予防接種導入の前年、つまり昭和41年には患者数が2,017人とピークにあった、みるみるうちに減少しました。最近では毎年10人以下の発生数であります(図2の右上)。これは予防接種の絶大な効果といえるでしょう。また農薬散布も蚊の撲滅に効果があったといわれています。ですから現在、日本脳炎は過去の病気となってしまったかのような状態です。しかし、事実はそうではありません。その理由として次のことが挙げられます。

① 平成17年度から平成21年度まで予防接種の副作用のため「積極的勧奨の差し控え」がおこなわれました。つまり平成7~18年度に生まれた方は受けておられない方が多く、そのためこれらの子どもさんでは抗体保有状況が低いということが分かっています(図3)。接種機会を逃した感染ハイリスクの子どもさんがいるということなのです。事実以前、日脳感染者は高齢者に多かったのですが、最近では低年齢の人に多い傾向があるのです。

② 実は日脳による脳炎は軽症以下のことが多いため、正しく診断されていない可能性があるということです。日脳感染者を診た経験のある医師も少なく、一部は重症化し後遺症を残すリスクについては広く知られていません。

③ 厚生労働省によって豚の日脳ウイルス抗体の獲得状況が調査されています。その結果によると毎夏、日脳ウイルスを持った蚊は発生しており、国内でも感染の機会はあるということが分かっています。

④ 世界にはまだ年間3~4万人の日本脳炎患者の報告があり(特にアジアの水田、家畜の多い地域での発生が多い)、外国との交流が簡単になった現在では、感染の機会は多いということになります。

ですから当診療所でも母子健康手帳をよくみて日本脳炎の予防接種を受けていない人には積極的に勧めています。

以上のことからお分かりいただけると思いますが、「日脳は別にたいしたことない病気」と考えるのではなく「積極的に予防接種を受けることが適切な対応である」といえます。

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写真1 大阪城公園の紅葉と平成中村座の幟

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図1 日脳ウイルスの感染サイクル
福岡市心身しょう害福祉センター 宮崎千明先生の論文から引用
ラジオNIKKEI 2014年10月放送 

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図2 日脳の患者さんは激変しています 
(国立感染症情報センターのホームページから引用)

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図3 日本脳炎に対する抗体保有状況
2008年度の0~6歳群でこれまでにない低い割合となっています
(国立感染症情報センターのホームページから引用)