時のうつろい 11月20日

町を歩くとクリスマス商品、年賀状、来年のカレンダー等々が早々と店頭に並び、時のうつろいを感じさせる年末の風景が溢れはじめました。当然のこととはいえ、時の流れは確実に進んでいることを実感させられます。町の通りから公園の中に足を向けますと足許には落ち葉が見事に堆積し(写真1)、これを踏み歩いて進んでいると季節が秋から初冬へと移動する風情を感じました。流れる大気もやや冷たく感じられ、すぐに慌ただしい師走がやってくると思いました。そして冬支度もすぐ本格的になってくることでしょう。

今回は尼崎総合医療センターの小児科科長・毎原敏郎先生の虐待についての講演を拝聴しました。兵庫県医師会が県からの委託事業として児童虐待対応研修会を開催しております。この度の研修会ではこども家庭センターの職員からの報告と毎原先生のお話しがありました(写真2)。

虐待については、小児科医はもちろん教育機関をはじめ総ての関係者が連携して取り組んでいく必要があります。そうはいっても「いざ現実に虐待に遭遇した時、具体的にいかなる対処をするべきか」、これは大変難しい命題です。その足掛かりの一助になると考えられるBEAMS(ビームス)という虐待プログラムが詳しく紹介されました。BEAMSといっても決してアパレルメーカーの商標ではありません(笑)。英語のbeamには光の束、屋根の梁、笑顔という意味があることから、その複数形BEAMSという言葉に対し「虐待に光を当て、崩れゆく家庭を支え、子どもの未来に笑顔を」という願いが込められ創られた名称なのです。もちろん小児科医ならば誰しも虐待に関心を持っていますが、実際の日常診療では見逃しがちとなってしまうのが現状でしょう。そこでBEAMSを理解し、これを取得しておくと突破口となって虐待の見逃しを防げるのではないかと感じました。BEAMSのプログラムにはStage1から3までがあり、それを修了すると、より専門性を身に着ける医療者に進むように工夫されています。機会をみつけて是非Stage3まで進みたいと思っています。

また虐待の歴史も紹介されました。1874年に米国で初めて虐待に光が当てられ、日本では最近になって児童虐待防止法が成立しました(図1)。まだ外国に比べて日本は立ち遅れていると思われます。ただ児童虐待防止法はかなりインパクトがあり、虐待を疑えば通知義務があることも一般の人にもだいぶ広まってきています。虐待の通知は電話番号189でできます。ここに電話をすれば、近くの児童相談所に連絡がつきます(写真3)。大事なことは「虐待を疑ったら早めの通知をする」ということです。その理由は、虐待は疑わなければ発見できないこと、見逃しにより進行するということであります。

では、虐待の通知元は何処が多いのでしょうか。図2に示したように平成25年の調査によると医療機関からの通告率は2.7%と少ない状況です。医師には一般の人より虐待(特に身体的)を発見する機会が多いと思われますが、何故医療機関からの通告が少ないのでしょう。このひとつの理由として「虐待を否定しておきたい」という心理があるためなどともと考えられます。しかし、この現状ではいけません。虐待の有病率は高いこと、見逃すと致死率が高いこと、自然寛解しないこと、合併症が多いこと、次世代へ持ち越すこと、社会的悪影響が多いこと、これらの諸点から医療機関では看過することはできません。虐待には常に心して対応しなければならないのです。

最後に坂井聖二先生の言葉を紹介させていただきます。これは毎原先生の講演で最後に紹介されました。それは「我々が、虐待の存在を全く考慮に入れない時、また虐待の存在を疑いながら様々な理由をつけて、その問題に対処しないとき・・・ それは我々の行うネグレクトである。我々は“常に加害者になりうる”ということを意識しなければならない」というものであります。この言葉を噛みしめ常に虐待を念頭に置くことが重要です。

今回は毎原敏郎先生の講演および同レジメから多くを引用させていただきました。篤く御礼申し上げ、社会全体が虐待の問題に対して関心を高めることを願うところであります。

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写真1 公園の足元の落ち葉

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写真2 当日の配布物表紙

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図1 虐待の歴史 毎原先生の講座レジメからの引用

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写真3 虐待の通知の電話番号
 厚生労働省のポスター

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図2 機関別の虐待通知率 医療機関は少ない通知率
毎原先生の講座レジメからの引用