二月に入って 2月1日

今年の2月は4年に一度の閏(うるう)年です。28日ではなく、1日多く29日まであります。「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」といわれ、あっという間に月日は過ぎ去っていきます。時間は貴重で大切なものだという教えであり、子どものころからよく先生に言い聞かされてきました。しかし、なかなか凡人には時間を大切に、上手に使いこなすことは出来ないものです。無駄に時間を過ごしてしまうわけです。この年齢になっても時間を無駄にし、臨床医学の本の山を前に置いても、なかなか手に取って読むことが出来ません。時間が過ぎ去っていくばかりです。できる限り医学書に目を通し、実臨床に還元したいと思いますが、思うようにはいかないところです。それでも少しずつ進むしかなく、これも臨床家の宿命と思い、時間を大切にして医療に励むようにしています。

そのようなわけで今回、何とか時間を作り、生活習慣病、とくに高血圧に的を絞って最近の動向に少しばかり触れてみました。

現代では生活習慣病に罹っている人は本当に多くおられます。その生活習慣病のなかでも高血圧の人は極めて多く、一般の内科診療外来には多数の患者さんが通院されています。これらの患者さん方すべてに最新の知見をとり入れた医学的対応が必要なことはいうまでもなく、新知見を御伝えしていくことが大切です。

まず高血圧の診断基準です。血圧には診察室血圧と診察室外血圧(これには家庭血圧と自由行動下血圧の二つがあります)があり、それぞれにおいて高血圧の診断基準が日本高血圧学会(JSH:The Japanese Society of Hypertension)で決められています。この診断基準はJSH 2014と呼ばれています(1)。簡単で単純なことなのですが、この微妙な数字の違いを十分に認識していないと案外混乱してしまいます。また血圧は測定方法によって大きく異なるので正しい測定方法が必要とされます。日本高血圧学会をはじめ、色々なところで出しているパンフレットなどにも詳しい測定方法が示されています。家庭で患者さんに血圧測定をしていただく時には、この正しく適切な方法を詳しく説明する必要があります。さらに単に家庭血圧を測定するだけでは不十分です。その血圧測定結果を記録していただくことが大切です。その記録をもとに診察室血圧を測定して評価検討することになります。

さて次に診察室血圧ですが、世界のガイドラインはすべて「14090mmHg以上を高血圧」としています。日本高血圧学会JSHでは診察室の血圧について図2のように診断基準を定めています。最終的には図3に示したように診察室と診察外血圧を見て慎重に高血圧症の診断をすることになります。

では以上のような方法で高血圧と診断された人は、我が国ではどのぐらいおられるのでしょうか。統計によりますと高血圧患者さんは全国で4300万人くらいかと想定されております(4)。つまり(子どもさんを除けば)ざっくり言って実に2人に1人が高血圧ということになります。これは「驚くべき多い人数」といえるでしょう。高血圧の人においては各々個人によってそれぞれの症状があり、また生活環境・習慣も異なり、各個人に最も適切な医療を提供していく必要があります。ところが後で述べますが高血圧であるのにもかかわらず治療を受けている方は半分程度と少なく、多くの方が無治療であるというのが現状であります(図4)。

次に高血圧の人ではどの程度まで血圧を下げればよいのでしょうか、つまりその治療目標値についてです。それは図5に示された通りです。ところが困ったことに、なかなか目標値に達する人が少ないのです。図3に示すように治療を受けている人においてコントロール良好な人は男子30%、女子40%程度にとどまっているのです。それどころか、幾つかの降圧剤を服用し、また御本人も日常生活上も努力されているのにもかかわらず血圧が下降しない人がおられます。このような血圧コントロール不良な患者さんに対し「治療抵抗性高血圧症」という考え方がなされています。その定義は「利尿薬を含む適切な用量の3種類の降圧剤を投与しても目標血圧まで下がらない状態」とされています。治療抵抗性高血圧症の人は10ないし30%程度おられると報告されております。つまり治療抵抗性高血圧症の人は、少なくないのです。しかもこれらの人は脳・血管障害が多いとされており、結構困ったことなのです。たしかにひと昔前には上の血圧が200以上の人に時々出会いましたが最近はこのような人は流石に少ない印象があります。その一方でなかなか治療をしても十分に血圧降下の得られない人も一定数おられます。そこで治療抵抗性高血圧症を考慮して対処する必要が出てきます。まずは

 本当に薬を服用しているのか

 減塩食を励行しているのか

 血圧を上昇させる薬剤(非ステロイド性の抗炎症剤、ステロイド、甘草を含んだ漢方薬など)を服用していないか

 二次性高血圧について検討する

などについて考慮する必要があります。

 についてです。長期間にわたる薬剤服用に対し抵抗を持つ人は結構多く、自己判断で減量ないし中止をされている人がおられます。御自身では全く症状がないこと、だんだん血圧が下がってきて不安になる等の気持ちを持たれ、止めてしまうことがあります。これらには注意が必要です。

 ですが、まだまだ日本人は塩分の多い食事を好んでいます。当院でも尿で塩分摂取量を測定しており、多くの高血圧の人が10g/日以上の食塩摂取をされておられます。これには御本人も驚かれています。日本人の高血圧は食塩依存症といわれているのです。

 については特に高齢者の場合、痛み止めを常用されていることも多く、併用薬が血圧上昇作用をしていないかには注意をする必要があります。

④の二次性高血圧についてです。かつてはごく一部と考えられていた疾患ですが、意外と多いことが分かってきました。早い時期に必ずすみやかに検討し、除外しておく必要があります。

高血圧については本当にたくさんの知見が日進月歩で出されており、ついていくのが大変な状況です。毎日、アンテナを張って鵜目鷹の目で高血圧についての情報を収集している毎日です。

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1 異なった測定場所における高血圧の基準値
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」による

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2 診察室における高血圧の基準値
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」による

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3 高血圧の診断の流れ 
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」による

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4 大日本住友製薬のホームページからの引用
http://kanja.ds-pharma.jp/health/ketsuatsu/complete/hypertension/hy04.html

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5 降圧目標
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」による