映画鑑賞と予防接種講演会 2月1日

映画と予防接種という全く相容れないテーマに週末を過ごすことになりました。寒い日、その中を外出し大勢の人が集まる閉鎖空間に身を置くことは健康にはあまり良くないかもしれません。しかし休日を一日中家に閉じこもっているのも体によくないと判断し、厚着の上にマスクまでして外出しました。映画は「ある日、突然」というタイトルです。原作者は天野風太郎という方である会合で御本人と出会う機会があったのです。初対面の場で自らの著作「ある日、突然」が映画化されたということを天野氏から直接お聞きしました。映画の舞台が神戸市であり、映画には神戸の街並みが溢れていると聴き、それは「楽しそう」と思い今回、観に行くことになりました。内容は原作者自身の還暦までの人生模様を語った作品でした。何といっても同氏とは同年代です、育ってきた時代背景がほとんど同じで共通した哀歓を感じました。また神戸の人間にとって阪神大震災は人生歯車を狂わせましたが原作者もその被害を受けた1人であることもよく分かりました。市井のどこにでもいる普通の1人の人間が「ある日、突然」おこる事件に遭遇させられる、そのことを再認識し少し深く考えました。それでも人は精一杯生きていく姿勢が大事なことなのです。というわけで早速原作の文庫本(写真1)を購入し、一読致したところです。

予防接種について日本は先進諸国に比べて(開発途上国にさえ)遅れをとっています。日本の予防接種を振り返ってみますと過去20年は「暗黒の20年」とさえ呼称され、本当に困った時代でした。それでもようやく現在は、少しずつ先進諸国並みとなってきました。つまり日本でも接種可能なワクチンが増えてきたのです。ようやく医療提供者としては安心感を持てるようになってきました。

このたび大阪で行われたワクチンセミナーに出席する機会があり、幾つか大切なことを再認識する機会がありました。帰宅後も復習をするとともに、他の予防接種に関する文献をまとめて読みました。そこで今回、特に気になったことを幾つかあげてみました。

まずヒブ(髄膜炎)ワクチン、肺炎球菌(髄膜炎)ワクチンが20134月に定期接種に組み込まれ、その後赤ちゃんの髄膜炎は激減しました(図1)。もちろん他の国ではすでに髄膜炎の激減を達成しており、日本も遅まきながらやっと達成したというわけです。暗黒の20年の時代にはヒブ髄膜炎は毎年600人、肺炎球菌髄膜炎は同200人くらい発症していました。単純に計算して20年間でヒブ12000人、肺炎球菌4000人の髄膜炎の赤ちゃんが発病していたことになります。この中には後遺症が遺り、また亡くなる赤ちゃんも多くいたわけです。さらにヒブ髄膜炎については2014年についに罹患率は0となりました(2)。大変喜ばしい成果といえるでしょう。毎日、臨床の現場にいても髄膜炎の赤ちゃんを診る機会は減少したように実感しています。以前は「高熱で頭がおかしくなるのでは」と外来で心配される祖父母が多くおられましたが、これは子どもさんの髄膜炎が多かった時代を知っている年代の人々が持つ恐怖感が根底にあるためと思われます。

次に麻疹と水痘ワクチンについてです。麻疹については数年前の若年者を中心とした大流行により、中高生を中心に対象とした麻疹ワクチン実施が5年間の時限立法で実施されました。また1歳児と年長児に対し2MR(麻疹・風疹の混合)ワクチンの定期接種が実施され、現在ではほとんどの子供さんが2回接種を受けておられます。その結果、麻疹の人が減少し大流行が抑制されました。つまり麻疹で死亡する人も当然減少しました。一方、水痘の予防接種は201410月から子供さんを対象に定期接種化されました。しかし、まだはじまって日も浅いため接種率は低く、また高齢者の水痘患者さんが増加しております(米国では高齢者への水痘予防接種は推奨されています)。そのため両者の死亡者数を検討してみますと、何と水痘による死亡者が麻疹死亡者数よりも多くなってしまったのです(図3)。ですから水痘予防接種については、今後の幅広い普及が必要であります。

次に百日咳についてです。現在、百日咳は増えております。特に大人の百日咳が多いのです。これは子どもの時に受けた3種混合ワクチン(ジフテリア、百日せき、破傷風)が大人になって効果が薄れてくるからです。だいたい15年ぐらいで効果が低下するといわれています。ただ大人の百日咳は子どもと違って軽いことが多く、診断には苦慮します。なかなか診断がつかないまま、大人の百日咳が子どもさんへの感染をおこしてしまうのです。私の診療所でも年長児や成人の百日咳に時々遭遇します。問題は小さな子どもさん、新生児、乳児に百日咳の感染があると致死的な経過をとる可能性があるということです。そのため米国では2012年に妊娠20週以上の妊婦に対して成人用三種混合ワクチンの接種を勧告しました。米国でお産をするならば成人用3種混合ワクチンを受けねばならないというのが現状です。予防接種には国情の違いがありますが、日本もまだまだ世界の中では遅れているようです。もう少し我々医療提供者は正しい情報を伝える義務があると考えられます。

図1、3、4はふじおか小児科(大阪府富田林市)藤岡雅司先生の講演スライドから引用させていただきました。厚く感謝しております。

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写真
1 2013年文芸社刊

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1 予防接種による髄膜炎の激変

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2 ついにヒブ髄膜炎は0となる

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3 水痘の死者が麻疹の死者を越えている

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4 百日咳は大人に増えています