春近し 2月10日

節分が遠くに過ぎ去り、暦の上では次第に春が近づいてきました。近くの公園を歩くと桜の花の固いツボミが、以前よりも少しずつ大きくなっていることに気づきました。ただツボミの後ろにはあくまでも寒々しい風景(写真1)が広がり、また足元に目をやると、カモと冷たい川の流れ(写真2)がみられました。いや、まだ春は少し遠い模様です。

何とか1週間の業務が終了し、待ちかねた週末の土曜日がやってきました。前回の高血圧症に引き続き、生活習慣病に関する新知見を得るため今回は土曜日の午後、糖尿病をテーマとした講演会に出かけました。出席したのは兵庫県医師会の主催する学術講演会でした(図1・2)。4つの講演から構成されており、全部で約3時間半に及ぶ講演でした。せっかくの半日休みの土曜日にもかかわらず、多数の先生方が出席しておられました。皆様の勉強熱心さには圧倒されました。その向学心に囲まれ、学術的にもハイレベルな雰囲気に包まれ、有意義な時間を過ごすことが出来ました。今回、4人の演者によって話された講演内容について、ほんの一部だけを私なりのエッセンスとしてまとめました。

厚生労働省は平成25年に「2014年患者調査の概況」を発表しました。この調査は「医療施設を利用する患者について、その傷病の状況などを調査し、今後の 医療行政の基礎資料を得ること」を目的としているものです。同調査によりますと糖尿病患者数は316万6千人でありました(1)。1010万人という高血圧患者さんよりは少ないのですが、糖尿病患者さんは増加傾向にあることが注目されます。前回調査(2011年)から46万6,000人増加し過去最多の数となっているのです。また同省の平成26年(2014年)「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる人)の割合は、男性で15.5%、女性で9.8%であり、増加傾向にあります。特に女性が増えていることが印象的であります(図3)。なんとも現代は糖尿病真っ盛りの印象を受けてしまいます。

さて糖尿病の究極の治療目標は「健康な人と変わらない健康寿命を延伸させること」にあります。ところが日常診療においては血糖、またHbA1cを正常化させることばかりに目を奪われがちになります。医師も患者さんも、あたかも「血糖を下げることこそ大事だ」と錯覚しそうにさえなります。しかし、けっしてそうではないことを今回あらためて再認識しました。まず糖尿病における合併症を正しく理解することが必要であります。

糖尿病の合併症には大きく分けて細少血管障害と大血管障害の2つがあります。前者の細少血管障害には末梢神経障害、網膜症、腎症があり、今回の前3講演はこれらについて順次解説するものでありました。後者の大血管障害には脳血管障害、虚血性心疾患および糖尿病性壊疽の3つがあり、これについては最後4番目の講演で解説されました。

順次、これらの合併症について大事な点を提示します。

まず細少血管障害のうち末梢神経障害です。神経障害は最も早期に出現する糖尿病の合併症であります。しかも最も頻度が高い合併症なのです。眼科での網膜管理、内科における微量アルブミンの定量は実施していても神経障害の評価はあまりされていません。それは良い評価法がなかった、つまり客観的な使い易い評価法がなかったからでしょう。ところが糖尿病性神経障害を考える会が提唱した簡易基準(表2)を用いると、その評価が簡便に出来るものと評価されています。ぜひ糖尿病の患者さんの足をよく診て簡易基準を用いて、神経障害の評価をすることが必要です。

次に網膜症です。視覚障碍の原因として糖尿病性網膜症の占める割合は少し低下しています。しかし、50歳代の視覚障害ではやはり糖尿病性網膜症がもっとも原因として多く、その重要性には変わりがありません。視力障碍が出現してから医師も患者さんも動き出すのが現状であります。この現状を打破するためには内科と眼科の協力が必要であることが、当然ではありますが強調されました。

腎症は最終的には腎透析が必要となります。現在、透析患者さんは約31万人おられますが、その原因の第一位を糖尿病(118000人、38.1%)が占めています。腎症は長い経過ののち出現する合併症であります。ですから油断は禁物で、早い段階からの早期発見が大切です。その早期からの評価には尿中微量アルブミンの定量が必要です。糖尿病の腎臓についてはまずは5年ぐらいかけて微量アルブミンが増加し、そのあとeGFRの低下、血中クレアチニン値の上昇の順序で出現してきます。つまり血中クレアチニン値の上昇があるということは、すでに進行した腎症であることを意味します。ですから定期的に採尿し、尿中微量アルブミンの定量を反復検査し、正しく病状を把握していくことが大切というわけです。

最後は大血管障害です。いうまでもなく糖尿病は動脈硬化を促進させ、しかも糖尿病に合併した脂質異常は動脈硬化を促進させます。それ故、糖尿病では脂質異常症を管理することが重要です。ただ生活習慣の改善だけでは脂質異常症をコントロールすることは不可能と考えられ、やはりスタチン製剤などが必要とされます。正直、糖尿病の人においては血糖、HbA1cに重点をおいてしまいます。しかし脂質異常症に対して関心が低くなることがあってはなりません。

以上が私なりのまとめです。しかし考えてみれば当たり前のこと、基本的なことを並べただけとなってしまいました。今後も引き続き、色々と知見を習得していきたいと考えました。

 

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写真1 桜のツボミと寒い空

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写真2 カモと冷たい川の流れ

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図1 講演会のプログラム表紙

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図2 講演会のプログラム内容

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表1 厚生労働省「
2014年患者調査の概況」による(一部抜粋)

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図3 糖尿病有病者の割合の年次推移
厚生労働省
「2014年国民健康・栄養調査」による

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表2 糖尿病リソースガイドからの引用
http://dm-rg.net/contents/complication/008.html?pr=dmrg001