年度替わり、そして春 4月8日

4月になり、新しい年度に替わりました。各学校では学年進級する人、入学する人がいます。また新しく社会人となる人、そして引退生活に入る人等々、様々な人がおられることでしょう。桜の花も満開となり、そして散りはじめました(写真1、2、3)。暖かい風とともに希望に溢れる季節である春がここに到来しました。

しかし医療現場には暖かい春風が吹いているとはいえません。4月1日から医療保険制度の改正が実施され、少しばかり混乱を極めている状態なのです。同制度は2年おきに改正が実施されております。ただ直前までその詳しい改正内容の全貌が分からないので準備はいつも大慌てとなっています。もちろん事前に改正についての説明会も幾つかあります。しかし解説書を読みながら説明を聞いただけでは、なかなか理解しがたいのが現実です。変更の具体的なイメージを理解しずらいのです。微妙な事案については「追って詳細を通知します」というようなことも多く、不安・複雑な気持ちで4月1日を迎えるというのが何時ものことです。それでも私たち医療者は、その道のプロであります、何とか新制度の理解に努め、問題の解決にあたります。近年における改正の基本は「持続可能な社会保障制度を実現するためには医療費の削減が必要である」ということに置かれています。高齢化社会を迎え、特に団塊の世代が75歳となる2025年に向けて医療への支出を抑える必要があるというのが国の考え方です。この国の意図を理解し、医療関係者が最大限の協力・努力を注いでいるところです。ここしばらくは辞書のような分厚い改定診療報酬点数表参考資料(写真4)を片手に携え、これを見ながら外来業務をするという日々が続いています。

さて、このように諸々の案件と毎日格闘していますと当然、身体的・精神的疲労が襲ってきます。医師たるもの、自分が率先して健康であることを示さなければなりません。しかし、さすがにストレスが蓄積し、ついに少しばかり上腹部痛が襲ってきました。そこで「倒れてもタダでは起きない」という心情で「腹痛があるのなら逆流性食道炎のことを自主学習しよう」と決めました。

逆流性食道炎という疾患は、最近ではもう少し大きい概念で「胃食道逆流症」という概念の疾患に変わってきました。逆流性食道炎という病名はよく知られた病名ですが少しずつ考え方が変わってきており、そのため詳細が案外正しく理解されていないようです。現在、逆流性食道炎は胃食道逆流症(以下GERD:gastro esophageal reflux disease)であるという考え方になってきています。このGERDという疾病は胃の内容物が食道に逆流しておこる病気の総称を意味しています(図1)。胃の内容物には胃酸が含まれており、これが食道に逆流し食道粘膜を傷つけ食道炎を起こした病態、これがGERDなのです。さらに詳しくいいますとGERDには

①内視鏡で食道炎が認められる逆流性食道炎

②内視鏡で食道炎が認められない非びらん性胃食道逆流症(NERD:non-erosive reflux disease)

の2つがあります。どちらも食道に酸が逆流することでおこることは同じなのですが、ただ内視鏡での所見に違いがあるというわけです。

注目すべきことは最近、GERDが増加しているという点です(図2)。それは欧米風の脂肪の多い食事が胃酸分泌を増加させること、およびピロリ菌感染の減少があるためといわれています(ピロリ菌が感染していない胃では胃酸分泌が増加してます)。もちろんGERDへの関心の高まりが社会全体にあること、また診断技術が進歩したことでGERDが発見されることが多くなったこと、これらも増加の原因でしょう。

GERDの症状ですが、定型症状と非定型的症状があります。前者は食道で起こる症状で典型的なものとして胸焼け、吞酸、その他に胸の痛みがあります。後者は食道外で起こる症状であり、のどの違和感、咳などがあります。ここで注意すべきことは症状の強さと食道炎の重症度とは一致しないということです。また咳や胸痛という消化器とは関係がない非定型症状があるために呼吸器内科や循環器内科を受診することがあります。そこで心臓や肺の検査を受け、「異常なし」といわれる可能性があります。ですからGERDを常に念頭に置くことが大切です。ことに慢性に続く咳の原因にGERDがあることはよく知られたことであります。GERDの治療により咳が軽快治癒することもあるので忘れてはありません。

GERDの診断については食道pHモニタリング、食道・胃造影検査、内視鏡などがあります。ただ実際には症状からGERDを推定し、薬物による効果の有無をみて診断することも比較的よくあります。これは治療的診断といわれ、実地臨床では時に実施されています。

GERDの治療には生活習慣の改善、薬物療法、手術療法の3つがあります。一般内科の外来では主として前2者が行なわれています。

生活習慣の改善として欧米型の食生活(脂肪摂取を控える)を避ける、夜食・深酒をしない、減量によって肥満を改善する、禁煙する、姿勢を正しくしてお腹を締め付けない等があります。薬物療法は刺激となっている胃酸分泌を抑制することにより、GERD発症を抑制します。最もよく使われている薬剤であるプロトロンビン阻害剤(以下PPI:Proton pump inhibitor)は効果が高いことが知られています。PPIを決められた期間(4-8週間)服用しても軽快しない人もおられます。このような人はPPI抵抗性胃食道逆流症といわれ、専門医の治療を受けることが必要となってきます。

一般にGERDは完治し難い疾患です。それは薬剤服用時には逆流を阻止出来ても中止により逆流が再開するからです。ですから維持療法として薬を飲み続けることが必要なこともあるので注意が必要です。

いずれにしろGERDの話には奥が深いものがあります。日本消化器病学会では2010年に胃食道逆流症ガイドブックを一般の人に向けて出版しております。一般向きといっても大変参考になるものであります。インターネットでも配信されておりますので、ご興味のある方は是非、閲覧されることをお勧めします。

キャプチャ1
写真1 咲きはじめた桜の花

キャプチャ2
写真2 ほぼ満開となった桜の花

キャプチャ3
写真3 大変美しい夜

キャプチャ4
写真4 改定の参考資料
電話帳のようです

キャプチャ5
図1 GERDは胃の内容物が逆流してがおこる疾病の総称
astellas製薬のホームページからの引用

キャプチ6ャ
図2 GERDは増加している
日本消化器学会 胃食道逆流症ガイドブック2010より引用

キャプチャ7
図3 日本消化器学会 胃食道逆流症ガイドブック2010