春の嵐 4月16日

「春の心はのどけからまし」と詠んだのは平安時代の歌人・在原業平です。この短歌の意味は「桜の花があるために人の心が穏やかでない」という意味です。たしかに桜の花が散ると何となく落ち着きません。3月から5月にかけては日本付近で急な低気圧の発達があるため、いわゆる春の嵐というまるで豆台風並みの強い風や雨がおこることがあります。先日も強い雨風がやってきて桜の花びらが散り、土の上に積りました。花見の人の姿もほとんどみられず、何やら少し寂しい厳しい春の1日となりました(写真1、2)。またニュースでも強風とは直接関係ないでしょうが、立て続けに小型飛行機の墜落事故が報道されています。八尾飛行場での軽飛行機の墜落、また鹿児島での自衛隊機墜落が発生しており、心が痛む思いであります。このように天候、ニュースが春の嵐の如くであり、心が落ち着かない日々を過ごしています。これではよろしくないので腰を落ち着け、本業に精を出すこととしました。

今回は骨粗しょう症について再々履修する機会がありました。ここ20年くらい前から骨粗しょう症は急速に注目されはじめた疾患です。それは骨粗しょう症が高齢者に多く、高齢化社会となった現在では誰も罹患する可能性があり、避けて通れない疾患だからです。骨粗しょう症になると骨折し易くなり、特に大腿骨近位部骨折を発症すると寝たきりになる可能性があるからです。幸いなことに近年では予防治療が骨粗しょう症には開発されており、打つ手立てがあること、つまり適切な医学的対応が可能となっているからであります。

偶然、同じ日に御二人の整形外科医師から骨粗しょう症の話を聴く機会がありました。1人目は神戸市立医療センター中央市民病院の安田義先生、2人目はかみむら整形外科クリニックの上村正樹先生でした。ひとくちに骨粗しょう症といっても幅広い内容の疾患です。したがって御二人の話を聴いても、骨粗しょう症の全貌を把握することはなかなか困難、というより不可能です。とりあえず両者の話を自分の頭の中でまず何とか理解し、その後、自宅で再編成する作業に追われることになります。さらに医学書やガイドラインを自宅で読むことによって知識を補完していく努力を積み重ねます。そうしてようやく日常診療の中へ還元していく、このような手順を講演会の後では踏んでいるところです。

何といっても骨粗しょう症に関しては、予防と治療ガイドライン2015版(写真3)が公表されており、大変助かっております。少し疑問に思うことがあっても大体のことは同ガイドラインに掲載解説されており、心強い限りです。

まず骨粗しょう症の病態(というか定義)は「骨折危険性が増大をした状態」というものであります。つまり骨の強度が低く、折れ易い、この状態を骨粗しょう症というわけです。骨粗しょう症の人は日本で現在、1280万人を超えると推定されており、このうち980万人が女性といわれています。つまり女性に多い疾患であり、50歳以上の女性は3~4人に1人ぐらいが骨粗しょう症といわれています。このように大変患者さんは多く、あまり多すぎてショックを感じるほどの数です。ところが現実的には積極的・深刻に心配されている人が少ないように思われます。それは骨粗しょう症が初期のうちは、無症状であるためかと思われます。さらにまた高齢の女性の方は「年だから仕方がない、自然に老化していく、それがいちばん宜しい。それに薬をたくさん服用するのを避けたい」という考え方の人も多い様子であり、診断や治療面に積極的でないことも考えられます。このような現状のもと、ある日突然、手首の骨折が発症し、いや応うなく骨粗しょう症に注意が向けられることになるわけです。50才台の比較的若い人では手首、背骨の骨折が多く、高齢者には大腿骨近位部骨折が多くなります。手首、背骨の骨折はともかく、大腿骨近位部骨折は生命予後を脅かすことになってしまい寝たきりとなるリスクを増加させてしまいます。

では予後の深刻な大腿骨近位部骨折の発症は、年間どのくらいあるのでしょうか?実は2007年で同骨折の発生数は148100人(男31300人、女116800人)にのぼり、しかも発症率は毎年増加傾向にあると報告されています(図2)。さらに驚くべきことに先進諸外国では日本とは正反対に骨粗しょう症の発症率は低下傾向にある(!!)のです。ここに我が国における骨粗しょう症への対応が遅れていることが示唆されています。医療者はもちろんのこと国民全体が理解して対応していくことが必要です。

骨粗しょう症の診断検査には腰椎DEXA法(dual-energy X-ray absorptiometry)が最も正しく、これが世界標準となっています。ただ同DEXA法は重装備のため頻回に測定することは難しく、一般的には他のレントゲン法や超音波検査なども汎用されています。また骨吸収マーカーという血液検査も診断の参考となりますが、これは主に治療判定に有効です。

骨粗しょう症の治療についてです。治療の究極の目的のひとつに大腿骨近位部骨折の発症を阻止し、寝たきりにならないようにすることがあります。最近では非常にたくさんの有効な骨粗しょう症の薬剤が市販されており、選択に困らされるほどです。とはいえ骨粗しょう症の病態を考えると①骨の吸収が亢進している②ビタミンD関連のカルシウム代謝が障害されている、この2点になるわけです(虎ノ門病院の竹内靖博・先生)。この点を理解すると分かり易くなってきます。それ故、各患者さん個人の病状を諸検査でよく把握し、適切な薬剤を選択することが必要です。ガイドライン2015版には、極めて明確に薬剤が呈示されており患者さんの生活実情に即して薬剤を処方することが大切であります。

今回、熊本を中心とした九州地方で大変大きな地震が発生しました。現時点でも救援活動が必死で行われています。阪神淡路大震災を経験した身にとっては、労苦が想像できます。今後の速やかな復興を心から祈っております。

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写真1 満開の桜、診療所近くの都賀川公園

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写真2 散り去り、土の上に積もった桜の花

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図1 骨粗しょう症のガイドライン2015年版
たいへん御世話になることが多いガイドラインです

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図2 骨粗しょう症のガイドライン2015年版からの引用