五月の新緑 4月28日

 弥生がゆっくりと過ぎゆき、若葉の五月が近づいてきました。公園の桜の木々も美しく若々しい緑の光を放ってきました(写真1)。樹木の緑が美しく、吹く風もおだやかになってきました。間もなく五月です。川の上を鯉のぼりが爽やかな風をお腹に吹き込むようにして泳いでいました(写真2)。行きかう人々も鯉のぼりに目を奪われ、眺めいっています。

時節は、かくも穏やかに流れております。しかし熊本の震災は日が経つにつれて爪痕の大きさがはっきりとしてきました。そのため重苦しい気持ちになっております。医師会でも日本医師会災害医療チーム(JMAT :Japan Medical Association Team)が機能し、現地へ赴く医師を募っています。今回の震災を目の当たりにして自然の前には人間は非力であると改めて思いしらされました。完全な防災は事実上無理であり、せめて減災をしていくことが重要だと思いました。(少し飛躍して恐縮ですが)医学においても完全な疾病の発病予防は不可能であります。しかし発症しても軽く済ませること、これが大切であると今回思いました。つまり完全な疾病予防は不可能でも重症化を予防することが大切なのです。というわけで、今回は予防接種の会に出かけてきました。

ワクチンセミナーが開催されるというので出席しました(図1)。講演とパネルディスカッションで構成されており、多彩な職種の人々が個々の立場から話をされました。なかなか多岐にわたる内容であり、医療現場の苦労は誰もが共有していること、そして難解な課題を解決しようと努力していることがよく分かりました。現場における問題に対して生の声を上げ、いかにして皆なで解決していくか、その意気込みを感じることが出来ました。

なかでも藤岡雅司先生(ふじおか小児科・大阪府)のお話は拝聴するのは2回目ということもあり、非常に分かり易く参考になりました。小児科では毎日、子どもさん達と接し一生懸命予防接種を実施しています。それでも改善点や反省点が幾つもあることを教えられ、今一度考え直す機会となりました。その一部を紹介してみます。

さすがに最近ではワクチンの同時接種をためらうお母さん方は少なくなり、任意接種(言い換えれば有料)のワクチンでも説明をすれば多くの人は納得して受けていただけるようになりました。しかし

    どうしてもワクチン接種を受けさせたくないという保護者も少数ながらおられること

    制度そのものが複雑であること

    受けるべき予防接種が多いために保護者が忘れてしまうこと

等々の問題点があります。

このような様々な問題については現場では日々直面しており、医療者サイドの苦労にはそれなりのものがあります。これを打開するのには何といっても医療者サイドが知識を十分に持ち、これをわかりやすく粘り強く保護者の方々に説明することが必要です。この丁寧な説明が第一となります。その説明方法を具体的に紹介がなされました。

まず①についてです。これは予防接種におよび腰な保護者に対する説明の仕方ということになります。少し話が突飛になりますが、我々日本人は農耕民族であり、物事を自然に委ねる傾向があります。ですから「病気には自然にかかり、各個人が免疫をつけていくことが自然である。予防接種は不自然であり受けさせたくない」と考える傾向がある様です。しかし自然にかかると免疫はついても子どもさんをより危険な目にあわせ、また他人にも感染をおこしてしまいます。それどころか自然にかかった場合、より重い合併症がおこります。それに対しワクチンによる副反応は、一般的に軽いとされています。つまりワクチンは有効な免疫をつけることが出来るのです。自然に罹って獲得される免疫とワクチンにより獲得される免疫には何の違いもないのです。このようなワクチンの意義、またワクチンは大変有効であるということを保護者に説明することが基本となります。次にワクチンによる予防効果を説明することも有効です。例えばヒブによる細菌性髄膜炎は、ワクチンの導入によりわずか数年間で激減し発症が0となってしまいました(図2)。ヒブワクチンは現在、定期接種となっており、今後はヒブ髄膜炎を診たことのない小児科医が多くなるものと期待されています。このようなワクチンの素晴らしい成果を保護者の方々に詳しく伝え、受けていただくことが本当に大切です。

次に②と③についてです。これについては初めてワクチンを受ける生後2か月の時(いわゆるワクチンデビュー)、そのおおまかなスケジュールを組み立て紙面に書いて説明することがある程度有効です。また最近では予防接種の通知アプリもあり上手に利用することもよいでしょう。

いずれにしろ医療者側が積極的に保護者の方々に働きかけ、予防接種の重要性を説明することが大切です。

最後に現在まだあまり知られていないワクチンであるB型肝炎ワクチンについてです。その意義を説明し、予防接種に対する保護者の理解を高めることは極めて大切です。B型肝炎ワクチンは本年の10月から定期接種に組み込まれ、遅まきながら我国もようやく先進諸国並みの予防接種体制になります。しかし何といってもB型肝炎の患者数は圧倒的に多く(図3)、しかも3歳未満の子どもさんにはうつりやすく、しかも一生感染し続ける、つまり慢性化することがわかっています(図4)。つまり「B型肝炎とは子どもさんの病気」ということなのです。この患者数の圧倒的な多さ、また子どもさんが罹りやすい病気であるということを多くの保護者は知っていないように思われます。しかも医療者側でさえ、この大問題に対する関心・認識が比較的低く、予防接種の効率や重要性にも関心が低いように思われます。ただ厄介なことにB型肝炎ウイルスは尿、汗で感染し、格闘スポーツでは伝染しやすいとされています。さらに最近、B型肝炎ウイルスは母親からだけでなく父親からの感染が注目されています。このことからB型肝炎に対しては生まれて間もなくの予防接種が最も効果的なのであります。今年の秋からのワクチン定期接種の効果に大変期待をよせているところです。

160427.1写真1 花が散って緑となった桜の木

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写真2 川の上を泳ぐ鯉のぼり

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図1 ワクチンセミナーのプログラム

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図2 ヒブ髄膜炎は100%減少しました

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図3 B型肝炎の患者さんは非常に多いのです

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図4 子供さんは3歳未満に罹りやすく、しかも
小さいほどキャリア化し易いのです

今回の図は、ふじおか小児科の藤岡雅司・先生の講演原稿から引用させていただきました。
厚く御礼申し上げます。