お稽古ごと 5月30日

人には、それぞれ好きな趣味があるものです。趣味には物品の収集、旅行、読書、お稽古事……等々、それこそ星の数ほどもあり枚挙にいとまがありません。なかでもお稽古ごとと名のつく趣味は、自分が必死になって稽古しない限りほとんど上達しないものです。楽器であればピアノ、バイオリン、ギターetc.、、、、、どれでも相当に練習の積み重ねが(特に人前で演奏するには)必要です。これで良いというような到達目標はないといえます。つまり趣味は何であれ、奥深く修練をすればするほど深くなってくるものです。

 

今回、神戸市の医師会が創立60周年を向かえるにあたり、その記念の会で落語を演じることになりました1)。クラッシックやジャズ音楽に前後に挟まれ、いつもと異なる雰囲気で洒脱な落語を演じるのにはそれなりにプレッシャーがあります。それでも何事も経験と考え、この度は出演を応需することにしたのです。さあ、そうなれば一途に落語の稽古をするしかありません。仕事の合間に時間をみつけて練習をすることになります。しかし、おいそれと簡単に稽古が進捗し、成果など上がるものではありません。本職の落語家さんでさえ、相当苦しんで稽古されていると聞き及んでいます。素人としてそれなりに頑張るのですが、芸の向上は、なかなか難しいものです。時間は過ぎるし,巧くはならないし、それどころか噺を途中で絶句してしまうし、結構焦るものです。そこで何故稽古が上手くいかないのか、その理由を今回考えてみました。すると幾つかの理由・原因があることが分かりました。また、その対策、つまりどうすれば良いのかという解決法についても併せて考案してみました。

先ず上手くいかない理由についてです。それには色々あるのですが主なものとして次の2つだけをここに挙げてみました。

  何事であれ、人間はしんどい仕事・勉強などをしたくないのである。常に楽をしたい生き物なのである。たとえ好きな趣味の稽古事でさえ、それは億劫なのである。

  何とか手をつけはじめても色々な邪念が心に浮かんでくるため、集中できないのである。常に人間は心が散漫に乱れるのである。

この2つがとにかく大きな支障の原因であると考えられました。もっとも、これらは人間の本質そのものであり、居直った言い方をすれば人間は怠け者であり、フラフラした存在なのです。ですからどうにも仕方がありません。単純な言い方ですが、先ずはこの本質を直視することが第一歩でしょう。そうして大威張りであきらめ、できる範囲内で頑張ること、これこそが現実的な発想と考えるべきでしょう。

そこで次にその対策です。

まず①ですが本質的に人間は仕事や勉強などの辛いことを回避したいのです。これは当然でやむ得ないことです。そこでとるべき対策は「とにかく物事をしはじめてしまうこと」、これがもっとも簡便で実際的だと今回感じました。気が進まないながらも人間は物事をはじめさえすれば、何となく気分が乗り、次第に持続してやりたくなるという一面を持っています。ある人はこの人間の持っている能力は、脳にある「やる気中枢」による働きのおかげであるとしています。最初は短い時間、例えば5分でよいから仕事に着手することからはじめ、次第に仕事の持続時間を長くしていくと仕事が効果的に進みます。

次に②です。これもやむ得ない人間の弱いところです。対策としては、はなはだ単純なことですが「眼前の一つのことしか考えない」というのが効果的であります。あるひとつの仕事をしていると、ふと他の仕事が気になり現在の仕事を中断してしまうことがあります。しかしここにおいて意識的に他の仕事を振り切る訓練をすることが大切です。今回、落語の稽古だけでなく、本業でも「眼前の一つのことに集中する」という態度を貫くようにしました。

以上今回、意識的に二つの対策を実行したところ、比較的成果があがり、また疲労感は極めて少なく済みました。

 

さて先日は新しい薬剤エボロクマブについて学び、これを前回のブログおいて紹介させていただきました。今回は新しい病気、というか最近になって注目されるようになった病気について研鑚を試みました(実はなかなか研鑽をはじめられず、少しだけ手をつけては中断していました。それでも尻上がりに進んだわけです。これも今回体得した対策法のおかげです)

新しい病気の例としてまずジカ熱を呈示いたします。ジカ熱はジカウイルスによる感染症で本年25日に感染症法上の4類感染症に指定されました。すでにマスコミ等で広く報道されており、一般の人にも知られはじめています。ジカ熱は中南米を中心に流行しており、蚊ネッタイシマカ、ヒトスジシマカを媒介して感染する疾患です。日本では2013年に初めて感染者が報告されました。感染しても軽症なことも多いため、ジカ熱であることに気づきにくいといわれていますデング熱よりも軽症)。ただし時にギランバレー症候群という神経疾患を発症することがあり、要注意です。現在のところ特別な治療はなく、厚生省は蚊媒介感染症ガイドラインを出し(図2)、注意喚起をしているところです。特に流行地である中南米に行く人は注意することが必要です。

次に提示する病気はヒトパレコウイルス(以下HPeV:Human parechovirus)に

よる感染症です。これについて少し詳しく紹介したいと思います。現在のところHPeVは一般の人にはあまりまだ広くは周知されていないようです。最近、専門医によって「HPeV3カ月未満の赤ちゃんでは重大な病気である」との注意喚起がなされています。今回、詳しく学んでみてHPeVはもっと皆に知られるべき疾患だと感じました。

HPeVは1999年と比較的最近になって新たにウイルス科のひとつに加えられたウイルスであります。ところが意外なことに、実は「1歳までに70%前後の人が知らないうちに罹っている感染症」なのです。つまり、ありふれた身近なウイルスというわけです。これを裏付けるデータを図3に示します。本図から明らかなようにHPeVの抗体保有率は極めて高く、これは本ウイルスが以前から普通に我々の身の回りにいて感染したということに他なりません。つまり新しい感染症ではなく、昔から普通にあった感染症なのです。では何故、HPeVは注目されなかったのでしょうか。それはHPeVの症状は普通の風邪症候群との見分けがつかないこと、また幼児以降の大人では通常の軽症の風邪症状にとどまること、このことから従来は「大したことがない」と注意が払われなかったのです。

さて、それでは何故今、HPeV注目されているのでしょうか。その理由は「3歳未満児が感染すると重症化するから」なのであります。これについて次に詳しく紹介してみます。

HPeVは現在、遺伝子型から17種類に分類され、このうちHPeV1型とHPeV3型による疾病が多いことが分かっています。二つの型のウイルスのうちHPeV1型は胃腸症状などをおこしますが、脳炎などの重症化に至ることは少ないとされています。これに対しHPeV3型は脳炎などの合併症を発症することがあります4)。しかも困ったことにHPeV3型は3か月未満の乳児に感染し発症する傾向があるのです。3か月未満の乳児において高熱、不機嫌、哺乳力低下などがあれば通常は敗血症を疑うことになります。しかし敗血症とは異なり、HPeV3型の感染症では白血球数やCRPに大きな異常値がみられず、髄液検査も正常なのです。このように少し変わった臨床経過を摂る疾患なのです。

次にHPeV3型感染症の治療です。現在のところHPeV3型の感染に対しては有効なものがありません。ただ輸液に対しては反応性が乏しいとされています。幸い予後については自然軽快することが多いようです。

最後にHPeV3型感染症の予防です。これまでの研究から3か月未満の乳児におけるHPeV3型患者は家族からの感染であることが示唆されております。ですから風邪をひいている家族はマスクをすることが望ましいでしょう。日本では近年集団的なHPeV流行が報告されています。各地で2~3年おきに繰り返しみられており、特にHPeV3型の感染は夏に多いことが特徴です。つまりこれからの季節は注意が必要というわけです。ですから夏にむけて多い3型HPeV感染には大いに注意すべきと考えました。

160601 1図1 神戸市の医師会が創立60周年
当日のプログラム表紙

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図2 厚生省 蚊媒介感染症ガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000115988.pdf

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図3 ヒトパレコウイルスの抗体保有率
愛知県衛生研究所による
http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/hpev.html

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4 ヒトパレコウイルスの臨床症状

国立成育医療センター感染症科 医長 宮入烈先生による論文の改変させていただきましたラジオNIKKEI 小児科診療 UP-to-DATEによる