久しぶりの外出 6月15日

先日来、長期にわたって自宅でしか出来ない仕事が多かったため、外出する時間があまり無い状況が続いていました。もっとも雨が続き(写真1)、外出が億劫ということもありましたが・・・。ようやく自宅中心の仕事が一段落し終了したので久し振りに講演会に出かけました。

今回は生活習慣病の予防・治療に関するフォーラムに赴きました。フォーラムの案内パンフレット(1)をみると、どちらかといえば臨床医学ではなく基礎医学に近い講演であろうと予測をつけました。日々の診療に直結する話ではない、つまりお馴染みが少ない話と推測したのです。ですから予備知識もなく、受け身の姿勢で臨んでも理解し難いと考え、そこで演者の先生についてあらかじめ業績や文献を調べて講演内容を予測してみました。つまり予習をして講演に臨んだわけです。その予習した効果は驚くべきものでした。話が理解しやすい上、極めて興味深くかつ楽しく聴くことができました。これからも出来る限り予習・下調べをして講演会に赴こうと決めました。

拝聴する機会があったのは琉球大学第二内科の教授である益崎裕章先生の講演です。タイトルは「生活習慣改善の分子医学」です。広範囲にわたる素晴らしいお話でした。全てを報告できないのが残念ですが、印象に残ったところを中心に私なりに理解した内容を紹介してみます。

生活習慣病における肥満の改善は重要であります。現在、肥満の改善に対し様々な研究がなされております。その研究成果に基づき医療現場では様々な努力がなされてはいます。肥満患者さんは主治医やメディカルスタッフから治療や指導を受けているというわけです。しかし、遺憾ながら患者さん本人が努力しても簡単に肥満が改善することは余りありません。肥満解消が難しいことは、患者さんも医療提供者も日々痛感しているところです。それは何故でしょうか。これに対するひとつの答えとして「各個人の脳の働きにブレがあるから」ということが講演で解説されました。これを少し分かり易くお話する前にマウス実験結果を紹介します。

高脂肪食を十分に与えたマウス群を次の2群に分けました。

①強制運動をさせない群

②強制運動をさせられた群

両群において食事量を比較してみました。ちょっと考えると②の強制運動をさせられた群の方が、運動で消耗させられたため食事量が増加するように思われます。しかし結果は反対でした。①の強制運動させない群の方が食事量が増加していたのです。簡単にいえば、好きなだけ食べて運動をしない者はますます食べる、つまり、いわゆる「食って、寝て、太る」という状況に陥るのです。一方高脂肪食を食べていても運動をしていると肥満から救出されるのです。つまり、食べるだけ食べて運動をしないと益々食べて肥満になることが、この本実験で示されたのです。

さて、この実験結果のメカニズムについての解明です。レプチンという少し耳慣れない物質があります。これは1994年に発見された物質で肥満細胞が分泌するホルモンです。過食をすると肥満細胞が増え、そのため分泌されるレプチン量も増加します。すると分泌されたレプチンが脳を刺激して、食欲が抑制されるのです。いわゆるフィード・バックが通常ではかかるのです。ところが過食や高脂肪食を長年続けているとフィード・バックがかからなくなり、レプチンの脳刺激効果が抑制されてしまうのです。これの現象をレプチン抵抗性といい、このために食欲抑制がかからないために減食が困難になってしまいます。そうなれば過食のために肥満が引き起こされるということが最近分かりました。図2に示すように高脂肪食習慣は脳の視床下部において炎症を引き起こし、ここにレプチン抵抗性が引き起こされ脳がダメージを受けるというのです。つまり脳の働きにブレが生じるのです。こうなると人間は高脂肪食を食べないといられない(いわゆる高脂肪食依存症)となってしまうのです。そう、過食そしてその結果起こってくる肥満、これは脳の疾患といえるのです。

この高脂肪食依存症は薬物、ニコチン、アルコール依存症と全く同じ病態と考えられます。さらに困ったことに薬物、ニコチン、アルコールとは異なり、高脂肪食依存症は過食を遮断しても回復が遅いのです。つまり薬物依存症などの他の依存症よりも高脂肪食依存症は重篤なのです(図3)。さらに困ったことに高脂肪食をとっていると次第に脳は満足を得られなくなってしまうという現象があることです(図4)。つまり毎日、人間は次から次へと満足することを知らずにたくさん食べるのです。美味しいものを求め続け、次第に脳はいくら食べても満足しないという状況に陥るのです。このように過食・肥満は立派な脳神経疾患なのです。脳疾患という認識を持つ必要があるのです。そして対策としては何とかして脳を満足させ、足るを知る脳にすることが大切なのです。

このように脳の疾患であるがため、我々が少し努力するぐらいでは過食、そして肥満をなかなか改善できないと考えられます。どうやら「意志が弱いので食事療法が出来ない」というような単純ではないことが分かりました。

最後に益崎先生が過食をしても「満足しない脳」から「足るを知る脳」に変えるには玄米が有効であると話されました。明日から玄米食をはじめようかと思い、会場を去りました。

今回は馴染みのない基礎医学的な意味合いが強い講演でした。そのため私自身の理解力も十分ではなく、本レポートも不正確かもしれません。それでも日常臨床で患者さんに対して肥満指導をするにあたり、過食と肥満は脳疾患であることを説明することは効果的と考えました。過食、肥満をなかなか改善できないのは、個人の努力不足というより脳疾患であること、脳を満足させること、足るを知るを勧めていくこと、これが大切だと考えました。

さらに自宅へ帰って今度は復習に取り掛かってみました。通常ダイエットに挑戦してもまず失敗するものです。巷間にはこれで必ずやせるというキャッチフレーズが溢れています。しかしダイエットに成功したという話は、あまり聞くことはないでしょう。つまり今回の話からもこれは過食が脳の依存症ゆえに克服が困難なためです。外来でも通りいっぺんの指導、例えば「食べ過ぎないで腹八分目にお願いします」「アルコール、間食は控えてね」等々といっても正直効果はあがらないものです。

では少しでも摂食行為を減らす具体的方法はないものかと思索していたところ、少し面白い指導法をみつけました。金沢大学附属病院栄養サポートチームのNPO法人Team Dietが作成した糖尿病患者のための指導です。その一部だけを紹介します(詳しい内容はhttp://www.carenet.com/series/teamdiet/cg001638_002.htmlにあります)。それは「空腹感を肯定的に捉える」「間食したい衝動をそらす」という方法です。前者は、長寿や若返りに関与する遺伝子が、空腹をきっかけに活性化するとの説をもとにしています。つまり空腹感に長寿や若返りという肯定的な印象を持つようにするのです。具体的にいいますと「自分はお腹が空いたけれど若返っているのだ」などと考え方を変え、これにより間食の抑制を図ろうという方法です。後者は、間食したい衝動が起きたら例えば「歯を磨く」「洗口液でうがいをする」「軽いストレッチをする」などの別の行動をとる方ものです。行動することによって間食の衝動を抑え込むのです。少し時間が過ぎ、気が付くと間食したい衝動は消失しているというわけです。いずれの方法も具体的で実行に移しやすいと考えられます。いずれにしても肥満解消には理解と行動がともない、長く実行する工夫が必要です。

 

1606171

写真1 雨続きで雲に覆われる六甲山

 

16061721 案内のパンフレット

 

1606173

2 レプチン抵抗性
益崎裕章先生による 公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団
内分泌に関する最新情報(2015 1 )からの引用

 

1606174

3 高脂肪食依存症は他の依存症よりも重篤
益崎裕章先生による 公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団
内分泌に関する最新情報 2015 1 月からの引用

 

1606175JPG

4 満足しない脳と樽を知る脳
益崎裕章先生による  公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団
内分泌に関する最新情報 2015 1 月からの引用