梅雨のため自宅に籠る 6月20日

梅雨明けは、まだだいぶ先の様です。因みに関西地方の最も早かった梅雨明けは1978年の7月3日、反対に最も遅かったのは2009年の8月3日だったとのことです。それにしてもよく雨が降ります。庭先の紫陽花も雨に打たれて次第に大きくなっています写真1)。雨のため、つい外出が億劫となっています。晴耕雨読という風情でもありませんが、家での読書時間が長くなっております。このような事情のもと今回、手にとった一冊の本を紹介したいと思います。

今回読んだ本はイギリス人の神経科医師オリヴァー・サックス(1933~2015)の自叙伝「道程」(2015年 早川書房出版 写真2)であります。サックスは臨床家であると同時に作家でもあり、数多くの医学エッセイを残しております。正直、今回ある新聞の書評欄を見て初めてサックスという医師・作家を知りました。ところが私がサックスを知らなかっただけで実のところ彼は有名な人物であります。新聞書評欄にサックスが末期癌に侵されながらも自身の人生を振り返り、感動的な文章を書いているという意味のことが書かれていました。医師自らが癌となった時、どのような心境であろうかと興味を覚えたので読んでみることにしたのです。ところが内容はいい意味で期待を少しばかり裏切るものでした。本書は単なる医師の癌闘病記ではありません(もちろん、闘病日記の部分もありますが)。ひとことでいうと彼は熱心な(熱心過ぎるくらいの)臨床家であり、また同時に作家として膨大な文筆をした人物だということを本書は明らかにしているのです。ここに心打たれるものがありました。多忙な臨床家が強い意志で執筆活動を続けることは同業者からみて尊敬のひとことに尽きます。

若いころサックスは研究者を志したものの、才能がないといわれたため断念し、彼は臨床家に転向せざるを得なかった様です。そして臨床医になってからは急ピッチで文筆が進み、ある程度以上、彼の人生は順調に進みました。2007年から5年間はコロンビア大学医科大学院教授として活躍しています。彼の残した書物は自分の患者を通して見たいわゆる臨床ノート風の医学解説書が多いようです。

しかし晩年になった彼は突然、目を黒色腫に侵され、放射線治療を受けることとなりました。このとき高齢のサックスはとまどった様子です。しかし彼は自伝の中で「失明は怖かったが、死ぬのはもっと怖かったので私は黒色腫と取引をした。どうしても目が欲しいというなら、体のほかの部分を放っておいてくれれば、目はくれてやろう」という決断を下したことを書いています。さらに彼は視覚をなくしたら脳はどう働くのか、これを神経学者らしく自分の体を使って研究しようとするのです。これは常人ではできない素晴らしい才覚です。少なからず感動を受けました。

さて、外はまだ雨が降っています。外出するのは止め、また机に向かうこととします(そのため最近は本ブログを書く時間が長くなっています)。

前々回、B型肝炎ウイルスHBV(以下HBV:hepatitis B virus)について触れました。その際、今年の10月からはじまる乳児のHBVワクチンの定期接種については長くなるため、詳しくは触れませんでした。そこで今回、改めて同ワクチンの定期接種について幾つかのことをお話ししたいと思います。

定期化つまり無料ということになれば接種希望者が増加すると予想されます。将来的には乳児のキャリア化が阻止され、ひいては肝癌の発症も少なくなると、いやが上にもHBVワクチンへの期待は高まっています。少し心配なことは10月になって一斉に大勢の赤ちゃんがHBVワクチンを受けに来院されると、混雑・混乱がないかを危惧しています。もちろん「ワクチンの供給体制は十分である」と厚生省や日本小児科学会はいっております。ただ問題は4月と5月に出生した赤ちゃんが、10月開始の時点で受けに来られた時、既に生後6ヶ月ないし5ヶ月となっています。通常なら生後2ヶ月からの開始なので1才までには3回の接種が時間的に十分可能です。しかし4月と5月生まれは4ヶ月から3ヶ月遅れでスタートとなるわけです。つまり3回目の接種で1才を超過してしまい、任意接種(つまり自費)となってしまう可能性があります。ここに注意をする必要があり、お母さん方に早目の接種を促すことが必要です。

次に現在、我国で使用可能なHBVワクチンにはビームゲンとヘプタバックスⅡの2種類があります(図1)。主な違いは次の3つです。

ビームゲンは日本製、ヘプタバックスⅡは米国製。

ワクチン製造に用いたHBVの遺伝子型がビームゲンはゲノタイムC型、ヘプタバックスⅡは同A型である。

ビームゲンは添加物のチメロサームを含むがヘプタバックスⅡは含まない。

誰もがもっとも関心のあることは ② と思います。つまり異なる遺伝子型を用いているので予防接種としての効果に差があるのでは?ということです。その答えを言いますと現在のところ、ゲノタイムが異なっても効果に差はないと考えられています。ですから「日本人のHBV感染で多いのはゲノタイムC型なのにゲノタイプA型のワクチンを受けても効果があるのかな?」と疑問も沸くでしょう。しかし、心配ありません、まだ完全に解明されてはいませんが効果はあるとされています。つまり、どちらのワクチンも遺伝子が異なっても同じように有効なのです。それは1種類のゲノタイム由来による抗原でも他の抗原をカバーできるからです。ただビームゲンで開始すれば3回ともビームゲン、反対にヘプタバックスで開始すれば3回ともヘプタバックスを使用することが多いようです。もちろん両者を互い違いに接種しても効果に問題はありませんので御安心下さい。

③ のチメロサームの件は以前、発達障害を増加させるとの考えもありました。しかし一応WHOはこれを否定しています。

なおワクチンの蓋であるゴム栓についてですが、ビームゲンは合成ゴム、ヘプタバックスⅡは天然ゴム(ラテックス)を含有しています。ですからヘプタバックスⅡにおいてはラテックス過敏症の人は注意が必要です。

次にHBVエスケープミュータント(中和抗体抵抗性変異ウイルス種)ということを最近、講演会で知りました。これはHBVの遺伝子に変異がおこるため、たとえワクチンで抗体が誘導されても効果のないHBVが存在するということです。研究者の間では今やHBVエスケープミュータントに関心が注がれている様です。今後の研究成果に期待したいと思います。

HBVワクチンは乳幼児では極めて有効性が高いものであります。それでも長年経過すると抗体価が減少して効果が減弱してしまいます。しかしワクチンによって誘導された免疫記憶が残存するためワクチンによる長期間の有効性が期待できます。このことはHBVワクチンがHBV肝炎を長年にわたって阻止することを示しています。さらにひいては肝癌の発症を予防することにもなるのです。つまり本ワクチンは癌予防ワクチンとも評価できるのです。しかも極めて安全性も高く、子どもさんへの愛情こもった一生の贈り物となります。具体的なスケジュールは図2のようになります。生後2か月からヒブ、肺炎球菌、ロタウイルスワクチンとの同時接種が理想的です。

何十年後かにHBV肝炎に対し、麻疹同様の撲滅宣言が出される日の来ることを期待したいと思います。

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写真1 庭先の紫陽花

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写真2 道程の表紙

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1 国内の2つのHBVワクチン その違いについて

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図2 ジャパンワクチン株式会社のホームページからの引用
http://lovesbaby.jp/vaccine/hepatitis-b/hepatitis-b-01.html