夏近し 6月25日

ずいぶんと蒸し暑く、いよいよ真夏近しとなってきました。暑くなると昼間のウォーキング(歩行)は多量の発汗があるため、また脱水を避けるためにも断念せざるを得なくなります。ですから室内スポーツクラブでの涼しい環境で運動、そしてシャワーを利用する日々となっています。また夏は風邪ひきの患者さんが少なくなり、高血圧の人も血圧が落ち着くこと等もあり、外来での繁忙は少なくなります。このように時間の余裕がある時には臨床家は出来る限り少しでも医学知識を吸収しようと躍起になるものです。それ故、暇さえあれば医学書を読んでいます。

今回は本年の4月に改正された医療保険制度が、この3ヶ月でどのようなインパクトが実地臨床の場においてあったのか、振り返ってこれについて少し考えてみました。2年に1度の改正が医療保険制度にはあります。いつも改正前後は変更点に習熟するため説明会に出席したり、解説書を読んだり、それなりの準備が大変です。変更されたルールを頭の中では理解してもいざ実際になると間違った判断をしてしまうことが遺憾ながらあります。ある程度はやむ得ないとも思いますが、何ともあと味が悪いものです。

今回、脂質反応ZTTTTTという血液検査について保険業務上誤った事務作業をしました。これをお話ししてみます。同検査を実施した場合、本年4月からは「他の検査で代替えできない理由を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること」というように定められました(図1)。ですからZTTTTT検査を実施した人については、同記載を診療明細書に書くことがルールとなったのです。ところが、ある患者さんにおいて記載を失念したのです。電子カルテつまりコンピュータを使用して業務をしているのだから、こんな単純ミスは事前にコンピュータが機械的にチェックし人間に教えて欲しいものです。ところが電子カルテはユーザーへの細やかな配慮をあまりしないシステムになっている様です。つまり「記載が必要です」というような気の利いたメッセージをコンピュータは知らせてくれないのです。気を付けて気を付けても所詮、人間のする作業です、見落としがあるのは仕方がありません。頼りにするコンピュータは、むしろ人間のミスを助長誘導させるシステムをとっている様にさえ思われ、困った限りです。このように遺憾の思いにとらわれました。しかし、ここで気分一新に努め再び医学書に目を通すことにしました。

日々、本当に洪水の如く医学情報が押し寄せてきます。なかにはどうかと思われるような情報もあります。最近、ヘルス・リテラシー(health literacy)という言葉を耳にします。これは「健康面での適切な意思決定に必要な、基本的健康情報やサービスを調べ、理解し、効果的に利用する個人的能力の程度を意味し、医療リテラシーとも称される」とウィキペディアにあります。ですから我々はヘルス・リテラシーを意識して賢明に情報収集することが大切です。

今回、何気なく目について印象に残った情報を紹介してみます。

それは欧州動脈硬化学会および欧州臨床化学検査医学会の合同声明の論文です。
Eur Heart J 2016426日 オンライン版で読むことが出来ます。https://medical-tribune.co.jp/rensai/2016/0608503744/?mi=00128000005wRCPAA2&fl=1
このレポート記事を書いているのは、北里研究竹病院糖尿病センターの山田悟センター長です。同記事によりますと脂質検査は随時採血でさしつかえなく、空腹時でなくても良いという提案がされています。これまで我国の日本動脈硬化学会のガイドラインでは脂質検査は早期空腹時採血を原則としており(図
2の上段)、長年個人的にも臨床現場では空腹時採血に心掛けてきました。ですからヨーロッパの2学会の出した今回の提案声明は、かなりインパクトがありました。晴天の霹靂とまではいわないものの、少し驚きました。もっとも新しい提案にすぐ様飛びつくのも適当ではありません。そこで頭の体操よろしく、気分を換えるつもりで検討することも一興と思い読んでみました。すると次の2点

① 現代人はほぼ常に食後の状態で生きている
② 食後でも脂質は安定している

が食後採血の根拠となっています。

まず①です。脂質の代謝には8時間以上を必要とします。しかし現代の我々は起床直後に朝食、すぐに昼食をとり、間食をはさんですぐに夕食となります。さらに夜食をとることもあり、つまりはこれ、現代人は常に食後状態という状況にあります。したがって、実際は食後ないし随時採血をしている状況なのだという考え方です。

次に②です。脂質の値が食事によりどの程度影響を受けるかを検討したところTG(中性脂肪)はたしかに上昇します。しかしHDLコレステロール(いわゆる善玉)はほとんど変化がありませんでした。総コレステロール、LDLコレステロール(いわゆる悪玉)も、わずかに低下したのみでした3)。つまり、脂質は食事の影響を受けずに概ね安定しているというわけです。ここでもっとも気になるのがTG(中性脂肪)です。今回の論文でもTGは食事の影響を受けて上昇することが述べられています。ところが空腹時採血のTG値の方が随意的採血のTG値よりも幅広い数値に及んでいたという点です4)。つまり空腹時に採血したTG値にはバラツキが大きく、不安定というわけです。これは空腹時の脱水がTG値に影響を与えているからだと推測されています。

以上のように長年順守してきた原則とは少しばかり違う考え方が出されており、やや戸惑い感もあります。もちろん日本動脈硬化学会でも空腹時採血を原則とするとはいえ、ただし書きとして「水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする」としています2の下段。今回、柔軟に考え、常に前向きに臨む姿勢が必要と感じました。

さて、この2学会の出した声明はともかくとして、やはりTG(中性脂肪)HDL、LDLコレステロールに比べて食事の影響を受け易いことは実地臨床で実感しているところです。

また一般にTGだけでは動脈硬化をおこさないとされています。しかし、レムナントというTGと結びついた複合体の種類によっては、動脈硬化がひきおこされます。たとえばレムナントトリポ蛋白というは動脈硬化を促進させ心血管リスクのイベントを上昇させるとされています。したがってTGに異常のある人を見た時、レムナントまですることが大切です。レムナントは健康診断などでは測定してくれません。必要な方は受けた方がよいでしょう。

このように脂質検査、特にTG(中性脂肪については奥深いこと分かり慎重に対処していくことの重要性を再認識しました。

160624.1キャプチャ1 広島市医師会臨床検査センター インフォメーションから
平成28年4月6日からの引用

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図2 脂質異常治療のエッセンス
日本動脈硬化学会2014年3月からの一部引用

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3 食事が脂質に及ぼす影響 TGは食事の影響を受ける
Doctor’s Eye 2016.06.08 から一部引用させていただきました

160624.4キャプチャ
4 空腹時と随時におけるTG(中性脂肪空腹時のほうがバラツキが多い
Doctor’s Eye 2016.06.08 から一部引用させていただきました