夏が来て 6月27日

人の世には色々な出来事が常におこり、誰もが皆それぞれに物事に対処しています。そのような各自の生活とは全く無関係に時は流れゆきます。そして当たり前とはいえ7月が巡ってきました。今年も暦は本格的に暑い夏となりました。

先日までは梅雨の雨に濡れると言って外出を渋り、運動もしていませんでした。今度は暑いから外に出たくないと(勝手な)理屈をつけて家に閉じこもっている状況です。といってもテレビは飽きるし、そうそう医学書ばかり読むのも頭が疲れてしまいます。そんな時には何か別世界を描いた本を読んで気分を変えることにしています。

今回は偶然なことで手に入れた「正之の老後設計」(2009年 編集工房ノア・出版)という本を拝読しました写真1)。著者は三田地智という神戸在住の女性の方です。私自身が神戸在住の作家が書く神戸を舞台にした小説・エッセイを読むのが元来大好きであります。本書には神戸を舞台とした複数の短編小説が収められており、読みながら本当に楽しいひとときを過ごすことが出来ました。女性目線での鮮やかな筆者の描写には心打たれるものがあります。なかでも本の題名ともなっている巻頭の「正之の老後設計」は秀逸と感じました。急な病気で入院した御家族の大変さが書かれており、医療提供者側からは普段は分からない患者・御家族の心情がひしひしと伝わってきました。まことに細やかな筆運びであります。医療提供者にとっては大いに参考となり、反省が促される小説でありました。

さて最近、インターネットの動画配信を利用した医学講演会が開催されています。この配信システムが便利なのは会場にまで足を運ばなくても(つまり時間の節約となる)up to date な話を聴くことが出来るという点です。外来診療の間の休憩時間、自宅でコーヒーを片手に寛いで動画を見ることには一興の趣きがあります。

今回、視聴する機会があった動画は糖尿病をテーマとしたフォーラム形式の講演です。3人の演者によるお話しですが、そのうちの御一人、愛知医科大学の神谷英紀・准教授のお話しを聴きました。内容は、最近処方ができるようになった週1回投与(weekly use)の糖尿病薬の話でした。以下に概略だけを紹介させていただきます。

糖尿病治療の問題点と方向性として神谷先生は次の4点を強調されました。

合併症は抑制できているのか?
   
細小血管障害は、A1c7%未満により抑制できる
   しかし、大血管障害・死亡はA1cを下げるだけではダメである

糖尿病患者の高齢化の問題
   認知症、フレイルの合併がある

2型糖尿病の若年齢化と体重増加の問題
   若年者の体重増加と糖尿病増加がみられる

服用アドヒアランスと治療中断の問題

もちろんこれら4点について私自身は断片的には把握しているところす。ただこのようにまとめて呈示してもらうと大変に頭の整理になりました。患者さんも医療提供者側も、ともすれば、血糖やHbA1cの値に一喜一憂してしまいます。しかし本当は ① から ④ を十分に理解した上で治療を進めていくべきであると反省しました。

なかでも ④ については興味が惹かれ、反省するところとなりました。たしかに糖尿病の人では服薬が十分されてなかったり、また怠薬、薬剤中断をしてしまうことが時にあります。悪いことに糖尿病の患者さんは高血圧や高脂血症などの疾患を合併することが多く、服用薬剤が多くなりがちです。ですから面倒さからも、ついのみ忘れ、怠薬をすることにつながってしまいます。そこでこれを解決する一手段として週1回服用する(weekly use)の糖尿病薬が導入されました。毎日服用する(daily use)のではなく、週に1回だけの服用とするわけです。この weekly use の薬剤は、現在広く処方されているGDP4阻害薬のひとつであり、その有効性は確認されているところです。weekly use 薬剤の特徴として肝臓で代謝を受けにくいこと、体内に広く分布し腎臓で濾過されにくい、腎臓で再吸収されることが挙げられます。つまり1週間ぐらい体内に留まり血糖低下作用を発揮するというのです。早い話が毎日服用する手間が省けるというメリットがあるのです。患者さんからの生の声には以下のようなものがありました。上3つが否定的、下4つが肯定的な感想です。

患者さんからの生の声

 先生に任せているので薬が変わっても関係ない

 新薬ということで期待しすぎたが、特に変わりない

 1種類薬が減ってもね~

 1種類でも少ない方がうれしい

 旅行に行く時に持っていかなくてもいい

 薬が減るのは気分的に楽

 回数が減ることで家族の負担も減った

weekly use の糖尿病薬の理解が少し出来た後、さらに復習という意味で講演会に出かけました。演者は慶応大学の内科・特待講師の田中正巳先生です。田中先生も weekly use GDP4についてのお話しでした。やはり糖尿病患者の服薬についてのアドヒアランスの重要性を強調されました(アドヒアランスとは患者さんが積極的に薬剤の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることをいいます)。

田中先生によると糖尿病の人は約1/3の人が服用に負担感を持っており、7割の人が薬剤量は少ない方が良いと考えているとのことです。それ故、weekly use の薬剤は患者さんの希望に応えると期待されるわけす。医療提供者側も患者さんの薬と対する気持ちを考慮すべきであることが大切であることが強調されました。今後も患者さんのサイドに立って対応したいと思いを新たにしました。

それにしても糖尿病の人は多くおられ、しかも国民栄養調査をみても年ごとに増加しております(図1)。さらに糖尿病の治療を受けている人は60%程度にとどまっていること、反対に若い年代層では治療を受けていない人が60%に及んでいます2)。つまり若い人の糖尿病の方は放置されていることが多く、過食と肥満、ストレス等が備わっていることが問題となってるのです。図3から明らかなように40才から50才台の若い年代において肥満の人が多く、注意する必要があるのです。愛知医科大学の神谷先生も講演で若い人の体重増加と糖尿病増加を強調されているところです。また表1に示すように糖尿病の人は高血圧に次いで2番目に多いのです。このように日本人の糖尿病には疫学的に特徴のあることが分かります。若い人には積極的に糖尿病に関心を持っていただき、必要ならば積極的治療が必要といえるでしょう。糖尿病の治療は「早ければ、早いほど良く、合併症の心配が少ない」のです。もし若い人で糖尿病の薬剤服用が必要であっても内服に抵抗のある人もおられるでしょう。その場合、週一回の weekly use の薬剤であればハードルが低くなる可能性もあります。いずれにしろ若いからといって糖尿病に油断は禁物なのです。

実地の臨床家は糖尿病に対し、新しい薬物治療法を理解し、また疫学的な面を忘れずに対応することが大切です。

160627 1
写真1  「正之の老後設計」
(2009年 編集工房ノア・出版) 

160627 2
図1 糖尿病の人は増加している
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2013/021148.php

160627 3
図2 若い年代層ほど治療を受けていない(糖尿病ネットワークより引用)
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2013/021148.php

160627  4
図3 若い年代層において肥満の人が多い
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2015/024529.php

160627 5
表1 糖尿病患者数は、前回調査(2011年)から46万6,000人増えて、
過去最多の316万6,000人(糖尿病ネットワークからの引用)
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2015/024568.php