熱中症とアトピー性皮膚炎 7月4日

暑くなってきました。この暑さになってくると毎年のことですが熱中症のことが問題となってきます。政府広報オンラインによりますと熱中症の発症が急増し、救急搬送が多くなるのは7月に入ってからということです。熱中症による搬送患者数が平成23年以降は4万人前後にも達しているのです(図1)。そのことから7月は熱中症予防強化月間と定められ、人々の関心を惹くようにポスターが作成されています(2)。今の時期は梅雨明けの蒸し暑さとともに急激な暑さがやってきます。ところが、まだ身体がこの急激な暑さに順応していないのです。特に高齢者と子どもさんは、体力が十分でないため熱中症になり易く注意が必要です。図1にも示されている通り最高気温が30度を超えると熱中症による死亡者数が増えてきます。注目すべきことは死亡される人は毎年増加しておられるということです(図3)。さらにまた、気温が高くなくても湿度が高く、風があまりない、そして日差しの強い室内であれば熱中症は発症するリスクがあるのです。ここに特に注意が必要です。つまり気温が30度と高くなく、25度ぐらいの室内でも患者さんは増加してくるリスクがあるのです。ですから暑い戸外で過ごす若い人はもちろんのこと、室内にいる高齢者の人も等しく熱中症に気をつける必要があります。

 最近、アトピー性皮膚炎(atopic disease 以下AD)の乳幼児がたくさんおられ、保護者の方々の関心も大変高いものがあります。ADについては日本皮膚科学会からガイドライン2016年版が公刊されています。同ガイドラインは簡単にインターネットで閲覧することができます。日常診療においてはたいへん有用なものです。その巻頭の初めには「アトピー性皮膚炎は日常診療で頻繁に遭遇する疾患である」と記載されています(図4)。厚生省のAD患者数の年次推移をみましてもゆるやかながら患者数は増加を示しています(図5)。このようにポピュラーな疾患ですがADについてはまだ誤った情報も一般の方々に根強くあり(例えばステロイドに対する強い恐怖感)、また医師サイドにおいても治療方針には少しずつ違いがあるというのが現状です。そこで今回ADガイドライン2016を基本とし、その他のいくつかのAD関連の文献に目を通し、再検討しました。もちろん膨大な内容ですのでほんの一部だけであり、印象的であったことを紹介してみます。

ADについてはスキンケアが最も重要であることは多くの人の意見が一致しています。そこでスキンケアについてまずお話します。スキンケアを具体的にいうと①清潔②保湿③紫外線防御の3つから成り立っています。スキンケアというと何となく保湿つまり塗り薬・外用剤を第一に思い浮かべます。しかし①清潔、③紫外線防御の2つを忘れてはなりません。

①については皮膚には様々な物質(例えば細菌、食物、唾液など)が付着しており、これを洗い流して清潔を保つことが大切です。ADの子どもさんでは皮膚表面のバリア機能が弱いため、付着物質が容易に侵入しADの炎症をひきおこしてしまいます(6)。ことに顔面には様々な食物の残渣などが食事の時についているので特に大切なところです。では、その洗い流す方法、ここに注意が必要です。水洗いだけは不十分なこと、低刺激性のベビー石鹸・ボディーソープがよいこと、ボディーソープ量は1回押して出した少量で十分であること(多量のボディーソープはドライスキンをおこす)、よく泡立てた泡で包み込むようにして手で洗って流すこと、これらが重要な点です。なお汗は擦すってふかないことです。ハンカチで押さえる程度にしておくことが必要です。また、アトピーの子どもさんに対し発汗抑制のために運動を禁止することは適切ではありません。汗はシャワーで洗い流すようにしましょう。

②についてはすでに多くのことが広報されており、比較的皆さん方もよく知っておられます。まず保湿をするタイミングとしては入浴後10分以内にすることが効果的です。ここで注意すべきことは10分以上経過しても保湿剤の効果は期待し得るということです。「10分以上たってしまったから保湿剤の効果がない。だから塗らない」というのはよくないのです。忘れて10分以上経過しても保湿は是非して下さい。1日に塗る量は1FTU(ワンフィンガーチップユニット)と言う量が目安です。1FTUとは大人の手の平二つぐらいに塗る量です(7)。次に保湿の回数です。13回が理想的です。これは保湿剤の効果が数時間程度しかないためです。少なくとも朝と入浴後の2回は保湿剤湿布が必要であり、ごく軽度になれば入浴後1回でも良いこともあります。ただし汚れ易い顔面や外陰・肛門部は13回では少ないと考えられます。もし汚れたらその都度保湿剤を塗布することが望ましいのです。なお1回に塗る量を多くして、塗る回数を減らしても効果はないことが分かっています。量より回数というわけです。またステロイドと保湿剤を両方外用塗布する必要のある時は、保湿剤を先行する方がよいでしょう。これはステロイドを先行させ、後から保湿剤を塗布するとステロイドが健康皮膚面にも広範囲に広がるリスクがあるからです。保湿剤を塗った後にAD病変の強いところにステロイド外用すると効果的というわけです。

③の紫外線については、つい対策が後回しになりがちです。紫外線は皮膚を乾燥させ、ADの悪化を誘発します。ですから日傘、帽子、長袖などの使用を考慮する必要があるでしょう。

以上のようにADの基本についてまことに大まかながら振り返ってみました。そうしていたところ本年6月に開催された日本アレルギー学会学術大会のシンポジウムにおいて発表された報告に目に止まりました。同報告の内容は「新生児への保湿剤塗布がADの発症を抑制できるのでは」というものです。日本と欧米の研究グループが検討した結果では新生児期に対し全身へ保湿剤塗布をすることによりAD3050%減少したというのです。ADは皮膚の表皮バリアー低下によるものであり、保湿によるバリアー強化でADの一部を阻止できるのではという報告なのです。また保湿剤の開始は遅くとも生後2カ月までにすること、11回塗布よりも2回塗布において効果があったと述べています。しかしながら塗布して32週後においてADの感作率に有意な減少がみられなかったという結果もでました。このことは保湿によって皮膚バリアー強化がAD発症予防に効果はあるとしても、その効果がいつまで持続するのかわからないこと、さらに保湿がADの自然経過を変えることまでには至らないことを示しています。つまりADの発症予防には皮膚バリアー機能強化だけでは不十分であり、他の因子(フィラブリン遺伝子など)などが複雑に関与していると考えられるわけです。

膨大なADについてほんの一部だけをとりあげました。適切なスキンケアを行い、少しでもADの方が軽快していただきたいものです。それにしても「疾患そのものを完治させうる治療法はない」とガイドラインも述べており、医師は患者さんに寄り添うように対応すべきです。症状がコントロールされた状態が長く維持されると、寛解も期待される疾患であることを十分に理解するべきです。

 

 

キャプチャ1

1 2015年における熱中症の搬送人員 7月に患者さんが急増します 
環境省 熱中症予防情報サイトからの引用

 

キャプチャ2

2 環境省による熱中症予防強化月間のポスター

 

キャプチャ3

3 熱中症で死亡する人は、毎年増加しています

 

キャプチャ4

4 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版の巻頭

 

キャプチャ5

5 アレルギー疾患の現状等
厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課による(平成28年2月3日)

 

キャプチャ6

 図6 健康な人とADの人の皮膚
大阪府済生会中津病院 末廣 豊先生の監修 
第一三共株式会社のホームページから引用

 

キャプチャ7

7 外用薬・保湿剤では目安としてFTU(フィンガーチップユニット)を使う
1FTUは大人の人差し指の一番先から第1関節までの量
マルホ株式会社のホームページからの引用