須磨寺 7月7日

今回、急に思い立って須磨寺(図1)に行ってきました。その理由は国の指定重要文化財である木造十一面観音立像が特別に期間限定で公開されているからであります。いつもは本堂内陣に奥深く安置されており、目にすることが出来ない仏様です。実に身近に拝観できました。南北朝時代の作とされており、誠に柔和な素晴らしい仏像でした。

須磨寺といえば神戸の人間にとっては大変に馴染みの深いお寺です。仁和元年(886に開鏡上人が勅命を受けて建立しました。正式名は上野山(じょうやさん)福正寺といいます。須磨寺は源氏と平家に所縁ある古戦場として昔からよく知られたお寺です。山門を入って直ぐのところには熊谷直実と平敦盛の一騎打ちの様子が銅像になって再現されています(写真1)。敦盛が吹いていたあの有名な青葉の笛が須磨寺に伝えられ、今も現存していることを初めて知りました。今回直接見ることができました。池の中に咲く蓮の花もとても美しく感動を覚えました(写真2)。少し雨が降っていて足元が悪かったのですが、お寺の中には著名な人々の詩や俳句の碑が散在しているので歩いて見て回りました。松尾芭蕉(須磨寺や ふかぬ笛きく 木下闇、与謝野蕪村笛の音に 波もよりくる 須磨の秋、写真3)、正岡子規(暁や 白帆過ぎ行く 蚊帳の外)など蒼々たる俳人の石碑があり、とても興味深く楽しみました。多くの文人たちが古来より須磨寺に憧憬をいだいていたことが分かります。また三好平六という人の「夫婦とは なんと佳いもの 向かい風」と言う俳句(川柳)には魅せられました。この句の意味は「夫婦というものは向かい風が吹く辛い時にこそ力を合わせましょう」とのことです。

さて古仏に触れて気分を転換後はまた本業へと戻ります。ただ夏になると、頭の回転も十分でなくなります。ところがやりたいことは(本業以外のことも含めて)山積みであり、それがなかなか思うように (年のせいもあってか)進みません。例えば重要書類を置き忘れた、あの文献の所在が分からない、USBメモリーを紛失した、本を失ってしまった……等々、うっかりミスを連発し、ひいてはメンタルが疲れてしまう今日この頃です。そこへ暑さが加わります。ですから止む得ず涼しいところ(つまりエアコンのある自室)に長期滞在となっています。すると今度は屋外の空気を吸いたいという気分が強くなり、そこで産業医の研修会へと出かけました幸い会場は冷房が効いており快適でした)

日曜日の朝10時から昼休みをはさんで夕方4時近くまでの長丁場の研修会でした図2)4講演あり、どれも参考になりました。このうち2講演について今回は報告したいと思います。

一つめの講演は神戸労災病院・副院長である井上信孝先生による面白いお話しでした。「肥満学の最近の話題と職場での健康管理におけるメタボ健診の課題」というテーマでした。話の内容は図3に示すように4つの内容に集約されます。

まず1.DOHad説です。これは成人病胎児期発症起源説(Developmental Origins of Health and Diseases)という説で「ヒトの健康は胎児期からきまっている」という考えです。1976年にNEJM(The New England Journal of Medicine)という有名な医学雑誌に「オランダ飢餓の時に、生まれた子供は成人になって肥満が多い」ということが報告されました。つまり胎生期の飢餓という環境が赤ちゃんに影響するため出生時体重が低下する。しかし、その一方、この赤ちゃんたちが大人になると肥満になることが多いという論文なのです。さらに出生体重が低いほど、成人になって肥満となってしまうこと、それ故、高血圧、インスリン抵抗性の増加、心血管死亡の人が増加するというのです。その原因は、不明ですが、飢餓という貧しい胎児環境では体の剣約プログラムが働いているが、成人して豊かな環境になると剣約プログラムが効かなくなると推測されています。現在、遺伝子学的な原因検索もされています。つまりお腹の中にいる時の環境が成人以降の疾病を決めているというわけです。翻って現在の日本では低出生体重児が増え続けており、低出生体重児は生活習慣病の予備軍と考えられます。このことを勘案すれば「小さく産んで大きく育てる」という日本人好みの考えは少し見直すべきかもしれません。

2.腸内細菌のディフィシル菌(CD:Clostridium difficile)と肥満に関係があることがお話しされました。CD菌感染の有無が肥満と関係しているとのことです。マウスの実験ではありますが、痩せた人の腸に多いCD菌をマウスに投与したところマウスの体重が増えないという実験結果が示されました。CDという腸内細菌が多いと痩せ、少ないと肥満というわけです。CD菌が肥満・痩せに関係していることを知り、少しおどろきました。

3.の肥満に対する外科治療です。図4のような方が減量手術の適応となります。これらの方々はレプチン食欲抑制ホルモン)が働かないため、とにかく猛烈に食べる人々です。手術の効果としては、術後には服用薬剤が減少するなどある程度有効なことが示されています。ただ術後にメンタル面での問題(自殺、うつ)が発症するリスクがあるとのことで、少し気になるところです。

4.の特定健診の課題です。これは国が数年前から実施してきた事業です。これまでの膨大な結果が集積され、最近の分析では肥満単独、つまりただ肥満というだけではリスクにならないことが分かってきました。要するに腹囲を肥満の第1基準として用いることには少々問題であることが示されてきたのです。たしかに日本人の肥満は年々増加しているのですが、他の国と比較すると肥満者は少ない国なのです(BMI25の肥満の人は男28.7%、女21.3%と23割です)。さらに気を付けるべきことは女性では腹囲90cmを越える人は少ないこと、もっと留意するべきことは腹囲90cmを越えない人肥満でない人)であっても心疾患のリスクを有しているのです。これらには大いに今後注意を払わねばなりません。つまり腹囲の基準から肥満でないとされても他の危険因子があればリスクが増加するのです。そのためには非肥満者へも指導制度が望まれるところです。

もう1席の講演について紹介します。演者は三菱電機株式会社伊丹製作所の平野通利氏でタイトルは「作業現場の安全について」でした。三菱電機の安全衛生の基本方針は「従業員安全と健康を守ることをすべてにおいて優先する」というものであります。重大災害は企業をつぶすことになります。安全管理の考え方の基本を①健康なくして人生なし②健康なくして安全なし③安全なくして企業の存続なしの3点においています。いずれも具体的で分かり易い考え方であります。また安全管理の運営上、具体的な手段の一つとして「指差し呼称」が紹介されました(5)。「指差し呼称」の励行で誤りが1/6減少したことも紹介されました。この「指差し呼称」は医療の現場でも十分に通用するのではと直感したので実践したいと思い立ちました。例えば予防接種の前にスタッフ一同が「指差し呼称」で確認することは、誤接種阻止に極めて有力と考えられます。実際の予防接種の現場では、接種するべき人を間違える(例えば兄弟間での間違え)、また接種ワクチンの種類を間違える、これらが遺憾ながら現場ではおこり得ます。そこで誤接種の防止対策として「指差し呼称」を実際に診療所で早速導入してみました。するとスタッフ一同の緊張感が極めて高くなり、スムーズに業務が進むことが実感として体得されました。これは簡便だが安全性を高める点において優れた方法だと考えられます。

 

160707.11 須磨寺のパンフレット

 

160707.2キャプチャ写真1 直実と敦盛の一騎打ち

 

160707.3キャプチャ写真2 境内の蓮の花

 

160707.4キャプチャ写真3 蕪村の句碑

 

160707.5キャプチャ2 研修会のレジメ表紙

 

160707.6キャプチャ3 4つの内容について

 

160707.7キャプチャ4 手術の適応

 

160707.8キャプチャ5 中央労働災害防止協会 ホームページから