夏本番、トラブルの連鎖 7月13日

論文などの文章を書くにあたり、今ではほとんどコンピュータを利用しwordを用いています。その主な理由は自分の肉筆で書いても、なにしろ悪筆なため読んでもらえないからです(泣)。また文章の加筆訂正が簡単というのも大きな理由です。ですから紙ではなく、画面に向かって草稿を練る日々です。

この暑さの中、ようやく論文をひとつ書きあげ、いざ印刷しようとするとプリンターが全く動きません。プリンターの表示がトラブルのあることを示しており、それを見ると「メーカーへの修理依頼が必要な状態です」と出ています。現在3台のプリンターを使用していますが、トラブルを起こしたのは最近購入した一番新しいE社製のプリンターであります。メーカーに連絡すると「有償での修理が必要」とのこと、こうなると気分が落ち込むものです。結局、修理ではなく、違うメーカー(B社)のプリンターを新たに購入することとし、気分一新をはかりました。最近は便利です、ネットで手ごろなプリンターを探し出し、注文すると直ぐに届きました。

購入した新しいプリンターとコンピュータをつなぐ作業に早速入りました。通常ならそれほど困難な作業ではないのですが、悪戦苦闘をする羽目となりました。ようやく両者の接続に成功し、無事印刷が出来ました。ところがなんと、今度はコンピュータのネット接続が全くダメとなってしまいました(!)。加えて携帯電話のWi-Fi接続も全て使用不可となってしまいました。コンピュータに詳しい人に聞くと、このようなトラブルは通常あまりない事象とのことです。結局2日がかりで回復に努めました。しかし、ついにギブアップとなり専門家の御世話になることになりました。それにしても新しいプリンターの無様な故障がコンピュータトラブルに連鎖し、大袈裟でなく困惑の極み状態の数日間となりました。しかし、ただ一つ良かったことがあります。それは「ネット環境がないためメイルが来着しないから読まずにすむこと、またネットを開くことがないので情報の洪水に煩わされない」ということです。おかげで大変な休養時間となりました。現代人は多かれ少なかれネット依存になっていると改めて感じるとともに、時にはコンピュータから完全離脱することが必要と思いました。

このように気落ちしている時、知人から絵手紙(1)の暑中見舞いが届けられました。そこには七夕が描かれており、心が癒されました。今風の電子メイルも迅速で便利です。しかし手作りの温かみには及ばないと感じました。というわけで気力を回復し、また本業へと戻りました。

 川崎医科大学の総合内科の宮下修行・准教授の講演を聴く機会がありました。テーマは「stop!肺炎 超高齢化社会での予防の重要性」でした。なかなか興味深いお話であり、日常診療において大変有益な情報を得ることができました。

平成26年度の厚生省の人口動態統計によりますと日本人の死因の第1位は癌、第2位は心疾患、第3位は肺炎であります(2)。その年の肺炎による死亡者の数は11800人であり、このうち約97つまり大部分)65歳以上の高齢者でありました。これからも明らかなように高齢者と肺炎には密接な関係があります。年をとると外から見た目では元気なのです。しかし高齢者の免疫力は低下しており、肺炎にもかかり易いというのが本当のところなのです。また高齢者では症状が乏しいために診断や治療が遅れること、他の病気(高血圧、糖尿病など)を合併しているため急速に病状が悪化してしまいます。さらにまた夜間寝ている時に食物等が気道内に入っていく誤嚥性肺炎3)が高齢者ではおこり易いことが知られています。高齢者では胃内容物が逆流し、また嚥下反射の低下があるために誤嚥性肺炎が起こってしまうのです。このように高齢者の肺炎には様々な問題が隠れているのです。

ある調査によりますと「自分が肺炎にかかる」と思っている人は6割以上おられ、大部分の人は「年齢が進むとともに肺炎にかかり易い」と思っておられます。つまり高齢者自身は肺炎のリスクを承知されています。それにもかかわらず、準備つまり予防接種をされている高齢者は少ないのというのが現状です(http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2015/2015_10_29_02.html#q1より)。危険な肺炎に対し、高齢者は心の準備はある程度はされているものの多くの方々が予防接種を受けていないというのです。一方、高齢で肺炎に罹っても入院し、治療を受ければ治るという考え方もあります。1週間の入院で肺炎を寛解させることは可能とされています。それほどに現代医学における肺炎治療の成績は良好であります。しかし、ここに落とし穴が潜んでいます。それは高齢者では肺炎を繰り返し発症することそのたびに耐性菌が出現し、治療効果が低くなる)、入院すると譫妄や認知症が発症し悪化すること、再発するたびに体力が低下すること、そして最後には廃用症候群がおこり予後不良となってしまうという点です。つまり負の連鎖・サイクルが起こるのです。このような落とし穴があるのです。繰り返しになりますが自分は大丈夫と思っていても高齢者は口腔内の食物等や胃内から逆流した食物を誤嚥し,咳反射で排出できないため気道に入り込んでいくのです。とくに誤嚥は夜寝ているときに多く、23週間かけて誤嚥性肺炎は発症していきます。

ところで高齢者の肺炎に対し日本呼吸器学会は以前から市中肺炎(地域社会で日常生活を営んでいる人に発症する肺炎、Community acquired pneumonia:CAP)、院内肺炎(病院に入院後48時間以上経過して発症する肺炎、Hospital acquired pneumonia:HAP)、医療・介護関連肺炎(Nursing and Healthcare associated pneumonia:NHCAP)というように分類しています。この分類は肺炎の病態を分類する上で有益です。ただ、いずれの肺炎であっても原因となる起炎菌としては肺炎球菌がもっとも多いのです。つまり肺炎球菌は高齢者にとって大変重要な細菌なのです。

さらにまた肺炎球菌は子どもさん達にとっても重要な細菌です。子どもさんは免疫力が未発達のため、また高齢者は免疫力が低下しているため、それぞれの年代での理由により肺炎球菌に対する抵抗力が弱いのです(4)。最近では進行する肺炎のことを侵襲性肺炎(IPDinvasive pneumococcal disease)と表現しております。幸い子どもさんでは予防接種の普及によりIPDはだいぶ少なくなってきました。ところが特に冬場においてお孫さんから高齢者へ肺炎球菌が感染し、高齢者がIPDを発症するリスクが注目されています。このリスクを外国ではHoliday Spikesと名付けており、孫→祖父母感染への感染が注目されています。外国文献ではHoliday Spikesを明らかにした研究報告もあります。それに対し日本では子どもから老人への肺炎球菌感染についての認識が低いようです。

以上のことからお分かりいただけると思いますが、高齢者は肺炎の潜在的発症者、またIPDのハイリスク群なのです。この現実に対し、最も効果的な対応策、それが肺炎球菌の予防接種であります。もちろんワクチンで全ての肺炎を予防することはできません。それでもIPDに対してはかなり有効です。ところが残念なことにワクチン接種を受けておられる高齢者の方は、まだ少ないのが現状です。正確な数字は分かりませんが、公費負担が導入されても精々30パーセント程度の接種率と推定されています。高齢化が進む中、肺炎リスクは益々上がるものと予測され、予防接種は不可欠です。厚生労働省の試算ではワクチンを高齢者全員に接種する費用を見込んだとしても、重症肺炎での入院患者数が少なくなるので医療費削減になるとしています。もちろんワクチンには、一定の割合で副作用が生じ、過去の接種過誤などの記憶が高齢者の方々にあり、ワクチンへの抵抗感には根強いものがあるかもしれません。また高齢者の方の中には予防接種は子どもが受けるものだ、そして年寄りは予防接種までして無理に長生きしたくない等の考えの方もあるでしょう。しかし肺炎というリスクをある程度回避することができる手段、予防接種があるならば、これを利用し健康な長寿生活を送ることは望ましい選択であります。今後は肺炎球菌予防接種の十分な説明を高齢者の人々にしていく必要があります。

最後に肺炎球菌予防接種を受けた高齢者に「何故、接種を受けたのか、その理由」を聞いたところ「医師から勧められて」というのがトップでした。すなわち今後は「肺炎球菌の予防接種をかかりつけの医師が勧めること」、これが最も有効で大切ということです。さらに肺炎球菌ワクチンだけでなくインフルエンザワクチン(図5に示すように肺炎球菌とインフルエンザワクチンを併用接種すると死亡率が低くなることがわかっています)、さらに帯状ヘルペスワクチンをも合わせて受けることが大切です。予防接種の医学的意義について誰もが理解している社会を創っていく必要があると考えられます。予防接種で社会全体をみんなで守るという意識が大切なのであります。

 

キャプチャ1

1 七夕の絵手紙

 

キャプチャ2

2 主な死因別にみた死亡率の年次推移
厚生省 平成26 年人口動態統計月報年計(概数)の概況

 

キャプチャ3

3 誤嚥性肺炎のしくみ ELMED EISAIのホームページからの引用http://www.emec.co.jp/swallow/08.html

 

キャプチャ4

4 5歳未満は免疫機能が未発達
65歳以上は免疫機能が低下
ファイザー製薬のホームページからの引用
http://otona-haienkyukin.jp/about/

 

キャプチャ5

 5 インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチン(PPV)併用接種
による年齢別全死亡
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/flu/vaccine/201305/530392.html