笑い学会の総会とオリンピック・パラリンピック 7月24日

日本笑い学会についてはこれまでも当ブログで何度かとり上げたことがあります。同学会は1994年に大阪で創立され、今年ですでに20年以上の歴史があります。第1回目の総会は79日(笑い学会なのに「泣くの日」に創立)に関西大学百周年記念会館で開催されました。私も参加しましたが、その日のことはつい昨日のようにも思います。今年も第23回目の総会が関西大学堺キャンパスで716日と17日の2日間にかけて開催されました。一年に一回開催される総会の会場は、発祥地の大阪と地方とを交互に回り持ちで実施されています。昨年は三重県の津市だったので今年は大阪というわけです。毎年総会の時は本当に暑くて大変な真夏の日々となります。それでも同学の志と再会し、笑いに関する発表講演を聴いていると本当に心が和むものです。そんなわけ、暑い中を堺まで総会に出かけてきました。

今年も参加して幾つか得るところがありました。なかでも日本チャプリン協会・大野裕之会長による記念講演はユーモアたっぷりな話であり興味が惹かれました。大野氏は知る人ぞ知る、日本におけるチャプリン研究の第一人者であり、また劇作家・脚本家・映画プロデューサー等々のマルチな顔を持っておられます。大野氏によると特に10代という若い時に感銘を受けてハマったものは(氏の場合はチャップリンということになります)、後に大きな人生の糧となるとのことでした。もっとも人間は年齢が幾つになっても物事にハマって熱中することは素晴らしいものであるとも話されました。またチャプリンの秘書が日本人の高野虎市(こうのとらいち 1885年ー1971年)という人であることを初めて知りました(図1)。高野氏は広島の人で15才の時にアメリカに移民として渡り、31才の時に初めはチャプリンの運転手として雇われました。後に彼の秘書となり20年近くもチャプリンの元で働き、チャプリンの信頼は高かったとのことです。しかし第2次大戦は高野の人生にも大きな苦労を与えます。強制収容所にも収容され、ようやく昭和23年に釈放されました。昭和31年には帰国し、郷里広島で亡くなりました。高野の訃報を聞いたチャプリンは悲しみにくれてたということをチャプリンの娘さんが話として残しています。とにかく喜劇王という笑いの象徴を巡る話には面白さに尽きないものがありました。

さて、いよいよリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック(以下、リオ五輪)の開幕が近づいてきました。今から各種競技における日本人選手の活躍に期待が高まっています。ところで会場となるブラジルの首都リオデジャネイロは季節でいうと冬にあたり、競技会場および周辺では蚊の対策が強化されているようです。それは世界保健機構(WHO)がジカウイルス(写真1)に妊婦が感染し、ジカ熱を発症すると胎児小頭症の原因になることを認めており、蚊によるジカ熱感染の拡大を防止する必要があるからなのです。疫学的な根拠としてブラジル保健省の小頭症についての研究があります。それは小頭症4,561件のうち1,489例が妊娠中のジカ熱感染による先天性小頭症または中枢神経異常と判定されるという研究報告です。

現状として約1年前から中南米地域においてジカ熱が流行しています。現在のところ日本ではジカ熱の流行はなく、ただ帰国後に発症した10例の輸入例が確認されてはいます。ですからジカ熱を日本へ持ち込まないことが重要です。厚生省はブラジル方面へ向けての海外旅行者に「注意喚起レベル1」を出し、蚊に刺されてジカウイルスを持った人が流行国から日本に帰国する機会を少なくするように広報しています(図1、2)。レベル1とは十分注意してくださいというもので「特に妊娠中の方、または妊娠を予定している方は、流行国・地域への渡航・滞在を可能な限りお控えください。」としています。日本人にとってもジカ熱は今や他人事ではありません。現在、一部選手がジカ熱に不安を持ち出場を控えることも報道されています。ただブラジル保健相は「ジカ熱が流行するリスクは最小である。英ケンブリッジ大の研究では、50万人の観客のうち感染する者は1件以下との予測をしている」と不安を鎮静させるべく広報しているところであります(朝日新聞デジタル版 http://www.asahi.com/articles/ASJ745R97J74UHBI02C.html)。このように多少とも不安感があるのが正直なところです。しかしジカ熱を正しく知って正しく恐れることが最も正しい対応だと考えられます。そこでジカ熱ウイルス・ジカ熱について少し詳しく学んでみました。

ジカウイルスが発見されたのは1947年のことです。アフリカ・ウガンダのアカゲザルからジカウイルスは分離されました。それ以来、図3のように南米・中南米において流行が報告されています。日本では数年前から流行国から帰国した人がジカ熱を発症していることが報道されました。つまり本当にごく少ない人とはいえ、国際交流の進んだ現代では無縁というわけにはいかないのです。   その感染経路ですがジカウイルスは蚊によって媒介されてヒトに感染をおこします。媒介する蚊にはネッタイシマカなど数種類の蚊が明らかにされています。注目すべきはデング熱を媒介するヒトスジシマカがジカウイルスをも媒介するという点であります。ヒトスジシマカは北限を秋田県と岩手県とし(つまり北海道にはいない)、日本に広く分布しています。したがってもしジカウイルスが大量に輸入、つまりジカウイルスに刺された人が大勢流行国から帰国した場合、ヒトスジシマカによるジカ熱の流行が危惧されるということになります。

症状についてはジカ熱とデング熱は比較対照されることがあります。これは両者のウイルスがどちらも同じフラビウイルス科に属していること、媒介する蚊が同じということ、また中南米に多い疾患であることから等々の理由からです。表1に両者をまとめてみましたが、ジカ熱の最も重要な症状は発疹であります。次に関節炎、結膜炎が特徴であり、発熱はそれほどで顕著ではありません。また潜伏期間は14日以内と推定されていること、不顕性感染(感染しても明らかな症状が出ないこと)が80%以上と多いこと、さらにギランバレー症候群(下肢から両側対称性に麻痺が来る疾患)を発症することがあり、この点は注意を要するところです。

診断については不顕性感染が多いことを考えれば難しいかもしれません。まずは帰国した人において表1に示したように発疹等をみれば疑う必要があります。ですから流行地から帰国した人で症状があれば受診することが必要です。確定診断にはRT-PCR法(発症から7日以内)が使用されます。次に治療は残念ながら特異的な有効なものはありません。対症療法が中心となります。このように診断と治療は現実的には困難なものがあります。むしろ重要なことは予防ということになるでしょう。はじめにお話ししたようにレベル1の注意が出されていても、強い旅行制限をすることに正当性はありません。まず流行地では蚊に刺されないようにすること、そのためには長い服で皮膚の露出を減らす(半ズボンより長ズボン、半そでより長袖シャツ)、蚊帳や網戸を使うこと、蚊を駆除すること、そして蚊忌避剤を使うこと等が必要です。蚊忌避剤は現在我が国にあるものでは濃度が低いため2時間おきの塗り直しが必要といわれています(10歳以下の子どもさんは親が塗ること)。なお妊婦さんに蚊忌避剤は基本的には安全といわれています。現在、我が国の蚊忌避剤は濃度が低いために有効性が低く、急ピッチで高濃度の蚊忌避剤が開発されているとのことです。

またジカウイルスの独特な特徴として知っておくべきことがあります。それはジカウイルスに特有なこととして血液や尿よりも精液中に長く検出されるという点です。そのため感染者や流行地から帰国した男性は、性行為においてコンドームを使用することが推奨されています。アメリカでは8週間以上コンドームを使用するように勧められています。これは本当に特異な点として注目されるべきことと考えられます。妊婦さんが妊娠初期にジカ熱になれば胎児の脳の発育が妨げられ、小頭症になることは、確定されていることからこのような十分な配慮が必要なのです。

最後にワクチンです。現在ジカ熱とデング熱両者のワクチンが開発されており、それほど遠くない将来に実用化されるとの情報もあります。いずれにしろ、ジカ熱を正しく知って正しく恐れることが大切です。

キャプチャ1
1 大野裕之氏の著作
講談社発刊 (2009/12/25)

キャプチャ2
写真1 ジカウイルスの電子顕微鏡像
米疾病予防管理センターCDCからの引用
撮影者
Cynthia Goldsmith

キャプチャ3
1 ブラジルは注意レベル1にあります
外務省海外安全ホームページからの引用 

キャプチャ4
2 厚生労働省の注意喚起を促すポスター

キャプチャ5
図3 ジカウイルス感染症の症例が報告された地域
US CDC. Zika virus http://www.cdc.gov/zika/

キャプチャ6
1 ジカ熱とデング熱の症状
ニュースダイジェストから引用させていただきましたhttp://www.newsdigest.de/newsde/column/doctor/7603-1020.html