暑い日々のオリンピック 8月17日

それにしても本当に暑い日が続いております。現在、診療所はお盆休みということでテレビによるオリンピック観戦を楽しみ、また読書をするなどして涼しい室内で静かに過ごしております。オリンピックに出場している日本人選手の活躍には、思わず手に汗を握ることもしばしばです。ついに夜中になっても夢中になってオリンピックの試合を見てしまう時があり、不規則な生活に陥りがちな今日この頃です。またこんな生活をしていれば運動不足になって体調を崩すものです。そこで朝夕涼しくなると近場の郊外になるべく足を延ばし新鮮な空気を吸い、緑の木々を目に収めるように努めております写真1)

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写真1 身近にある六甲山の美しい木々

そんな中、少し気になる話デイリー新潮 814日の配信。また「週刊新潮」201684日号に掲載をインターネットの電子記事で見つけました。これはある高校生の方の話です。「熱中症と診断されたが、本当は夏の脳梗塞であった」というものです。実地医家にとって、これは他人事とは思えない出来事というか臨床症例です。もし、この患者さんと同症状を呈する高校生の人に遭遇すれば、たいていの医師は先ず常識的に熱中症と判断し対処するでしょう。高齢の方であればともかく、高校生にはまず滅多にない脳梗塞には、考えがすぐには及びつかないと思います。これが正直なところでしょう。それは臨床家である医師は常に常識的なことを第一として行動するものだからです。しかし時には稀有なことが突発的に起こるということも常に深く心に抱えて診療に当たるべきと考えました。

以下に記事のあらましを紹介いたします。正直なところ他人の方の記事を大幅に引用することには躊躇いがあります。しかし、事は重大であり、また多くの人に関心を持っていただきたいと考え、記事の一部引用要約・省略化させて引用をさせて頂きました。原文筆者の方には、失礼をお詫びするとともに厚くお礼申し上げます。

 

熱中症だと思ったら、「夏の脳梗塞」だった。

茨城県の高校1年生、Y君(16)は、ソフトテニス部に所属。昨年83日、グラウンドで練習をしていたところ、突然ふらふらし、ラケットとボールの距離感が合わなくなった。父親が本人に代わって語る。

「部室で横になっていたそうですが、呂律も回らなくなった。夕方前、息子は顧問の先生に連れられ、病院に行きました。私も病院に駆けつけ、息子に問いかけましたが、“うん、うん”といった返事しかない。血液検査を行い、熱中症に特有の数値が示された。CTスキャンも撮ったのですが、その時は脳に異常は見つかりませんでした。そのため医師の診断はやはり熱中症となった。しばらく安静にし、日が落ちてから、息子を家に連れて帰りました」

しかしその後、過酷な運命がY君を襲う。

 「息子は家でも横になって寝ていました。夜の10時頃、“さすがに着替えくらいさせないと”と思い、服を脱がせようとした時に、右半身が動かなくなっていることに気が付いたのです。急いで同じ病院に行き、今度はMRIの検査を行った。それで初めて脳梗塞だということが分かったのです」

右の全身麻痺、緊急手術。T附属病院に搬送されたのは、4日未明のこと。医師からこう告げられた。

「左の側頭葉の大部分が死にかけています。全失語、右の全身麻痺の状態です」

「“これから2週間が山です”と言われた。息子は集中治療室に移され、翌5日、脳梗塞の手術を受けました。その後、痙攣(けいれん)の症状も出た。先生から“危惧した通り、脳圧が上がりつつある”と指摘され、左側頭葉の頭蓋骨を外して脳圧を逃がす緊急手術が行われました」

3度の手術の結果、Y君はからくも一命を取り留め、脳梗塞から生還した。

重い後遺症は残り、車いす生活を余儀なくされ、失語症に陥ったのである。リハビリを続け、半年で車いすから歩行器に移行。膝から下は引きずるような形ではあるものの、彼は自力で歩けるまでになった。「学校には戻れていませんが、言葉に関しても、34個の単語を繋ぎ合わせて、話ができるところまで回復しました。私が訴えたいのは、熱中症と間違える脳梗塞があるのを、皆さんに知識として持ってほしいということ。“若者・炎天下・スポーツ”という要素からすぐに熱中症と捉えられがちですが、息子のような若い人間にも脳梗塞は起こり得るのです」。

 

以上が引用させていただいた記事のあらましです。これを読んで考えました。

何となく脳梗塞というと冬に発症するような印象があります。しかし国立循環器病研究センターの統計によりますと脳梗塞は夏における発症数が多いのです1)。この原因は夏には発汗が多くなり、水分補給を十分にしなければ血液の濃縮がおこり血栓が形成され易くなること、そしてこの血栓が脳に移動し脳梗塞を発症させる、こういうメカニズムなのです。

また、お酒を飲むと尿が増えて脱水が進み、そこへ夜間の低血圧が加わると脳梗塞発症のリスクがさらに高まるというわけです。NHK解説委員室による夏の「脳卒中と熱中症の関係」というサイトがあり、そこに面白く分かり易い画像がありますので引用させていただきます1 http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/194346.html)。また心房細動という不整脈を持っている人では、いっそう脳梗塞発症の可能性が高くなります。ですから夏は水分の十分な補給が必要です。それとともに就寝前の多量のアルコールは避け、コップ一杯の水分摂取をするとよいでしょう。

次に熱中症、脳梗塞のいずれでも意識障害・脱力があるために両者の鑑別が難しいところです。今回の高校生I君も初めは区別がつきませんでした。そこで両者を区別するため、脳梗塞をチェックするFASTという方法が提唱されています。これは米国脳卒中協会が推奨している方法です。脳梗塞を疑う人に対し簡単な方法で評価しようというものです。4つの項目があり、それらの頭文字を取ってFASTと呼んでいます。具体的にいいますと

F face フェイス  顔のまひ
A arm アーム   腕のまひ
S speech スピーチ 言葉障害
T time  タイム  発症時刻

4つの項目に着目する方法です。これもNHK解説委員室による分かり易い画像2,3)があるので引用させていただきます。図2のようにFAS3つのうち、ひとつにでも問題があれば脳梗塞と考えます。これに対して、たしかに熱中症ではFASは出現しにくいと考えられます。次に図3にあるようにTつまり発症時刻を確認し、その後直ちに救急搬送することが重要です。なぜ発症時刻が大切かというと4時間30分以内の発症であればt-PA(tissue-plasminogen activator)という薬剤の有効性が高いからです。脳梗塞では血栓ができて血管が詰まるわけですが、この血栓をt-PAで溶解させて血流を再開させようという治療法です。t-PA療法は時間がたてば効果が期待できません。

ところがこれまでの統計によれば、脳梗塞の患者さんが救急病院に到着するまでに20時間ぐらいかかっていることが、多くありました。これでは手遅れです。t-PAによる治療が出来ません。FASTという方法は誰にでも使い易い方法なので一般的に広がり、脳梗塞の早期発見を少しでも早くすることが重要であります。それにしてもFASTとは「速く、すばやく、しっかり」という意味であり、うまく考えついたものだと感心します。

まだまだ暑い夏です。脳梗塞と熱中症の関係を知り、十分な水分を取ることが大切です。のどの渇き無くても入浴前後や就寝前に水分を取りましょう。

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1 脳梗塞の発症は夏に多い
http://www.ncvc.go.jp/pr/release/002619.html より引用

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1 夏には熱中症と脳卒中に注意が必要
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/194346.html より引用 

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2 FASTについて
同上からの引用
 

160822 5 
3 疑えば、時刻を見てすぐに救急車を
同上からの引用