残暑見舞い 8月24日

ようやく暑かった夏も8月下旬となり、少しは猛暑の威力が落ちるかと期待をしていました。ところが一向に残暑厳しい毎日です。オリンピックも終わり、日本人選手の活躍に厚く感動するひと夏となりました。メダルを獲得することは、もちろん素晴らしいことです。しかし、たとえメダルに届かなくても限界まで努力し頑張っている選手の姿を見ると心が揺り動かされます。4年後の東京オリンピックが楽しみなかぎりです。それにしても寝不足になってのオリンピック観戦は、少々肉体的にはハードな負担となりました。夏の疲れに注意し、水分補給をして体を休め、あと少し続く暑さに立ち向かいたいと思っています。これからは台風が次々と南の海からやってくる季節が控えています。皆様方におかれては精々、ご自愛のほどをお願いいたします。 

今回は痛風についてお話ししてみます。痛風をとり上げた理由は、夏に痛風発作が多いからです。

まず痛風と高尿酸血症の違いを理解する必要があります。ここが不明確ですと時として混乱が生じることがあります。両者の違いを簡単にいいますと高尿酸血症とは血液中の尿酸値が7mg/dlを越えていることであり、痛風の予備軍とされる状態をいいます。この高尿酸血症の状態では、まだ関節の痛みはありません。これに対し、痛風とは痛みを伴った急性関節炎足の第一関節の付け根に多いを発症した状態をいいます。つまり高尿酸血症とはただ尿酸値が高いだけの状態、痛風とは高尿酸血症が進行して関節に尿酸が沈着して痛みが伴った状態なのです。このように両者は違うのですが、高尿酸血症の状態が数年間以上続くと痛風発作がおこるとされているのです。しかし高尿酸血症の人はいつ痛風発作をおこしても不思議はないのです。余談ながら痛風とは「風が吹いても痛い」という意味で名づけられたとの説が広がっています。しかし、これには異説もあり、「風という漢字に全身を侵すという意味がある」とするのもあります。

 痛い痛風による関節炎症状を初めて体験した患者さんは、驚き慌てて外来を受診されます。痛風発作は夜中から明け方に発症し、痛みが強くなることが多いため、激痛を主訴として朝早く受診されることも多いでしょう。夜は足に血液が多く流れ、白血球による炎症作用が強く出るため夜間の痛みが強いといわれてます。ただ、強い痛みであるとしても鎮痛剤の服用により1週間以内には軽快することが特徴です。そのため患者さんは、痛みを忘れてしまい適切な生活習慣の改善、薬物療法などを熱心にされないこともしばしばあります。しかし痛風発作はだんだんと回数が多くなり。次第に深刻な状態となってくる危険があるのです。

ところで痛風発作は、はじめにも言いましたが夏に多いとされています。それは夏には発汗が多く、水分補給が不足すると血中の尿酸値が上昇し、関節に尿酸結晶が沈着しやすくなるからと説明されています。加えて暑いということで尿酸の原因となるビールを飲みますと、さらに尿酸値が上昇することを招来するからです。

次に痛風の歴史を少し調べてみました。痛風は特徴ある強い痛みのため、大昔からよく知られていた疾患です。かのヒポクラテス写真1、医聖とされている古代ギリシャの医者が、痛風についての記述を残しております。彼はイヌサフランからとれるコルチカム(現在の痛風治療薬のコルヒチン)が有効ということを知っていました。歴史上有名な多くの人物レオナルド・ダビンチ、ルイ十四世、ニュートン・・・に対しても、痛風は強い痛みで悩ましていたことが分かっています。ところが不思議なことに日本では江戸時代ないし明治時代まで痛風という病気はなかったとされています。明治時代に来日した政府のお雇い外国人医師・ベルツ(写真2)も「日本人には痛風がいない」と記載しています。これは当時の日本人の食生活によるためと推測されます。ただ日本では明治31年に東京大学の近藤次繁博士が痛風を報告しています。

ところが第2次世界大戦後、日本人の食生活が欧米化しました。そのため1955年になって急速にわが国でも痛風が広がり始めました。ことに1960年代になって急増しており、図1のように年々痛風患者さんが増加しているのが現状です。現在では、高尿酸血症の人は500ないし1000万人、痛風の人は約80万人と推定(2004年の調査されております。また以前は中高年の病気とされていた痛風は、最近では3040歳代の若い男性に多く若年化しているわけです)、この年代の男性では3割が高尿酸血症といわれています。

このように高尿酸血症と痛風の人は目下急増中ですが、圧倒的に男性に多い病気です。これは女性ホルモンが尿酸の排泄を促す働きがあること、女性では尿酸値がもともと男性より低いことからです。しかし閉経に入ると女性ホルモンが低下すると女性でも尿酸値は上昇し、男女間の尿酸値の差は小さくなります(2)

次に痛風患者さんでは高血圧などの合併症が多いことが知られています。痛風財団の調査によりますと図3のように痛風患者さんの半数近くが高血圧をはじめとする生活習慣病を合併していることが明らかにされています。反対に生活習慣病の患者さんは痛風や高尿酸血症を合併しやすいことが知られています。つまり痛風、高尿酸血症と生活習慣病は深い相互関係があるというわけです。ただ両者がどのように直接関係しているのかは、まだ十分には解明されていません。この点について製鉄記念八幡病院の土幡先生は「1mg/deの尿酸値の上昇により高血圧発症の相対リスクを13%上昇させる」と述べています。このように高尿酸血症が高血圧の原因であるならば尿酸低下療法をすることによって血圧が低下する可能性があると土幡先生は述べています。それ故、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」でも高血圧を合併した患者において尿酸値が8mg/de以上では6mg/de以下を目標として尿酸低下療法をすることを提唱しています。さらに、最近では「高尿酸血症が心疾患や生前予後においてひとつの独立した危険因子であること」が分かってきました。つまり尿酸値の上昇は臓器障害を引き起こすと考えられるようになったのです。このことから不明な点はあるものの高尿酸血症をリスク管理のひとつとして対処していくことが大切であります。

さて、次回は高尿酸血症、痛風発作の治療についてお話しいたします。

 

1608261写真1 医聖とされているヒポクラテス
ウィキペディアより引用

1608262写真2 ベルツ博士 ベルツの日記を遺した
ウィキペディアより引用

 

16082631 帝人ファーマ株式会社のホームページからの引用https://243sageru.com/toranomaki/risk/2_1/index.html

 

1608264

2 性・年齢別平均血清尿酸値 リウマチ・痛風治療情報ドットネットからの引用

 

1608265JPG3 痛風財団のホームページからの引用

 

1608266

4 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
ISBN 978-4-7792-0995-6
編集 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会