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解熱剤賛否両論

「解熱剤」はゲネツザイと読みます。有名どころですが、お母さん方の2割くらいは「カイネツザイ」とおっしゃいます。

それはよいとして、ところで解熱剤を使ったことはありますか?

たまに熱で受診されたこどもさんに解熱剤を処方しようとすると、

「使わない方がいいんですよね?」とか、「解熱剤なんて使うもんじゃないとヨソ(他院)でいわれて、今まで使ったことがありません」とか、おっしゃるお母さんがおられます。

確かに臨床研究では解熱剤使用グループvs.非使用グループを比較したところ、最終的に解熱するまでの時間は非使用グループの方が数時間短かった、という結果があるようです。やはり「解熱剤を使用しない方が風邪のなおりは良い」という通説はうそではないと思います。

しかし「解熱剤を使用しない看病」は想像以上に大変です。やったこと、ありますか?

高熱のこどもは始終ぐずります。水分をとらせるにも一苦労です。しんどくて眠れずに、夜中じゅう何度も起きます。小さなこどもは明け方までずっと抱っこですごすはめになることも珍しくありません。高熱が一晩で終わればなんとか持ちこたえられますが、そんな保証はどこにもありません。あと何日続くかわからない看病は、息つぎ禁止の潜水に似てます。母も(看病は大抵の場合が母ですね)結構へとへとです。

解熱剤を使うと高熱が平熱になるわけではありませんが、少しだけでも解熱すればこどもたちはとても楽になるようです。水分をしっかり摂れるようになりますし、眠るにもぐずりません。脱水をふせぎ、体力を回復させて免疫力を保つには、やはり十分な水分摂取と睡眠は大切です。

そしてこどもがそうなることで、看病する者の体力と気力を保つこともできます。「高熱でしんどそうだけれど水分はとれる、眠れる」こどもの看病と、「高熱でしんどくてなかなか水分もとれない、ぐずって眠れない」こどもの看病は、母の精神的・肉体的負担を評価すれば、天と地ほどの差があります。

若かりし頃の私は「解熱剤は使わない方が治りが早い」ので「なるべく使わないように」説明する派でした。でも、自分が母となって看病する立場になってからは、解熱剤賛成派です。息子が保育園に行き出したころよく熱を出し、看病に奔走した日々があるからです。解熱剤を使用せずにはいられませんでしたから。治癒までのわずか数時間の差を期待して解熱剤使用を控えることは不可能でした。よく外来でも熱の続くこどもさんのお母さん方に「熱はいつごろおさまりそうですか?」と聞かれます。同じ質問を何度も自分の中で繰り返していました。(・・・そんなのわかるわけありません。)

しかしそうはいっても安易な使用はやはりダメです。「38.5℃以上の発熱があり、しんどそうな時」に使用してください。高熱があっても水分が十分に摂れ、眠れていれば解熱剤を使う必要はどこにもありません。たまに「夜中にふと寝ているこどもを触ったらすごく熱かったので解熱剤を使いました」というお母さんがおられますが、それはやめましょう。せっかく眠っているのなら、そっとしておいてあげましょう。

使用のタイミングですが、1日3回までという制限付きなので、高熱が持続している時は迷ってしまうと思います。

おすすめは、

朝のうちはなるべく使わずにごまかします。

1回目:11時くらい(少し下がったタイミングで水分をしっかりあげます。食べられそうなら消化の良い食べ物をすこしあげます。そのあとお昼寝を。)

2回目:18時くらい(1回目と同様。そのあと早々に寝かせます。)

3回目:夜中熱で起きてしまったら(とにかく寝かせることを目標に)

そして合間合間ですこしずつ水分を補給します。

 

解熱剤反対派は大抵男性の小児科医です。とくにご年配の先生が多いです。

大変失礼ながら、おそらくこどもの看病とは無縁に生きてこられたに違いないと私は思っています。

解熱剤は正しく使用すればこわいものではありません。使ってはいけないものでもありません。

「絶対に使用しない」と断言されるお母さんがたまにおられますが、もちろんそういう考えも否定はしません。でも私は親子ともに病気をうまく乗り越えてほしいと思っています。なるべく負担の少ない形で。

高熱のこどもが比較的楽そうな顔をしてすやすやと眠っている姿を見るたび、私はいつも解熱剤の存在に感謝してしまいます。安全な解熱剤のない時代は大変だったろうな、と思いをめぐらせます。これは小児科医としてではなく、ひとりの看病する母親として、身にしみて思うのです。


下痢嘔吐症のときには

少し前からですが、下痢嘔吐症がはやっています。げろげろ吐いてしまうこどもたちは、本当に痛々しくて、一刻も早くなんとかしてあげたいといつも思います。

下痢嘔吐症のこどもさんを連れてきたお母さん方のおはなしは、よくこんなふうです。

「なんか今朝から元気がないなあと思ってたんです。あさごはんも食べたがらないし、でも熱もなかったから保育園(学校)行かせました。そしたらお昼ご飯食べ終わってからしばらくして吐きだしたって保育園から連絡があって。。。迎えに行ってそのまま家で寝かせてたんですけど、夜になっておなかすいたって本人が言うので晩御飯ちょっと食べさせました。そしたらそのあと吐いてしまって、それからは水分とっても吐いてしまうんです。。。もう出るものもないのにおえおえするから胃液みたいなの吐きだして。。。おなか痛いといって泣き出すし顔色も悪いし、あんまりしんどそうなので夜だし心配で連れてきました。。。」

このような典型的なおかあさんのお話のなかに、いろんながヒントが含まれています。

まず、そこまでしんどくならずにすんだかもしれない「わかれみち」はどこだったでしょう。おわかりですか?

 

1.朝からしんどそうでごはんを食べなかったのに保育園にいかせてしまった。

2.おなかがすいたと言ったので晩御飯を食べさせてしまった。

大きくはこの2点です。

やはり、朝ごはんが食べられずいつもと様子が違う時には、よほどの事情がない限りあえて集団生活につっこむのはやめましょう。家で安静にしていればもう少し軽く済んだかもしれません。

それから、嘔吐後しばらくしてこどもが空腹を訴えることはよくありますが、固形物をあたえるにはジキソウショウです。そんなときにはまず、水分を少しずつ摂らせて下さい。すこしずつの水分をこまめにあげることでひとまず脱水を防がねばなりません。

ときどき水のみ、お茶のみ、を与えるおかあさんがおられますが、それでは低血糖になって顔色はどんどん悪くなってぐったり感がひどくなります。こういうときは糖分の入った水分をあげてください。手軽なものはスポーツ飲料、りんごジュースです(市販のいわゆる飲む点滴もドラッグストアで購入できます)。

固形物を与えてしまったがために嘔吐は激しくなり、結局のところ水分さえも受けつけられなくなる、という最悪の事態を防ぐには、こどもの空腹の訴えに「おもわずノらない」ことです。空腹感をやわらげるにはアメをなめさせるのが有効です。低血糖もあわせて改善してくれます。

また、脱水が進むと腹痛がおうおうにして出てきます。それは体の中にケトン体というものがたまってくるからです。これがたまると痛みにつながります。排除するにはおしっこで流すしかありませんから、やっぱり「のめてナンボ」なのです。

しかし吐き気のあるこどもに水分をしっかり摂らせるのは至難の業です。どうしてものめなければ、もしくはのんでも吐いてしまうなら、最後は点滴です。

当院でも点滴できます。どうにもならないときは受診してくださいね。

ただし、点滴には時間がかかります。どんなに短く見積もっても1時間程度は必要です。点滴目的受診の際はできるだけ点滴所要時間を考慮の上、早めに受付をお願いします。受付にてその旨を伝えていただくとよりスムーズに治療をうけていただけると思います。