大阪なんばクリニック 婦人科 藤田由布
私は、1997年から長年にわたりギニアワーム感染症の専門家としてアフリカの奥地で活動してきましたわけですが、その幻の寄生虫「ギニアワーム」が撲滅目前でして、来年あたりに世界的ビッグニュースになることが予想されます。この場をお借りしまして、古代から人間を苦しめてきたこの「ギニアワーム寄生虫」について、ちょっとした先取りニュースとして紹介させていただきます。
実は、ギニアワームは皆さんの暮らしとちょっと関わりがあります。
救急車の車体に描かれているマークや、WHOのマークの中央に描かれている蛇のアレもそう、医療・医術の象徴として世界的に広く用いられているアレがギニアワームなのです(諸説あります)。ギニアワームはその残骸がミイラの身体からも出てきたという古代から存在していた寄生虫なのですが、不衛生な水を飲用する村落に蔓延し続けてきた感染症なのです。
人類が疫病を撲滅させた例は過去にたった1つのみ。1980年に撲滅宣言された天然痘だけです。それから40年経った今、2つ目の人類の勝利が成し遂げられようとしています。それがこのギニアワーム感染症なのです。
ギニアワームの幼虫は溜池にいるミジンコにまず寄生します。その溜池の水を飲用するとギニアワームは人体に感染します。1年かけて体内で1m程に成長するギニアワームなのですが、幼虫は1mm以下で目に見えない小さく、体内に入ってからはミジンコの殻によって胃酸から守られ小腸まで到達します。小腸あたりで雄と雌がmateし、雄は3ヶ月で3cm程度まで成長して体内で死にます。雌は小腸から腹腔内へ移動し9ヶ月目以降は皮下組織内でニョロニョロ動き、最後は皮膚を突き破って100万匹の幼虫を放つのです。重力の影響で感染者の8割は膝下の皮膚から出てきます。この皮膚を突き破る時が最も痛く、感染した婦人達は「お産より痛いわ!」といって悲鳴をあげます。感染した人は酷い痛みのせいで池水に足を浸そうとし溜池などの水場へ行くのですが、その時を狙って皮下にいるギニアワームは一気に皮膚を突き破るという、なんとも賢い寄生虫なのです。雨期や水の匂いを知っている寄生虫とも言われています。
村落の人々はいつも同じ溜池をみんなで利用しています。一人の感染者がその溜池の水に足を浸けることによってギニアワーム幼虫が何万匹も水中に放たれるのです。その水を村中の人々が飲用するために、翌年に感染者がアウトブレイクするというわけなのです。感染者は寄生虫が皮下で動く痛みのせいで畑仕事に行くことが出来ず、働くことができず、市場に行くこともできず、その家族は経済的なダメージを受け貧困スパイラルに陥るのです。
雨期を知っている賢い寄生虫として古代から貧困地域を苦しめてきギニアワーム感染症が、ついに撲滅目前なのです。残す感染国はあとチャドと南スーダン。世界であと28症例(つまりあと28人)のみです。
1986年のデータによるとサハラ以南アフリカの多くの国々で350万症例も報告されていました。それが、あとたったの30名たらずに至ったのです。人類の快挙です。
ギニアワーム撲滅対策には、日本政府も衛生な井戸水を普及したり資金支援などで多大なる貢献を果たしてきました。
私は1997年からニジェール国のギニアワーム撲滅対策に携わり、カーターセンターの技術コンサルタントとしてニジェールとトーゴ共和国でこの活動に尽力してきました。担当した感染村は1000村を超え、集めたギニアワームは400匹以上(日本中の研究者にお裾分けしました)。
その寄生虫がこの世からなくなるわけですが、撲滅は最強のサステナビリティーであり、人類が成し遂げた偉業に携うことができた事実に感無量です。
ギニアワーム摘出治療 2004年トーゴ北部の村
カーター財団で勤めていた頃 2004年 シミ―カーター元アメリカ大統領と藤田
医療のシンボル 「アスクレピオスの杖」のヘビは実はギニアワームという説があります。