心療内科医の役割と勤労者のメンタルヘルス(その1)

千里中央大阪府豊中市北摂千里ニュータウン)、心療内科メンタルヘルス科)・復職支援リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回から「心療内科医の役割勤労者のメンタルヘルス」というタイトルで、心療内科医の役割と勤労者のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
現代は変革の時代といわれています。近年の日本では社会、産業、経済、医療、教育のすべての分野で変革が進行中です。変革のスピードが速ければそれに適応できない人が増え、社会のさまざまな分野で問題が生じてきます。メンタルヘルスの面からみると、うつ病などのメンタルヘルス疾患心身症などのストレス関連疾患、あるいは行動上の問題、最悪の形として自殺が増えてきます。
メンタルヘルスの問題はさまざまな切り口でとらえられています。例えば心理的発達の面からみれば母子保健、学童のメンタルヘルス青少年のメンタルヘルス成年期のメンタルヘルス老年期のメンタルヘルスの問題があります。また、活動の場によって職場のメンタルヘルス学校のメンタルヘルス家庭のメンタルヘルスとして取りあげられることもあります。メンタルヘルス不調者を通していずれのメンタルヘルス領域とも心療内科医は関係ができてくるし、また、校医や産業医として組織におけるメンタルヘルス対策にかかわる場合も生じてくる可能性があります。
ここでは心療内科医、一般臨床医、産業医にとって関心の高い職場のメンタルヘルスを中心に述べます。日本医師会認定産業医も既に5万人を超えたが、職業性ストレスによるメンタルヘルス不調が増え、嘱託産業医としてもメンタルヘルス対策は重要なメンタルヘルス課題となっています。
職場のメンタルヘルスに関心が高くなった背景(表1)
⇒現在、日本では約6,500万人が働いているが、労働環境も急速に変化しており、不況はその変化に拍車をかけています。産業界ではIT革命に代表される情報化・コンピューター化、技術革新、成果主義賃金制、裁量労働と目標管理制度・自己責任制、経済効率を上げるためのリストラクチャリングや組織改革などが急速に進行中です。多くの勤労者はこれらの変革に伴うさまざまなストレスに直面しており、一部の勤労者は不適応状態に陥り、メンタルヘルス不調を起こしています。
◇表1 メンタルヘルスへの関心が高くなった背景
『1.職(産)業ストレス増加の背景
  1)グローバル化と経済効率の追求
     ダウンサイジング
     リストラクチャリング
     年俸制、裁量労働制の導入
     終身雇用制の崩壊
  2)情報化、コンピューター化
  3)個人志向性と人間関係に伴うメンタルヘルス問題
  4)産業構造の変化に伴う適応障害の増加
  5)不況による失業、自殺の増加
  6)女子就労に伴うメンタルヘルス問題
  7)その他
 2.事業者(主)の安全配慮義務の範囲がメンタルヘルスの領域まで拡がったこと』
このような変化の進行は、それに適応しなければならない勤労者のストレスを増しています。厚生労働省が5年ごとに行っている労働者のメンタルヘルス調査(1万6,000人対象)では「強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者」の割合は毎回増え続けて、1980年代の50.6%から1990年代には62.8%に達しています。その悩みの内容は、1990年代のメンタルヘルス調査では「職場の人間関係」が46.2%、「仕事の質に伴うメンタルヘルス問題」33.5%、「仕事の量に伴うメンタルヘルス問題」33.3%、「仕事への適性に伴うメンタルヘルス問題」22.8%、「昇進、昇格に伴うメンタルヘルス問題」19.8%、「雇用の安定性に伴うメンタルヘルス問題」13.1%などとなっています。
このようなメンタルヘルス状況下で変化の進行にメンタルヘルス対応できず、メンタルヘルスの失調メンタルヘルス障害を呈する勤労者も増えています。メンタルヘルス学会発表などでも「リストラによる不安、不適応の増加」、「うつ状態などメンタルヘルス不調事例増加」、「復職困難例リワーク困難例)の増加」、「職場の雰囲気の悪化」などが報告されています。
他方、過労による心疾患や脳血管障害などのいわゆる過労死のほか、業務起因性のうつ病などメンタルヘルス疾患による、いわゆる過労自殺なども増加しています。日本における自殺者数は、1998(平成10)年から3万人を超え、2012(平成24)年以降ようやく3万人を下回ったものの、依然として年間2万人以上という大変高い割合で推移しています。特に生活や経済問題による自殺が多いです。このような背景から厚生労働省は1999(平成11)年に業務起因性のメンタルヘルス障害労災認定のためのメンタルヘルス基準案を、2000(平成12)年には「事業場における労働者の心の健康(労働者のメンタルヘルス)づくりのためのメンタルヘルス指針」(表2)を公表しました。
このような仕事に起因する健康障害は、メンタルヘルス面だけでなく広く身体疾患にも及び、最近では職業病に代わって糖尿病、高血圧、虚血性心疾患などのストレス関連疾患も増えており、これらについては多くの研究報告があります。
◇表2 「事業場における労働者の心の健康づくり(労働者のメンタルヘルスづくり)のためのメンタルヘルス指針について
『1.事業者は具体的な方法等についての「心の健康づくり計画(メンタルヘルスづくり計画)」を策定すること
 2.同メンタルヘルスづくり計画に基づき、次の4つのメンタルヘルスケアを推進すること
  ・労働者自身による「セルフメンタルヘルスケア
  ・管理監督者による「ラインによるメンタルヘルスケア
  ・メンタルヘルス管理担当者による「事業場内産業保健スタッフなどメンタルヘルススタッフ等によるメンタルヘルスケア
  ・事業場外のメンタルヘルス専門家精神科医・心療内科医)による「事業場外資源によるメンタルヘルスケア
 3.その円滑なメンタルヘルス推進のため、次のメンタルヘルスへの取り組みを行うこと
  ・管理監督者や労働者に対してメンタルヘルス教育研修を行うこと
  ・職場環境等の改善を図ること
  ・労働者が自主的なメンタルヘルス相談を行いやすいメンタルヘルス体制を整えること』
                         (2000(平成12)年8月9日労働省発表)
以上、千里中央駅直結千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市心療内科 精神科メンタルヘルスケア科)・職場復帰支援リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。






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