日別アーカイブ: 2019年12月4日

医療コラムVol.4 高尿酸血症 |痛風発作 冬も注意が必要!

急に足の親指の付け根が赤く腫れて歩けないほどの激痛が起こる痛風、夏場に多いと言われていますが、これからの忘年会-正月-新年会といろいろイベントのある冬場も痛風が起こりやすい時期ですので注意が必要です。

1372434

 痛風とは

痛風の背後には高尿酸血症があります。尿酸は通常は一定量以上たまらないよう、尿や便などと一緒に排泄されています。しかし体内に尿酸が多くなり、高尿酸血症(7.0mg/dl以上)の状態が持続すると、血液中に溶け切らない過剰な尿酸が結晶(尿酸塩結晶)化して関節の膜部分に沈着していきます。溜まりすぎた尿酸塩結晶がストレスや激しい運動、尿酸値の急激な変動など何らかのきっかけではがれると、免疫機能の一つである白血球がこの尿酸塩結晶を異物とみなし、排除するために攻撃してしまいます。このときに白血球がだす炎症物質が急性関節炎を引き起こして激しい痛みを引き起こすのです。足の親指の付け根以外にも足関節・足の甲・アキレス腱の付け根、膝関節、手関節にも激痛が起こることがあります。

現在、国内の痛風患者数は約100万人いると言われ、その90%は男性です。痛風の原因となる高尿酸血症の患者さんはその10倍と推定されていますので1000万人以上になります。女性に少ないのは女性ホルモンに腎臓からの尿酸の排泄を促す働きがあることから、女性ホルモンの影響なども考えられています。かつては40代から50代で発病する場合が多かったのですが、食生活を含め生活習慣の変化とともに若年化が進んでおり、20-30代で発病する人が急増しています。

夏場は暑さのために沢山汗をかくため、体内の水分が汗と共に失われ、尿量が減少してしまう事で、体外に出る尿酸の量が減ってしまいます。その結果、血中の尿酸の濃度が高くなり、尿酸による結晶が出来やすくなるので痛風発作が一番起こりやすい季節になります。冬場は寒さによる血行不良が一番の原因ですが、さらに、尿酸は気温が低くなると結晶化しやすいため、痛風発作が起こりやすくなります。また、年末年始の暴飲暴食で尿酸値を上げてしまう食べ物を多く摂取してしまう事も大きな原因となります。

痛風の症状

696D8E62-8E42-4FDA-946C-70C80B316B14痛風の前兆として、患部の違和感やむずむずした感じを訴える方が多いといわれています。痛風の前兆が現れた段階で治療ができなかった場合には痛みが生じ、痛みを生じた箇所は赤く腫れ上がり、熱感を伴います。通常24時間以内に痛みのピークを迎え、その後強い痛みが2~3日続き、1~2週間で症状は治まります。人によっては軽い関節痛程度の場合もあります。また、痛みは1~2週間で治まることがほとんどであるため、とりあえず湿布薬などでしのぎ、治療を受けずにそのまま放置してしまう方もいます。しかし関節に尿酸塩結石がある限り再発する恐れがあり、その多くは、半年から数年を経て再発してしまいます。

また、尿酸塩結晶は関節以外にも溜まります。ひじや手の甲、耳たぶの皮膚の下にも尿酸塩の結晶が沈着してこぶのようになります(痛風結節)。痛風結節は、痛風発作と違い痛みが生じることはありませんが、進行すると、関節が変形したり骨の破壊が起こったりして日常生活に影響が出ます。腎臓も尿酸が溜まりやすく、腎臓のなかに尿酸結晶がたまると、腎臓の機能が低下しさらに尿酸結晶がたまりやすくなります。このような悪循環により、慢性腎不全に陥ることもあるので注意が必要です。

 痛風の原因

痛風の原因である高尿酸血症は、食事や飲酒などによる影響が2~3割、尿中尿酸排泄低下や尿酸産生過剰などの体質的な影響が、残り7~8割を占めています。

1)食生活の問題

尿酸はプリン体が分解されてつくられますが、食物由来のプリン体から産生される尿酸は総尿酸生産量の1/3程度といわれ、モツ・干物・白子・うに・レバーなどの細胞の詰まった食品、アルコール飲料などに多く含まれているので、これらの食品のとりすぎはプリン体のとりすぎにつながります。

プリン体の多い代表的な食品:うに、イクラ、タラコ、鶏レバー、イワシ干物、白子、あん肝、豚レバー、牛レバー、もつ、数の子、カツオ、イワシ、エビ、アジ干物、サンマ、他

(なお余談ですが、プリン体はあらゆる生物が生命活動をするのに大切な物質で核酸(DNA・RNA)やエネルギー源の構成成分です。したがって体内の細胞が活動し新陳代謝をしている限り、プリン体が生成されて尿酸は産生されます。プリン体の活動の場は細胞の中であり、だからこそ細胞の詰まった食品にはプリン体が多く含まれているのです。)

2)飲酒の問題

EE45663B-C269-4B69-9B34-0AA87301741Bプリン体の含有量に関わらずアルコールそのものは体内での尿酸量を増加させることが分かっています。それは、アルコールを摂取すると、「尿酸産生の増加(アルコールはエネルギー物質であるATPを分解し、尿酸の産生を促進)」、「利尿作用による尿酸の濃縮(アルコールには抗利尿ホルモンを抑制する作用による脱水)」、「尿酸の排泄の阻害(アルコールが肝臓で分解される際に生成される乳酸が腎臓からの尿酸の排出を低下)」が起こるためであり、飲酒そのものに尿酸値上昇のリスクがあります。

このため、プリン体を含まない焼酎やウイスキーなどの蒸留酒の飲酒でも血清尿酸値が上昇します。尿酸が高い人がビールを控えたり、プリン体ゼロのアルコール飲料を選ぶのは間違った選択ではありませんが、それ以前に、お酒そのものの摂取量を減らさないといけません。

3)筋肉運動やストレス問題

特に短時間の激しい運動は無酸素運動となることが多く尿酸値を一時的に上昇させます。ストレスや過剰な知的仕事などの脳活動も尿酸値を上昇させると考えられています。

4)他の病気の影響

過栄養、運動不足、ストレスが招く肥満症や2型糖尿病の場合、インスリン抵抗性が生じていることが多く、高インスリン血症によって腎臓における尿酸排泄量が減少するため体内の尿酸量が増えやすくなり痛風の大きな危険因子となります。それ以外に、腎機能が低下したり、血液の病気があったりすると尿酸値が上がることがあります。悪性腫瘍が原因で高尿酸血症になることもありますので注意が必要です。

5)薬剤の影響

一部の高血圧治療薬、利尿薬などは血中の尿酸値を上昇させることがあります。

サイアザイド系降圧利尿薬(フルイトランなど)ループ利尿薬(ラシックスなど)喘息の治療薬のテオフィリン(テオドールなど)結核治療薬のピラジナマイド(ピラジナミドなど)少量のアスピリン(小児用バファリンなど)

6)遺伝的要因

最近の遺伝子研究から、痛風の発症にかかわる遺伝子が複数発見されていて、遺伝子による代謝異常がある人は、痛風や高尿酸血症になりやすいこともわかってきています。

 痛風の治療

1)痛風発作の治療

痛風発作が起きている場合、まずは消炎鎮痛剤で痛みや炎症を抑えます。原則的に非ステロイド性抗炎症薬を用い、痛みがなくなるまで内服します。腎機能障害や胃潰瘍などの消化管障害があり非ステロイド性抗炎症薬使用できない場合、あるいは効果が乏しい場合にはステロイド剤を用います。また患部は心臓より高くして冷やしましょう。温めたり揉んだりすると逆効果です。

尿酸値を下げる薬は発作の治療には使いません。痛風発作が消失した2週間後くらいから尿酸降下薬を少量から開始し、血清尿酸値を見ながら徐々に増量していきます。

 

2)高尿酸血症の治療

痛風発作を起こすリスクは尿酸値が7.0mg/dlで約1割、8.0mg/dlで約3割、9.0mg/dlで約6割と言われています。痛風発作を起こしたことがある人、尿酸値が8.0mg/dl以上で合併症(腎障害・尿路結石・高血圧・虚血性心疾患・糖尿病・メタボリックシンドロームなど)がある人、尿酸値が9.0mg/dl以上の人は生活習慣の見直しと薬物療法(尿酸値を下げる薬)が必要となってきます。

1156115

 

〇食べ過ぎに注意

肥満の防止・改善のため適正なエネルギー量を摂取することに加え、アルコール類・果糖・プリン体の取り過ぎに注意します。乳製品、コーヒーやビタミンCの摂取は痛風発症抑制作用があり、高プリン体含有野菜や高タンパク食は痛風発症には影響しないという報告があります。

〇十分な水分摂取(水を2L以上飲む)

尿酸は腎臓から尿中へ排泄されるので、水分を多量に摂取し一日尿量を2リットル以上にすることが勧められますが、心疾患、腎疾患等を有する場合は医師に相談が必要です。

〇適度な運動

過度の運動(無酸素運動)は分解される筋肉内の物質が尿酸の元となり血清尿酸値を上昇させるので、個人の運動能力を上回る運動、過度の筋肉強化運動や瞬発力を要する運動は高尿酸血症の予防という観点からは好ましくなく、ウォーキング程度の軽い有酸素運動を継続して行いましょう。

〇適量の飲酒

前述したようにアルコール自体に尿酸値を上げる作用があります。プリン体カットビールだからといって飲み過ぎてはいけません。なるべくお酒は控えるようにしましょう。尿酸値への影響を最低限に保つ1日の摂取量の目安は、「日本酒1合、ビールは販売元によって350ml~500ml、焼酎25度 90ml、ウイスキーまたはブランデー40度 60ml、ワイン 180mlです。

〇薬物療法

血中尿酸値が高い人は、体内でつくられる尿酸が過剰になる尿酸合成過剰型と、体内から排泄される尿酸が低下する尿酸排泄低下型、そしてこの二つのタイプの混合型に分けられます。尿酸値を下げる薬はこのタイプ分けをもとに患者さんに合わせて処方します。

治療目標は血清尿酸値6.0mg/dl以下です。尿酸降下薬は長期間の内服が必要となりますが、尿酸値6.0mg/dL以下を長期間維持できれば、関節に溜まった尿酸は徐々に分解されて、溶けてしまうと考えられています。ただ溶けてなくなるには数年必要なため、治療を始めて1年以内は痛風発作が起こることが多く、2−3年治療していても発作が起こることがあります。3年を超えると頻度は減少し、コントロールが良ければ5年ほどでほとんど発作は起こらなくなります。

下記は、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン改訂第3 版(2019 年改訂)』の治療アルゴリズムで、概ねこれに沿って治療を行います。

高尿酸血症痛風治療方針

注意が必要なのは、痛風発作中に尿酸降下薬を開始すると関節炎が悪化し長期化することが良く有ります。また、尿酸降下薬投与中に痛風発作が起きた場合に尿酸降下薬を増量すると、やはり関節炎が悪化します。急激に血清尿酸値が下がることにより、関節内の尿酸塩結晶が関節腔内に剥脱しやすくなることが、その機序と考えられています。発作中に血清尿酸値を変動させる尿酸降下薬の開始や増量をしないことが原則で、痛風発作が消失した2週間後くらいから尿酸降下薬を少量から開始し、血清尿酸値を見ながら徐々に増量していきます。

 

 以上、痛風について書いてみました。

これからお酒を飲むことが多い季節になりますが、痛風にならないためにも飲みすぎ、食べすぎには注意しましょう。

横田クリニック院長 横田武典

logo

堺市西区浜寺の横田クリニックのホームページはこちらをご覧ください。