月別アーカイブ: 2014年10月

医者という仕事その3 救急車

どのような時に医者としての喜びを感じるかは、科によっても先生によっても様々だと思います。

淀川キリスト教病院の新生児科で勤務していた頃、たびたび救急車に乗ることがありました。

産院で生まれた赤ちゃんが想定外のトラブルを抱えていた場合に、指定病院のNICU(新生児集中治療室)に運んでくるための救急車に医師が同乗して迎えに行くというシステムが大阪では確立しています。

医療現場では常に予想外の事態が起こるものですが、お産の現場はその最たるものと言ってよいでしょう。

大阪ではこのシステムのおかげで、赤ちゃんの入院設備のない産院でも安心して分娩ができ、万が一の時にも入院先がスムースに決まるようになっています。

 

さて、そんな一刻を争う赤ちゃんを搬送している救急車がけたたましいサイレンを鳴らして渋滞した大阪の狭い道を駆け抜けんとする時、車の山が必死に端によって通り道を空けてくれます。

この光景は、日本以外の国では当たり前ではないこともあるようです。

どの車に乗っている方も急いでいるはずです。

その一人一人の善意から分け与えられた数十秒・数分の時間の積み重ねは、乗っている赤ちゃんの十分・数十分になり、そしてその人生を大きく変えることもあるのです。

救急車の前にできたその道の先にまぶしい希望の光を感じます。

医者として猛烈な感謝の気持ちを感じるとともに、思いやりにあふれた日本に生まれたことをとても光栄に思う瞬間でありました。

今は誰かのため、いつかは自分のため。

みんなが空けてくれるこの道がある限り、この国は大丈夫だと確信します。


「かぜ」を知ろうその6 かぜで病院に行く理由

咳・鼻水・熱と3拍子揃ったら、それはかぜ(ウイルス性)と言い切ってよいでしょう。

かぜを早く治すお薬は地球上に存在しません(例外はインフルエンザのかぜのみ)。

かぜをこじらせないために抗生剤を早めに内服することには、全く効果はありません。

かぜの多くは何もしなくてもかぜのまま終わり、一部のかぜは何をしてもなる時は肺炎になってしまうのです。

ではかぜの時、病院に行くのはどのような理由がある時でしょうか?

 

①かぜが、かぜでなくなっていないかのチェック

かぜのウイルスが「鼻」と「喉」だけに留まっている状態がかぜです。かぜの一部は途中から敵が耳や胸へと侵入していき、中耳炎や肺炎へと進化します(こじらせる)。こうなるとそこからはじめて抗生剤の追加が必要になります(場合によっては入院して点滴の抗生剤)。我々小児科医が胸の音を聞き、耳の観察をするのは、かぜがかぜで済んでいるかのチェックをするためです。

★抱っこしていて呼吸がゼーゼーしているのを感じたり、明らかな息苦しさがありそうな時、あるいは夜だけであっても高熱が3日以上続く時は肺炎になっている可能性がありますので受診しましょう。

★耳を痛がったり、耳だれがある時は中耳炎の可能性がありますので受診しましょう(耳鼻科が最適)。保育園児は鼻水がずっとあるのが普通ですが、耳に影響が出ていないか、元気でも2,3週間に1回耳鼻科や小児科で診察を受ける事を考えましょう。

★元気だけれども10日~14日以上咳がひどく改善しない場合は抗生剤や検査が必要なことがあるので受診しましょう。

②咳、鼻水、熱を和らげてあげたい

必要以上の咳、鼻水、熱を和らげるのがかぜ薬の目的です。飲んだから早く治るということは全くありません。しかもかなり症状を和らげる強い薬の使える大人はまだしも、赤ちゃんや年少児で使えるお薬は副作用の観点からも相当マイルドなものになりますから、気休め程度と言っても過言ではありません。飲めたらラッキーぐらいの感覚で、飲ませようとすると大泣きしてむしろ咳や鼻水がひどくなる、という場合には飲ませる努力は不要と言えます。薬よりもはるかに効果的な和らげる治療としては鼻水の吸引があります。特に自分の鼻水に溺れてしまう小さい子どもには非常に効果的ですから、明らかにかぜではすんでいるけれど咳や鼻水を和らげたいという場合の受診の目的のメインはこの鼻水吸引になるでしょう。

③かぜの途中で喘息のスイッチが入らないようにしてあげたい

以上のように和らげる必要のない軽い症状のかぜの段階の時、急いで病院を受診するメリットはありません。しかしベースに明らかな喘息のある子どもの場合、喘息を抑える薬を使用することでかぜの途中から喘息のスイッチがonになるのをある程度抑えることができますので、早めに受診することを心がける方がよいでしょう。

 

 

運動会や旅行が控えているので早めに治したい、前回のかぜで肺炎・中耳炎になったので今回はしっかり薬を飲んでこじらせないようにしたいという、私の妻からの切実な要望に21世紀の医学は応えることはできません。

この事実を我々医師はしっかりと啓蒙するべき義務があります。

かぜをひいたら早めに病院に行って、効く可能性がゼロでないなどという理由から不要なお薬も含めてどっさり処方されていた昭和の時代の習慣は、あたかも「肺炎になったのは、早く病院に行って薬を飲まなかったせいだ!」という誤解を広めるのには十分すぎるほど我々の意識に強く刷り込まれているようです(医者ですら)。

「肺炎や中耳炎はなるときゃーなる」ので、なったらしっかり抗生剤を使用して治療しましょう。

現代において肺炎が命を脅かすほど怖い病気でなくなったのは(もちろん肺炎になったらどうしようというお母さん方の不安をこの身に痛いほど感じながらあえてこう言います)ならないようにするお薬が開発されたからではなくしっかり治せる抗生剤があるからなのです。

しかし、不要な抗生剤の乱用は耐性菌の爆発的な増加をもたらし、このしっかり治せるお薬という位置づけを揺るがせつつあります。

抗生剤は中耳炎や肺炎のようにかぜをこじらせてからの後出しじゃんけんというのが、子ども達にとっての本当によい治療であるということを今後とも地道に伝えていくことは小児科医にとっての大きな仕事の一つであろうと思います。

ただしこれらはあくまで目安であって、不安な時は遠慮なく病院を受診してよいのですよ。①、②、③より何より受診の一番の目的は「不安だから」なのですから。


「かぜ」を知ろうその5 咳止めテープ

「夜、咳がひどいので咳止めテープも一緒に出しておいてください。」

とよく言われますが、実は咳止めテープというものは存在しません。

テープに含まれるのは咳止めの成分ではなく、気管支拡張薬という成分です。

喘息がある子どもは、風邪をひくと気管支が狭くなってゼーゼーという息遣いの出る体質の持ち主であり、このテープを張ることで気管支が広がり、結果的に必要以上の無駄な咳が減ることになります。

ところが喘息のない子どもは風邪をひいていくら激しい咳をしていても気管支はMaxに拡張していますから、テープを貼っても効果はありませんので、大げさに言えば副作用だけもらうことになってしまいます。

夜に咳込んでいる我が子をみて心配しない親はいません。

内服薬も嫌がる場合には特に、そっとテープを貼ってあげると少しでもやってあげたという気持ちになるのもとてもよく理解できますが、効果もないのに使用することがないように私はいつも慎重に診察と処方を心がけています。


子育てその17 子どもをやる気にさせるには

「子どもが全然勉強しないのですが、どうしたらよいですか?」

「本をもっと読んで欲しいのですが、うまい手はありますか?」

「食事の好き嫌いを治すいい方法はありますか?」

我が子に何かをさせたいと思った時、我々親はまず立ち止まって考えてみなくてはいけません。

かくいう自分は家で毎日勉強をしているだろうか?本を読んでいるだろうか?好き嫌いをしていないだろうか?

 

私は毎朝6時に起床して、年長さんの長男と一緒にリビングで勉強をしています。

私は医学の勉強を、長男は読み書きや計算、地図の勉強を。

「勉強しなさい。」という言い方は特にしていないつもりですが、割と自然にこういう習慣ができていったように思います。

私は小さい頃、「本を読みなさい。」とくどくど言われた記憶はありませんが、読書好きの父の横でたくさんの時間を本とともに過ごしました。

子どもに好き嫌いがある場合(発達障害やアレルギーのある子ども達は別として)、親御さんがえり好みをしているのを子どもに見せてしまっていることが多いようです。

私自身と息子というとても狭い範囲での経験なので、どれほど一般論として言えるかは分かりませんが、子どもにやらせたいことがある場合、親がまず率先してその姿を見せつけることはとても有効な手段だと感じます。

そのために必要なことは、自分の限られた時間を子どもに分け与えるという覚悟。

だからこそ「時間」は親が我が子に与えられるプレゼントの中で、どんな時代でも常に最高のものであり続けるのです。

「お金をかけるのではなく、時間をかけてあげる。手をかけるのではなく、目をかけてあげる。」

ますます実感する毎日。


子育てその16 バリケード

子ども達は家の中のあらゆる物に興味津々で近づいていきます。

特にキッチンは火や刃物など危険がいっぱいで、ゲートできっちり侵入を阻止したい場所です。

明日2歳を迎える次男はパワフルに育っているのは喜ばしいのですが、とうとうゲートの開け方をマスターしてしまいバリケードを突破するようになってしまいました。

しょうがないので結局ひもでしばっているのですが、超不便。

その上カウンターキッチンの台の方からも引きずってきた椅子を登ってリビング側から入ってくるようになり、妻と本当に困っていました。

さて昨日、私は梅田で淀川キリスト教病院小児科時代の先生方と食事に行って深夜に帰宅したのですが、真っ暗なリビングに入ってふとキッチンの台を見ると、がい骨の顔が黒光りしていて、恥ずかしながら「びくううっっ!!」。

朝になって妻に聞くと、これは次男が登ってきた時に食べてしまう怖い門番として設置した100円ショップのマスクでした。

なるほどなるほど。いいアイデア。

登ったら初めてマスクと目が合って「びくううっっ!!」という仕組みです。

今のところ怖がって登っていないようです。

 

家の中のバリケードとして100円ショップのグッズが役立つことは結構あります。

赤ちゃんはものすごくテレビに接近して見たりするので、庭園グッズの人工芝(はだしで乗るとチクチクする)を周りに敷くのも安全で効果があります。

引出しなどを開けるのを防ぐグッズも売っています。

ぜひ色々活用してより安全な環境を作ってあげて下さい。