日別アーカイブ: 2014年10月21日

「かぜ」を知ろうその6 かぜで病院に行く理由

咳・鼻水・熱と3拍子揃ったら、それはかぜ(ウイルス性)と言い切ってよいでしょう。

かぜを早く治すお薬は地球上に存在しません(例外はインフルエンザのかぜのみ)。

かぜをこじらせないために抗生剤を早めに内服することには、全く効果はありません。

かぜの多くは何もしなくてもかぜのまま終わり、一部のかぜは何をしてもなる時は肺炎になってしまうのです。

ではかぜの時、病院に行くのはどのような理由がある時でしょうか?

 

①かぜが、かぜでなくなっていないかのチェック

かぜのウイルスが「鼻」と「喉」だけに留まっている状態がかぜです。かぜの一部は途中から敵が耳や胸へと侵入していき、中耳炎や肺炎へと進化します(こじらせる)。こうなるとそこからはじめて抗生剤の追加が必要になります(場合によっては入院して点滴の抗生剤)。我々小児科医が胸の音を聞き、耳の観察をするのは、かぜがかぜで済んでいるかのチェックをするためです。

★抱っこしていて呼吸がゼーゼーしているのを感じたり、明らかな息苦しさがありそうな時、あるいは夜だけであっても高熱が3日以上続く時は肺炎になっている可能性がありますので受診しましょう。

★耳を痛がったり、耳だれがある時は中耳炎の可能性がありますので受診しましょう(耳鼻科が最適)。保育園児は鼻水がずっとあるのが普通ですが、耳に影響が出ていないか、元気でも2,3週間に1回耳鼻科や小児科で診察を受ける事を考えましょう。

★元気だけれども10日~14日以上咳がひどく改善しない場合は抗生剤や検査が必要なことがあるので受診しましょう。

②咳、鼻水、熱を和らげてあげたい

必要以上の咳、鼻水、熱を和らげるのがかぜ薬の目的です。飲んだから早く治るということは全くありません。しかもかなり症状を和らげる強い薬の使える大人はまだしも、赤ちゃんや年少児で使えるお薬は副作用の観点からも相当マイルドなものになりますから、気休め程度と言っても過言ではありません。飲めたらラッキーぐらいの感覚で、飲ませようとすると大泣きしてむしろ咳や鼻水がひどくなる、という場合には飲ませる努力は不要と言えます。薬よりもはるかに効果的な和らげる治療としては鼻水の吸引があります。特に自分の鼻水に溺れてしまう小さい子どもには非常に効果的ですから、明らかにかぜではすんでいるけれど咳や鼻水を和らげたいという場合の受診の目的のメインはこの鼻水吸引になるでしょう。

③かぜの途中で喘息のスイッチが入らないようにしてあげたい

以上のように和らげる必要のない軽い症状のかぜの段階の時、急いで病院を受診するメリットはありません。しかしベースに明らかな喘息のある子どもの場合、喘息を抑える薬を使用することでかぜの途中から喘息のスイッチがonになるのをある程度抑えることができますので、早めに受診することを心がける方がよいでしょう。

 

 

運動会や旅行が控えているので早めに治したい、前回のかぜで肺炎・中耳炎になったので今回はしっかり薬を飲んでこじらせないようにしたいという、私の妻からの切実な要望に21世紀の医学は応えることはできません。

この事実を我々医師はしっかりと啓蒙するべき義務があります。

かぜをひいたら早めに病院に行って、効く可能性がゼロでないなどという理由から不要なお薬も含めてどっさり処方されていた昭和の時代の習慣は、あたかも「肺炎になったのは、早く病院に行って薬を飲まなかったせいだ!」という誤解を広めるのには十分すぎるほど我々の意識に強く刷り込まれているようです(医者ですら)。

「肺炎や中耳炎はなるときゃーなる」ので、なったらしっかり抗生剤を使用して治療しましょう。

現代において肺炎が命を脅かすほど怖い病気でなくなったのは(もちろん肺炎になったらどうしようというお母さん方の不安をこの身に痛いほど感じながらあえてこう言います)ならないようにするお薬が開発されたからではなくしっかり治せる抗生剤があるからなのです。

しかし、不要な抗生剤の乱用は耐性菌の爆発的な増加をもたらし、このしっかり治せるお薬という位置づけを揺るがせつつあります。

抗生剤は中耳炎や肺炎のようにかぜをこじらせてからの後出しじゃんけんというのが、子ども達にとっての本当によい治療であるということを今後とも地道に伝えていくことは小児科医にとっての大きな仕事の一つであろうと思います。

ただしこれらはあくまで目安であって、不安な時は遠慮なく病院を受診してよいのですよ。①、②、③より何より受診の一番の目的は「不安だから」なのですから。