「かぜを知ろう」その7 台風

かぜのイメージを理解するときに、台風を例にするとしっくり来る方もいます。

あるかぜをひく、というのは一つの台風を経験するということです。

咳や鼻水が出始めた、というのは日本の南の海上で台風が発生したということです。

咳や鼻水がだんだんひどくなってきた、というのは台風がだんだん勢力を増しながら北上してきたということです。

熱が出た、というのはいよいよ台風の暴風域に入ったということです。

早くかぜを治したい、こじらせないようにしたいというのは、台風の進路を変えたい、台風の勢力を弱めて欲しいということです(これは不可能な願いです)。

基本的には家に2,3日引きこもっていれば、暴風域を抜け(解熱して峠を越え)外に出れるようになることが多いでしょう。

しかし、台風の中には非常に勢力の強いものもあり、3日たっても4日たっても暴風域から脱しないものもあります。

こんな時は、家にダメージが来ていないかが心配になりますね。

台風そのものはどうしようもないですが、台風によって家に与えられた損傷は程度によって補修が必要になります。

瓦が少しだけ飛んだり、壁の一部がちょっと痛んだ程度であれば軽い補修で済みます。

しかし、壁が大きく壊されたり、雨漏りや浸水が深刻であれば、一旦避難所に移動して、家は大がかりな工事が必要となることもあるでしょう。

台風発生した時点で全てを予報するのは困難ですが、台風が近づき、猛威を振るう間に被害の程度はどんどんと明らかになるでしょう。

これをかぜに置き換えて考えてみましょう。

台風(かぜ)そのものはどうしようもないですが、台風(かぜ)によって家(体)に与えられた損傷は程度によって補修(治療)が必要になります。

瓦が少しだけ飛んだり(中耳炎)、壁の一部がちょっと痛んだ(気管支炎や軽症肺炎)程度であれば軽い補修(外来での内服抗生剤などの治療)で済みます。

しかし、壁が大きく壊されたり、雨漏りや浸水が深刻(全身状態や呼吸状態の悪い肺炎)であれば、一旦避難所に移動(入院)して、家は大がかりな工事(点滴抗生剤や各種の濃厚な治療)が必要となることもあるでしょう。

台風が発生した(かぜの引き始めた)時点で全てを予報するのは困難ですが、台風が近づき、猛威を振るう間(経過が進み、熱が長引く間)に被害の程度はどんどんと明らかになるでしょう。

かぜの治療というのは、何度もお話ししているように、かぜ(台風)そのものをどうこうしようという先回りの治療ではありません。

通り過ぎた後に残ったダメージを後付けで補修するというものなのです。

初期治療がどうだからというのとは全く別の次元で肺炎への道は形づくられています。

台風の例でも、おそらく台風が発生した時点でどのコースを通り、どのような規模の災害をもたらすのかは決定しているのでしょうが、人間にはそれを予言する術はなく、結局は台風が進路をたどるうちに正確な被害情報が明らかになるのです。

かぜの子どもを診る時、小児科医がしているのはこじらせないようにする治療でもなければ、早く治す治療でもありません。

今回のかぜがどの程度まで行ってしまうのかをじっと観察しているのです。

かぜが残した爪痕の深さに応じて、治療がなされることになります。

内服の抗生剤の役割は、家の小さい補修工事程度ですが、乱用することのデメリットも明らか(損傷がないのに工事をすることで逆に悪影響が出る)ですので、急いで投与する必要はありません。

かぜからははみ出してそうだけれど入院まではいらなさそうな段階に登場する薬といえるでしょう。

もちろん内服の抗生剤は、いつもお話ししている通り肺炎になるのを防ぐ効果など期待できるはずもありませんから、処方されて安心していてはいけません。

今日の朝は家にいてもいいよと言われていても、翌日にやはり避難勧告が出ることもあります。

特にかぜという台風は夜、突然に風雨が強まることが多いのでどうしても夜に予想外の増悪を起こすことがあります。

逆に、今夜が昨夜より楽そうであれば、峠を越えた可能性が高いでしょう。

最後にひとつ。

実際の台風では、家はただ被害をうけるだけですが、かぜの場合には台風を乗り切るごとに家がその台風に対して強くなります。

来年同じ台風が来たときにはずっと安心して家の中で様子をみることができるでしょう。

草ぶきのプレハブ小屋に住んでいた赤ちゃんも、これを繰り返すうちに強いレンガつくりの家の中でのんびりくつろげるようになっていくわけです。






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